20年近く増備が続き、712両もの大量製造がされた“私鉄の103系”こと東武8000系。
経年車を中心とした置き換えが進められましたが、奇跡的に生き延びた初期車・8506Fが2020年4月7日に定期検査を出場しています。
落成から55年を迎えたこの編成。これまでの活躍と今後を考えます。
特殊設備から生き残り
東武東上線ではかつて秩父鉄道・三峰口駅までの直通優等列車を運行していましたが、1992年の秩父鉄道が保安装置＝ATSを使用開始する際に直通運転を終了しました。
これに伴って全ての東上線車両が秩父鉄道を走らなくなる……わけではなく、現在まで30年近く時折東上線車両が走行しています。
これは、東武鉄道の本線と東上線では直接線路が繋がっていないため、秩父鉄道の羽生駅〜寄居駅を介することで車両の入れ替えを行っていることが背景です。
転属だけでなく、東上線の川越工場のスペース都合から、長年に渡り東上線所属車両の一部は本線系統の工場(現在は南栗橋)で検査を行う体制が続けられてきました。
全ての車両に秩父鉄道の保安装置を搭載するのではなく、2両固定編成の8505F,8506F,8510Fの3編成を対象に保安装置を設置・秩父鉄道線内の走行時は彼らのいずれかが先頭に立つ形でこの課題をクリアしています。
通常運用の間合いでこれらの回送伴走を行なってきたほか、10000系列の東上線転用の際には2編成4両で転属車両を牽引するという特殊任務を担当した実績もありました(2011年の30000系転用開始以降は秩父鉄道の電気機関車牽引に移行)。
東上線では国土交通省方針に従って2011年6月にデッドマン(マスコンハンドルから手を離すと非常ブレーキが掛かる装置)・運転状況記録装置の搭載改造が済んでいない8000系を置き換えたほか、残された編成についても保安装置をデジタルATCに移行することとあわせて、東上線小川町駅〜寄居駅間・越生線で活躍しているワンマン運転対応車以外の8000系を全て置き換えることとなりました。
2015年初めの池袋口からの完全撤退を機にこの8506Fも営業列車での運用から離脱・8175Fとともに8000系10両編成Finalツアー臨時に登板しましたが、その後ひっそりと本線に転属しました。
落成から半世紀、一貫して東上線で活躍を続けてきた8506Fにとって初めての本線所属となりました。
この転属経緯ですが、引き続き東上線系統にはワンマン線区用の8000系が残存するため、引き続き入出場回送のエスコート役が必要だったことが挙げられます。
ただし、南栗橋車両管区に転属こそしたものの、ワンマン運転が出来ない2両編成を運用する路線は既に無くなっていましたので、この編成はこれ以降事業用車として余生を送っています。
論語で「五十にして天命を知る」という言葉がありますが、この8506号編成は五十歳にして自身のアイデンティティとなった秩父鉄道ATSを生かした活躍に専念することとなりました。
いわゆる中期修繕車両ですので、原型顔・リバイバルカラーの8111Fに比べると注目度が下がってしまいますが、その特殊任務ゆえの長生きは奇跡的と言えるでしょう。
置き換えはワンマン車淘汰待ちか
以上のように、東上線・越生線系統で活躍する後輩たちの牽引のために残存している8506F。
事業用車両となって1年目の2016年に全般検査を終えてから4年。
ほとんどの期間を車庫で過ごすために色あせが激しかったこの編成も、今回の重要部検査施工とともに外板・床下の再塗装が施され、久々に美しい姿を見ることが出来ました。
13日には早速81119Fの検査入場回送のため、南栗橋〜寄居駅間を走行しています。
今回の定期検査では、初期に製造された車両の特徴の１つであったコンプレッサーをD-3-FRからHS-20Cに交換されており、もうしばらくの活躍に期待出来そうです。
運転台と床下機器だけなら、本線系のワンマン運転用の8000系に移設して対処出来そうな気もしますが、定期検査を通している以上は今後もこの体制を続けそうですね。
なお、東武鉄道では、日比谷線で置き換えられた20000系列を短編成・ワンマン化した20400型の改造を進めています。
東武宇都宮線の8000系代替後は10000系列の運用を代替しており、現在は11654Fに続いて11651Fがアーバンパークライン(野田線)向け転用改造とみられる状態のほか、11201F,11202Fがワンマン化とみられる改造を進めています(関連記事参照)。
公式発表などはありませんが、故障が頻発している2両ワンマン編成と、経年車両が多いアーバンパークラインの置き換えを優先している動きとなっていますので、東上線・越生線の8000系についてはもう少しばかり安泰でしょうか。
コメント