【救済臨】東海道新幹線不通に伴う北陸経由の臨時列車設定(2024/7,8)

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当サイトでは以前より災害に関連した旅客救済のための臨時列車運転状況をお伝えしています。

2024年7月22日には東海道新幹線の保守用車が衝撃(いわゆる衝突)事故が発生し、JR東海管内の東海道線で臨時列車・増結が実施されたほか、北陸新幹線・北陸特急を使用した臨時列車が運行されました。

8月には台風等で連続雨量規制が度々発生し、建設時期が古い東海道新幹線の脆弱性やリダンダンシー確保といった社会課題を考えさせられる夏となりました。

JR東海管内の課題

7月から8月にかけて頻繁に発生した東海道新幹線の輸送障害ですが、そのほとんどが大雨による雨量規制でした。

7月の保守用車事故は例外として、それ以外の大幅なダイヤ乱れは東海道新幹線の設備特有の事情が挙げられます。

他の新幹線と比較して建設・開業時期が古い東海道新幹線は、当時の土木技術で建設されたものを保守・適宜アップデートを重ねて現代に至ります。

東海道新幹線は盛土構造の区間が多く、雨水により盛土が緩んで崩れるリスクを抱えています。大雨による在来線の盛土が崩壊した画像は大雨災害の度に目にする通りです。

盛土の区間はコンクリートで強固に作られた後発の新幹線の高架橋と比較して脆弱で、近年の線状降水帯による集中的な豪雨は短時間雨量・連続雨量双方の基準に到達しやすくなっています。

近年の技術で土中の水分含有量を測定したり、地下水位を観測したりといった予見や、のり面の強化・排水パイプの増設などの改良こそ進められています。

ただし、全区間の半数近いと言われている東海道新幹線を、新規建設路線と同等の強固なインフラに改造する工事を圧倒的な高密度で運行されている合間で実施することは現実的ではありません。

抜本的な強化は列車本数が大幅に減少する、リニア中央新幹線の新大阪までの全通後となるでしょう。

東海道新幹線の運転整理の限界

開業当初から増発を重ね続けており、ダイヤ乱れが発生した際の途中駅・始終着駅の折り返し能力が限界に達している点も大きな課題です。

東海道新幹線は建設・開業当初の時点で現代のような運転本数・速度までの向上は想定されておらず、後に建設・開業した新幹線と比較しても限られた線路設備でやりくりをしています。

特に、直通先である山陽新幹線完結の折り返し列車設定・回送列車の東海道新幹線内走行なども相まって新大阪駅周辺で“渋滞”状態となることもしばしばです。

一方で、東京駅〜浜松駅間の輸送能力自体はもう少し高いようで、事故以前から計画されていたドクターイエローこと923形T5編成の浜松工場入場回送は運転するなどしています。

後述の通り、ボトルネック箇所に旅客を滞留させないために浜松駅以東の利用者に向けた列車本数に絞る施策としては妥当性があるものの、途中駅での折り返し能力強化はもう少し期待したいところです。

東北・上越新幹線では通過駅も2面6線とされるなど機能面が向上しており、それ以降の整備新幹線やリニア中央新幹線では通過駅でも島式ホームの採用・折り返し設備を各駅に設置するなど輸送障害対策が充実しています。

東海道新幹線でも品川駅の建設や新大阪駅の改良、岐阜羽島駅の2面6線での開業など時代とともに整備が進められた一方で、新横浜駅〜名古屋駅間の途中で折り返し運転を実施することは極めて難しい構成です。

7月22日のような浜松駅での折り返しも2面2線(+使うか否かは別として浜松工場への引上線)で高頻度運行の新幹線運行をすることは難しく、過去の途中駅折り返しでも今回同様に「のぞみ」だけでなく「ひかり」も運転されていません。

東海道線の臨時列車設定・増発

近接地域を走り、より設計が古い在来線の方が運行可能で新幹線が運行不可能となる事例は7月のような新幹線自体のトラブル以外では発生しにくく、東海道新幹線の途中駅折り返し能力を向上させたとて大雨などの天災起因の場合は8月30日のように並行する東海道本線も全区間終日運休となる可能性が高い状態です。

