東武鉄道が製造してきた50000系列。
東上線で3形式・本線系統で1形式が地下鉄直通運用などの幅広い活躍をしています。
東武ファンからの人気はイマイチなこの形式ですが、掘り下げていくとかなり形態差がある形式です。
形式別でまとめているサイトさんは複数ありますので、今回は写真とともに製造年次ごとに変化をまとめて見ました。
東武50000系列とは
日立の「A-Train」の基本設計を採用し、側面についてもシャイニーオレンジを採用した形式です。
番台区分については下記の通りです。
50000系:東上線地上用
50050型:本線(スカイツリーライン)〜半蔵門線〜田園都市線直通
50070型:東上線〜有楽町線・副都心線〜東横線〜みなとみらい線直通
50090型:東上線地上用・「TJライナー」
ここまでは一般的に知られている区分となりますが、実は製造年次ごとに細かい設計変更がされており、これは同一形式を長い年数に渡って製造・修繕する東武鉄道ではありがちです。
今回はこの年度ごとの微妙な形態差について、製造順に変化をまとめていきます。
当サイトでは、50000系の派生形式の呼称はプレスリリース等で東武鉄道が使用している「型」にて記載しています。また、東武鉄道の車内呼称では51001号Fという表記が正式なようですが、一般的ではないので51001Fといった表記で掲載しています。
2004年度〜量産先行車51001Fの登場
30000系列が全て本線系統配属だったため、10000系列以降の新造車が9050系の2編成のみと冷遇気味だった東上線系統への久々の新造車・しかも1編成目が東上線に配置となったので、東武ファンの間では大きく話題となりました。
東武電車では優等車以外の採用例をほとんど見かけない前面非貫通、東上線系統では初となるワンハンドルマスコンの採用、そして従来車のイメージとは異なるアルミボディ・シャイニーオレンジの採用など、新しい要素が目白押しで大きな話題となりました。
複線化工事進展に合わせてその日限りとなっていた武蔵嵐山行き急行に充当されながら華々しくデビューしており、8000系8108Fで実施されていたリバイバルカラーとの並びなど、大賑わいでのデビューとなりました。
2004年度の布陣の変化
50000系 | 50050型 | 50070型 | 50090型 | |
この年度製造 | 51001F | |||
トータル本数 | 1 | 0 | 0 | 0 |
2005年度〜早速の設計変更と、まさかの本線投入
本線向け51056F 東上線向け51002F
翌年度に製造された51002Fでは、貫通扉が設置されたことでイメージががらりと変わりました。
運行番号表示器の準備工事もされており、有楽町線への直通を視野にしているのでは?と言われていましたが、50050型と仕様共通とした色合いが強そうです。
この年度には、せっかく投入した半蔵門線直通用の30000系を早速追い出すため、派生形式50050型51051F〜51056Fが製造されました。
70両の新造ということで東上線の世代交代が一気に進むと考えていたファン・地元利用者の期待を一気に裏切ることとなり(毎年の設備投資計画では50000系全体の本数しか発表がありませんでした)、ここからしばらく本線向けの製造を優先しています。
この50050系の新造では半蔵門線系統の規格に合わせて車幅を狭くしている点が大きな変化で、直通機器類は一部編成をのぞいて30000系の地上転用車から流用としています。
2005年度の布陣の変化
50000系 | 50050型 | 50070型 | 50090型 | |
この年度製造 | 51002F | 51051F 51052F 51053F 51054F 51055F 51056F | ||
トータル本数 | 2 | 6 | 0 | 0 |
2006年度〜50070型の登場
黒縁なしの旧ROM+東横線の走行はこのごく短期間のみの形態です。
引き続き半蔵門線系統置き換えの増備が続く一方で、東上線系統でも既存車の副都心線乗り入れ改造用の車両として50070型の製造が始まりました。
この系列では50000系の広幅車体はそのままに先頭車長を130mm延長しており、副都心線規格の新造車となりました。
このため、地下鉄乗り入れも想定していた51002Fについては地下鉄乗り入れを行うことはありませんでした。
なお、東急5000系列では運転台横の長さで一目瞭然な車体長の違いですが、東武50000系列では先頭車の車端部の長さに違いが見られます。
そして、この車端部の窓について、50070型では車椅子スペースの2箇所以外は全て開閉可能となっており、この構造は50070型のみの特徴的な仕様となっています。
座席モケットが濃い色に変更されたのはここからですが、座席が少し柔らかいものとなるのはもう少し先です。
2006年度の布陣の変化
50000系 | 50050型 | 50070型 | 50090型 | |
この年度製造 | 51057F 51058F 51059F 51060F | 51071F 51072F | ||
トータル本数 | 2 | 10 | 2 | 0 |
2007年度〜50090型の登場
専用LEDでは、特殊表示はど真ん中に表示 甲種輸送時は50070型と同様のLED 貫通扉の小変更をした51074F
