2005年4月25日に福知山線脱線事故が発生してから今日で15年が経過しました。
運転士を含め107名が亡くなり562名が負傷した、日本の鉄道事故でも特に大きなもので、鉄道業界だけでなく社会に与えた影響も大きかったものでした。
既に多くのメディアで事故原因などは報じられていますが、当サイトではその後のJR西日本の変化を中心に経過を振り返ります。
脱線事故原因とその後
本事故は2005年4月25日、宝塚駅発同志社前駅行きの上り快速電車=5418M列車が右カーブに速度超過で進入して脱線・沿線のマンションに衝突して多数の死傷者を発生させました。
7両編成のうち前側の車両が大きく潰れたショッキングな映像は、当時を知らない若い世代の方でも一度は見たことがあるかと思います。
当時はマスコミから様々な原因が指摘されていましたが、最終的な事故調査の結果、直接的な原因として指摘されている点は、保安装置の設置不十分とJR西日本の列車運行体制でした。
これを受けて、SW曲線速照機能の整備、列車運行計画の見直し等を内容とする安全性向上計画を策定しています。
速度制限の強化
鉄道車両がカーブを通過する際には、遠心力が働きます。
これによる脱線を防ぐために線路を内側向きに傾ける“カント”が設置されていますが、それでも制限速度が設けられています。
本件事故が発生したカーブは70km/hの速度制限でしたが、更に余裕を持たせて60km/hへ変更されています。
現在も同区間には、大量の警告標識が並んでおり、絶対にここで同じ過ちを繰り返さないという強い意志を感じさせられます。
保安装置“ATS-P”の整備加速
首都圏では既に保安装置”ATS-P”が一般的となっていましたが、当時の関西圏ではATS-S形を発展させたATS-SW形が一般的でした。
信号機の手前で警報ベルが鳴るだけだったC形に、確認操作をしなかった場合に非常ブレーキが掛かるものがS形、確認操作をしても信号機を冒進した場合に即時停止となるものが“Sx形”と通称される改良形です。
独自機能の追設が進んでいたこともあり、鉄道技術に明るい専門職の方々はもちろん、ファンの中でも議論が分かれるものとなりました。
一方のATS-P形は”pattern”=パターン接近と呼ばれる思想を基本としており、この車両性能ならここでこれくらいのブレーキを掛けないと止まれない!というタイミングで予め非常ブレーキが掛かるよう設計されています。
しかしながら、S形とP形の違いこそあれど、どちらも信号現示に対して制動が掛かるという趣旨で開発されたものです。
今回の事故原因となったカーブ通過の速度制限については、P形であろうとSx形(西日本はSW)であろうと、線路側に“地上子”と呼ばれる制限速度超過した場合に即時停止が出来るような送受信機が設置されていなかったことが挙げられているため、この方式の違いが直接の原因ではありません。
しかしながら、結果として該当箇所を含めた曲線・分岐速度照査の設置増強はもちろんですが、JR西日本管内の京阪神エリアではATS-P形の整備が急速に進められています。
なお、車両・地上側に高額の設備投資が必要なため、現在もJR各社ではS形ベースで様々な機能を追加したATS-Sx形が使用されている路線、車種が多い路線などを中心にP形とSx形の併設としている線区・要所のみをP方式としている拠点P方式・安価で近い製造が期待出来るPs形・車両側も互換性能を付与した車両……などと、路線・会社ごとに対応方法はまちまちです。
保安装置については難しいものとなりますので、なるべく噛み砕いて記していますので、興味があれば専門の文献などをぜひお読みください。
余裕を持ったダイヤへ……
技術面でなく運用面としては、とにかく速さ・定時性を重視していたJR西日本の列車運行体制が大きく見直されることとなりました。
遅延を招いた乗務員への過度な日勤教育とその隠蔽体質・年々減らされる遅延対策の余裕時分などは大きな批判を浴びることとなりました。
現在では少なくとも福知山線を含めた京阪神エリア全体でダイヤ面では余裕を持たせたものに変更されています。
特に223系が登場した頃のJR西日本の新快速の勢いはファンからも熱い支持がありましたが、結果として無理を強いていたと言わざるをえない格好となりました。
社内体質については各社員の人間性に依るところもあるため、現在も内外から賛否両論ですが、少なくとも当時よりは風通しは良くなっていると願いたいところです。
余談ですが、列車番号についても事故列車が使用していた5418Mは欠番となっています(末尾21番から付与)。
更に続く安全対策
本事故を経緯・背景として広がった中長期的な安全対策は多数挙げられます。
車体設計の面では、側面衝突時の客室空間確保を目的に設計が見直されています。
JR西日本としては223系の後期に製造された5500番台から採用が始まり、225系以降では側面窓周りの設計が変わっているのが一目でわかります。
この側面衝突対策設計は最近の鉄道車両では各メーカーともに様々な形で採用されています。
本事故が直接的原因ではないものの、非常ブレーキ作動のほか、電車ならパンタグラフ降下による電源遮断・ディーゼルならエンジン停止、汽笛吹鳴・信号炎管・防護無線発報とで周囲の列車を停止させるといった、緊急時の非常停止措置をワンプッシュで行える赤い大きなボタンスイッチ“TE装置”の整備が全国的に進んでいます。
