京成電鉄は2024年5月20日以前から公表されていた新型3200形導入についてデザインや運用開始時期などを明らかにしました。
50年選手の3500形の後継としての色合いが強い3200形。今後どのような順序で車両代替を進めていくのでしょうか。
2022年に構想が公表
京成電鉄では3600形以降の車両新造は長らく固定編成での投入が進められており、設備制約で6両化が困難な金町線4両編成運用や編成両数可変な最後の車両として3500形更新車が数多く残存している状態でした。
2022年7月の「長期経営計画・中期経営計画」(京成電鉄PDF)にて「編成車両数が変更できる新形式車両(3200形)の導入」との記載があり、2023年5月に公表した設備投資計画(京成電鉄PDF)でも同様に「新形式車両(3200形)の導入に向けて」として、「編成車両数が変更できる新形式車両(3200形)の設計を進めます。」との記載がありました。
そして2024年5月20日、2024年度の設備投資計画と同時に『2025年冬に「3200形」を導入します』(京成電鉄PDF)として、3200形のより詳細な仕様が明かされました。
公表された資料を見る
今回新たに公表されたのは、外観イメージや導入車両数、運行開始時期、車両の特徴などです。
運行開始時期は「2025年冬」とされており、これが2025年1月,2月を指すのか12月を指すのかが不明瞭な言い回しです。
ただ2024年度末に落成したとして12月まで営業運転に使用しないとは考えにくく、京成電鉄の過去の車両導入と同様に夏ごろ〜秋ごろに落成して試験をしたのち2025年1月または2月に営業運転開始となるものと考えられます。
導入車両数は「2024年度 6両1編成」「2025年度以降も継続して導入予定」と断片的で、最終的な投入予定数や時期、既存の3100形との並行投入の可能性については触れられておらず、ファンの間で様々な予想が飛び交っています。
基本的な外観イメージは既存の3100形に編成貫通が可能な貫通扉中央の外観としただけ……にも見える形状です。
ただ、同様の仕様変更があった京急1000形1800番台や、最近新たに編成貫通構造に改めることとした名鉄9500系/9100系でも見られたように、先頭部形状が平坦となる代わりに塗り分けラインを調整するなどの工夫が凝らされています。
京成3100形では前面窓下部の曲線ラインでFRPに湾曲を付けていましたが、今回の3200形では前面FRPが平坦に近い構造となる代わりに前面窓下の塗り分けラインがより湾曲した曲線を描くデザインとされバランスを取っています。
細かいところでも、ライト形状は3100形と近似しつつも部品丸々の共通化はされておらず、またスカート(排障器)も複雑な連結器構造に対応するためシンプルな形状となっているなど、イメージ画像以上に実車が登場して3100形と並ぶと結構異なる印象を受けそうです。
トンネルの向こうの1800番台が“バルーンフェイス”と言われる丸みを帯びたデザインをベースに貫通扉を設けたのとは対照的に、元々カクカクしたラインがあった3100形の雰囲気を引き継いでいるため、実車が登場してもすんなりと受け入れられる方が多いのかなと感じました。
イメージの先頭車両の番号は「3204」と記載されており、イメージ画像が4両編成であることから3201-3202+3203-3204と付番されているものとみられます。
この付番方式は主な代替対象と推定される3500形と同一で、リリースの「2両単位でフレキシブルに編成車両数を変更可能とする」という設計思想から、純粋に京成3500形以前で広く採用されていた、先頭車+中間車ユニット単位で運用する体制が組まれるものとみられます。
3201-3202+3203-3204の4両と、3205-3206の成田空港側先頭車を含む1ユニットの新造となりそうです。
京成電鉄では3000形以降、都営5300形でも採用されていた、4桁で編成番号・ハイフン後に号車番号を付与する5桁形式の付番の採用が続いており、この付番方式は3700形以来久々の採用となりました。
編成単位で運用しないなら旧来の付番の方が分かりやすい……非常にシンプルかつ合理的な付番に思えます。
都営浅草線系統では、千の位を会社間で使い分けることで車号が直通先事業者でも一切重複しない工夫をしていますが、その代償として車号の付番余地がかなり少なくなっています。
桁数の増加はこれらへの対応策であり、各社局で“インフレ化”が進んでいったなか、回帰する事業者が登場したことは意外に思えます。