また、そもそも並行する東海道線についても増発余力があるかと言われると、決して好ましい環境とは言えません。

貨物列車のニーズが一番ある東名阪間において、ボトルネックとなっているのはJR東海管内です。

過去に貨物列車を分離しようとした結果として建設されていた迂回路線は夢半ばで断念され、愛知環状鉄道や東海交通事業城北線となっています。

既に新幹線も在来線もキャパシティいっぱいで列車が運行されている状態で、物流問題改善でテコ入れが必要な貨物列車の旅客線からの分離など、大規模な公共事業が実施されない限り抜本的な改善は難しいでしょう。

中央線迂回列車の現状

中央西線「しなの」と中央東線「あずさ」または長野新幹線「あさま」を使用した東名間の迂回ルートは、以前から利用者の間で知られる存在です。

8月30日の事例では、「しなの85号」「しなの82号」のダイヤを使用した臨時特急が名古屋駅〜塩尻駅間で1往復と、名古屋駅12:30発の臨時快速列車が315系8両編成(4両編成2本連結)で名古屋駅→塩尻駅・塩尻駅→中津川駅で運行されたことが確認されています。

北陸新幹線の敦賀駅延伸により東京と大阪を移動する需要が北陸新幹線経由へ分散、「あずさ」「あさま」は以前と比較すると多少の余裕が生まれました。

東側のJR東日本管内は中央線特急「あずさ」と長野新幹線「あさま」双方に旅客が分散する一方で、中央西線は6〜10両編成の特急が毎時1本・単線区間が多いダイヤ制約から増発余力は極めて限定的といった課題があります。

また、中央東線・中央西線ともに建設時期は古く、8月30日の事例では大活躍となっていましたが、29日には中央東線も長時間の運転見合わせ・上り最終の「あずさ60号」は翌早朝に到着となるなど、中央線特急ルートも大雨に弱く、東海道新幹線の迂回路としては利用可能な条件が限定的です。

設備としてJR東日本管内の篠ノ井線は複線化の余地があり、複線規格でトンネル掘削が行われている区間もありますが、通常時の運転本数から単線のままの区間も存在します。

「あさま」と「しなの」の接続は比較的良好ですが、中央東線・中央西線・篠ノ井線それぞれに単線区間が残るため、「あずさ」と「しなの」は相互の接続を前提としたダイヤ構成とされておらず、長時間の待ちが発生する時間帯もあります。

将来的にリニア中央新幹線や北陸新幹線が整備されるため、中央線・篠ノ井線のの強化を東海道新幹線の迂回路として求めることは現実的ではありません。

一方で、複線化が実施された際に恩恵のほとんどは長野県内利用者・事業者が享受できますので、遅延抑制・貨物列車の増強、「あずさ」と「しなの」の接続改善、長野県内の流動活性化などの目的で事業者・長野県政の双方の協力で改善に期待したいところです。

迂回に貢献する北陸新幹線

2024年3月の北陸新幹線敦賀駅延伸により、東京と大阪を結ぶ現時点での迂回ルートは北陸新幹線がメインの座に躍り出ました。

北陸新幹線を巡っては、敦賀延伸時に東京・名古屋・大阪の3方面からの接続の都合で相当なダイヤ制約が生じています。

今回のような東京〜敦賀駅の直通需要が急増した際に使用可能な臨時「かがやき」のダイヤは朝晩の数往復に限定されているほか、「あさま」・「つるぎ」の運転区間を延長をしても乗り通し需要に応えられないなどの難点が存在します。

特に「つるぎ」の設定は関西圏・湖西線の遅れをJR東日本管内へ持ち込まないための対策として今後も基本的には継続となるでしょうから、北陸新幹線が東京〜大阪間の真のバイパス路線として100%の能力を発揮するのは、北陸新幹線の大阪延伸後となります。

2024年7月22日(保守用車事故)の増発

この際に設定された旅客救済のための特発臨時列車は、東京から大阪方面へ向かう「はくたか687号」「サンダーバード90号」、新大阪から東京方面へ向かう「サンダーバード91号」「はくたか698号」の1往復です。

