【野田線新型】東武アーバンパークライン80000系が落成・甲種輸送

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東武鉄道は以前より、東武アーバンパークライン(野田線)向けに新型の80000系を投入することを公表しています。

このうち1編成目となる81501Fと2編成目となる81502Fが近畿車輛を出場し、栗橋駅方面へ向けて甲種輸送が実施されています。

80000系新製と野田線5両化

東武鉄道は2024年4月16日、「2025年から東武アーバンパークラインに5両編成の新型車両80000系を導入します」(東武鉄道 PDF)として、新型80000系の仕様を公表しています。

最大の注目ポイントは5両編成での投入と60000系中間車の転用で、東武鉄道が公表した「125両」には60000系転用中間車も含まれていることも示されています。

追って19日には近畿車輛(大阪府東大阪市)が、東武80000系製造を受注した旨を公表(外部リンク)しています。

この公表でも「2024年度から107両を新製、順次納入予定」と納入完了時期については明言していません。

ただし、有価証券報告書の記載通りであれば、2028年度(2029年3月)までに新製・改造が完了となりそうです。

落成した車両を見る

今回落成した車両は、東武鉄道80000系81501Fと81502Fの2編成10両です。

近畿車輛の隣接するJR西日本 徳庵駅(大阪府東大阪市)から、JR東日本と東武鉄道の直通用に整備された連絡線を有する栗橋駅(埼玉県久喜市)へ向けて輸送されています。

車号は81500-82500-83500-84500-85500と付与されており、万の位で形式・千の位で何両目か・百の位で編成の両数・下二桁で何編成か……という10000系以降で採用されている東武鉄道の標準的な付番となっています。

徳庵駅から吹田貨物ターミナルまではJR貨物 愛知機関区所属のDD200形14号機が、吹田貨物ターミナルからは同 新鶴見機関区所属のEF65形2092号機がそれぞれ牽引をしています。

東武鉄道の新製車両搬入は長らく熊谷貨物ターミナル・秩父鉄道経由で実施されていましたが、2020年9月の秩父鉄道三ヶ尻線の区間廃止(過去記事)を受け、C11 325号機の搬入(過去記事)を皮切りに栗橋駅の連絡線を経由する方法に変更されています。

これにあわせ、東武鉄道線内においてもSL補機用に導入されたDE10形による牽引となっています。

近畿車輛では他社でよく見られる輸送行程上に機関車直後となる前面の養生に加え、最後部についても多くの場合に養生を施す傾向がみられます。

入換作業・納入先の事業者内で整備が済み正式な受け渡しとなるまで不備がないように……という工業製品メーカーとしては自然な心理ですが、趣味者としては早くそのご尊顔を拝みたいというのも本音でしょうか。

養生越しに前面を見ても、60000系と比較してやや面長な印象を受けます。

一方で、今回は2編成をまとめて輸送する体系が採られており、2編成間の連結面からその前面形状を横がちながら見ることが可能だった点は嬉しいポイントです。

この連結面は東武鉄道で標準的な密着連結器のままとされており、N100系「SPACIA X」が横浜羽沢駅以西2編成・同駅以北で6両ずつに分割されて搬入された事例とは異なり、10両まとめて南栗橋へ向かうことが読み取れます

これまでも東武500系9両がまとめて輸送された事例もありましたが、牽引機抜きの10両編成でも一括で搬入可能であることが判明したことは今後の輸送時の参考になりそうです。

他社でもホームドア設置時の視認性を考慮して前灯(ヘッドライト・いわゆる前照灯)と後部標識灯(テールライト)を運転台上部にするデザインを採用するデザインが増えてきましたが、東武鉄道の通勤車としてはこのレイアウトは初採用となっています。

かわいらしい丸みのある60000系に対し、80000系では「エッジを際立たせることで先進性を表現」とされているように、スタイリッシュな印象を受けます。

角張った印象が強い通勤車は10030型〜30000系世代に回帰したとも捉えられ、良く言えばシンプル・悪く言えばこだわりがなく安っぽいなどと揶揄されがちな東武電車らしいとも言えそうです。