この年度には50070型が更に2編成増備されたほか、副都心線直通開始に備えて、地上口利用促進のために運転を開始するライナー列車用の車両として50090型が開発されました。
近鉄L/Cカーのようなロングシート・クロスシート可変座席の投入により、ライナー運行時間帯以外の運用効率を上げています。
この50090型では、東上線向けの最新設計車・地下鉄乗り入れに対応した設計である50070型の車体長・車幅を採用しているものの、現在まで地下鉄直通機器の設置例はありません。
また、50090型では従来の強制換気装置+車端部の半数しか開かない窓という構成から、車端部以外の窓が開く構造に変更されています。
窓の変更はこの年度の50070型に反映されなかった一方で、前面貫通扉の蝶番が外に露出する構造への変更は反映されており、これが51071,72Fと73F以降のささやかな差異となっています。
多数派の50000系・50050型では初期車と後期車で大別できますが、マイナー車種の50070型では小変更が続く……という関係は、同時期の東急5000系列に似たものを感じますね。
2007年度の布陣の変化
50000系 | 50050型 | 50070型 | 50090型 | |
この年度製造 | 51073F 51074F | 51091F 51092F 51093F 51094F | ||
トータル本数 | 2 | 10 | 4 | 4 |
2008年度〜異端児登場・既存車も開閉窓化
この年度には50050型の製造が再開されましたが、こちらでは前年度の50090型の設計変更となる窓開閉機構を採用しています。
6月に始まった副都心線直通開始の直後に予備車増のために製造された51075Fでも同様の構造としたかったところですが、こちらは既にボディが作られていたようで、後天的改造車に似た開閉窓の異端児となっており、この構造は既存編成改造に反映されました。
そして、この50050型の増備再開分以降、使いにくかったA-train標準の手すりを通常形状に変更、ドアへの黄色ライン付加・開閉赤ランプの設置などのバリアフリー設計の投入が開始され、床材デザインの変更がされています。
また、悪名名高い硬い座席を改良したほか、座席モケットは50070型と同一デザインです。
そして、半蔵門線直通系統でも大規模なダイヤ改正を迎えたため、この年度の15編成体制では30000系がまだ多く残っています。
50050型投入完遂前に大規模な改正となったため、51060Fが一旦置き換えたはずの31603F+31403Fに直通機器を再設置するなど、やや複雑な動きとなっています。
2008年度の布陣の変化
50000系 | 50050型 | 50070型 | 50090型 | |
この年度製造 | 51061F 51062F 51063F 51064F 51065F | 51075F | ||
トータル本数 | 2 | 15 | 5 | 4 |
2009年度〜久々に東上線地上用が製造
派生形式が多数製造されるなか、久々に東上線地上用の製造が再開されました。
しかし、この51003F,51004Fでは50050型後期車同様の狭幅となっていることから、50050型の直通機器を抜いただけの設計と記した方がわかりやすいでしょうか。
この狭幅となっている点については甲種輸送時の荷票と乗車定員の違い程度でしかわからない点で、写真を撮るとちょっとシュッとしている気もしますが、あくまで2cmちょっとの違いとなっています。
この年度には50050型の増発分に当たる3編成が製造されたことで、30000系では15編成だった半蔵門線直通について、50050型では増発分を含めて18編成+30000系2編成の20編成体制となりました。
2008年度の布陣の変化
50000系 | 50050型 | 50070型 | 50090型 | |
この年度製造 | 51003F 51004F | 51066F 51067F 51068F | ||
トータル本数 | 4 | 18 | 5 | 4 |
※51003Fについては試運転時に脱線事故発生のため、翌年度増備車に遅れて運用入り。
2010年度〜TJライナー増発用
毎年度末に納車していた50000系列では、直通開始時期の都合があって中途半端な時期に甲種輸送された51075Fを除くと初となる年度初めの納車となっています。
このほか、ライナーが好評だったことから、増発用に2編成が投入されています。
こちらでは従来通りの広幅・長い先頭車となった一方で、ドア周りの意匠は直近の増備編成と同一の意匠です。
2011年度の布陣の変化
50000系 | 50050型 | 50070型 | 50090型 | |
この年度製造 | 51005F 51006F 51007F 51008F 51009F | 51095F 51096F | ||
トータル本数 | 9 | 18 | 5 | 6 |
2011年度〜最終増備車
この年度には、今後の東急東横線乗り入れ後の運用増加に備えた最終増備が行われました。
50000系列では初めて液晶ディスプレイの車内案内を採用しており、当時の最新鋭であるセサミクロとなっています。
50070系としては初めて既存他番台で採用された開閉可能な2枚窓を採用しており、50070系の特徴だった車端部窓は固定となりました。
