小田急電鉄では、総合検測車「TECHNO-INSPECTOR」(テクノインスペクター)・クヤ31形を2004年より運行しており、新幹線のドクターイエローなどと同様に営業列車の合間を縫う体系で架線や軌道の状態を検測しています。
このクヤ31形は一般車両が牽引する体系で運転されていますが、この牽引車が従来までの1000形から“先輩”の8000形に変更されることとなり、2021年10月29日に新たな編成で試運転が実施されました。
クヤ31形の登場
小田急電鉄では、架線や軌道の状態を調べる「検測」車両として、クヤ31形「TECHNO-INSPECTOR」を2003年より所有しています。
JR東海の「ドクターイエロー」JR東日本の「イーストアイ」の知名度が高いですが、関東私鉄だけでも東急電鉄が「TOQ-i」・京王電鉄が「DAX」の愛称でそれぞれ独自の検測車両を有しています。
これらの他社の車両と比較した特徴として、全ての機能を1両の先頭車に集約し、一般車両の牽引により運転するスタイルとしている点が挙げられます。
2003年からこれまでは、小田急1000形のうち4両編成の1051×4(1051F)と6両ワイドドア編成の1751×6・1752×6(1751F,1752F)が牽引車両とされていました。クヤ31形との併結に必要なケーブル類の追加工事が施工されているため、従来は他の車両が牽引することはありませんでした。
牽引車の1000形にリニューアル工事
小田急電鉄では2014年度より、1000形を対象に主要機器や内装のリニューアル工事を開始しました。
この工事では走行機器系統が一新されており、牽引車の1051×4を含む非ワイドドア車と同数の160両がリニューアル対象と発表されていました。この頃からワイドドア車はリニューアル対象外=廃車対象と推察できる展開でした。
小田急電鉄では2008年に一般列車での分割・併合を減らすダイヤ改正が行われており、それ以降は同一形式同士の併結運転を中心としつつ、異形式連結となる場合は走行性能・特性の相性の良い組み合わせが選ばれています。
現在では8000形4両編成が3000形の1,2次車と併結する組み合わせ・1000形4両編成(機器更新車)が3000形の3次車以降と併結する組み合わせを原則としています。
これらの状況から、リニューアルの進行とともに牽引車が変更される動きを想像するファンも多かったものの、1000形リニューアル計画自体が変更されており、クヤ検測牽引車の動向も不明な状況が続いていました。2021年6月までにワイドドアの牽引車2編成が淘汰されたものの、以後も残る1051×4が使用されていました。
複雑なため、過去記事を併せてご覧いただければ幸いです。
古い車両へ置き換え
2021年6月に8000形4両編成の8065×4(8065F)が、8月には8066×4(8066F)が、従来の1000形3編成に施されていたクヤ31形対応の改造を受けて出場しており、1000形の牽引から8000形の牽引に置き換えられることが確実視されるようになりました。
その後の検測もしばらくは1051×4を使用して運転されていましたが、10月29日に8066×4がクヤ31形を牽引する試運転が実施されました。これにより、製造以来初となる編成が姿を見せることとなりました。
通常の車両置き換えでは古い車両から新しい車両に代替されるのが基本ですので、1000形から8000形へ置き換える動きは特異な印象を受けます。
車号で記せば8000形の中でも新しい2編成が選ばれている格好です。最終年度にリニューアルが施工された機器の異なる8061×4・8059×4は対象となっていません。
複雑な車両動向とも関連?
今回牽引に抜擢された小田急8000形は、6両・4両それぞれ16編成ずつ製造されたものの、リニューアルの際に初年度に施工された8251×6・8255×6のみ界磁チョッパ制御のまま施工、以後の車両はVVVFインバータ制御・電気指令式ブレーキとされました。
この2編成は5000形に置き換えられて除籍済です。このほか、踏切事故で損傷をした8264×6についても修理とせず廃車されたため、現在8000形は4両編成の方が3本多い状況です。
5000形の投入が進んだ来年度以降の布陣を考えると、1000形機器更新車の4両編成は箱根登山鉄道運用が解禁済・3000形6両編成は単独運用も多数あり、一番使い勝手が良くなさそうなのが8000形の“相方不在”の4両3編成分……と言える状態で、彼らから牽引車を抜擢する動きは妥当な印象も受けます。
この辺りの背景は、小田急グループが最近積極的なファン向けのツアー・イベント、商業紙などでそのうち明らかになりそうです。
このほか、小田急1000形の機器更新と廃車の動きとの関連も注目されます。これまでは8000形チョッパ車・1000形ワイドドア車の6両編成と近似した数の1000形4両編成を置き換えてきましたが、車両数の観点から、2022年度以降に新たな動きが発生することが確実視されている状態です。
少なくとも8000形の中でも今回改造を受けた2編成については、向こうしばらく安泰と言えそうです。
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