真横から見ると、近年の近畿車輛製の車両で多く見られる特徴である、運転台上部が屋根より高めになっている構造となっています。

70000系に続いて採用されている225系由来の衝撃吸収構造と推測される出っ張りですが、70000系がこの位置に帯の太さを変えるデザインとしてデザインに落とし込んでいただけに、屋根肩が青色の80000系はかなり目立ちます。

側面では、70000系に引き続きドア上部にラインカラーを入れるデザインとなっており、ややシンプルな印象を受けます。

この辺りは東武鉄道側のこだわりや、一般的に言われるホームドア設置を見越したデザインといった趣旨もありそうですが、50000系・60000系は日立製作所が受注・80000系は70000系列に続き近畿車輛が受注しているなどといった違いを考えると、近畿車輛側の担当者が提示した原案が反映された……といった事情もありそうです。

色合い自体は60000系と同様の「フューチャーブルー」と「ブライトグリーン」をベースとしており、近年の東武鉄道は新形式が登場するたび異なる系統の色を採用していましたので、30000系以来の旧来カラー踏襲となりました。

60000系では車体中央にアーバンパークラインのロゴマークが大きく掲出されていましたが、80000系ではイメージ画像通り側面ロゴマークがない外観となっています。

ホームドアで隠れてしまうという背景から他社でもありがちな変更で、60000系新製投入とアーバンパークライン愛称導入が同時で60000系では大々的に取り入れたといった事情もあったので、納得感は強い変更内容とも捉えられます。

前面にはこのロゴマークが入っていますが、60000系よりは一回り小さい文字サイズと推測されます。

70000系では東京メトロ13000系と同様の細長いフルカラーLED表示器が側面右寄り(3枚目と4枚目のドアの間)に設置されていましたが、80000系の側面行き先表示器は東武鉄道車両の標準である側面中央(2枚目と3枚目のドアの間)に設けられています。

60000系を組み込む前提の形式ですので、こちらも自社用の妥当な設計と言えそうです。

このほか側面では、東武鉄道では20400型で採用歴のある安全確認カメラが設置されています。

東武鉄道では「将来的な全線での実現を目指しその他の主要路線においてもワンマン運転を検討」(2023年度決算資料 東武鉄道PDF)としており、このうち野田線のワンマン化については東武日光線・宇都宮線等の20400型と同様に、安全確認カメラを用いたワンマン運転が実施されることとなりそうです。

20400型の後に改造された10000系列では設置されなかったこと・現在進行中の日比谷線直通列車のワンマン化改造の状況から、3両編成以下は旧来の短編成ワンマン運転方式・4〜5両のワンマン運転では安全確認カメラ方式・7両編成以上ではCCTV(ホーム側に設置したカメラ映像を車両運転台に伝送)方式……とJR東日本と同様に3種類のワンマン運転方式を併用するスタイルとなりそうです。

81501/81502 5号車

柏側の先頭車です。

一部報道でもありましたが、編成車両数を減少させても女性専用車の運用は継続する方針となっており、80000系でも新製時から女性専用車の窓ステッカーが貼り付けられた状態となっています。

既に各駅で5両編成の停止位置目標が設けられており、あくまで5両で統一された後を考慮してか、階段等に近い位置で選定されているようです。

80000系デビューから投入完了まで、列車によって両数も女性専用車の位置も異なる……という利用者泣かせな状態が続きそうな点が気掛かりです。

82501/82502 4号車

柏寄りの中間電動車で、商標申請時から話題となっていたお子様連れ向けの設備「たのしーと」が車端部に設けられています。

外観上も水玉模様が添えられてポップな印象となっており、シンプルな外観の80000系ではイメージ画像以上に目立っているように感じました。

83501/83502 3号車

中間付随車です。公表時のイメージ画像から、60000系の編入車両はこの位置に挿入されることが読み取れる状態となっていました。

「浅草・柏側から3両目」という東武の本線系統基準の位置とされており、3号車となるこの車両が弱冷房車とされています。

こちらも6両編成では4号車でしたので、両数混在時にはネックとなる要素です。

特に大宮駅行きで混雑が集中する後述2両・弱冷房車・たのしーと・女性専用車……いずれもリリース段階で明らかになっていた内容ではあるものの、様々な層への配慮の結果としてその他の一般利用者からは批判がしばらく飛び交いそうな内容です。

