JR西日本が運営する氷見線・城端線の2路線について、“LRT”などへの転換を模索していることが明らかにされて話題となっています。
この2路線が走行する富山県では多くの路面電車が行き交っており、これに両路線が加わるかもしれません。
短文の公式発表では理解が難しい両路線の事情を掘り下げて考えます。
氷見線・城端線の開通から現在
富山県西部の拠点駅より、北側に伸びる路線が氷見線、南側に伸びる路線が城端線です。
それぞれ中越鉄道によって建設・その後国有化された路線ですが、高岡駅の北側・南側から発車する路線形状で高岡駅と南北方向のアクセス路線として運営されています。
富山県内では、県庁所在地である富山市に次ぐ大都市である高岡ですが、盲腸線である両路線は近年は利用者数に悩まされていました。
2010年以降に赤字路線対策として両路線の今後を考えたい旨がJR西日本より明かされています。
風光明媚な車窓はかなり魅力的ですが、行楽需要の創出にはかなり苦労している印象です。
2004年から運行されていた忍者ハットリ君ラッピングに加え、2012年には沿線市町村ラッピング列車が登場。
2015年3月14日の北陸新幹線金沢駅延伸にあわせて城端線にも新高岡駅が開業、同年10月には観光列車「ベル・モンターニュ・エ・メール」(べるもんた)が投入されて大きな話題を集めました。
長年に渡り両路線の直通運転の構想がありますが、歴史的な背景で北陸本線を横断しないと直通できない配線形状に加え、現在では北陸本線があいの風とやま鉄道に移管されて会社跨ぎとなるため、抜本的な輸送体系の変更は困難な状態です。
そのような中でも直通運転に向けた粘り強く検討は続けられており、観光快速べるもんた号は現在も氷見線方面列車について、新幹線接続駅の新高岡駅始発着で運行・本線跨ぎのスイッチバックにより直通運転がされています(最終の4号を除く)。
様々な努力を重ねてきたものの、これらの新幹線駅設置・観光列車で劇的な改善が行われたわけでもなく、城端線で微増・氷見線は横ばいと苦しい状態が続いています。
これらの模索があった上での今回の発表を考えると、鉄道会社としての努力だけではどうしようもない状態で、いよいよ具体的な方針決定に向けて動きが加速したものと考えられるでしょう。
富山港線廃線と富山ライトレールの成功
同じ富山県では、2006年に富山港線を富山ライトレール運行開始して成果を収めたという大きな実績があります。
利用者数に悩む富山港線をLRT化・事業も第三セクターの富山ライトレールへ移管して利用者数を少し回復させました。
JR西日本としては費用のおおよそ1/6の負担・事業の無償譲渡ですので、富山市の努力は相当なものだったことでしょう。
2006年の開業から今年で14年。富山地方鉄道市内線との直通運転開始を前にして、2月22日には富山地方鉄道に吸収される予定です。
第三セクター方式での鉄道維持は、地域住民の税金が注がれる形となります。
これを民間会社に事業譲渡となりますので、利用者の運賃負担のみで済む状態に戻るということは、地方の公共交通維持のなかでは大成功です。
これら一連の富山ライトレールの実績があったことは、JR西日本はもちろん、沿線自治体にとっても大きな後押しになったことは想像に難くありません。
LRT化は一例としつつ、あえて例示しているのもLRTが有力な選択肢と考えているのではないでしょうか。
富山駅高架化進展で富山地鉄が供用開始しているホームに富山ライトレールが乗り入れます。
方針決定自体は意外とスムーズに進むかも?
以上のように、これらの施策には利用者・鉄道事業者・自治体の各方面にとっても一定のメリットが存在するほか、何よりJR西日本・富山県双方が成功実績を持ち合わせているという点が非常に心強いところです。
先述の富山ライトレールについては、2003年2月にJR西日本が提案。そこからわずか3か月で富山市がこの方針を固め、3年という速さで開業に至りました。
富山港線の営業距離・電化路線という都合の良かった設備条件と比べると、氷見線・城端線のLRT化のハードルは高いため、同様の動きが出来るとは限りません。
しかしながら、方針決定自体は沿線各自治体(高岡市・氷見市・砺波市・南砺市と富山県)の合意・決定さえできればすぐに決定する行われる可能性はそれなりにありそうです。
今後の各自治体の賛成・反対の意見のほか、自治体ごとの費用負担という課題への意見がどう出てくるか、今後の動向は沿線住民・自治体を巻き込んだ大きな論争となりそうです。
合意まで最短は3か月だった一方で、同時に提案された吉備線については2014年に合意、転換は少なくとも2028年と長い計画となりました。
今回はどちらに転ぶかは定かではありませんが、今後は各自治体の動向にも注目したいですね。
実現する場合の両路線はどうなる?
