2021年3月のダイヤ改正にて、全国各地で新型・新形式のデビューが相次いでいます。
多くのファンが新たな光景を記録すべく足を運ぶ昨今ですが、ダイヤ改正に合わせる形で関東甲信越のレール輸送についても世代交代がひっそりと実施されました。
以前より進められていた世代交代の準備
JR東日本ではレール輸送・保線作業のために“工臨”と通称される工事列車を運行してきましたが、機関車・貨車ともに車齢が高く世代交代の準備が進められていました。
何年もの準備期間を経て、110両の新型気動車キヤE195系投入が発表されており、既に99両が落成済・東北エリアでは運用も開始していました。
2020年から量産車が尾久車両センターに順次配置されており、2021年に入って車両投入に終わりが見えてくるとともに、その使用開始時期が注目されていました。
2021年3月12日(金)、新潟支社管内で使用されていた貨車を戻す新津工臨“返空”を以って機関車・貨車を使用する工事列車の運行を終えました。
この新潟支社方面に向けて運行される新津工臨や高崎支社管内向けで運行される工9773レ・工9774レは長年に渡り数多くの形式・編成が見られたことや、運行頻度が高いこと、首都圏を日中時間帯に走行するダイヤ設定となっており、ファンから人気の高い列車でした。
ダイヤ改正後にさっそく尾久車両センターから新小岩操、そして東京レールセンターへの送り込みが開始。17日(水)には25mレールを積載したST-10編成による“保土ヶ谷工臨”が運行され、関東甲信越エリアの新しいレール輸送の幕開けとなりました。
余剰となる貨車の“廃車回送”も進行
今回の置き換えで余剰となったチキ5500形・チキ6000形・チ1000形といったレール輸送用の貨車たちですが、列車の代替を前にして廃車関連の動きが相次いでいます。
これらの貨車の“廃車回送”となる配給輸送が新小岩から郡山総合車両センターに向けて実施されているほか、JR東日本の電車でありがちな廃車前提の疎開の動きも見られました。
また、JR東日本所有車両とともに活躍をしていたJR貨物所有車両については、通常の貨物列車に連結されて新小岩を旅立っています。
廃車を前にして「緊締装置」と呼ばれるレールを固定する台座が撤去されたのちの配給輸送となっており、寂しい印象を受けます。
一部のファンから「ホーム拡幅工事」と呼ばれるほどにツルツルの外観は印象的ですが、いよいよ終わりであることを改めて感じさせられます。
“保線車モード”での入換作業も
従来からのレール輸送では、機関車が牽引してきた貨車を機関車が保線拠点へ押し込み、機関車は所属区へ返却。以後の作業は保線用のモーターカーの牽引で行ったのち、作業を終えた貨車の返却のため再度機関車が“お迎え”にくるスタイルでした。
今回デビューしたキヤE195系は自走で保守線へ入線しており、この際にはさっそくキヤE195系特有の作業時用の灯火が点灯している“保守車モード”での入換作業も見られています。
この灯火は2020年度の新形式として登場した非電化路線のバラスト輸送等で使用されるGV-E197系でも設置されていますが、本線走行から非電化の保守用車として自力で入換作業までこなせる点は、ディーゼルカーとして製造された車両の強みとなりそうです。
なお、従来から本線上でレール卸し作業を行うロングレール輸送は現時点では首都圏・東北ともに未だ実施されていません。
ただし、既に新小岩のロングレール輸送貨車は廃車準備作業を終えており、レールセンターにはロングレール輸送用のLT編成が入線済となっています。こちらについても時間の問題でしょう。
このほか、従来は見られなかった本線上の定尺レールの卸し作業が2018年ごろから相次いで目撃されており、今後はキヤE195系の定尺レール輸送でも同様の作業を見ることができるかもしれません。
ダイヤ改正にあわせて世代交代
今回の注目ポイントとして、ダイヤ改正直前まで機関車・貨車でのレール輸送をして、ダイヤ改正後の週明け早々に実施された……つまり「ダイヤ改正で世代交代をした」という点が挙げられます。
推測の域を出ませんが、これまでの機関車牽引列車と輸送体系や車両性能が大きく変わるため、ダイヤを刷新したことが背景に考えられます。
加減速性能が異なるほか、機回し作業の時間確保が不要となること、そして終電時刻繰り上げで作業時間の柔軟性が向上したことも加わり、保守作業・工事列車を巡る環境が大きく変化しています。
また、従来は長い貨車編成を連ねて各地で少しずつ両数を減らしながら最終目的地まで発送されるスタイルでしたが、今回の保土ヶ谷の事例では1編成での“直送”となっている点も興味深いところです。
このような小回りの効く輸送体系が叶ったのも、気動車化による輸送効率向上あってこそと言えそうです。ファンにとっては直送の方が運行頻度が上がり撮影チャンスが増える……とも言えそうです。
比較的輸送距離が長い長野支社管内・新潟支社管内向けの列車が都度目的地まで直送されるのか、それとも定尺編成5〜6本程度を繋げた長編成での運行を見ることが出来るのかなど、今後の工臨の変化から目を離せません。
個性的な外観でファンからの好みも割れる印象も否めないキヤE195系ですが、これまでJR東海でしか見られなかった新しいレール輸送方式により、列車扱いとして存続したことは悪い話ではありません。
少なくとも、この車両の登場によって機関車ファン層以外には無名だった“工臨”の存在が広く知られるようになりました。
これからは管内各地へ神出鬼没に現れて、都心部では珍しいディーゼルカーのエンジン音を響かせながら駆け抜けて行くことなります。
設計元となっているJR東海のキヤ97形と顔を合わせる可能性もゼロではないほか、JR東日本ではこの他にも事業用の珍しい車両が多く活躍しています。彼らとの“共演”も今後期待したいですね。
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