84501/84502 2号車

大宮・船橋寄りの中間電動車で、こちらは一般的な座席仕様となっているようです。

走行機器類は三菱電機が開発・商標を持つ同期リラクタンスモータを採用した車両推進システム「SynTRACS」や、チタン酸リチウムを負極にした高寿命なリチウムイオン二次電池SCiBTMとSIV(補助電源装置)を組み合わせた車上バッテリシステムを搭載……と新技術を積極的に採用している点が特徴的です。

近年の鉄道車両新形式のリリースの文言を見ていても、走行機器類はある程度成熟し切った印象もあるなか、目新しい文言が並ぶ発表となっていました。

5両化という圧倒的なネガティブ要素が悪目立ちしていますが、床下機器への意欲は、かつての東武8000系や9000系、100系などの開発エピソードを彷彿とさせる東武鉄道らしい熱量で高く評価したいポイントです。

運転経路・ダイヤの都合から、筆者も細かい機器の配置や明細画像までは記録出来ていませんが、走行機器を追っているファン・モデラーにとっては観察しがいのありそうな設計であることは確かです。

85501/85502 1号車

大宮・船橋側の先頭車です。

緑帯が太くなっているところが車イス・ベビーカー等を考慮したフリースペースとなっているため、この先頭車だけ太帯が逆側……という点は70000系と同様です。

2編成の差異がないため側面画像は各形式1枚ずつとしていましたが、85502号の方だけ号車番号表示の高さが異なっていました。

高さ誤りのエラーと推測され、すぐに修正が加わりそうです。

最初は全車新製

高槻付近の明治の板チョコを背に東へ

東武80000系新製投入では、既報の通り25編成中18編成は60000系の中間車を転用することとされていましたが、最初に新造された1,2編成目は中間付随車が新造となっています。

近年の中間車転用の事例だと、E231系500番台のサハE231系4600番台中間車のE235系編入では、50編成中04,05編成が全車新製とされました。

また、E231系近郊タイプの東海道線向け新製と宇都宮・高崎線向けグリーン車投入においても、トップナンバーのK-01編成のみ全車新製とされたのち、K-02編成以降は小山車の中間車転用とされました。

現在進行形の動きかつ似て非なる動きとしては、京阪電車の13000系中間車が挙げられます。

京阪電鉄は相方となる車両側を先に投入し、余剰の中間車を生み出し寝かせておくスタイルです。

いずれも改造工期等の余裕を確保するために車両投入時期をコントロールしている工夫となっています。

2024年度は全車新製編成を中心として60000系の余剰を多めに作り、2025年度以降は2編成ずつ近畿車輛に送る……といった体制が最も綺麗な解決方法であることは想像しやすいところです。

一方で、1編成目となる61601Fは80000系の営業運転開始どころか80000系の落成を待たずに近畿車輛へ入場している点も興味深いポイントです。

“丸目”8111Fの定期運用充当も、改造着手時期を早めるため1運用相当分を補う狙いがあったゆえでしょう。

2024年度の設備投資計画では「5編成25両の車両製作」とされています。

純粋に読めば3〜5編成目も全車新製と捉えられる方が自然ですが、2022年度以降の東武鉄道リリース(N100系以降)では「新造」から「車両製作」に表記を変更しており、必ずしもそうとは断言できない表記です。

この表記変更自体が将来の80000系投入を見据えた表現変更と想像すると、改造編入車を含む最初の編成の登場が7編成の全車新製を待たない動きとなることも否定できません。

1,2編成目が同時に輸送され、3,4編成目も同様だと仮定すると、5編成目は単独で甲種輸送をすることとなり輸送コストが増加してしまいます。

60000系の改造入場時期を考えても、本年度の5編成目に転用中間車が入り、60000系5両編成と同時に出場する光景が見られるかもしれません。

60000系転用改造はどうなる?

