2021年度に数多く投入された新形式・新区分の中で最も注目されていた、313系以来22年ぶりの一般形電車の新形式となる315系。
第一編成となるC1編成8両が日本車輌製造豊川事業所を出場し、試運転列車として神領車両区へ回送されました。
これまで明らかになっていた315系の概要
JR東海では、2020年1月22日に「在来線通勤型電車の新製について」(PDF)として、新形式の在来線通勤型電車「315系」を導入し、既存の211系・213系・311系の代替を進めることを明らかにしています。
この時点では非常走行用蓄電装置の搭載や主要機器の2重化・SiC(炭化ケイ素)素子の主制御装置の導入といった概要が示されています。
その後、より明細なイメージ画像が公開されたほか、2021年5月18日には『在来線通勤型電車「315系」インテリアデザイン・車内設備について』(PDF)として主に内装についての詳細が発表されました。
インテリアデザインコンセプトとして「優しく安心感のある快適な移動空間」を掲げています。
具体的には、昨今の鉄道車両で主流となった全車両への車椅子スペース設置・トイレの車椅子対応化、優先席や車椅子スペースの床面表示、低床化、カラーユニバーサルデザイン対応の液晶案内表示器など他社でも見られる新世代の車両らしい仕様です。これまでもJR東海は堅実な作りの車両を投入しており、この辺りは正統後継車両といった印象です。
目新しい技術としては、国内初のAIによる自動学習・制御最適化機能を搭載する車両となっています。
特筆される点として、東海道新幹線で苦い経験をしたJR東海はセキュリティ強化に非常に積極的で、今回の315系では1両につき車内防犯カメラを5箇所・非常通話装置を3箇所と増強されています。
参考:置き換え対象車両と運用線区
【大垣車両区】 東海道本線名古屋地区 飯田線 | 【神領車両区】 中央西線 関西本線 | 【静岡車両区】 東海道本線 静岡地区 | 総数 | |
211系(0) | – | 4両×2編成 (K51,K52) | – | 8両 |
211系(5000) | – | 4両×20編成 (K1-K20) 3両×17編成 (K101-K117) | 3両×20編成 (LL1-LL20) 3両×11編成 (SS1-SS11) 2両×9編成 (GG1-GG9) | 242両 |
213系 | 2両×14編成 (H1-H14) | – | – | 28両 |
311系 | 4両×15編成 (G1-G15) | – | – | 60両 |
総数 | 88両 | 139両 | 111両 | 338両 |
出場した315系を見る
今回出場した車両は、神領車両区所属となる315系C1編成8両です。車体表記の所属基地から、中央西線を中心とした活躍であることが新たに分かりました。
岐阜側が1号車・豊橋,中津川側が8号車の編成構成です。編成構成は8号車側からクハ315 1+モハ315 1+モハ315 501+サハ315 1+サハ315 501+モハ315 2+モハ315 502+クハ314 1となっています。
プレスリリースで抽象的に示されていた通り全車ロングシートです。トイレは1号車のみ、2号車にはJR東海の通勤型では初となる弱冷房車が設定されています。
外観としては概ね2回目の発表で示されていたライト形状が追加されたイメージ画像通りの印象で、従来の315系やキハ25形などのデザインから一新されたものとなりました。
ライト形状が印象的で、こちらも近年の製造車両では主流となっているLEDによるものとなっています。ヘッドライトはロービームが縦4灯・ハイビームが丸形となる、比較的採用例の多いものです。
JR東海車両では313系の増備途上でフルカラーLEDを採用しており、315系も同様です。
少なくとも試運転表示は日英交互表示となっており、従来の313系とは印象が異なります。今回出場した8両編成は車体に号車表記ステッカーがあるものの、側面LED表示にも号車表記が入っており、このあたりはJR西日本の225系などを連想させられます。
JR東海管内の在来線では極めて限定的なものですが、今回のデザインは他社でも見られるホームドアを意識したデザインです。
315系の増備とともにホームドア設置も進められることに期待したいところですが、このオレンジ色はJR東海のコーポレートカラーであり、そもそもホームドアでの識別……とはならない気もします。
それ以上に日車ブロック工法特有のドア周りの形状が注目どころでしょうか。日本車輌製造特有の設計ですが、意外にも親会社のJR東海では初採用です。
編成構成としてはごく一般的なTc-M-M’-T-T’-M-M’-Tc’の構成ですが、電動車についてはこれまでの車両とは異なり、1両で主要機器が完結するいわゆる1M方式とされている点が大きな特徴です。近年の鉄道車両では、機器の小型化が進んだことでこの構成を採用する事業者が少しずつ増えてきました。
この構成のため、車号もモハ314形は登場せず、0番台と500番台で分ける構成です。
一方で、0番台と500番台で一部機器が異なっており、ユニット方式同様にペアで使用することを前提としているように見えます。315系は4両または8両ですので特段編成構成に支障はなさそうです。
次年度以降に登場する4両編成についても、クハ315+モハ315-0+モハ315-500+クハ314で済みそうにも思えます。中間付随車に搭載されている機器が移ることで、313系2両編成のように番台区分とされるかもしれません。
