現職の都知事候補は初回当選時に満員電車ゼロを掲げていた点に疑問の声がある一方で、構想段階の鉄道路線の事業化などが進んだ現行の東京都政。
鉄道の話題には政治動向も切っても切り離せない関係で、リニア建設を巡っては静岡県知事選挙が強く影響し、最近では千葉県と沿線自治体がJR東日本千葉支社と大揉めした京葉線問題などが注目されました。
東京都知事選挙を目前に控えた今、なるべく中立な視点を心がけつつ、鉄道に関連した動きを振り返りながら今後の展望を想像します。
日本の人口の3割が集う首都東京
日本国民の人口の3割以上が首都圏で生活をしているとされ、日本国民の概ね1割程度が住民票を東京都に置く東京都民に該当します。
我が国の国政は間接民主制を採用しているため有権者が直接的に施策の是非を問う機会は少なく、小規模国家の国家予算に匹敵する規模の権限を有する東京都知事を直接民主制で選ぶ都知事選については、東京都民だけでなく日本国民全体が注目する選挙となっています。
他の道府県の首長と比較すると、東京都知事は国政への影響力も非常に強く、我が国の選挙制度では一番注目される選挙と言っても過言ではありません。
本記事では、東京都政が首都圏の鉄道ネットワークに影響する内容をおさらいしつつ、選挙結果が今後の鉄道網にどのような効果を与えるかについて考えます。
当サイトでは以前より、政治主張になるべく中立でありつつ、鉄道事業者・鉄道趣味者にとってメリットや影響がある提案や政策についてはファン層に届くようピックアップするスタンスです。
主義主張には読者の皆さま個々人で様々でしょうし、選挙戦の真っ只中ということもありますので、候補者の氏名は伏せた形で都政の変化と鉄道網への影響を考えていきます。
都政が鉄道網に関わる主な事業
東京都と鉄道を巡っては、民間鉄道事業者に影響を与える都の施策のほか、東京都が直営・出資して運営されている鉄道事業者の今後に影響を与える政策に大別されます。
連続立体交差事業〜東京都建設局
連続立体交差事業は道路を整備する事業のうちの手法の1つで、民間が所有する鉄道用地を改良することで踏切を除却することで、都市部の道路利便性を向上する目的で実施されています。
これらの経緯から、複々線化事業が鉄道事業者負担で実施されるのとは対照的に、全国各地で実施されている連続立体交差事業は沿線自治体の負担が原則となっています。
これらが同時に実施される場合は複々線化に関連した支出を鉄道事業者が、連続立体交差事業に関わる部分は沿線自治体が負担する格好です。
道路をアンバーパス・オーバーパスするという選択肢もあるなか、趣旨のため、費用負担は行政……といった論理ですので、極めて公共性の高い事業です。
これらの事業のほか、墨田区・足立区が施行している東武伊勢崎線(とうきょうスカイツリー駅付近・竹ノ塚駅付近)の事業が挙げられます。
同じ1駅周辺の連続立体交差事業でも都が主導で実施している事業と、区が実施している事業がある点が東京特別区の特徴の1つと言えるでしょうか。
また、西武新宿線では東側は地下化で事業中・中央が構造形式を検討中・西側が高架化で事業中とまちまちな状態となっている点が印象的です。全ての事業が完成したら、西武新宿線の車窓は大きく変貌を遂げることとなります。
現職・新人ともに無難に推進とする候補が多いようですが、本事業の加速化を促す新規施策・提言等は聞かれません。
公共工事全体に否定的な左派的な首長にならない限りは現行のスキームで進行しつつ、無難に既存の計画が進められそうです。
都営地下鉄の今後〜東京都交通局
鉄道趣味者では以前から「石原地下鉄」「猪瀬地下鉄」など都知事名で呼称する文化が若年層を中心に存在するように、東京都交通局が運営する都営浅草線・三田線・新宿線・大江戸線の地下鉄4路線のほか、都電荒川線と日暮里・舎人ライナーは東京都交通局が運営しており、当然ながら東京都の方針に強く影響を受けます。
都営新宿線の保安装置改修名目で先頭車のみ新製の10-300R形が投入されたり、その後は10-300形も10両化名目で若年で置き換えられたり、日暮里・舎人ライナーも混雑緩和のため短期間で後継車両へ置き換えが進んだりと、民間企業とは全く異なるスキームで車両更新を行う公営の鉄道事業者です。
比較的財政に余裕がある東京都交通局の車両更新サイクルはJR東海に匹敵するほどで、今後は都営6300形3次車の代替などが想像される状態です。
