2021年3月13日にJR旅客6社がダイヤ改正を実施しており、これにあわせてJR貨物でもダイヤ改正が実施されています。
暗い話題の多い旅客輸送に比べれば堅実なJR貨物ですが、本年度はEF210形の大規模な投入により、在来の牽引機に大きな変化が生じています。
DD51形だけじゃない!? JR貨物の機関車運用に大きな変化
2021年3月のダイヤ改正でJR貨物が最も注目されたのは、全国的にも珍しくなっているDD51形の運行終了がありました。
関西本線貨物列車が大注目となっていた一方で、今年もJR貨物の機関車事情は大きく動きました。
2020年度は“黄桃”・“押桃”などと通称される「セノハチ」補助機関車機能を付加したEF210形300番台の大量増備が進み、2021年ダイヤ改正では直流平坦線区の運用が大きく変更されています。
これに前後して、EF66形のなかでも国鉄分割民営化以降に製造された100番台のうち、ライトが丸型灯火となっている101号機〜108号機が運用から撤退しているほか、EF65形でも残りが少ない更新色白色プレートの形態で活躍していた2050号機・2095号機が運用から離脱したと見られており、世代交代が加速した印象です。
両形式とも運用は微減となっていますが、特に今回最も大きな動きを見せたのは、直接的な代替形式が登場していないEF64形1000番台です。
東海道線経由で首都圏エリア一円の貨物輸送で使用されて関東のファンにとって身近な存在でしたが、ダイヤ改正により営業エリアを大きく狭めています。
EF64形1000番台の“関東定期運用”消滅
“ロクヨンセン”・“山男”などの愛称で親しまれているEF64形1000番台は、国鉄型電気機関車の中では末期に開発・製造されたこともあり、現在もその多くが現役で活躍しています。
彼らにとって大きな変化となったのは2010年3月のダイヤ改正。
前年に“国境越え”と通称される上越線貨物列車に進出したEH200形に使命を託し、製造以来主戦場となっていた上越国境から身を引くこととなりました。
新たな活躍の場として、それまで塩尻機関区・愛知機関区のEF64形0番台が担っていた中央線貨物列車に進出するものの、中央東線についてはすぐに全列車がEH200形の運用となり、持て余し気味となって以来、現在まで首都圏・名古屋近郊、入出区を兼ねて東海道線の貨物列車の牽引にあたっていました。
一連の0番台の淘汰とEF64形の愛知機関区集約の動きでは、伯備線出身の機関車が合流するなど大規模な動きとなりましたが、それ以降はEF65形と相互に運用持ち替えが生じた程度で比較的安泰に思われていました。
今回のダイヤ改正では、このうち関東エリアでの定期運用がばっさりと削られています。
山から下りてきて以降、首都圏近郊で数多くの貨物列車を牽引しており、特に総武本線・鹿島線を走行する“鹿島貨物”・愛知への戻しを兼ねて東海道本線を日中に下る3075列車など、関東圏の機関車ファンを楽しませる列車に多く登板していましたが、今回のダイヤ改正以降の定期運用では東海道線では名古屋エリアが東限となり、JR東日本管内では塩尻〜長野間の篠ノ井線のみとなりました。
“線路使用料問題”解消までは安泰?
首都圏のファンからは残念がる声も多いですが、見方を変えれば、今回のダイヤ改正で運用削減・休車を多く設定することで、形式自体の延命を図る狙いも考えられます。
現在のEF64形1000番台の“主戦場”は中央西線と伯備線で、両路線とも代替形式が現在のところ存在しません。
EF64形0番台の代替のために投入されたEH200形はJR東日本エリアのみで使用されています。
正式に示されているものではありませんが、中央東線で運用されていながら西線は頑なにEF64形の重連で運行する点について、JR東海が2車体構造のH級機関車の“線路使用料問題”が挙げられています。
JR貨物が開発したEH200形・EH500形は従来の機関車の重連仕業解消のため、2車体で1両の機関車という構造となっています。
JR貨物とJR旅客6社の間では、分割民営化時代に不採算部門だった貨物会社に有利となる「アボイダブルコスト」というルールが採用され、基本的にはJR貨物は自社の列車が走ることにより生じるコストのみを旅客会社へ支払えればいいという仕組みです。
路線ごとの使用料は個別に旅客会社と調整することとなっており、内訳は明らかにされていないものの、各種報道を総合すると機関車の通過台数で算出されている事例が多いようです。
これにより、JR貨物にとって従来は重連運行していたものを単機として支払い額を抑えることとなっている一方で、旅客会社からこの算出方法に反対の声が出てくるのも自然です。
現時点ではJR東日本・西日本・九州エリアで活躍しているH級機関車。
近年でもEH200形の自走どころかEH500形が東芝府中→門司で輸送される際にも日本海縦貫線経由の遠回りをしている事例が多く、JR東海管内を走行することを避けている印象を受けます。
中央西線の貨物列車牽引機を変えるには、この辺りの課題を解決する、1車体で重連仕業を賄えるハイパワー機を開発する、EF64形のような重連仕業前提の新造機を開発する……など、何らかの変化が必要です。
現状としては山岳機であるEF64形1000番台を平坦線区で持て余している格好でしたので、ひとまずは彼らを延命する方向に舵を切ったのかもしれません。
伯備線についても編成長が短く、従来から山岳機の単独運用が最適な路線です。
こちらについてもEH200形はオーバースペック・5機程度の配置のために新形式の開発は……と考えると、現状維持が最適解に思えます。
以上の事情を総合すると、国鉄製造の電気機関車で最後まで活躍することが出来るのはEF64 1000番台となる可能性も十分に考えられます。
活躍エリアこそ狭まりましたが、“山男”の本業に特化しており、昨今の国鉄色復元も相まって引き続きファンを楽しませてくれることとなりそうです。
世代交代は着々と……
JR貨物の世代交代は旅客会社に比べるとゆっくりと進行しますが、それでも着実に進行していることは明らかです。特にEF210形300番台の増備は本年度以降も大規模なものが予定されています。
既に本線からは姿を消したEF200形のように、今後はJR化後に開発・製造された機関車についても相次いで姿を消すこととなりそうです。
特に貨物列車の記録では、曜日による運休・荷物の積載や編成長など、機関車運用と列車ごとの特性・天気と遅延などの条件が日々異なるため、根気よく撮影に臨むことが必要なジャンルで根強いファンの姿を多く見かけます。
毎年新たな運用持ち替えで一喜一憂することとなりますが、富山機関区のEF510形が名古屋エリアの“白ホキ”と通称される炭酸カルシウム輸送に進出するなど、明るい話題もありました。
昨今は話題性の高い列車ばかりが注目されていますが、社会人層などからも熱い支持のある貨物列車の今後に引き続き注目していきたいですね。
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