相模鉄道では、これまでJR線直通用の12000系・東急線直通用の20000系の導入が進められてきました。
2021年度には新形式となる21000系が8両4編成導入されることが事業計画で示されていましたが、トップナンバーとなる21101×8(21101F)が日立製作所笠戸事業所(山口県)にて落成し、甲種輸送が実施されています。
今回の21000系の仕様は目黒線直通に特化した車両となっており、東横線直通は10両編成・目黒線直通は8両編成と明確に分けられることとなりそうです。
都心直通3形式目の登場
相鉄では、都心直通プロジェクトとしてJR線直通・東急線直通の2ルートの準備が進行しており、このうちJR線直通については2019年11月30日より運行を開始しています。
JR線直通用としてはE233系の機器構成・E235の構体設計を取り入れた12000系6編成が投入されました。
そして、引き続き2023年度の新横浜線全線開業・東急線への直通運転開始に向けた準備が進行しています。東急線直通用の車両としてはこれまで、20000系を2017年度に10両1編成・2020年度に10両6編成を投入しており、線内運用で営業運転を実施しています。
2021年度は新たに8両3編成の新造車投入が実施されることとなりましたが、従来の20000系ではなく、21000系とされることが2021年度の事業計画で明らかになっていました。
20000系の時点で将来的な編成組み替えを強く意識した構成とされていたものの、8両編成の製造にあたって21000系と形式区分が設けられた点は意外な印象を受けます。
最初の編成となる21101×8(21101F)は6月28日に日立製作所笠戸事業所を出場。EF210 306号機の牽引により輸送が始まりました。
落成した21000系を見る
今回落成したのは、相模鉄道21000系21101×8(21101F)の8両です。
車号は1号車から21101(Tc)-21201(M)-21301(T)-21401(M)-21501(M)-21601(T)-21701(M)-21801(Tc)とされており、編成構成としては20000系から5号車と6号車を抜いたものと同じ構成です。
10両編成の20000系製造時点で5号車・6号車とその前後は半永久連結器ではなく密着自動連結器とされていましたので、この設計思想通りの構成となりました。
8両編成となったことで、編成真ん中を境に4両ずつ電動車と付随車が交互になっていることが分かります。20000系製造時点での不思議な挿入順序はこれを基軸としていたものだと考えると、なかなか機能性の高い構成に感じます。
相鉄では10000系以前・11000系・12000系と20000系で付番法則が異なっていましたが、今回の21000系は20000系と同様の付番法則です。10両編成のみでしたので、8両編成では初の採用です。
今回の編成から、東京メトロなどで実例がある編成端部車両をゼロとする処理や、将来の増結を見越した多くの事業者で採用されている挿入する場所を欠番とする処理などはせず、純粋に1〜8で号車番号と合致する付番となっていることが明らかになりました。
20000系では全動力車が1両で完結する1M構成・SIV(補助電源装置)を中間付随車・CP(空気圧縮機)とSB(蓄電池)を両先頭車に搭載する構成とされており、21000系についても主要機器配置も同一とされています。編成全体でも20000系で5M5T・21000系で4M4Tとなっています。
乗り入れ先の事業者のうち、8両化後の運用を前提に製造された東急電鉄3020系と都営6500形がいずれも電動車を2両ユニット構成を基本としている点と真逆となりました。東急電鉄は総合車両製作所・東京都交通局は近畿車両と、各社局で設計思想もメーカーもまちまちで賑やかな路線となりそうです。
基本的な設計はそのままで、前面形状なども変化はありません。乗り入れ先からの希望があれば、将来的には他路線で見られるような8carsステッカーなどが貼り付けられる姿も想像できます。
運転席に置かれた「そうにゃん」は祝 21000系完成とハチマキがされており、あくまで番台区分ではなく別形式という相鉄の意思を感じます。尤も、2019年度の時点で20000系と公言していたことから、通常の車両発注から落成までの期間を考えれば、発注後または製造開始後に形式変更が実施された可能性が高そうです。
今回は新形式として形式が変更された経緯が注目されますが、外観からは主要な走行機器の変更が伺えません。20101×10の製造から3年が経過している上、形式も分けられていたため意外に感じた方も多そうです。
ただし、近年の車両では機器箱(外観)の構造が同一でも内部構造や制御プログラムが変更されている事例も増えており、外観からだけは伺えない変化がある可能性は否定できません。昨今の各社の流れでは、主制御装置(VVVFインバータ)のMOSFET素子(フルSiC)への変更などが想像しやすいところですが、この辺りは追って情報が出てくるまでのお楽しみでしょうか。
1号車 21101
21101は横浜・都心側の先頭車です。アンテナ本数なども20000系と同一です。
2号車 21201
2号車は電動車です。20000系譲りの電動車の機器が少ない構成・配置も全く同じです。
3号車 21301
3号車は付随車です。電動車より機器が多いことを改めて感じさせられます。空転対策の観点からは好ましい構成ではなく、採用例はそこまで多くない構成です。
4号車 21401
4号車は電動車です。
5号車 21501
5号車は電動車です。20000系の設計思想を考えれば、従来の7号車相当と見られます。
4号車と5号車の間は、相模貨物〜厚木〜かしわ台までの輸送が分割される都合で分割する準備が施されています。ただ、こちらも20000系同様に納入後に半永久連結器ではなく密着自動連結器が設置される可能性が高そうです。
