2024年11月7日、撮影イベントのため登場時の帯色に復元された鎌倉車両センター所属のE217系Y-101編成4両が大船駅〜千葉駅間の1往復で営業運転に充当されました。
事前の告知等もなく平日夕方に突如現れた珍客、多くのファンがひと目その姿を拝もうと訪れる賑わいとなりました。
機器更新工事とともに帯色変更
横須賀線・総武線快速電車で使用されているE217系は、先代の113系を代替するため基本11両編成51本・付属4両編成46本が新造され、大船電車区と幕張電車区に分散配置されたのち大船に集約。湘南新宿ライン運行開始による運用数減少と東海道線113系淘汰のため3ペア45両が東海道線に転用されたのち、上野東京ライン開業に関連した運用整理などで全車が鎌倉車両センターへ集中配置される体制となりました。
製造途上で地下鉄構造の路線の保安基準が緩和されたため、E217系特有の前面貫通扉は後期に製造された編成ではダミーとなっている点が特徴的です。
209系世代のE217系は2007年度より走行機器類の更新工事が施工され、同時に実施された改修で従来より明るく塗り分けが若干異なる帯色となり雰囲気が一新しました。
JR東日本では同時期、新製車から経年車までスカート(排障器)を強化構造のものへ変更する改良が施されており、過渡期には機器更新工事施工済みの新色ながら旧型スカート装備編成・旧色ながら強化型スカートを装備した編成なども現れ個性豊かな状態となりました。
バリアフリー対応トイレを基本編成側に連結する狙いで新造途上で基本・付属編成間で先頭車組み換えが発生したのち、JR東日本では不要となった電気連結器は残置する事例が多いなかでスカート強化では電気連結器搭載・非搭載の相違で異なる形状が選定されており、機器更新とスカート交換が完了した後も編成によって前面の印象が大きく異なる点が面白い車両となりました。
先述の東海道線転用グループは4+11両から10+5両編成へ組み換えた対象が量産先行グループを含んでいたことも相まって、JR東日本の新系列電車では屈指の外見個体差が多い面白い電車となっています。
置き換えが進むなかでリバイバル
以前から量産先行車2本を中心にイベントで起用される機会が多かったものの、先頭部のみの再現であくまで撮影会イベント用の装飾となっていました。
2024年11月2日に開催されたイベント(JRE MALL)では、投入30周年を記念して「Y101編成」すべてを新造時をイメージした車体帯・ カラーリングにリバイバルする内容となっていました。
撮影会用の装飾と推定され、実際に参加した方々が社員さんから聞いた旨の投稿を見ても、本線上で営業運転をしないことが前提のように思わせる内容でした。
そのような最中、11月7日夕方の横須賀線1628S電車にて、撮影会の装いのままY-101編成が営業運転に復帰し大きな話題となっています。
本線走行したY-101編成を見る
今回リバイバル仕様のまま営業運転に充てられたのは、鎌倉車両センター所属のE217系Y-101編成(Y101編成の表記揺れあり)の4両です。
1994年に東急車輛製造(現在の総合車両製作所横浜事業書)にて新造された量産先行車で、前面ステップ形状など外見・内装で量産車とは異なる仕様を引き継いでいます。
撮影会用での看板となった増1号車は前面FRP部・乗務員扉前までが徹底的に磨き上げられており、潮風により茶色く汚れがちな横須賀・総武線快速の電車らしからぬ美しさが際立っていました。
E217系の機器更新工事は2010年代前半、E231系500番台の山手線からの転用は2010年代後半の出来ごとで、現代の総武線各駅停車との離合は数年差で見られなかった光景です。
旧色が見られなくなってから12年程度と現代ならではの光景を探すことに難儀しましたが、難しい駅ナンバリングがある現代の駅名標が当時とは異なる令和ならではの光景かなと感じました。
映り込んだアテンダントのお兄さんの制服も当時とは異なりますし、思い返せばE217系が旧色だった頃はグリーン車アテンダント=女性限定の時代でしたので、これまた現代だからこそ見られた風景と言えそうです。
昨今の状況を踏まえれば都市部の本線上でリバイバル列車、よりにもよって通勤ラッシュ時間帯に運行するなど、素人目に見ても正気の沙汰とは思えないイレギュラーな運用でした。
基本編成(新色)側乗務員室に車両屋さんが添乗されているように、当然ながら念入りな警備警戒をしながらの運行となりました。
夜間という撮影ポイントが限定される時間帯の走行で主要駅で撮影者が集中する光景もありましたが、もはや列車の性質からして仕方がないと言わざるを得ません。
サプライズよりは運用都合?