このうち「サンダーバード90,91号」には「しらさぎ」塗装の681系6両編成が充当されています。

↓はくたか687号↑はくたか698号
東京17:04発22:20着
上野17:10発22:14着
大宮17:29発21:55着
長野18:27着20:57発
富山19:17着20:09発
金沢19:38着19:49発
福井20:05着19:21発
敦賀20:22着19:03発
↓サンダーバード90号↑サンダーバード91号
敦賀20:36発18:45着
京都21:34着17:49発
高槻21:49着通過
新大阪22:00着17:25始発
大阪22:04着

旅客案内では「敦賀駅では臨時列車サンダーバード90号に接続します」「敦賀駅では臨時列車サンダーバード91号から接続します」とされており、「サンダーバード」接続は全て「つるぎ」が受ける前提で構成された2024年3月の北陸新幹線敦賀駅延伸以降のダイヤで初めて「はくたか」と「サンダーバード」が接続列車として旅客案内されています。

JR西日本が旅客案内で明記している通り、下り新幹線は「かがやき535号」・上り新幹線は「かがやき544号」の時刻・停車駅を使用しつつ、普通車全車自由席のため「はくたか」として設定されています。

この辺りの対応は2024年1月の羽田空港事故の際に設定された「はくたか496号」で同様の対応がされたほか、その時にも「はやぶさ」と「はやて」でも同じような愛称の使い分けがされています(過去記事)。

また、2024年3月改正から現在まで「かがやき544号」は金沢駅始発でのみ設定されていましたが、時刻表からも推測出来たように「つるぎ92号」の同時刻で敦賀駅始発の「かがやき544号」も設定可能な構成(逆に同日設定が不可能な構成)で組まれていることが明らかになりました。

過去に運行したことがない臨時列車の時刻を用いて旅客案内をすることの是非はともかく、1月の「はくたか496号」もこのダイヤを活用した臨時列車でしたので、大規模輸送障害時にこの列車を走らせて救済することはダイヤ作成段階から織り込み済みだったことが想像される内容でした。

2024年8月16日(台風7号)の増発

東海道新幹線の東京駅〜名古屋駅間の終日運転見合わせが発生しました。

最繁忙期で「つるぎ」「サンダーバード」ともにほとんどの予定臨時列車が設定されており、通常の東海道新幹線の流動に合わせて大阪から東京方面へ向かう列車が2列車相当設定されています。

ダイヤの余裕がないため、JR西日本は敦賀延伸以前の輸送障害時に実施していた定期「サンダーバード」の続行運転の手法で、北陸新幹線内は列車本数の多い金沢駅以西を定期列車・金沢駅始発の「はくたか」を予定臨にない時刻で設定しています。

サンダーバード71号サンダーバード73号
新大阪10:00発15:17発
京都10:27発15:43発
敦賀11:20着16:56着
はくたか696号(定期)つるぎ32号はくたか698号
敦賀17:08発
福井17:25発
金沢17:25発17:49着18:09発
富山17:45発18:29発
上越妙高18:16発19:01発
長野18:40発19:26発
軽井沢19:09発19:55発
高崎19:33発20:13発
大宮19:58発20:36発
上野20:18着20:55発
東京上野止21:00着

予定臨「サンダーバード89号」(大阪駅14:42発)「つるぎ90号」(金沢駅16:55着)に乗車すると「かがやき536号」(金沢駅17:10発)に接続する構成ですが、この夕方上り=夜に東京着という最繁忙期の上りピーク時間帯にそのような余席は存在しないことから、この「はくたか696号」によって大阪から東京へ向かう需要を補う目的と推測されます。

「かがやき536号」が上越妙高駅で追い越す「はくたか572号」(金沢駅16:53発・東京駅20:00着)の後続を走りつつ、予定臨「あさま646号」(長野駅18:50発)とそれを追い越す定期「かがやき514号」(東京駅20:23着)からは逃げ切るという針の穴に糸を通した絶妙な設定です。

「はくたか698号」についても、大宮駅以南で臨時「はやぶさ392号」と同時刻での運転ですが、8月16日は「はやぶさ392号」設定日でもありましたので、どちらかの遅延を承知の上でねじ込んだようです。

東京駅の21時台前半の下り列車は回送列車ばかりのため清掃不要で折り返しが可能であることの活用・上野駅は繁忙期の変運用車両の折り返しで使用が難しい・多客遅延が生じるくらいなら軽微な遅延を出した方が影響が少なく済むなどの背景が想像されますが、それにしてもなかなか思い切った列車設定です。