京成電鉄の車両としての特筆ポイントとしては、京成電鉄では長らく自動連結器が採用されていたところ、遂に密着連結器と電気連結器が採用された点が挙げられます。
さらに近年新造の他社車両(JR四国2700系・JR九州821系)でも見られる、一般的な密着連結器直下の左右にも小型の電気連結器が装備されており、車両間でさまざまな伝送をしている最新鋭の電車らしいゴツゴツした印象が直線的デザインに似合いそうです。
都営浅草線系統では京急電鉄が1980年代に新造車と既存車の改造で採用、東京都交通局は現行の5500形より採用されていました。
密着連結器と電気連結器への交換は、電気連結器の普及が進んだ1980年代に連結作業の省力化等のため途中駅での増解結を実施する事業者を中心に取り組まれた一方で、編成単位での運用を前提としている事業者では恩恵が少ないことから採用に至らず現代までそのままとされている事例が各社でみられます。
京成電鉄も2両単位での増結・解放を繰り返す事業者でしたが、あくまで車庫内での編成組み換えに限定されていましたし、1980年代は京成電鉄が固定編成化を進めていた時代でしたので優先事項とならなかったのは妥当でした。
車内外のイメージ画像を見ると、京成電鉄の車両で長らく採用されていた、乗務員室後部の座席が廃止され、立ち席スペースとされています。
リリースでは「先頭車には車いすスペースを設けます。また、中間車には、ベビーカーやスーツケースなどの大型荷物をお持ちのお客様にもご利用いただきやすいよう、フリースペースを設けます。」といった表現で、それらとは別途で立ち席スペース化されているようです。いわゆる「オタ席」、京急1000形と真逆の変化となったのは興味深いところです。
最初の画像を細かく見ると、乗務員室後部に他社で採用されている安全確認カメラ設置の準備工事とも見える出っ張りがある点も気になります。
京成電鉄では2022年より3500形4両編成を使用したワンマン運転を実施しており、地上側にミラーやモニターを用意する方式で実施されました。
これらの設備を代替する狙いなのか、6両編成で運用する際にもワンマン運転を目指すものなのかも気になります。
このほかリリースでは「当社3500形車両と比較して電力消費量を約69%削減」という数字は他社では見かけない絶大な削減効果も目を惹きますが、これは単純に50年以上前の車両が今もそれなりの規模で運用されている……という京成電鉄らしい事情があってゆえです。
京成電鉄が最も経営に苦しんでいたと言われる時代を知るファイヤーオレンジ世代の3500形・3600形も、いよいよ全廃に向けての動きが進みそうです。
3500形と同様の車種構成には見えるが……
京成電鉄では3500形以前の各形式において、4両編成を基本としつつ2両ずつに分割して別の4両編成と組み合わせることで6両編成(2+4両・4+2両)、4両編成2本を連結した8両編成(4+4両)、変則的に4両編成の両側に1ユニットずつ繋げる8両編成(2+4+2)といった先頭車-中間車のユニット単位で運用する体制が長らく続けられてきました。
3700形・3000形・3100形としばらく固定編成化が進められており、今回は固定編成では置き換えが難しい3500形を代替することが主目的であることは明らかです。
公表内容からも2両単位での運用が明記されているように、3500形と全く同じ方法で4両・6両・8両で運用される姿が見られそうです。
3200形が必ずしも先頭車-中間車のユニットのみとされているのか否かについては今回公表からは読み取れません。
これは、3200形において機器構成が同一の中間車-中間車ユニットが用意されないことを断定できる情報が現時点では示されていないからです。
京成電鉄の過去事例だと3300形の一部が先頭車の中間車化を実施したユニットとなり6両編成(とそれから派生する8両編成)として運用されていた時期がありました。
近年の先頭車は無線装置や保安装置など搭載機器が多彩となり新造・維持が高価となっている傾向を考えると、中間車ユニットが用意されたとしても不思議ではありません。
一方で、京成電鉄では既にある程度の固定編成化が進んでおり、柔軟性を持たせることが強みの3200形で運用制約が生まれる中間車ユニットを数本だけ用意する……というのも一長一短な印象を受けます。
このあたりは京成電鉄が今後3100形と3200形の増備を並行させるのか、3200形の増備に専念するのかによって3200形の立ち位置が明確になりそうです。
残存車両の代替順はどうなる?
