
東武鉄道は2025年3月26日、以前より開発が公表されていた9000型後継車両について、形式名「90000系」として仕様を公表しています。
東上線向けの新形式開発は2004年の50000型以来22年ぶり・東上線向けの新製車両配置は2014年の51077F投入以来14年ぶりとなります。
2024年度に開発着手が公表済
東武鉄道は2024年4月30日に公表した「2024年度の鉄道事業設備投資計画」(東武鉄道PDF)において、「東上線9000系代替車両の設計」として、「東上線で運行する9000系車両については、新型車両への代替更新を計画しています。2024年度は新型車両の設計業務を実施します」と明らかにしていました。
この時点で置き換え対象が言及されている一方で、それ以上の具体的な仕様・投入数については言及されておらず、どのような車両となるかが注目されていました。
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2025年3月26日に公表された「2026年から東上線に新型車両90000系を導入します!」(東武鉄道PDF)では、前年に公表していた9000系後継車両の外観・内装・製造数・導入時期などについて触れています。
まずやはり目を惹くポイントとしては、逆スラントの前面形状が挙げられます。
北総7000形や懸垂型モノレール車両など、鉄道車両で同様デザインを採用する事例は極めて稀で、同時製造となる80000系が近年の他社トレンドを踏まえた外観だったこと、東武鉄道は通勤形でトリッキーなデザイン・仕様を避けてきたことから驚きの声も多く上がりました。
細部を見ていくと、2000年代には湾曲ガラスの大型窓が流行った一方で、事故等での破損時の交換が煩雑という観点から、近年の鉄道車両は前面窓面積は縮小・複数枚に分割・それを黒塗りで一体感を持たせたデザインが多く採用されてます。
90000系でも4分割とそのトレンドを反映しているようにも見える反面で、窓面積自体が屋根最上端までかなり大きく取られており、近年の鉄道車両としてはなかなか攻めたこだわりの強さを感じる仕様です。
東武鉄道が前面ガラス面積を減らす意向のなさそうな傾向は、東京メトロ13000系と東武70000系の前面形状の差異・同時増備となる80000系からも感じさせられます。
ヘッドライト・テールライトを上部に配置するデザインは他社でもホームドア対応等の観点から採用されており、東武鉄道でも80000系に続いてこのライト配置となりました。

前面非常用貫通扉の位置は、20000系・50000系・60000系・80000系は向かって左端に寄せられている一方で、9000系・70000系と今回の90000系ではセンターライン合わせの左寄りに設けています。
線区や製造時期による規則性も見られないことから、東武鉄道としては運転席の視認性に問題さえなければ、それ以上の扉位置へこだわりはなさそうです。
側面デザインについては、昨今のホームドア採用に併せて車体上部への着色とされている一方で、ドア窓部分のみの着色というシンプルな色使いも印象的です。
東武鉄道は近年、新形式を開発する度に新たなカラーリングを採用しがちな傾向が見られますが、90000系の濃青色についてはそのカラー名称などには触れられていません。
車両のデザインである「舟運」イメージの川の色なのか、東武鉄道のコーポレートカラーなのかは不明瞭ですが、50000系以来しばらく改造車を含め外観は派手な色合いを好んできた東武鉄道らしくない個性的なデザインです。

インテリアに関しては「“舟運”をイメージしたデザイン」とされており、シックな色合いでまとめられておりこちらも期待度の高まる内容です。
相鉄の“YOKOHAMA NAVY BLUE”系譜のデザインが直通先を含めた利用者から圧倒的な人気を誇っており、最近だと京王9000系リニューアルもモノトーンの色合いが選ばれていました。
2020年代の内装デザインのトレンドを取り入れつつ、50000型から一貫している床は黒基調・その他白基調という東武電車らしいシンプルな色使いには、東武の電車としてのDNAも垣間見られます。

90000系で最も目を惹く点は、やはり大きな側引き戸窓が挙げられます。
各鉄道事業者が個性的な内装を採用していますが、ドア窓部分をメーカー標準品から形状変更している事例は少なく、東京都交通局5500形など極めて少数です。
東上線沿線ユーザーには、幼少期に営団7000系を利用していたユーザーも多いでしょうし、彼ら彼女らが子育て世代となっている今、ドア窓が大きな電車はお子様連れの沿線ユーザーに喜ばれそうです。
久々に日立製作所が受注か
今回の画像を詳しく見ると、車体裾などの形状から日立製作所が受注・製造を手がける“A-train”ブランドの車両であることが読み取れます。
現在、80000系の新造と60000系の改造を近畿車輛が受注している状況で、メーカーのキャパシティとしても妥当なところでしょうか。
50000系・60000系と受注し、70000系は共通設計化で近畿車輛に持っていかれたと思ったら自社線用の80000系や日立新造車の改造まで持っていかれた日立の営業マンの立場を考えると、無難なところに落ち着いてホッとするところです。
趣味者としては60000系編入車を連結した80000系が車体形状差異で美観を損なうので、80000系が日立・90000系が近車の方が……という声も聞かれますが、この辺りは大手法人同士の様々な裏事情も想像されるところで、このあたりは東武博物館長の花上氏のトークショーの話のネタとして期待したいところでしょうか。
東武鉄道における複数形式の並行増備は地上用10000系列と地下鉄直通用の9000系列や20000系列の事例以来で、80000系も地下鉄直通対応の設計思想なだけに意外な印象を受けます。
9000型の全数代替が想像しやすいが……
今回の90000系新製は7編成70両とされており、単純に考えれば9102F〜9108Fの9000型淘汰と考えることが最も自然な内容です。
一方で、9102F〜9107Fが1987年製造であるのに対し、最終編成で車体が異なる9108Fは1991年製造と4年程度の経年差があります。
ある程度の数を直接淘汰しつつ、予備部品を確保することで9108Fなどを中心に検査1〜2回分程度延長・10000型・10030型でリニューアルを受けていない編成と廃車順序が前後する動きも想像される状況です。
9102F〜9107F(1987)