基本的には現在の配線を維持するものと考えられ、富山港線の例を考えると現在の駅をベースとしつつ、停留所の数を増やすことで利便性を向上するものと考えられます。
車両という“ハコ”がコンパクトになる一方で、運転頻度も向上され、沿線住民の利便性向上に期待が持てます。
最大の課題は“重複区間”
ファンに知られる伏木の車両リサイクル工場も氷見線の車窓から見ることが出来ます。
デメリットもあり、特に大きなネックとなりそうなのが、氷見線の利用者数が比較的多い高岡駅から伏木駅間の区間です。
この区間は既存の万葉線と並行区間となっているほか、高岡貨物駅が伏木駅の1つ手前の能町駅から分岐しているという路線形状です。
万葉線は私鉄の血筋(富山地方鉄道→加能越鉄道)ですので、これとどう連携するかは大きな課題となりそうです。
万葉線株式会社も第三セクター方式での運営ですので、そもそも運営はこちらに委ねられるかもしれない鍵を握る会社です。
理想となるのはやはり万葉線との濃密な連携です。
氷見線沿線には学校が多く存在しているため、これらのアクセス向上・通学利用増加という期待も持てます。
その一方で、並行区間は200m~500m程度の距離をずっと保つ配線ですので、この点をどう解決するかが見どころの1つでしょうか。
両路線ともに維持となる場合は、氷見線の能町~伏木間・万葉線の米島口~能町口間の交差地点付近で相互接続が望まれるところです。
貨物列車は運行本数を考えると廃止されるのが現実的ですが、重複区間は万葉線との上手な統合・貨物線として維持……という可能性も少なからずありそうです。
趣味的には貨物列車が走るLRTも見てみたいところですが、上記のどちらかに落ち着くのではないでしょうか。
その一方で、高岡駅中心部には鉄道空白地帯で観光地・高校がある北西方面への路面電車延伸要望もあり、 加能越バス・万葉線・新路線を巻き込んだ輸送体系変更の全貌予想は難しいですね。
新幹線との連絡で化けるかも……?
一方で、大きな利便性向上に期待が持てるのは、城端線の新高岡駅から高岡駅までの区間です。
せっかく北陸新幹線が開業した新高岡駅ですが、城端線の本数の少なさが利用者にとってはネックです。
北陸新幹線の敦賀延伸も控えるなか、現状は金沢・福井方面からのアクセスに新高岡駅を使おう……とはとても思える輸送体系ではありません。
この短区間はシャトル便を追加することで、新幹線・あいの風とやま鉄道双方の接続を考慮したダイヤを編成することが出来るかもしれません。
この接続が改善されれば、クルマ社会の色合いが強い富山の公共交通利用促進に追い風となりそうです。
ただし、この高岡駅⇔新高岡駅間についても、加能越バスが毎時5本以上走らせる高頻度運行という競合課題も存在します。
これらの調整は少し課題ですが、 加能越バス株式会社は万葉線を譲る形で鉄道事業を譲渡した会社。
バス接続形態への転換など、いい方向に調整が進むことを願って止みません。
富山港線の例を考えるとバス接続も強化?
城端線の末端部ですが、南砺の市街地は福光駅が少し東側になっているほか、終点の城端は市街地に届かず北側で終わるという少し惜しい路線形状です。
終点の城端駅は、そのまま国道に線路を伸ばせそうな配置であるものの、道幅から立ち退きをしないと難しそうな歯がゆい状態です。
これらも富山港線の例に則って、バスの対面接続による利便性向上などで対応するのでしょうか。
そもそも末端区間は廃止となる可能性も
氷見線の終点駅・氷見駅。
沿線の車窓を楽しめるのも今のうちかもしれませんね。
氷見線・城端線末端区間は「将来のまちづくりに資する線区のLRT化」などから外され、全面的にバス路線とされてしまうかもしれません。
氷見線の越中国分駅以西は海岸線沿いを走る形となっており、風光明媚な車窓は観光需要としては魅力的ですが、そもそもの利用者数・人口を考えると維持できるかは難しいところです。
また、利用者数で辛うじて氷見線を上回る城端線も、主要駅の周辺は栄えている一方、中間駅や沿線は田園風景が広がっています。
考察はいろいろ出来るけれども……
富山港線と異なり、自治体・会社が多く関わる富山県西部の交通事情。
新たなチャレンジにはぜひ応援したいところですが、鉄道というインフラ維持の難しさを改めて考えさせられるニュースとなりました。
赤字の盲腸線が近未来の乗り物に化けるか否か……新たなムーブメントが起こることに期待したいところですね。
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