こちらも京都市営地下鉄の新車投入のような(過去事例)、東京都交通局の車両更新サイクルに疑問を持つ声が世論から聞かれない以上は、どの候補者が当選しても大きな変化は考えにくい内容です。
緊縮派によって車両更新サイクルを延長すべく機器更新工事をする方針に転じるなどの変化が想像される一方で、東京都交通局は都心に車庫を構えていることで各路線とも大規模な車両改修を行うことが難しい環境です。
他社のような車両更新をして延命するスタイルに転じる場合、直通先路線の事業者にも影響を与えそうです。
臨海地下鉄とアクセス線〜東京臨海高速鉄道
東京臨海高速鉄道は大崎駅から新木場駅を結ぶりんかい線を運営している第一種鉄道事業者で、東京都が9割以上の株式を保有しています。
りんかい線では2025年から2027年にかけて、既存の70-000形を71-000形に置き換えることが公表されています。
東京臨海高速鉄道を巡っては、「豊洲地下鉄」と通称される地下鉄構想と、「羽田空港アクセス線」西山手ルート・京葉ルートを巡る構想に挟まれている状態です。
臨海地下鉄構想は2024年2月、東京都と鉄道・運輸機構、東京臨海高速鉄道が事業計画の検討を進めることで合意した旨が公表されています。
整備主体は鉄道・運輸機構で営業主体は東京臨海高速鉄道が選定されています。
一方で、JR東日本は2010年代にりんかい線の一体運営に向けて東京臨海高速鉄道の買収検討が報じられ、その後の羽田空港アクセス線建設にあたっては東山手ルートが建設着手されている一方で、りんかい線買収が前提条件となることが想像される西山手ルート・京葉ルートについては膠着状態となっています。
過去記事でも取り上げていますが、羽田空港アクセス線とりんかい線を巡る問題は東京都・千葉県・JR東日本の三者の思惑が異なり、一筋縄にはいかない状態です。
臨海地下鉄計画が現案通り東臨が運行主体で進行すれば、羽田空港アクセス線の西山手ルートと京葉ルート、千葉県が熱意を燃やす京葉線とりんかい線の直通運転は更に遠のくこととなることが想像しやすい内容です。
りんかい線との接続により羽田空港アクセスを向上させることを謳いながら、JR東日本が望む形であろう東京臨海高速鉄道の買収を遠のける事業者選定となった点に違和感を覚えた鉄道趣味者も多そうです。
東京都が東京都交通局(都営地下鉄)でも後述の首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス)との一体運営でもなく、あえて東京臨海高速鉄道として営業主体を選定している点において、東京都としては今後もJR東日本へ売却の意志がないことを色濃く示しているようにも思えます。
羽田空港アクセス線と臨海地下鉄の関係は、JR東日本が進めていた羽田空港アクセス線東山手ルートと競合関係となり、この構想自体がJR東日本にとってそもそも望ましいものではなさそうです。
鉄道趣味的な今回の都知事選の争点として臨海地下鉄構想の是非は一番注目される話題にも思えますが、現職・新人ともこの構想についてあまり話題に上がらない点は残念に思えます。
現職が再選すれば臨海地下鉄計画はより具体化に向けて進むでしょうし、築地再開発に疑義を持つ候補が当選すれば足踏みとなりそうです。
延伸計画進む〜多摩都市モノレール
多摩都市モノレール線は上北台駅と多摩センター駅を結ぶモノレール線で、運営を担う多摩都市モノレール株式会社は東京都が約8割を出資する第三セクターとなっています。
多摩都市モノレール線には北部の箱根ヶ崎駅への延伸構想があり、新青梅街道の拡幅が順調に進んでいることを受けて2018年に事業化に向けた検討の深度化を発表。2020年に延伸事業に着手することが発表されています。
このほか南部にも複数の延伸構想があり、多摩センター駅から唐木田駅経由で八王子駅・多摩センター駅から南進して町田駅までの構想が「今後整備について検討すべき路線」とされているほか、箱根ヶ崎駅から八王子駅までを結んで既存構想と合わせた環状線化する構想など多岐に渡って検討が進められています。
北部延伸の事業化決定は現職知事の実績の1つとなっています。
都47%・国53%〜東京メトロ
帝都高速度交通営団を民営化した東京地下鉄株式会社は、現在まで東京都と国が株式を保有する体制となっていました。
以前より株式の民間への売却に向けた検討が進められており、国と都が50%を保有することを前提として上場に向けた検討が進められています。