京成電鉄はこれまで、旧AE形の走行機器類を流用した3400形、年式は古いものの徹底的なリニューアルをした3500形更新車、3500形より新しいものの大規模な更新工事等をしてこなかった3600形……と代替すべき形式が複数ある状態が続いてきました。
3400形8両編成と3600形6両編成はともにあと1本ずつ、VVVFインバータ化されている3600形4両編成1本が残るまで代替が進み、3500形にも一部廃車が発生し始めているやや中途半端にもみえる状態です。
14編成56両が対象となった3500形更新車にもこれまで10両の廃車が生じており、現在は芝山鉄道リースの4両を含めて4両編成4本・6両編成5本分が運用されている状態です。
特に近年では3500形も近い将来の代替を想定した最小限の改造に留める動きがあり、現在4両編成で運用されている4編成のみワンマン運転に対応・6両編成で運用されているグループは中間の運転台が無線装置更新対象から外れて使用出来ない状態……とほぼ固定編成化されている状態です。
せっかくの京成3500形の強みが潰されている状態で、2024年度に投入される6両には真っ先に4両・6両共通予備としての使命が与えられそうです。つまり、運用開始当初は新車を2両ダブつかせることとなってでも4両運用をする事例が生じても不思議ではありません。
一方で、真っ先に代替対象候補に上がるのは、ファイヤーオレンジ帯のリバイバルがされており人気の3600形3688編成6両となりそうです。
2020年にリバイバル・定期検査を通過するも予備車的な立ち回りをしているほか、3500形6両編成がツーマンにすれば4両運用が可能なのとは対照的に共通予備的な活用も出来ません。
イベント要員としては大人気の車両ですが、実用面を考えれば次回の定期検査実施が行われるとは考えにくい車両です。初年度から1.5編成相当の中途半端な新造を行うのも、この車両の代替が最優先とされるのであれば納得のいくところです。
一方で、2023年11月に全般検査を通過したばかりの3400形3448編成については次回検査までは安泰となりそうです。
2025年度以降は京成電鉄の新造車両投入ペースを考えると年間で12両〜20両程度のペースで投入が進むものとみられます。単純に車両数だけで考えれば早くて2027年度末、遅くとも2030年度末には3400形・3500形・3600形の淘汰が完遂する計算です。
京成電鉄は近年、固定編成化の代わりに4両編成運用の削減=6両編成運用に代替を続けてきた過去とコロナ禍以降の各社の動きを考えると、4両で使用可能な新形式を用意したことで4両運用が再拡大する余地もあるため予想が難しいところです。
3100形一般車は……?
併せて注目される点として、開発から5年で成田スカイアクセス線用の橙色・50番台の番号が付与された7編成の増備が完了したものの、0番台に相当する一般車が登場しないまま新形式開発が実施された点が挙げられます。
成田スカイアクセス線専用形式として開発したのであれば3101編成から付番すればよいわけで、単純に専用形式ではないことは想像に難くありません。
似たような事例では、京王電鉄5000系がL/C可変座席を装備した30/80番台区分で増備されていたものの、全編成がこの区分で増備を終了し新形式とした事例(過去記事)がありました。
京王電鉄の事例では確実に5000系一般車を作らないことが明らかな一方で、京成電鉄の場合はこの限りとは言い切れないため今後の予想は難しいところです。
先述のように、近年では先頭車の新造コストは増加傾向となっており、京成電鉄自身の過去や同業他社の事例でも、一般的には中間運転台を挟む3200形の増備を最小限に抑え、3100形一般車の増備に戻る……といった動きが生じても不思議ではありません。
京成電鉄3200形においても、製造コストや運転台の眺望性などの観点から既存の4両編成5本と共通予備的な要素をかねた6両編成2本分程度に留め、それ以外は新京成80000形に準拠した6両編成の3100形を4本程度投入とするなどが想像しやすいところでしょうか。
京成電鉄を巡っては、2025年4月の新京成電鉄吸収合併や2028年度末の宗吾車両基地の拡充を控えており、中長期での車両運用体制に大きな影響がありそうな状態です。
特に宗吾車両基地拡大が完了したのちに現在くぬぎ山車両基地で実施されている大規模検査を集約するメリットは大きいことは素人目にも想像しやすい展開です。
京成3000形と新京成N800形、京成3100形と新京成80000形は将来的に同一形式の仕様区分とみなすことも考えられ、2025年以降は新京成電鉄が京成電鉄と異なる電装品を採用し続けてきた文化も消えていくことが想像されます。
新京成電鉄の8800形には40年選手がそろそろ出てくる頃で既に80000形による代替も開始していましたが、2025年度以降は京成電鉄の経年車各形式の淘汰を最優先で進め、京成の老朽車の代替の完遂や定期検査の集約の土壌が整ったところでVVVFインバータ制御を採用しながらも車体塗装が必要な8800形の代替を進める……といったシナリオも考えられます。
この場合は、京成電鉄が年間12〜20両程度・新京成電鉄が年間6両程度新製していたリソースを合算すれば、2028年度末の宗吾車両基地拡充までに京成老朽車の全廃・2029年度以降は8800形を検査期限とともに廃車とする体制でしょうか。
そもそもくぬぎ山車両基地を京成電鉄がどうしたいのかもまだ示されていない状態ですので、しばらくファンの間で様々な予想が飛び交いそうです。
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