台車枠が一体成型であることが事前発表で示されていました。他社のリリースではあまり見かけない記述で、こちらも近年の台車枠破断のトラブルを受けての記載でしょうか。
形状としては現在試験中のHC85系やJR九州のYC1系など近年車両で見られるもので、ヨーダンパ装備で乗り心地に期待できそうです。
このほか、写真右側のクハ314 1には車椅子対応トイレが設置されています。8両で1ヶ所かつ編成端であることは少し不便でしょうか。
車体表記では、相変わらず国鉄フォントを継承している点が特筆されます。JR東海の在来線車両は一貫して国鉄フォントを踏襲しており、今ドキのハイブリッド車両であるHC85系・管理の全てをJR西日本に丸投げしている285系3000番台もがそうだったように、本形式も同様のものとなりました。
8両編成と4両編成のみが登場予定で運用エリアからは外れそうですが、しっかりと狭小トンネル対応の◆(菱形)マークも健在です。
警笛も従来の空気笛となっているなど、目新しさのなかにも「JR東海イズム」が多く感じられる点がこの車両の魅力と言えます。
機器系ではやはり非常走行用の蓄電池関連が目を惹きます。
主制御装置(VVVFインバータ)は313系に引き続き東芝製の採用です。
このほか、事前発表通りオールロングシートとなっているほか、両端に電気連結器が設置されていないため8+2両での運転はなさそう、初めて弱冷房車が設定されるなど、従来車との違いも多くみられます。
日本車輌製造により明かされている新造計画
今後の315系を含む車両投入計画については、日本車輌製造により編成構成の詳細が示されており、315系は本年度に落成する56両が全て8両固定編成で落成することのほか、2022年度には4両編成の投入が開始されることも示されています。
2022年度にはHC85系の投入も本格的に進められることが示されており、2023年3月ダイヤ改正が行われる頃には名古屋駅の顔ぶれが大きく変わっていそうです。
参考:JR東海の車両投入計画
年度 | N700S系 | 315系 | HC85系 |
2021 | 16両9編成=144両 | 8両7編成=56両 | – |
2022 | 16両8編成=128両 | 8両6編成・ 4両2編成=56両 | 編成構成不明 58両 |
2023 | 不明 | 8両10編成・ 4両10編成=120両 | 編成構成不明 6両 |
2024 | 不明 | 4両16編成=64両 | – |
2025 | 不明 | 4両14編成=56両 | – |
置き換えはどのように進行する?
今回の315系投入は従来にない名古屋エリアへの8両固定編成・静岡エリアへの4両固定編成の投入となり、315系が増解結運用の削減による運用効率向上を目指していることが明白です。従来の配置の同数代替とはならず、車両運用の基本構成を大きく変えることとなります。
これまで動向には根拠が乏しい状態が続いており、以前からファンの間で置き換え途上の布陣・最終的な布陣の推測は割れています。
今回出場したC1編成が運用されることとなる中央西線では、211系4両編成の定期検査も実施されています。これについて、最終的に静岡エリアに4両編成の315系が投入されるため、この分の運用整理を先に進めてしまうというファンの推測もあります。
今回の目的が運用体系の見直しを含んでおり、これを見据えた車両転配を先行して実施するという展開は非常に納得のいくところです。静岡エリアのユーザーにとっても、トイレ無し列車の解消は以前から願われていますので、最も嬉しい展開はこれでしょうか。
このほか、元セントラルライナーの313系8000番台に動きが出る?飯田線や武豊線などの管轄自体の持ち替えをするのでは?313系も転用が多く発生するのでは?など、日々さまざまな考察意見が飛び交いますが、315系の投入路線が判明してもなお予測は難しい状態です。
少なくとも2022年3月改正で中央西線に8両固定運用が設定され、同線の輸送体系を大きく変えることが確実な情勢となりました。
ダイヤ改正前後に既存車両・列車に動きが発生することは明白ですので、圧巻の211系10両編成を中心とした現行体制の記録は早めに済ましておきたいところです。
コメント
(抜粋の上で引用)中津川・豊橋側が1号車、岐阜側が8号車の編成構成です。編成構成は1号車側からクハ315 1+モハ315 1+モハ315 501+モハ315 1+モハ315 501+モハ315 2+モハ315 502+クハ314 1となっています。
モハ315 1 モハ315 501 が重複しているのは気のせいでしょうか…?
JR東海とは縁の薄い所に住んでいる一ファンなのですが、315系に関して、あちらこちらのサイトにてJR東海のファンと思しき方々が喧々諤々、論争していらっしゃいますので、一ファンとして登場を楽しみにしておりました…そのため、記事を拝見しましたが、とても気になっております。
E233-3000さま
閲覧・コメントありがとうございます。
ご指摘の通り、4号車と5号車はサハの誤りです。失礼致しました。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
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