東京メトロ設立時点では副都心線の建設・改行を最後に新線建設をしないという趣旨が示されていたものの、最近では豊洲駅〜住吉駅を結ぶ豊住線・白金高輪駅〜品川駅を結ぶ南北線延伸計画が進められることとなりました。
これらの費用は「都市鉄道整備事業費補助」制度により新線建設費用の35%、その他を「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」に基づいた鉄道・運輸機構の「都市鉄道整備に対する資金の貸付け」により建設費を調達することで東京地下鉄株式会社としての財務面の課題を解消しています。
東京メトロを巡っては、神奈川東部方面線計画への消極的な姿勢への是非が挙げられます。
東京都交通局も同様ですが、都営三田線・東京メトロ南北線・副都心線ともに相模鉄道への直通設備設置改造をしない状態が続いています。
これらの状況により車両運用上の制約が極めて大きなものとなっており(過去記事)、東急電鉄や相模鉄道は車両運用上の制約を強く受けている状態です。
国も推し進めていたはずの新路線建設開業にあたって、自治体直営・国と都が100%出資している地下鉄が民間企業へ運行上の制約を与えている点は批判の声もありそうな内容とも言えます。
東京都交通局は相鉄直通をしても都民へのメリットにならないというスタンスであれば擁護出来るものの、東京メトロの姿勢には疑問符がつくところです。
こんなニッチな政策を訴える候補者はいないでしょうけれども、これら3路線沿線の都民に今後も遅延収束の遅れなどで影響を与えていることは頭の片隅に入れておきたい内容です。
臨海地下鉄計画と東京駅延伸〜つくばエクスプレス
秋葉原とつくばを結ぶ常磐新線計画を基に開業したつくばエクスプレス線は首都圏新都市鉄道株式会社が運営しており、こちらは東京都以外の自治体も含めた出資となっています。
開業以来沿線人口が増加したことで開業直後から増備車の投入が続いており、現在は8両編成化に向けたホーム延伸工事が進められています。
先述の臨海地下鉄の建設にあたっては、つくばエクスプレスの東京駅延伸との一体整備が望まれる内容です。
一方で、首都圏新都市鉄道側としては、まだ建設費の返済が済んでいないなかで8両編成化工事をしていることや、並行する構想である都営浅草線に関連した都心直結線構想の進行で環境が変わることなどを理由に二の足を踏んでいる状態です。
つくばエクスプレス沿線の更なる発展に期待が持てる構想ですが、今後どのように進行していくでしょうか。
賛否どちらでも選挙に行こう!
現職の鉄道に関連した実績としては、公共交通機関の整備推進を着実に進めてきた点は大きく評価される内容です。
多摩都市モノレール線延伸事業化や東京メトロ2路線の延伸など、長年に渡り構想はありながらなかなか事業化がされていなかった新路線構想に事業化という追い風を吹かせてくれたことは鉄道趣味の観点では嬉しいポイントです。
一方で、現職都知事は2016年に「満員電車ゼロ」を掲げて時差Bizなどを推奨してきたものの、現実としてはコロナ禍でリモートワークが推奨されたことによる通勤需要減少によって公約実現としているところには疑問符がつきます。
臨海地下鉄を巡った話題が鉄道関連では是非が分かれる争点でしょうか。専門ではないので追及はしませんが、築地再開発の利権が蠢いていそうで、都民の利益となる適切な構想路線なのかは慎重に判断されるべきです。
サイトとしての政治主張は特にありませんが、鉄道と政治はこれまでもこれからも密接であることをより多くの方に知ってもらい、自身の選挙権で都内の鉄道網にも少なくない影響を与える選挙であることを認識してもらえたらと特集的な記事を執筆してみました。
当サイトは首都圏の話題を取り上げる比率が高いため、読者層にも東京都に居住されている方が結構な比率となっています。
東京都政の是非は鉄道事業への今後だけで決めるべきものではありませんが、関心を持つきっかけとなれば幸いです。
ヤバい人たちからマシな人を選ぶ罰ゲームなどと言われる昨今の選挙ですが、大手メディアが勝手に決めた主要候補とやら以外にも、都政に熱意のある意見を持った候補者が多数いらっしゃいます。都民の権利を無駄にしないよう、選挙に行きましょう。
戦後の都知事選は現職が負けたことがないと言われていますが、どのような結果となるのか、それにより鉄道にどのような影響を与えるのかは引き続き見守りたいところです。
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