車両新造状況から2024年度内に引退しても不思議ではないE217系。
撮影会用の特別装飾のまま定期運用に充てること自体が趣旨に反しますし、各駅に職員・列車に添乗の体制を組んでまで平日夕方の通勤ラッシュ時間帯という一般利用と趣味者が交錯する時間帯に走らせること自体には全く合理性がなく、このような列車が走ったこと自体が不思議に思える内容です。
様々な憶測や撮影マナー・モラルへの言及が飛び交っている大賑わいな話題で、公式の回答が出てくるものではないので憶測に過ぎませんが、運用考察をするイチ趣味サイトとしてはあくまで車両運用上やむを得ず使用したのではないかと結論付けています。
E217系を巡っては、ファンの体感値として置き換え過程で横須賀線・総武線快速電車の車両数を余剰気味にしていた印象が強くなっていました。
この経緯は2020年前後、インドネシアのジャカルタ首都圏の通勤鉄道(Kereta Commuter Indonesia=略称KCI)への海外譲渡の話題が話題となっていたことに遡ります。
現地では拡幅車体の大柄なE217系の導入を想定した試験が実施されるなどの動きがあり、国内でもモノクラス12両編成を組成することを見込んでか、同一編成内で除籍時期が相違した事例なども発生していました。
インドネシア当局の意向により検討された末に新製車導入に至り見送られたようですが、これらの結論が出るまでの期間、E235系で代替されたE217系はなかなか廃車・解体されず首都圏各地で疎開する複雑な動きが見られました。
シンプルに廃車想定の車両を残しておくだけでなく、早めの置き換え予定車両を検査期限の走行距離まで使用しつつ、検査期限に余裕がある編成を国府津車両センターや幕張車両センター、湯河原駅電留線に疎開しておくなどの措置も見られました。
一方で、コロナ禍での減収減益による設備投資抑制と列車本数・運用数の削減により、当初はE217系と同数である基本11両編成51本・付属4両編成46本が投入予定となっていたE235系1000番台は基本・付属編成2本ずつが減産される見通しとなっています。
既にE235系が基本11両編成44本・付属4両編成40本が落成・運用開始済みとなっており、E217系は大幅に数を減らしている状態です。
廃車回送未施行で残存しているE217系の数は、基本編成がY-30,33〜35,37,42・付属編成がY-101,102,128〜131,140と基本6編成・付属7編成となっています。
運用数として見てみると、基本編成ベースで付与される番号から2運用相当が削減されている(01〜93の47運用構成)ように、置き換え完了後は同程度の車両数の他線区同様に2編成ずつの予備を設ける布陣です。
近年は置き換え途上の車両運用構成として、15両編成固定(基本・付属のペアが変わらない)運用・11両+4両の増解結を含む運用、逗子〜久里浜間の4両単独運用といった分類をすることで、E217系とE235系が混結しなくても済むようダイヤ改正毎に投入・代替車両数に応じて調整されてきました。
一般に“運用群”と呼ばれる、運用順序の一番上から一番下まで順繰りに使用せず、そのグループ内で一巡したら再びそのグループの一番上に戻す……といった手法です。
2024年3月改正では、01S/Fから29S/Fまでの15運用が両形式共通で運用可能とされ、それ以降の基本編成32運用・付属編成27運用がE235系専属といった構成です。
共通運用の両端が所属基地である鎌倉車両センター発着の朝夕限定運用となっており、走行距離調整や運用後の検査などを想定したものとなっています。
E217系/E235系共通 01,29運用
・01S
回601S ○ 大船6:**→逗子6:**
600S 逗子6:33→東京7:37
701S 東京7:41→大船8:30△
・29S 久里浜停泊明け
428S- 429F 久里浜4:47→成田空港7:34