2024年8月30,31日ほか(台風10号)の増発

8月29日夕方から東海道新幹線の東京駅〜名古屋駅間の運転見合わせが発生し、そのまま30日の計画運休に突入することとなりました。

8月30日の朝の段階で1往復・午後になってもう1往復の2往復が特発の臨時列車として追加されています。

台風7号では「多くのお客様のご利用が見込まれるため」としていたところ、JR西日本は台風10号対応では「東海道新幹線が台風10号接近の影響により運転を取り止めているため」と明言・JR東日本は引き続き「多くのお客さまのご利用が見込まれるため」としながらも公式SNSでJR東海発表をリポスト(リツイート)しているなど、これまで以上にJR東海管内の影響で実施していることを強調している点が特筆されます。

終日運休の前日に不通となってしまったことで滞留旅客が増加したことは想像に難くなく、度重なるJR東海の雨量規制予測の甘さへの不満が見え隠れしているようにも思えます。

↓はくたか687号↑はくたか696号
東京12:48発上野止
上野12:54発18:12着
大宮13:13発17:54発
長野14:15発16:57発
飯山16:44発
上越妙高16:32発
富山15:04発16:00発
新高岡15:50発
金沢15:36発15:36発
小松15:22発
加賀温泉15:14発
芦原温泉15:06発
福井16:03発14:57発
越前たけふ14:48発
敦賀16:20着14:36発
↓サンダーバード98号
9両編成
↑サンダーバード89号
9両編成
敦賀16:53発15:03着
京都17:51着14:10発
新大阪18:18着13:46始発
大阪18:24着

「サンダーバード」は予定臨と同時刻に設定されている一方で、「はくたか」は金沢駅始終着の予定臨ダイヤを敦賀駅発着としており、歪なダイヤとなっています。

下り列車では通常時の臨時「かがやき529号」を使用しつつ、先行する定期「はくたか563号」(敦賀駅16:16着)に追いつかないように金沢駅で時間調整をする構成とされています。

金沢駅から各駅に停車しても敦賀駅16:22着と大差はありませんが、混雑している敦賀駅の乗り換え時間を少しでも拡大する狙いでしょうか。

東京発の列車が4分という短い時間で連続して到着することの方がむしろ混乱に拍車をかけそうですが、このあたりは今後の検討課題といったところでしょうか。

定期「はくたか563号」と臨時「はくたか」、そして定期「つるぎ31号」の旅客を9両編成の定期「サンダーバード32号」と臨時「サンダーバード98号」で受けるというかなり無理をしている印象です。

上り列車では通常時の臨時「はくたか582号」のダイヤを使用しつつ、後続の「つるぎ26号」(敦賀駅14:41発)の先走りとなるように各駅停車タイプで延長されています。

こちらも下り列車のように金沢駅に長時間停車する形の速達タイプとすることも可能に思えますが、こちらも最大限に敦賀駅の発車を遅くする狙いが想像されます。

敦賀駅14:33着の「サンダーバード23号」からギリギリ逃げるようなダイヤ設定は一見すると違和感を覚えるものですが、「サンダーバード23号」は敦賀駅15:04発の定期「かがやき510号」利用者が選択する列車で既に混雑が見込まれる列車ですので、意図を持って不接続としている印象です。

この臨時「はくたか」は日中の定期「はくたか」から夕方の定期「かがやき」に移行するため敦賀駅から東京駅まで直通する列車の間隔が他の時間帯と比較してやや長めで、かつ定期「サンダーバード」は30分間隔で到着する時間帯という穴を補う形となっており、設定意図としても旅客滞留を避ける狙いとして妥当な設定と言えそうです。

机上では本来の「サンダーバード87号」と「つるぎ88号」(金沢駅16:00着)を設定すれば金沢駅始発の定期「はくたか570号」(金沢駅16:07始発)に綺麗に繋がるダイヤですが、定期「つるぎ28号」(金沢駅16:38着)に接続するだけの増発であっても金沢駅乗り継ぎで「はくたか572号」(金沢駅16:53発)という選択が可能です。