日立製作所でこの当時問題となっていた床材の難燃化不備について、この2編成だけは防火基準反映後の床材で登場となっており、既存車はこの後全て交換されています。
この編成を以って50000系列の増備は400両ちょうどで完遂となりました。
2011年度の布陣の変化
50000系 | 50050型 | 50070型 | 50090型 | |
この年度製造 | 51076F 51077F | |||
トータル本数 | 9 | 18 | 7 | 6 |
形態差まとめ
色々と差異が発生していますので、形態差の早見表を別途掲載します。
前面 蝶番 | 表示器 | 車幅・長 | ドア間窓 | 車端窓 | 床材 | ドア周り | 座席 | |
51001F | 非貫通 | 3色LED | 広・短 | 固定→改 | 半数開閉 | 初期 →改 | 初期 | 固 水色 |
51002F | 貫通 内側 | 3色LED | 広・短 | 固定→改 | 半数開閉 | 初期 →改 | 初期 | 固 水色 |
51003-9F | 貫通 外側 | 3色LED | 狭・短 | 2枚開閉 | 固定 | 中期 →改 | 改良 | 柔 青色 |
51051-60F | 貫通 内側 | 3色LED | 狭・短 | 固定→改 | 半数開閉 | 初期 →改 | 初期 | 固 水色 |
51061-68F | 貫通 外側 | 3色LED | 狭・短 | 2枚開閉 | 固定 | 中期 →改 | 改良 | 柔 青色 |
51071,72F | 貫通 内側 | FC-LED | 広・長 | 固定→改 | ほぼ開閉 | 中期 →改 | 初期 | 固 青色 |
51073,74F | 貫通 外側 | FC-LED | 広・長 | 固定→改 | ほぼ開閉 | 中期 →改 | 初期 | 固 青色 |
51075F | 貫通 外側 | FC-LED | 広・長 | 改造車風 | ほぼ開閉 | 中期 →改 | 初期 | 固 青色 |
51076,77F LCD設置済 | 貫通 外側 | FC-LED | 広・長 | 2枚開閉 | 固定 | 後期 | 改良 | 柔 青色 |
51091-94F | 貫通 外側 | 専用 FC-LED | 広・長 | 2枚開閉 | 固定 | 中期 →改 | 初期 | 専用 仕様 |
51095,96F | 貫通 外側 | 専用 FC-LED | 広・長 | 2枚開閉 | 固定 | 中期 →改 | 改良 | 専用 仕様 |
※ 51091F〜94Fは50070型同様の先頭LEDで甲種輸送→納車後すぐに専用品に交換
※ 水色モケットは床材改修時にすでに交換済
※ 51071F〜75Fの車端部窓は車椅子スペースのみ固定窓
既存車に2画面LCDディスプレイ設置へ
過去には9000系列・20000系列でLCDディスプレイを他社に先駆けて導入した一方、後年に撤去した過去もある東武鉄道。
久々の採用は51076Fと他社から大きく遅れを取ることとなりました。
今後、既存の地下鉄直通形式である50050系・50070系の全編成を対象に、2画面の液晶ディスプレイ設置改造を進めることを明らかにしています。
まずは既存の1画面編成である76F,77Fを対象に改造するようで、新たな配線設置が必要な既存車については今後少しずつ実施される様子です。
本線系統では改造が始まる動きが見えない一方、残される30000系に休車が出るなど、動向に注目が集まります。
今後の展開は?9000系列・30000系列の置き換え
現在、有楽町線・副都心線直通用としては9000系列がチョッパ車7編成・GTO-VVVF車2編成活躍しているほか、半蔵門線直通用の30000系が2編成活躍しています。
30000系2編成の置き換えについては、中途半端に新形式を起こすのは合理的ではないですね。
運用数調整で済ませるか、狭幅でほぼ同一仕様である51003F〜51009Fの本線転用がもっともシンプルな対処法でしょう。
一方で先行きが読めないのは9000系列の置き換えや、50090系の乗り入れです。
TJライナーの登場経緯は、池袋〜和光市の運賃収入減少対策ですので、今後も50090系のライナー列車がS-TRAINのような運行をする可能性は低いです。
しかしながら、朝だけの運用が多い地下鉄乗り入れ運用と、朝だけ運用が多い50090系の運用相性は悪くないので、京王5000系のような無料列車限定での乗り入れの可能性はゼロとは言い切れないでしょう。
特に土休日朝の小川町駅行き快速急行をクロスシート車で運行する……可能性も捨て切れません。
50090系が6編成・9000系チョッパ車が7編成ですので、運用効率化次第では大半を置き換えることも一応可能です。
しかし、やはり収容力の不安もありますし、本線の70000系投入完了後に別形式で置き換えをするのが現実的でしょうか。
コメント
50050増備は東急側から「30000系の6+4は運転台の部分が邪魔。ただでさえ、田園都市線は増発が急務になっているのに…。なんだったら東武さんの新車を東急車輌(当時)で作りますよ。」って促された模様。
トラフグの卵さま
閲覧・コメントありがとうございます。
そのあたりの動きについては、最近記した30000系の記事で記していたので詳しいことは割愛しました。
あわせてお読みいただけると嬉しいです!
https://train-fan.com/tobu-30000/