6号車 21601
6号車は従来SIV非搭載の中間付随車でしたが、こちらは搭載されています。そのため、従来の8号車と同様にされていることが読み取れます。
10両・8両ともに2基搭載とすべく、組み替えで脱車するならSIV非搭載車……という設計思想が垣間見られます。
7号車 21701
従来の9号車に相当する7号車に電動車が連結されています。弱冷房車設定も継続です。
8号車 21801
21801は海老名・湘南台側の先頭車です。女性専用車ステッカーの貼り付け位置や枚数なども特段変化はありません。
東横線・目黒線方面は東急ともども別形式に
今回登場した21000系の数少ない20000系との違いとして、ドアコック位置変更が挙げられます。
20000系では車端部・妻面に設置されていた一方で、21000系ではドア直下の車体に設けられています。
南北線のフルスクリーンホームドアで操作が困難となることを受けて、目黒線系統の車両では同様の対応がされており、東急電鉄の5000系・5050系と5080系、2020系・6020系と3020系の違いの1つとなっています。相鉄では様々なドアコック位置の車両が混在(JR設計車両は車体側面・在来の9000系や東横線系統は妻面・目黒線系統は車体下)する将来を見据えてか、YOKOHAMA NAVY BLUE化とともに比較的派手な▲印のステッカーとなっています。
このほか、ATO(自動列車制御装置)の車上子(線路に設けられた地上子と通信して定位置に停車させる)の設置位置が目黒線規格とされています。運転台内部は現時点で不明なものの、こちらも目黒線系統に合わせた仕様変更が加わっているかもしれません。
この車両仕様から、従来より明らかになっていなかった東横線〜相鉄線直通系統で8両編成の列車が設定されるか否かについては、運行されない可能性が色濃くなりました。
相鉄側は10両の20000系が東横線直通用・8両の21000系が目黒線直通用と分かれることとなりそうです。
東急電鉄の5050系8両が相鉄仕様でないデジタル無線化工事が進行しており、最近新たに10両の4000番台がデジタル無線搭載工事を開始したばかりでその完成が注目される最中でした。
東急電鉄側も目黒線の8両化により、東横線用10両(4000番台)・東横線用8両(5050系と横浜高速鉄道Y500系)・目黒線用8両(3000系・5080系・3020系)となりますが、3000系の相鉄直通対応改造・新型3020系の仕様・東横線5050系8両のデジタル無線化工事などの動きから、直通運転開始後も8両編成同士の車両共通化などは一切行われないことが断定できる動向でした。
このほか、東京メトロ17000系が10両・8両ともに相鉄非対応のまま新造されています。東武・西武についても改修の動きはありません。
これまでの各社の車両仕様と今回登場した相鉄21000系の仕様を総合すると、東京メトロ副都心線・東武・西武からの直通は開業時点では行われない=相鉄〜東横線直通列車は10両編成=優等列車で渋谷駅発着となることが確実視出来るようになり、直通運転後のダイヤが想像しやすくなってきました。
相鉄にとっては都心直通は長年の悲願ですが、今回も乗り入れ先となる各社の意向を汲んだ背景が見え隠れする事象となりました。
以前から他社局との温度差の違いなども見受けられ、工事の遅れやJR・東急両線とも自社の理想の目的地までの運行は叶わず、建設工事は遅れ、更に2019年ごろまでは20000系と公表していた計画からの変更など、踏んだり蹴ったりな印象です。
せめて開業後に予想以上の利用者が出るなどの、何らかの格好で報われて欲しいところですね。
8両運用増加は準備済み
細部の変化がどこまで発生しているのかは、デビュー後に明らかになることもありそうです。
しかし営業運転開始時期の予想は難しく、10000系8両編成のリニューアルを優先するのか、一部運用の8両化が先行するのかが注目ポイントです。
相鉄の2021年3月改正では、8両編成運用が3運用増加(21〜23運行)した8運用となっており、これは単純に10000系5編成と21000系4編成の導入計画と概ね合致しています。単純に考えれば、2022年改正を待たずして21000系が複数編成運用される光景が見られることとなりそうです。
一方で、同時進行している車両リニューアルの動きが明らかになっていません。
現在、相鉄10000系では10701×10・10702×10の機器更新工事が実施済となっています。
このうち10702×10では、機器更新・前面形状変更が実施されたもののYOKOHAMA NAVY BLUE(横浜ネイビーブルー)への塗装変更(過去記事)されるなど、出場を急いだ若しくは予算を削減した動きとなっています。
単純に車齢・車号順に進行する場合、今後は10703〜10707×8としばらく8両編成が続きます。
このほか、8000系についても2019年末から開始された8709×10のリニューアル・塗装変更をしたのみとなっていて他編成に変化はありません。
2021年度の事業計画ではYOKOHAMA NAVY BLUEへの塗装変更についての記述がなく、昨今の収支を考えると当面は先送りとされていることが推察できます。
その反面、走行機器類は寿命があることから、2021年度は10000系の機器類の更新を優先する可能性が高く、そしてそれを同じ8両編成である21000系のデビューと重ねることが自然にも思えます。
置き換え予定車両の廃車を優先するのか、今後も使用する車両の機器更新を優先するのかは定かでないものの、少なくとも次回ダイヤ改正を待たずに営業運転を開始することとなりそうです。
日常的に代走が必須な状態となっている相鉄。数年単位で計画が修正される会社で想像が難しいところですが、本年度も面白い動きが続きそうです。
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