速達性より輸送力が求められる旅客救済としては接続の綺麗さより有効列車数を増やすという意図であれば今回のような設定も一定の意味があると言えるでしょう。

↓はくたか687号↑はくたか698号
東京17:04発22:20着
上野17:10発22:15発
大宮17:29発21:56発
長野18:29発20:57発
富山19:18発20:09発
金沢19:40発19:49発
福井20:06発19:21発
敦賀20:22着19:03発
↓サンダーバード90号
12両編成
↑サンダーバード89号
12両編成
敦賀20:36発18:45着
京都21:34着17:49発
高槻21:49着通過
新大阪22:00着17:25始発
大阪22:04着

2往復目は7月22日の事例と同様に、予定臨である「かがやき535号」と「サンダーバード90号」・「サンダーバード91号」と「かがやき544号」と同時刻の設定です。

駅での滞留により接続列車に乗り切れない場合がある状況も考慮してか、「はくたか698号」の備考には「敦賀駅でサンダーバード89号からお乗換えいただけます」と記載している一方で、「サンダーバード89号」については『敦賀駅では「つるぎ40号」富山行きに接続します』と表記されている点が注目されます。

31日も前日同様に、東海道新幹線は三島駅〜名古屋駅間が終日運休とされ、前日段階で北陸新幹線2往復・「サンダーバード」2往復の運転が公表されました。

↑かがやき526号
全車指定席
↓はくたか687号
普通車全車自由席
↓かがやき535号
全車指定席
↑かがやき544号
全車指定席
東京12:52着12:48発17:04発22:20着
上野12:47発12:54発17:10発22:15発
大宮12:28発13:13発17:29発21:56発
長野11:25発14:15発18:29発20:57発
富山10:37発15:04発19:18発20:09発
金沢10:17発15:36発19:40発19:49発
福井9:49発16:03発20:06発19:21発
敦賀9:31発16:20着20:22着19:03発
↑サンダーバード89号
9両編成
普通車全車自由席
↓サンダーバード88号
9両編成
普通車全車自由席
↓サンダーバード90号
12両編成
全車指定席
↑サンダーバード91号
12両編成
全車指定席
敦賀16:03着16:53発20:36発18:45着
京都15:10発17:51着21:34着17:49発
高槻通過通過21:49着通過
新大阪14:46発18:18着22:00着17:25始発
大阪18:24着22:04着

31日の増発対応の特徴としては、東海道新幹線の終日運休が前日段階で明らかになっていたことから、北陸新幹線・在来線区間ともに全車指定席の「かがやき」・通常の臨時「サンダーバード」と同様の扱いで設定される列車が複数設定されたことが特徴的です。

輸送力不足・旅客滞留という喫緊の課題はある程度解消し、着席移動というニーズに応える設定で、これはこれで移動を急がずに移動をせず待機していた事業者側にとって模範的な旅客のニーズに応える対応として適切なものに感じられます。

机上では、事前に輸送力不足が明らかな31日に最繁忙期と同等の輸送力を提供出来ることが最適解にも思えます。

しかし、沿線居住の乗務員の出勤が在来線等の輸送障害がなく通常通り行えるという大前提の余裕の下で予備要員を活用した増発対応をする必要性や、直近の輸送障害対応で超勤が発生していることなどの労務上の問題が克服できるか否か、最繁忙期であるお盆期間に予備車を切り詰めて増発をすることで定期検査車両が多めの時期という車両運用の年間スケジュール上の制約といったA(車両),B(運転士),C(車掌)全ての制約下で列車増発が出来るかどうかを短時間で判断する必要がある状況下で、現実的に可能な最大限の本数にも思えます。

このほかに実施された対応として、29日には敦賀駅20:07着の「サンダーバード43号」から20:11発の最終「かがやき518号」への接続待ちもありました。

標準の乗り換え時分が8分とされているように、通常はこれらの列車間は不接続とされています。

なんとか東京へ向かいたいと藁にも縋る思いで「サンダーバード」に乗車した旅客を送り届けた対応は素晴らしいものと言えるでしょう。

北陸新幹線のダイヤ作成にも影響する?

