当サイトのSNSでは以前より何度か中小・三セク鉄道事業者等の広報活動・SNS運用について疑問を呈してきましたが、昨日は会社名義のSNS発信として適切とは思えぬ発言を2件ほど見かけました。
大手には出せない中小鉄道事業者ならではのアットホームさがあるSNS運営は魅力的な一方で、不適切な発言は公共交通事業者としての社会的信用価値を落としかねないので、いつか大ごとにならないかと心配になります。
過去には大炎上した事業者もありますので、改めて近年の話題を振り返りつつ、中小鉄道事業者の広報活動について考えます。
中小・三セク事業者の広報は難しい
大手の鉄道事業者のなかには広告会社として事業の柱の1つとしているJR東日本のようなプロを抱えて広報活動にも活用している事業者もありますが、そうでなくとも一般的には広報部署に配属された社員が広報業務の基礎から学び、上長の承認を得て対外的な情報発信を行います。
現場発信とされる広報活動についてもルールは厳しく設けられており、必要があれば広報を専門とする部署から改善提案がなされるはずです。
大手以外の鉄道事業者でもいくつかに分類され、大手企業のグループ企業である中小鉄道事業者の場合は、親会社からのノウハウ・ルールも活用出来る環境から、あまり不適格な広報活動は見かけません。
一方で、それ以外の中小・三セク事業者では会社によって広報活動への力の入れ方がまちまちです。
地方でも沿線の不動産やバス事業など手広くやっている会社は然るべき広報部署・担当者がいて適切な管理体制となっていることが想像できる一方で、1社員が何個もの仕事を掛け持ちしているような規模感の事業者だと、単純に広報活動に関する知識不足・経験不足から会社の信頼を揺るがす発言・発表が出されてしまう現状です。
自身も大きい会社から小さい会社まで経験し、鉄道事業以外の一般的な中小企業の会社の規模感を考えれば内部体制についてはまあそうなることは仕方ないかなとも思う点がありますが、広報が不適当な発言をするコンプライアンス管理体制でも自社の鉄道は安全と言われても疑問符が付いてしまいます。
過去の大炎上2例
ファンの間を賑わしたSNSトラブルといえば、2013年のしなの鉄道「桜の木」騒動と2020年の小湊鐵道の騒動が特に大きなものでした。
しなの鉄道のTwitter(現X)は当時、同社社員が運用する「正式な非公式アカウント」として運用されていました。
2013年2月に同アカウントにより投稿されたのは下記の投稿です。
「残念なお知らせです。信濃追分~御代田間の浅間山を望めるカーブ区間に植樹されていた桜の木のうち4本が無残にも切断されてしまいました。植樹されてから数年、初めて花の咲く日を待っていました。切られた枝の先には初めての蕾がついていました。」
「もうすぐ咲く桜の木を切ってまで撮影した写真に、何の価値があるというのでしょうか? 撮影者の方ご自身に、今一度問いかけていただければと存じます。 あなたの首を絞めているのは、あなた自身です。」
https://x.com/shinanorailway_ (現在凍結済)
日本人にとっての心の拠り所である「桜の木」を伐採されたという感情は大衆の怒りを招くのは明らかで、当時もこれまで度々メディアに取り上げられた「撮り鉄」の悪行とされている行為のなかでもトップクラスに批判が殺到していました。
実際には、「撮り鉄の犯行」と断定し投稿したことは一社員の推測に過ぎず、翌日撤回することとなりました。
これ以前から世間の目は好ましいものではありませんでしたが、この件は「撮り鉄」の印象を下げたエピソードとしてかなりの話題性があり、以後メディアが「撮り鉄」批判報道をすることのニュースバリューの高さを知り、定期的に特集を組むきっかけとなったことにより鉄道趣味が受けた影響は計り知れません。
そして、2020年5月の騒動は小湊鐵道公式Twitterアカウントの前任者が下記のツイートをしたものです。
「とても急な話ですが、本日Twitter担当をクビになりました」
「『好き勝手にTwitterをやるな』という事」
小湊鐵道株式会社【公式】※投稿は削除済み
Twitter上では「小湊鐵道中の人の不当解任に抗議します」というハッシュタグがトレンド入りするなど、大きな話題となりました。
本投稿のように会社の内情を好き勝手に話している前任者もどうかと思いますが、
「ガイドラインはおろか、決まりごとは何もないところからいきなり担当にされ フォロワー数のノルマだけ課せられ」と、会社の方針も全く擁護できません。
小湊鐵道は2日後にホームページでも言及(外部リンク)していますが、「弊社ツイッターにてデータが削除される事態が発生しました」「経緯につきましては調査中ですが、弊社指示で行った事実はございません」と過去の投稿削除について会社指示ではないことを公表する狙いの不穏な内容となっていました。
このほかにも中小・三セク事業者の広報発信内容が波紋を呼ぶケースがときどき見受けられます。
当サイトTwitterで最近取り上げた話題では、
