東京メトロ日比谷線では、13000系投入と03系の置き換えが完了して話題を集めています。
6月には新駅開業・ライナー運転と明るい話題続きの日比谷線ですが、20年前の3月8日には利用者・関係者にとって忘れられない痛ましい事故が発生していました。
複合要因という難しい事故の背景、営団から民営化された東京メトロが現在も続ける独自の安全対策を振り返ります。
中目黒駅構内列車脱線衝突事故の概要と原因
この事故は2000年3月8日午前9時1分に営団地下鉄(当時)中目黒駅構内の六本木側にあるS字カーブにて発生した脱線衝突事故です。
北千住駅始発中目黒駅経由・東急東横線直通の菊名駅行き各駅停車(列車番号A861S・03-102F)が乗り上がり脱線、保線用の横取り装置(簡易型のポイントレール)により大きく上り線側にはみ出しました。
運悪く列車の遅れがあり、対向列車として通勤客満員の上り列車=中目黒駅始発北千住経由・東武伊勢崎線直通竹ノ塚駅行き各駅停車(列車番号B801T・21852F)が走行しており、この中間車と脱線車両が側面衝突する形で発生しました。
脱線車両に乗車していた車掌が非常ブレーキ操作をしたほか、側面衝突された東武車側はブレーキ管の損傷によりそれぞれ停止しています。
死者5名・負傷者63名という惨事となってしまいました。
事故調査では1つの原因ではなく、複数の事故要因が重なることにより発生した“競合脱線”と結論付けられています。
半径160mという急カーブに脱線防止ガードがなかったこと、特にボルスタレス台車で必要な軸重の偏り調整が適切にされていなかったことなどが挙げられています。
また、走行列車が多くレール塗油量が多い朝ラッシュ直後であったこと、メトロ車両で標準的に採用されていたシングルスキン構造の車体が損傷時に鋭く尖る形状となっていたことが事故時の被害を大きくした点も注目されました。
この事故がバッシングを受けた点としては、半蔵門線鷺沼車庫内の脱線・乗り入れ先の東横線事故を受けた輪重比調整・護輪軌条設置基準変更などの事例を生かさなかったことなどがありました。
事故車両の現在
東京メトロ03系・東武鉄道20050型それぞれ1編成の一部車両が深刻なダメージを受けており、それぞれ一部車両が修理扱いでの代替新造が行われました。
事故当該車両となった03-102Fについては、つい最近まで日比谷線の第一線で活躍していました。
最後に営業運転を終了した03-136Fとともに2020年2月まで在籍、19日に廃車回送が行われたばかりです。
現在は中間車一部を解体したほか、代替新造車を含めた一部は陸路にて古巣の千住検車区に帰還、譲渡に向けた準備が進められています。
実質的には車齢の若い車両ですので、譲渡先では特段差し支えはないものと思われます。
衝突された側の東武鉄道所有の20050型21852Fについても2019年3月まで活躍したのち、他編成同様にワンマン化・車内リニューアルの改造が施されて21434F,21444Fとして新たな道を歩みます。
偶然なのか、転用の時にこの編成の存在を考慮したのかは分かりませんが、他編成同様に床下機器配置を基本とした転用となっています。
代替新造車の前後である22852・25852が廃車対象・代替新造車は転用対象です。
事故の教訓は今日にも
営団地下鉄から民営化した東京メトロでは、民営化直後から有楽町線・副都心線向けに10000系をはじめとする各形式の製造が行われました。
南北線に9000系5次車、千代田線向けに16000系、東西線向けに15000系、銀座線向けに1000系、丸ノ内線向けに2000系、更に10000系の弟分の17000系の製造が行われています。
これらの車両の特徴として、車体面ではアルミ板+骨組みのシングルスキン構造ではなく、側面構体に強度を持たせたダブルスキン構造と呼ばれる構体を採用しています。
段ボールのように2枚の板の間をトラス状の補強が入っているボディで、軽量が自慢のアルミボディのなかでは重量が増えるものの、強度・車内空間確保・部品数削減・製造コストなどのほとんどの点で有利なこともあり、民営化以降の東京メトロ製造車両で採用が続いています。
事故前開発車両の設計変更となった05系・08系・9000系については側面をダブルスキン化したほか、新規開発となった各形式はオールダブルスキン構体となっています。
最近では、北陸新幹線の水没車体が再利用できなかった経緯として、このダブルスキン構体に水が入ってしまったことが原因と明らかにされて注目されましたね。
時代のトレンドで大手各社・新幹線まで採用されていることもあり、今後もより安全性と強度に優れた新技術が登場するまではこれらの構体が採用されそうですね。
また、営団から民営化して以降の新造車両では、台車についてもボルスタ付き台車で一貫しています。
“枕梁”と呼ばれる部位を省略したシンプルな構造の台車で、近年はボルスタレス台車の保守性・軽量性・静音性の高さからボルスタレス台車の採用がほとんどです。
営団地下鉄でも本事故までに設計・製造が行われていた車両の多くで採用されていました。
一部の評論家が誤った持論を展開していますが、ボルスタレス台車は適切に調整していれば安全な設計であり、今回の事故はあくまで偏重の調整が適切に行われていなかったことが原因です。
ボルスタ付き台車を現代に頑なに採用している会社は非常に少なく、首都圏だと東京メトロ以外だと京急電鉄くらいであるほか、東京メトロと相互乗り入れを行っている各社への乗り入れ制限などは行っていません(京急電鉄は乗り入れ車にも制約)。
進化し続ける日本の鉄道
事故の主因の1つとなったボルスタレス台車を装備した電車は東武20000系列の撤退で走ることがなくなります。
現在投入されている東京メトロ13000系・東武70000系列はボルスタ装備に加え、操舵台車という急カーブでの騒音抑制機構が付いた銀座線・丸ノ内線・日比谷線特有の特殊装備を備えており、急カーブを抱える路線特有の進化もみられます。
脱線防止ガードはもちろんですが、車体重量増加を承知で採用し続けているダブルスキン構体・ボルスタ付き台車など、日比谷線の事故の教訓を受けた東京メトロの意志の強さを感じますね。
鉄道の歴史は事故の歴史……という言葉もありますが、今回のような複合要因による事故はなかなか予見し辛い点が難しいところです。
これからも安全で快適な鉄道輸送が行われることを期待して止みません。
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参考文献;帝都高速度交通営団 日比谷線中目黒駅構内列車脱線衝突事故に関する調査報告書(事故調査検討会)
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