向日町操車場ライブカメラ(当サイト運営) 配信アーカイブより

東武鉄道において形式が変更となった車両は以前から頻出し、1800系の用途変更で登場した300型や350型、8000系を3両編成に短縮された際に登場した800型・850型、そしてデラックスロマンスカー“DRC”の車体載せ替えで登場した200型など多岐に渡ります。

車両自体のグループとして〇〇系、仕様違いを〇〇型、これに加えて細部の設計変更は番台区分……といった近鉄ほどではないものの形式の細分化が好みの東武鉄道。60000系転用車の改番や、編入車連結の80000系は80010型などと分類されるのか通し番号で扱うのかなども注目したい内容です。

東武60000系は歴代の東武鉄道一般車と同様に、電動車比率は1M1T比率構成となっていました。

6両編成の60000系では電動車ユニット1組・電動車と付随車のユニット1組、先頭車2両といった関東私鉄車両でよく見られる構成です。

今回の80000系投入と60000系中間車転用では、中間付随車を80000系に捻出することで、60000系は3M2T構成に改められることとなります。

抜き取られる64600形にはSIV(補助電源装置)やCP(コンプレッサー=空気圧縮装置)が設けられており、機器移設と重量バランス調整はやや難易度が高そうな工事メニューです。

また、ソフト面でも電動機出力などをプログラム側の調整で変更したり、ブレーキ故障時のバックアップ制御といったハイテクなシステム類の調整など、改造メニューは多岐に渡ることが想像されます

東武鉄道の車両改造は館林駅に隣接している津覇車輌工業館林工場で実施される事例が多いですが、同工場は車両の上回りのリニューアルに長けている一方で、設備上の制約からか床下機器に関連した改造は津覇車輌工業館林工場では避けられてきました

東武鉄道自体が走行機器類の更新工事を実施した事例が乏しいものの、10000系10030型で実施された11032Fと11639F(+11443F)のVVVFインバータ制御化改造では津覇車輌工業でリニューアル工事を実施したのち東武鉄道の南栗橋車両管区南栗橋工場にてVVVF化改造が実施された事例が最も分かりやすい事例です。

10080型の11480Fの機器更新や30000系の31602FのPMSM化といった床下機器類のみの改造工事も同様に南栗橋で実施されています。

これらの事情を考えると、60000系を丸ごと近畿車輛製造へ運び込んで改造してもらう……という体制には輸送の距離こそ長いものの一定の合理性も感じる内容です。

近畿車輛側が作業者を出張させる、東武9000系列の副都心線直通対応改造(日立・日本電装が受注し森林公園で施工)のような体制を改造メニューを確立したのち実施することも選択肢にはありそうです。

ただし、近畿車輛が受注したであろう改造工事を施工するために職員を長期間出張させるコスト・東武鉄道側の検修設備も占有するコスト・新製車両との併結改造という改造メニューを考えると、ハードルが高そうな印象です。

車両改修のためにメーカー工場まで甲種輸送をする対応は、小田急のロマンスカー各形式などかつては少数派でした。

東武鉄道では走行機器類で試作車だった9000型9101Fの量産化改造で実績がある程度で、他社でもJR東日本のE331系など、特異な構造・設備を有する車両で改造に高度な技術・設備を要することが想像しやすい改造などに留まっていました。

一方で、近年では相鉄が10000系の機器更新をJR東日本 長野総合車両センターで実施したり、東急電鉄が5000系列等の改造をJR東日本傘下となった総合車両製作所横浜事業所で実施したりと、人員を派遣するより車両側を輸送する選択が採られる事例増えた印象を受けます。

車両譲渡の改造では、東京メトロ03系の上毛電鉄譲渡でメトロ車両で改造したのち自走とされたり、阪急電鉄の能勢電鉄向け譲渡改造のため阪神車両メンテナンスまで自走させるなど、車両側を動かして改造・輸送コストを抑える事例は各社で見られるようになってきました。

今後も他社他形式で同様の事例は増加傾向となるかもしれませんし、趣味としては面白い車両の動きが増えることは素直に嬉しいところで、今後もアンテナを張っていきたいジャンルです。

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