2019年10月の台風19号では東日本を中心に甚大な被害をもたらしたのは、既にニュース等で皆様ご存じの通りですが、鉄道車両・設備もすでに大幅な被害を受けています。
全体の被災状況は把握できないものの、長野新幹線車両センターが千曲川の堤防決壊により、E7系(W7系が含まれているのかは不明)の下回りが水没する大洪水が挙げられます。
外にいてニュースで取り上げられている7編成のほか、庫内に居たと思われる3編成を合わせた10編成が被害を受けている状態ですが、状況はかなり深刻な模様です。
実地取材を含めた続報記事を公開しました。合わせてどうぞ。
鉄道車両基地と洪水対策
鉄道車両基地の水没で大量廃車が出た例として、1982年(昭和57年)の台風で発生した王寺駅留置車両の水没が挙げられます。
101系60両と113系40両という大量の車両が浸水被害を受けてしまい、101系は全車廃車、当時車齢が若かった113系は長期間の修理で全車両復旧とされています。
成功例としては、関東鉄道の水海道車両基地水没で検査中の車両などを除いて疎開をさせ、実際に車両基地が冠水した例が有名でしょうか。
新幹線においても、東海道新幹線・大阪の鳥飼車両基地が台風対策で車両を本線に疎開した例があります。
また、現在新設中の長崎新幹線(九州新幹線長崎ルート)では、広大な車両基地を盛り土する工事を行っているようです(長野新幹線車両センターも同様の工事はしていた模様です)。
今回の長野でなぜ疎開をしていなかったのか、対応は正しかったのか、という点については議論の余地はあるものの、今までの台風では比較的被害が少ないと言われてがちな長野県。これだけの被害を出るのは想定外だったのではないでしょうか。
堤防を乗り越えた水が流れ込んできたのではなく、氾濫危険水位は超えていたものの、堤防が壊れて水が流れ込んできたものですので仕方ない面が強いかかなと個人的には感じます。
修繕・代替は長期間かかる?
車両の損傷状況は現時点ではJR東日本でさえ把握できていない状況かと思いますので、過去の事例と比較して検討する段階でしょう。
そもそも、鉄道の床下機器は雨には耐えられるけど水没は考慮されていないという設計となっています。
これは普通自動車やお手持ちのスマートフォンの防水を考えていただければと思いますが、大量の精密機器が並ぶ床下機器が水没したら使い物にならなくなるのは自明ですね。
映像を見る限り、記事公開時点での最新映像にて、既にドアの下側を超えていますので、床下機器に加えてコンセントなどの電気配線も使用不可能となっていそうな状況です。
推測の域を出ませんが、現在も製造中の車齢の若めな形式であることなどを踏まえると、廃車ではなく機器の修理または修理扱いでの代替新造という対応が取られる可能性が高そうです。
また、車両の修繕作業を行う場所の問題もあります。
定期検査の施工は仙台に回送して行っていますが、今回は床下機器の水没という都合もあって仙台への回送が不可能に近い状態です。
他の編成による牽引回送自体は不可能ではありましたが、長野→大宮→仙台という移動距離を考えると、長野で修繕工事を施工するのが現実的なところでしょうか。
車両の修繕を行う場所自体の復旧を進めつつ、予備部品では足りない数の編成が床下機器水没となっていますので、部品の発注も含めるとやはり長期間の運用離脱は避けられないでしょう。
代替車確保は至難の業
北陸新幹線で活躍しているE7系・W7系ですが、交流の周波数の違いがあるために他線区の新幹線車両がそのままでは活用できない路線となっています。
可能性のある車両捻出をいくつか考えてみましょう。
上越新幹線E7系
やはり手っ取り早い車両捻出は新潟新幹線車両センターに所属している上越新幹線向けとして運用中のE7系が挙げられます。
4編成が昨年度配属されているものの、増備途上であるために2編成が定期運用を持っているほかは臨時列車運用となっています。
このほか、2019年度にはF24~27の4編成が導入予定です。
そのままでも1~2編成が運用できますが、上越新幹線自体はE2系で代走が可能な路線となります。
玉突きですべてを貸し出ししてしまい、既存車両を延命するのが運用変更も少なく無難な対処法となりそうです。
上越新幹線向け・将来的に北陸新幹線との共通運用を見越してE7系を製造していた判断が功を奏すこととなりました。
これを東北新幹線と共通運用としてE5系を作っていたら大変なこととなっていましたので、最高速度は低いものの柔軟な運用が可能なE7系のポテンシャルの高さを改めて感じさせられる出来事です。
上越新幹線E4系
既存の車両以外で唯一入線の可能性がある車両としては、上越新幹線に残存しているE4系です。
P51,P52の2編成が軽井沢の勾配に対応・P81,P82編成の2編成が周波数の異なる長野駅までの乗り入れに対応しています。
しかしながら、E4系の走行機器・車重では旅客を乗せた状態での碓氷峠登坂が難しいとの判断がされ(詳細は関連記事参照)碓氷峠を下る方向=上り列車としての旅客輸送のみに活用できるものとなります。
更に、長野入線自体も既存配線の改良で暫定的に使えるようにしたものですので、実用はないでしょう。
ファンの多いE4系が登板すれば大注目の列車となりそうですが、可能性はかなり低そうです。
東北・上越新幹線E2系
現在も残存しているE2系は、長野駅入線に対応していないE2系1000番台のみとなっていますので、直接的な投入は難しい車両となります。
先述のE7系運用の代走が現実的な対応となりそうですが、E2系0番台の廃車部品がまだ残存していれば、1000番台の50Hz/60Hz対応改造自体は不可能ではなさそうです。
しかし、すでに解体をしてしまった廃形式の部品がどれだけ残存しているかは不明ですし、取り扱いの異なる車両を今更準備するかどうかと言われれば難しいという判断がされるところでしょうか。
末筆ながら……
今回の台風により大きな被害を受けた皆様にお見舞い申し上げるとともに、亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。
私個人としては前回の台風15号で長期間の停電に遭った地域でしたので、遠くまで移動して過ごしました(幸い今回はすでに復旧している模様です)。
今回の台風では、試験運用を始めたばかりなのにぶっつけ本番の大活躍をした八ッ場ダムをはじめ、治水工事の重要性や難しさを改めて考えさせられる出来事となりました。
私個人として出来る支援なども進めていければと思います。
動画資料集
YouTubeチャンネル【鉄道ファンの待合室資料館】にてこの列車についての動画を公開しています。チャンネル登録・通知ON・コメント・評価もお願いします。
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画像元ツイート紹介
今回の長野新幹線車両センターの画像は、こーじ様(@keikyu230)から画像をお借りしました。
この場を借りてお礼申し上げます。
コメント
これは・・・もしかして、E4の延命も可能性として出てきましたでしょうか?
もちろん、活躍の場が上越新幹線オンリーなのは変わらずですが。
確かに一番手っ取り早いのは新潟に配置されているE7の転出ですね。
あと長野で被災した車両にW7も含まれている模様ですが
確証たるニュース記事が見当たらないです。
王寺水害の時確か関東地区で保留車となってた101系を
被災で廃車になった分の穴埋めで動員したのを覚えています。
いつも記事を楽しく拝見しております。気づいた点を一つ。
長野車両センターで修繕工事を施工するとの記事ですが、車庫にいた車両が水没している事を考えると車両センター内の検査・修繕機器も当然水没している事になります。
車両センター自体の機能回復にも相当時間がかかると思います。やはり新造が一番早いですかね。それでも東京オリンピックには間に合わないですね。