JR東海から、ワイドビューひだ・ワイドビュー南紀として活躍するキハ85系の後継車の走行試験車のデザインが発表されました。
JR東海では初となるハイブリッド方式の採用が特徴的です。
趣味的にはパノラマが自慢の展望席がなくなるのか・グリーン車座席・車体傾斜などの情報が気になります。
いわゆる量産先行車となるこの車両の仕様や、今後の展開について考察してみました。
新型特急車の量産先行=走行試験車が発表
JR東海発足初期から活躍しているキハ85系は、ワイドビューひだ・ワイドビュー南紀として非電化特急の標準車両として活躍してきました。
増備の過程でさまざまな仕様の車両があり、近年設置された鹿よけスカートなど、趣味的にも奥深い車両となっています。
JR発足30周年を迎え、国鉄末期に製造された211系8両を除いてJR発足後の車両に統一されたJR東海では、今後の在来線の置き換えとしてJR東海が発足してからの新形式第一号であるキハ85系を挙げていました。
登場当初はカミンズ製の輸入エンジンを採用し、以後のJR東海の非電化路線・特急各形式に多大な影響を残したこの車両も、ついに置き換え時期がやってきたようです。
ハイブリッド車・内装は飛騨・南紀地区をイメージした「和」
今回の車両開発ではハイブリッド技術の導入が大きなトピックとなります。
JR東日本では先行事例が多くある一方で、JR東海では初の事例となります。
キハ85系のエンジンがそうであったように、今後のキハ75系置き換えなどでもこの技術を活かす可能性も高そうです。
エクステリアデザインについては、飛騨地区・南紀地区にふさわしい「和」をテーマとしています。
「漆器のもつまろやかさや艶のある質感」をコンセプトとし、先頭車前面や照明を曲線とし、オレンジ帯も曲線にして「和」「躍動感」を表現しているそうです。
同業他社が異業種の有名デザイナーに依頼して奇抜なデザインがトレンドですが、あくまでJR東海は既存の鉄道デザインに固執している点も注目です。
インテリアデザインでは、グリーン車を「落ち着いた上質感」、普通車を「明るいワクワク感」として、木目調の内装材により「木のぬくもり」を演出しているそうです。
トレンドの木目調を採用する一方で、キャッチコピーが洗練されていない感じが、一昔前の新車リリースを読んでいるようで逆に新鮮にさえ感じます。
キハ85系では用途別で内装や編成構成を変える→運用変化でごちゃまぜとなった反省からか、当初より共通仕様を前提としていることがうかがえます。
趣味的な見どころ
前面展望は期待薄?
貫通型先頭車のみがプレスリリースで発表されていることから、非貫通型・前面展望が維持されない可能性が色濃く出てきた点でしょうか。
現行のキハ85系・特にパノラマグリーン車などは観光特急に恥じない豪華な設備となっているだけに、少々気がかりです。
1列目の非貫通型運転台による前面展望は、当時のしなの号用381系改造グリーン車や、その光景の383系など他社同様のトレンドであり、好評を博していました。
もしも維持をされるならば看板となるイメージ画像には非貫通型を採用するのが通例です。
プレスリリース画像からは衝撃吸収と思われる広い運転台・乗務員ドア・乗降用ドアという構成から、この貫通型先頭車では前面展望は一切期待できません。
現在のトレンドは衝撃吸収設計であるうえに、鹿衝突が多いワイドビュー南紀号・自然災害が多く、落石衝突による廃車歴もあるワイドビューひだ号の置き換えですので、安全面から前面展望が廃されるのは残念ながら妥当とも言えます。
少なくとも走行試験車では実現しないことがほぼ確定となる一方で、わずかながらに量産時に変更されることに期待です。
振り子・車体傾斜の導入もなし?
JR北海道・JR四国のような車体傾斜方式での速度向上も行われない可能性が高いです。
同様に、JR四国が本格導入を断念した気動車での車体傾斜方式も採用されないでしょう。
もしこれらが導入される場合、沿線自治体などへのアピールポイントとしてはハイブリッド方式以上のPR効果が期待できるはずです。
現時点で公表されているアピールが台車枠(新幹線の1件を受けてでしょうけれども)、振動検知、データ通信と比較的地味なものに落ち着いていること、N700系導入時に車体傾斜による速度向上を大きなアピールポイントとしていたことからも、本形式での導入はされないものと思われます。
高山線へのキハ85系投入の前に高山本線の電化検討などもあったものの、当時の時点で高出力エンジンで走れば電車とほぼ同等に走れるという見込みから先代車両が開発されました。
また、分岐器の速度制限を極力なくした両開き弾性分岐器への交換が積極的に行われ、1線スルー方式と異なって信号設備の改良費用をかけずに高速化をするという独自の軌道改良が行われています。
これらの経緯からも、導入費用のかかる車体傾斜等は採用せずに現状の速度を維持するものと思われます。
グリーン車は4列シートに逆戻り
キハ85系では、当初ワイドビューひだ用に製造されたキロハ84形では4列だったものの、後から南紀用として製造されたキロ85形では、2+1列の3列シートを採用していました。
先述の前面展望と合わせて大変人気の車両でしたが、次世代車では4列シートに逆戻りとなっています。
JR東日本ではE351系から4列シートのグリーン車がすっかり定着していたものの、JR他社では3列シートのグリーン車がすっかり主流となっていました。
経緯としては、JR東日本の戦略と同様に、着席定員を増やして増収することにメリットがあるからでしょう。
現行のキロハ84形が経済性に優れていたという皮肉な結果となりました。
これにより、今後の置き換え対象となるであろうワイドビューしなの号用383系は更にビジネス路線ですので、JR東日本と同様にグリーン車の4列化が進むものと思われます。
長らくJR東海の新造在来線用特急車がなかったものの、これにより、在来線グリーン車4列のJR東日本・東海、3列のJR北海道・西日本・四国・九州という方向性に分類できます。
快適性を上げなくともグリーン車需要がある2社と、経営努力をしなければならない4社という何とも切ない結果となりました。
量産先行車は2019年度末から
JR東海としては新技術となるハイブリッドについては、2019年度末からの走行試験が行われると発表されています。
製造が再来年の1月ごろ・同年3月ごろから1年程度走行試験といったところでしょうか。
早ければ1年ちょっと先に残雪がある飛騨地域での走り込みをする姿が見れるかもしれませんね。
営業運転はまだまだ先?
走行試験は1年程度と発表されている一方で、2022年度から運行開始と、試験結果→量産まで丸2年以上の期間を確保している点が特筆されます。
N700系・N700Sなど、新技術導入前の走り込みを念入りに行って絶対にトラブルを吐き出しておくという安全・安定輸送への強いこだわりをもつJR東海らしい計画です。
最先端の新技術をガンガン投入して、たくさんトラブルを出しつつも安定させる、チャレンジ精神旺盛なJR東日本の戦略とは対照的と言えるでしょう。
JR東海は以前より、安全・安定した「輸送」が鉄道会社の使命と公言しており、一時的のクルーズトレインブームにも乗らなかった点や、徹底的な共通化をすることで没個性ながらも最大限のサービス水準を維持する点などに代表されます。
先述のように、振り子・車体傾斜といった高コストな投資もせず、先代のような特殊設計の先頭車を作ることもなく、良くも悪くもJR東海らしい設計と言えるでしょう。
保守的かついい意味で国鉄の正統進化系といえるJR東海さんですから、今回の新型ハイブリッド特急車についても安定したクオリティに期待です。
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画像;JR東海プレスリリースより
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