2024年の夏に相次いで発生した、東海道新幹線不通時の北陸新幹線迂回ルートとしての活用。

東名阪間のメイン・サブは東海道新幹線と建設中のリニア中央新幹線が主に担うこととなりますが、北陸新幹線についてもリダンダンシーの確保という社会課題への効果が期待されています。

「冗長性」、「余剰」を意味するリダンダンシーの確保は、国土強靭化を目指す我が国において新幹線や高規格道路の整備目的、貨物列車の迂回など様々なインフラで求められている内容です。

敦賀駅延伸後は東名間の移動が中央線ルート・東京と京都,大阪間の移動が北陸新幹線ルートへ分散する傾向がみられ、全通前ながら既にその能力を発揮しつつあります。

一方で、敦賀延伸開業初年である2024年3月改正ダイヤでは、湖西線内の大雨・強風など発生頻度が比較的多い関西圏の輸送障害による遅延を首都圏の新幹線網に持ち込まないことを重視してダイヤ構成・列車設定がされています。

「サンダーバード」「しらさぎ」の接続をすべて「つるぎ」が受け、その合間に1時間に1本程度「かがやき」または「はくたか」が敦賀駅まで乗り入れる構成で、日中時間帯に敦賀駅始終着の臨時「かがやき」を設定することは想定されていません。

先述の7月22日・8月30日のような最終便の救済パターンは他の新幹線と同様に事前に想定されてダイヤに織り込まれていることが読み取れますが、それ以外の時間帯の増発は8月30日の日中増発の事例のように速達性を大幅に犠牲にして設定されています。

最繁忙期のような「つるぎ」臨時列車が既に設定されている日ではこのような対応も難しかったことでしょう。

リニア中央新幹線が新大阪駅までやってくるのは最短でも2037年で、10年以上の間の災害対策として、現行以上に東京〜敦賀駅間直通列車の増強が可能なダイヤ構成への改良に期待したいところです。

特に8月29日に実施されたような、敦賀駅20:07着の「サンダーバード43号」と敦賀駅20:11発の「かがやき518号」の接続は、通常時から望まれるような内容です。

一方で、この「かがやき518号」は産業の街である越前たけふ駅・小松駅停車便で通常時の滞在時間拡大を狙った列車という使命もあり、本来の接続列車である「つるぎ44号」(敦賀駅20:22発)の敦賀駅接続時間を15分に拡大して現在の時刻としています。

通常時から接続させてしまうと「サンダーバード43号」側が遅れた際に「かがやき518号」が大幅に遅れるリスクを孕むことを考えると、必要に応じて発車時刻を遅らせる現在のダイヤ設定が最も合理的なのかもしれません。

湖西線やJR京都線の遅延発生頻度と天秤にかける格好にはなるものの、敦賀駅延伸後の輸送障害対応の実績を積み重ねてゆくことで、まずは通常時も繁忙期の臨時列車同士に限り「サンダーバード」と「かがやき」の接続パターンを設ける・輸送障害時に「つるぎ」と「あさま」を接続する臨時列車設定……などの柔軟な列車設定が出来るようになることに期待したいところです。

理想だけで語るのであれば、地震復興の加速などの政策により通常時の北陸新幹線の利用自体が増加していき、あらゆる需要を一手に引き受けている日中時間帯の「はくたか」を緩急分離・「かがやき」臨時列車の定期化が行われることが一番でしょうか。

「サンダーバード」が走る湖西線はその立地特性から「比良おろし」と呼ばれる強風による米原経由への迂回運転という特有の遅延条件を抱えているほか、通勤通学需要も大きいJR京都線・JR神戸線などアーバンネットワーク各地の遅延を拾いやすい環境です。

東京と大阪の迂回路としての真価を発揮するためには、現在のような在来線接続前提のダイヤ構成から脱する必要があり、やはり災害に強い現代設計の北陸新幹線を新大阪駅まで建設・開業させることが最適解であることには変わりありません。

リニア中央新幹線とともに、その整備効果を最大限に発揮できる日が1年でも1日でも早く訪れることを期待して止みません。

ただ、北陸新幹線の延伸やリニア開業まで相当な期間が見込まれる今、湖西線内の強風対策・東海道新幹線の更なる大雨・大雪対策などの中期的な改善施策にも期待したいところです。

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