828F- 829S 成田空港8:01→大船10:24△ (千葉以東3828F)
1628S-1629F○大船16:28→千葉18:04
1828F-1829S 千葉18:12→大船19:47△
この机上ではE217系の特に付属編成には配置数の余裕がありそうですが、E235系・E217系での併結を避ける必要がある現状では、E217系の基本編成・付属編成、E235系の基本編成・付属編成のいずれかで故障や臨時の検査が生じた場合、ペア相手となる車両も同時に用意しなければならないという過渡期特有の事情を有しています。
最終的な配置数である基本編成49本・付属編成44本編成に対し、記事公開日である11月8日時点ではE217系の残数とE235系の落成数の総数では基本編成50本・付属編成47本と一時期と比較すれば遥かに少ないものの、最低限の余裕は持っていそうな布陣が組まれています。
11月6日にY-32編成が長野総合車両センターへ配給輸送されたばかり・E217系の撮影イベントが11月2日に開催された時系列を踏まえれば、10月末ごろを目処に7ペアあったE217系を6ペアに減らす=付属編成が過剰な状態で予備車状態となるY-101編成で本線復帰しない前提で撮影会装飾を施せるスケジュールを計画しつつ、車両の所要都合で必要であれば運用復帰させることも視野に入れていた……と考えるのが最も整合性の取れる内容です。
突発的な車両故障が生じたり、逆に一定期間走らせることでファンの注目を分散させるような選択をしたりといった特別な事情がない限り今後の運用入りは見られない可能性の方が高く、これはファンのマナー・モラル論で“荒れた”から走らせないといったライトファンの邪推の声ではなく、そもそも本線運用に充てる前提ではなかったと捉えた方が適切に思えます。
今回の騒ぎに類似する事例として山手線E231系500番台が置き換え前倒しとなった事例が挙げられますが、こちらは同じ2020年3月と同時期に引退した東海道新幹線700系と同様の“密”を避ける敏感な時期だった時節の要素もありました。
反対にそれ以外の期間で運転期間が変更された事例では、ラストランを公表していたのにその後も営業運転に充てられた埼京線205系カワ28(ハエ28)編成や東武東上線8000系8111Fのようなファンに嬉しい事例もあれば、最近だと西武鉄道6000系6117Fの西武有楽町線リバイバルカラーのように車両コンディションが災いする事例もありました。
珍しい列車を走らせた場合のトラブルはファンのマナー・モラル論だけで片付けられるものではないことは当の鉄道事業者自身が一番詳しく認識している内容で、トラブルリスクは事業者側も認知した上で運用都合や集客策として必要があれば走らせるし、余計であれば避ける……という采配自体はごく自然なものです。
一億総監視社会と言われる現代。こと鉄道趣味においてはSNS普及前に大手メディアが批判の槍玉に挙げていたこともあり、依然として鉄道趣味=社会悪かのような外野の発信も散見されます。
大手メディアとて「撮り鉄」のワードを入れればインプレッション数が稼げるからと執拗で事実に反する記事を平気で掲載しますし、中小メディアやインフルエンサー、挙句には中小公営私鉄・第三セクター事業者までもが目先の数字が稼げるからと強い言葉でSNS等で批判を繰り広げている惨状です。
もちろん東京メトロ6000系ラストランのようなトラブルは誰も望んでおらず、イチ趣味者側の立場として乗車・撮影時に周辺へ配慮することを気にかける・職員さんの指示に従うことはもちろん周囲の同好者と画角や座席利用で譲り合いをする……などが大前提ではありますが、なにかと白黒付けたがる・真面目に考え過ぎた過剰な身内バッシングの強い言葉の発信なども誰も幸せにならないのでほどほどにして、適度な温度感で趣味を楽しみたいところです。
コメント
乗務員の話し声で聞こえた内容ですが、どうやら来週の火〜水あたりでまた走るっぽいですね。