今回、名指しで代替対象とされている「9000系」のうち、9000型と呼び分けられるこの区分が主な置き換え対象とみられます。
2008年まで副都心線直通対応工事に併せてリニューアル工事が実施されており、直通先では古い車両という印象ながら、東上線内では50000系同等のリニューアルを受けており印象は悪くない車両です。
なお、トップナンバーの9101Fは副都心線直通対応改造から外され、地上用で活躍したのち退役済みです。
9108F(1991)

増備車両である9108Fは、車体が10030型の設計を反映したビートプレスの車体となっています。
今回の90000系新造数からはこの編成も代替対象とみられます。
一方で、後述の各編成より経年が浅い上にリニューアルも受けており、玉突き転用もあり得る車両です。
10000型(1985-86)

本線にて運用・本線へ転出した2・6・8両編成と異なり、リニューアル工事が未施工のままとなっています。
これらの車両は9000型より製造時期が古く、床下機器更新を極力避ける東武鉄道の傾向・近年の部品取りや共喰い整備を目的にしてるであろう複雑な廃車順序からも、9000型淘汰を急がずに複数形式を満遍なく置き換える展開が起きても不思議ではありません。
10030型(1989-92)

東上線には10両貫通編成2本・6+4両の半固定編成が9本在籍しています。
2010年代に本線の30000系と入れ替えた際、本線には10050番台と通称される後期増備グループが転出しています。
そのため、10両を除き初期に製造された編成が集中している状態です。
また、本線の10030型と異なり、複数編成がリニューアル工事を受けていないまま残存しています。
今回の90000系は東上線専用設計であることが読み取れる内容で、将来的に地下鉄直通機器を省略した90050型(?)が増備されると置き換えがあり得る車両です。
一方で、地下鉄直通車両のアップデートに注力する東武鉄道の近年の意向や、重要部検査を森林公園で施工可能となった環境、故障が散見される本線の50000型・50050型の現状を考えると、全く異なる動きも想像されます。
9050型(1994)

9050型は、帝都高速度交通営団の有楽町新線(現在の副都心線池袋駅〜小竹向原駅)延伸にあわせ、9000型のマイナーチェンジ車両として2編成増備された車両です。
日比谷線直通用の20050型と機器が共通化されており、前面形状は9000型に準じたものながら、20050型同様の窓・行先表示器・走行機器と当時の最新水準で新造されています。
東上線の車両としてはまだまだ若手の印象を受けますが、この2編成も既に経年30年越えで決して新しい車両とは言えません。
90000系については開発時点から明確に「9000系」置き換えを掲げており、今回発表での車両投入では置き換え対象にはならなさそうですが、将来的な置き換えは想定にありそうです。
80000系の新製投入とあわせてまずは少量発注に留め、二次車として地上専用区分を投入する構想となっていても不思議ではありません。
また、今回は9050型が置き換え対象になっていないことが読み取れる内容で、9050型を地上転用・10000型初期車の置き換えに充てる……なども将来的な選択肢にはありそうです。
ますます複雑化する東武の車両動向
2000年代以降の車両標準化の流れに加え、各社とも線区別に別形式を採用する形から形式統一を進めるなか、標準的な通勤車の採用から路線別に設計が異なる新製車投入にシフトしている点も、近年ではかなり特異な存在です。
京王電鉄が優等・各停用で異なる機器更新メニューを採用、東京メトロが増備年次で搭載機器を大きく変更など数える程度で、この辺りは保有数の多い東武鉄道ならではの挑戦的な姿勢が垣間見られ嬉しいポイントです。
特に、80000系では5両化に併せて「SynTRACS」など最新鋭の技術採用を実施した一方で、90000系では「フルSiC VVVF制御装置、高効率IM」と日立の純正であろう走行機器と推定される内容とされた点などは、東武鉄道が目指す今後の車両采配のヒントとなるかもしれません。
このほか、秩父鉄道三ヶ尻線の区間廃線移行初となる東上線への新製車搬入となり、輸送経路も注目ポイントです。
置き換え時期が迫る経年車が数多く残存する東武鉄道。東上線では依然として8000系ワンマン車代替も必要・ワンマン用新製車も今後登場するなど予想が難しい状況で、どのような采配となるのか引き続き注目したいところです。
コメント
60000系の80000系対応改造の件、第1編成は既報の通り、大阪の近畿車輌に送り込まれましたが、第2編成は南栗橋工場経由で群馬・館林の津覇車輌へ送り込ました。当所にて同じ内容の改造が行われる、との話があちらこちらでありますが…ガセネタでなければ、全ての編成が近車での改造という訳ではなさそうです、が、果たして…?