きっぷ発売について法務の知識皆無な発表を出すなど、広報が下手では済まされない、社会人経験がある人なら誰しも会社組織として心配してしまうような事業者も見受けられます。
最近のヒヤリ案件を見る
きのう筆者が気になった2つの投稿を見ていきます。
まずは国鉄越美南線の三セク会社、長良川鉄道です。観光列車「ながら」や国鉄色を模した塗装の新型車両など、沿線外からの集客を以前より熱心にしている鉄道事業者です。
【お願い】 今年、新たに観光列車用と定期列車用のパンフレットを作成予定なんですが、中々良い四季の写真が定期・観光列車が無いんです。厚かましい話ですが無償で写真を提供していただける方、まずはDMでご連絡いただけないでしょうか? 何卒ご協力をお願いします
長良川鉄道株式会社【公式】Twitter
こちらの投稿、募集の仕方としての心象があまりにも良くないです。
過去に著作権関係で写真利用のトラブルなど各所で見聞きする昨今、この個人間での交渉のような投稿内容で法人が募集をすることに疑問を感じない会社組織、リスクマネジメントなど一切考慮できていないと言わざるを得ません。
投稿からすぐに複数ファンからアイデアを出されているように、写真の提供を希望するのであればなんらかの対価を提供しつつ、自社でのより具体的利用方法や権利関係を明示して募集するのが筋でしょう。
複数のファンから提案されている手法は、写真コンテスト形式で募集し、優秀な作品は〇〇に使用します!といった形態です。
鉄道事業者が写真を無償で使用する権利を得つつマネタイズする際の定番中の定番な手法で、これまで大小さまざまな鉄道事業者がコンペ形式で募る形を採用してきました。
カレンダーを発売してグッズ収入も得つつ、それを景品とすることで余計な支出をせずに投稿者へ還元……などといった先行事例は全国各社で実施されていますが、
「お仕事はデザイナーさんなの?テキトーでいいからタダでパンフレット作ってくれない?」といった趣旨の発言が様々なSNSで何度も炎上しているもはや定番とも言える話題なのに、なぜその地雷を踏みに行こうとするのか不明です。
そしてもう1つは久留里線キハ35系などを譲受して運用しており、貨物輸送も担っているなど様々なジャンルの鉄道ファン層から人気の水島臨海鉄道。
投稿名義は水島臨海鉄道の車両保守を実施するグループ会社、株式会社水島臨海サービスの“非公式”とされているアカウントの発言です。
もうね定額減税とかやってもいいんですけど運用する担当者は大変なんですよねー
水島臨海サービス【非公式】Twitter
業務の愚痴単体としても好ましい内容ではないですが、それに加えてアカウント担当者個人の政治的信条も見え隠れしており、なぜ社名を掲げたアカウントでこのような発言をしているのか理解に苦しみます。
鉄道系の労組の大半がリベラル思考強めゆえに会社全体としてこういった発言を良しとする風土なのかもしれませんし、アカウント担当者は強い信条で自身の政治思想が正しいから会社名のアカウントで発言することが適切な内容だと思っているのかもしれません。
主張内容の是非は抜きにして、こういった政治色のある発言をSNS上ですることが許されるかどうかの境界線は個人店主が経営している飲食店ぐらいだと思います。
会社の事業として取り組む余裕がないから非公式として個人に自由な裁量を与えて社名を名乗ることで不適当な発言が出てしまうのはしなの鉄道の事例と同様で、会社組織としてのマネジメントが機能していないようにしか見えません。
中小事業者こそ広報に力を入れてほしい
最近では様々な媒体で意欲的な広報活動に取り組んでいる事例は数多く見かけます。
以前から高松琴平鉄道(琴電)のTwitter(現X)の「ことちゃん【ことでん公式】」はTwitter黎明期からスタイルを変えず人気ですし、YouTubeでは銚子電鉄の「【銚子電鉄】激つらチャンネル」がチャンネル登録者数7.43万人、広島電鉄公式「みんなきんさい広電チャンネル」がチャンネル登録者数2.3万人と、動画投稿頻度や再生回数は大手鉄道事業者に引けを取らない影響力を有します。
特に規模が小さい会社ほど、1人が社内で様々な業務を担う形態で大手鉄道事業者に就職していたら出来ない豊富な経験を積まれている社員さんが数多くいらっしゃるはずで、規模が小さな事業者だからこそ出来る広報活動の形もあるはずです。
会社は社員の独学だけでは会得が難しいコンプライアンス面や広報スキルなどの下支えに尽力すべきで、社内にそのノウハウがそもそもないなら的確な専門事業者と手を組むなどの施策が行われることを期待したいところです。
魅力的な車両、魅力的な風景があっても、会社体制が杜撰だと鉄道ファン層からの集客は難しくなっていくでしょう。
最近ではえちごトキめき鉄道社長の鳥塚氏、野岩鉄道社長の二瓶氏が自身の名義でSNS等で情報発信をしており、彼らの発信も独特ながら社長が好き勝手言って自社の信用毀損をしても自分で引責出来るので、小さな鉄道事業者の情報発信の形の1つとしてはアリなのかもしれません。
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