最近の技術としては“車両異常検知装置”として脱線を自動検知して上記のTE装置を自動で作動させる装置も開発されており、最近の新製車両だけでなく本件事故当該の207系も関連記事時に追設されています。
不足車両の確保でまさかの大転用
ファンとしては外せないエピソードとしては、事故直後の車両采配があります。
当時のJR京都線・JR神戸線系統(東海道本線=京阪神緩行線)では、207系のほかに201系が活躍していました。
事故による1編成分の車両不足だけでなく、既存車についても保安装置のATS-P設置改造を大急ぎで実施することとなりました。
同じく国鉄時代からJR東日本に継承された103系のうち、武蔵野線で活躍していたE38編成8両を購入・西日本流のリニューアルを施したのち、JR西日本管内各地で活躍しました。
電動車4両は事故代替の色合いが強い宮原区へ配置され、2003年に一旦置き換えが完了した103系が再度同系統で限定運用として使用されることとなりました。
両先頭車もATS-P搭載の高運転台車両として関西地区での活躍かと思われていましたが、遠く広島地区に配属されて、同地域では唯一の高運転台車両として注目されていました。
その後は事故以前から開発が進められていた321系が順次落成、譲渡された103系もJR西日本の複雑な転用により更に各地へ転属したのち、現在はその特異な使命を終えています。
安全意識が向上する最中に起きた事故も
JR西日本としてはこの後に目立つ事故がこの後も1つ起きています。
2010年12月17日、姫路駅始発米原駅行きの快速電車から舞子駅にて下車した女性が先頭車同士の車両連結部付近でホームから線路に転落しました。
転落を目撃した周辺の旅客が非常停止ボタンを扱って一件落着……となるはずの事故でしたが、車掌はその転落と非常停止ボタンに気づかず発車、その後
ハンカチを振って知らせる乗客に気づいて非常停車しました。
その間に轢かれた女性は死亡、救助を試みた友人女性が負傷する事故となりました。
転落自体は旅客の不注意で本来は鉄道会社が咎められるものではありませんが、いわゆる“列停”作動が車掌に気付きにくい設置方法だったことや、JR西日本の列車で多く見られる先頭車同士の間隔が広い連結面からの転落だったことが注目されました。
この事故を受けて、JR西日本では通勤・近郊形の主力車両で増解結が日常的に行われる形式の先頭車へ、中間車同様の転落防止幌の設置を行っています。
これに加え、特急形や機関車牽引列車などではヘッドライトの常時点灯となっています。
先頭部連結面の改良についてはJR西日本独自の取り組みで、他社では視覚障害者向けの自動音声装置設置程度に留まっており、全国的には波及していません。
その後これが役立ったという話は聞きませんが、先頭車特有の風圧に耐えるべく試行錯誤・その後も大量の先頭車に設置し続けており、開発・製造コストはかなりのものだったことと推測できます。
広島地区に投入された227系ではこの転落防止幌を生かしたデザインとされており、今後もこの独自のデザインは継続しそうです。
設置開始当初はファンから外観の違和感への批判も多かったですが、今はすっかり関西圏ではお馴染みの存在となりました。
JR西日本の安全姿勢は着実に進化
15年という節目を迎えたJR西日本。今年は新型コロナウイルスの影響を考慮し、式典などは見送られています。
この事故は日航機墜落事故同様にセンセーショナルな報道が目立つ内容ですが、JR西日本の安全への姿勢はこの15年間で劇的な変化が起きていると言えるのではないでしょうか。
JR西日本はもちろん、鉄道の基本設計という面での変化も大きなものとなっています。
鉄道の歴史は事故の歴史……とも言われますが、過去の様々な事故の反省は明日の鉄道技術の進化に確かに繋がっています。
これからも安全で快適な鉄道輸送となることを願って止みません。
関連記事はこちら
参考文献:運輸安全委員会 福知山線脱線事故・事故調査報告書(https://jtsb.mlit.go.jp/jtsb/railway/bunkatsu.html)
JR西日本 ATS-Pの整備状況 (https://www.westjr.co.jp/safety/action/ats/)
コメント
この脱線事故を契機にJR西日本は公式サイトに於いて、他社以上に安全に拘る姿勢をアピールする様になりました。
また、同社の列車の車内の鴨居には、そのアピールと同じ内容の、広告が掲出されています。
Wiki
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半径304 mの右カーブに時速約116 kmで進入し、1両目が外へ転倒するように脱線し、続いて後続車両も脱線した」という典型的な単純転覆脱線と結論づけた。
写真を見ても、時速116kmでカーブ侵入したとして、カーブ前の直線の延長線上、正面のマンションに、1-2両目が突っ込むということはありえない。
車体が正常ならば、そのぐらいの速度ならカーブを曲がり切る。
それこそカーブに入るずっと手前にジャンプ台を置いたとしか思えないんですけど。
過密ダイヤの中だし、人ができることではないし、それも現実的ではない。
直線の時にすでに脱輪していたということならあり得るかもしれないけれど。
技術的にそういう調査はできているのだろうか。それは何も言われていない。
今の私にとっては謎の事故ということになります。