
2021年3月12日(金)を以って、185系111両・215系40両が定期運用を離脱し、E257系2000番台・2500番台で営業運転をしていなかった101両が翌13日から順次デビューすることとなります。
185系でお祭り騒ぎの昨今ですが、水面下では、前代未聞の規模で短期間・大量の車両入れ替えが実施されることとなります。
どのような動きが生じるのか、過去の各形式の世代交代の事例を振り返りつつ考察します。
3月12日〜15日を中心に大規模な車両入れ替えか
鉄道車両の世代交代では、新車を徐々に投入して少しずつ旧型車両を引退させる動きが一般的です。
新造・転用改造などを済ませた車両を長期間使用せずに寝かせておくこと・引退予定の車両に検査を施して延命することはともに合理的ではありません。
しかし、特急型・新幹線では車両設備の違いが座席発売数などに直接影響するため、新旧で編成・座席構成などが異なる場合、ある程度まとまった数で数回に分けて投入する事例が散見されます。
今回の東海道線特急の世代交代では、更に大きな制約が2つ加わっています。
まずは、置き換え対象が朝夕に運行するライナー列車を、置き換えと同時に特急化するものです。
今回と同様の動きは2019年3月改正の中央ライナー・青梅ライナーの特急化とE353系投入でも実施されましたが、東海道線系統では特急運用よりライナー運用の方が多く、更にハードルが高まっています。
さらに、ほとんどの車両が夜のライナーで下り、朝のライナーで上るダイヤから小田原付近で停泊する体系でありながら、車両の配置は真逆の東京方より更に北の東大宮となっています。
今回のダイヤ改正では、12日夜まで185系・215系の湘南ライナー・ホームライナー小田原号を運行・15日朝からE257系で新しい特急「湘南」に備えるため、特急「踊り子号」の定期列車・土休日臨時列車の運行をしながら神奈川県内の停泊車両の総入れ替えをする必要が生じます。
なお、昨年の251系・E257系のダイヤ改正前後の車両入れ替えの動きは、ダイヤ改正前日に国府津〜伊豆急下田間で1往復の臨時回送を設定するに留まっていました。
新しい布陣はどうなる?

置き換え対象の185系と215系は、茅ヶ崎・国府津・小田原・熱海に10編成(+付属編成が2本)が滞在しています。
新しいダイヤでは下り11本・上り10本の特急湘南号が運行され、現行の185系のように東大宮所属ながら10編成(+付属編成が3本)が国府津またはその周辺での停泊運用が組まれているものと考えられます。
現在の停泊構成と同数ですので、基本的な停泊箇所に変更がなければ下記の入れ替えが生じます。
ダイヤ改正前 | ダイヤ改正後 | 備考 | |
茅ヶ崎 | 215-10×1 185-15×1 | E257×2 | 1編成は平塚発2号の9両か |
国府津 | 215-10×2 185-7×1 185-10×1 185-15×2 疎開3編成位 | E257×6 疎開3〜4編成? | 3/12(金)の増結はある? (修善寺臨時の送込分) |
小田原 | 215-10×1 | E257×1 | |
熱海 | 185-10×1 | E257×1 | |
伊豆急下田 | E257-9×1 | E257-9×1 | 変化なし(251系代替分) |
現在、新潟・長野・国府津・尾久に疎開留置が実施されているE257系2000番台・2500番台は一旦東大宮センターに戻し、給水作業やリネン(ヘッドカバー)などを整備したのちにダイヤ改正に向けた準備を進める必要があります。
ただし、金曜夜間に絶対終わらせるとは限らず、3月13日(土)・14日(日)は特急湘南号の運行がないため、定期回送運休・臨時回送設定で対処が可能です。15日(月)朝の特急湘南号までに布陣を揃えるーー14日夜時点で所定留置場所にE257系が配置出来ればOKといったところでしょうか。
土休日は東京・新宿発の踊り子号が多く運行されます。臨時回送を最小限とする場合は
東大宮〜臨時回送〜東京or新宿〜踊り子号〜東京〜新ダイヤの定期回送〜国府津など
……といった流れが臨時回送を最小限に抑えられます。
少なくとも、現在E257系を使用している踊り子6号の東京着後の回送先は、従来の東大宮から国府津に変更されていることが商業誌(交通新聞社 鉄道ダイヤ情報2021年3月号)に記載されています。
一方の185系についても、E257系が東大宮スタートとなっている分、平日の特急湘南号相当の定期回送が運休となっている枠を活用して臨時回送の設定が出来ます。
あくまで筆者の推測ですが、新しいダイヤの定期回送をベースに車両入れ替えが進めることで、乗務員手配が最小限に済ませることが出来るという大きなメリットがありますので、何らかの形での活用がありそうです。
このほか、国府津車両センターの容量が許す限界まで、ダイヤ改正前からE257系を置いておき、ダイヤ改正後数日溜め込んでおくことも改正当日の負荷を減らすことに繋がります。
185系・215系の疎開先
車両入れ替えをするダイヤ自体は設定出来そうですが、一度に大量の余剰車両が生じるため、185系・215系は月曜日までにある程度の疎開措置を実施しなければなりません。
最近の動向や実績から、想定出来る場所と動きを考えます。
国府津車両センター(横浜支社)

まずは先述のように、そのまま国府津車両センターの余力を生かして留置する編成を設定することが最もシンプルな対処法です。
昨年のダイヤ改正でも251系2編成で実施された経歴がありました。
また、昨年の事例では、9日に国府津車両センターへデビュー準備を済ませたNA-13編成を回送・12日に下田へ回送して13日の上り1番列車に充てられました。
従来のE257系疎開編成は一旦東大宮へ戻し、直前週となる8日(月)以降に運用準備を済ませたE257系がある程度送り込まれることとなりそうです。
現在の国府津車両センターではE257系2編成相当とE217系1編成の疎開車両を抱えていることから、単純計算で3編成程度の余裕がありそうです。更に、そもそも予備の215系1編成が所属区留置ですので、4編成程度は運用離脱車両の留置が可能と言えそうです。
ただし、215系の運行歴のエリアが少ないことを考えると疎開措置が出来る選択肢が少なく、215系の多くが所属区で“ドナドナ”待ちをすることとなり、走行可能エリアの多い185系が東大宮センターに一旦戻ったのちに疎開……といった流れが自然でしょうか。
伊東駅(横浜支社)

横浜支社管内の過去実績では、伊東駅の留置が考えられます。
短期間の疎開で時折使用される方法で、過去に横浜線205系やE217系など横浜支社管内の車両で実施された経歴があります。
また、従来から駅停泊の編成が夜間工事に支障する場合の代替停泊先としてダイヤが予め引かれており、運行体制としての課題も最小限です。185系の熱海停泊・215系の小田原停泊編成が代替先として時折深夜着〜早朝発で運行されています。
一方で、伊東駅に15両編成は入線できないこと、車庫併設でないことから仕業検査の兼ね合いといった制約もあります。
一旦215系を伊東へ疎開させておき、185系の東大宮返却が落ち着いたタイミングで国府津に戻す……といった動きなどがあり得そうです。久しく実績はありませんが、設備上は10両3編成の留置が可能です。
川越車両センター(大宮支社)

一方の185系を抱える大宮支社管内では、川越車両センターが活用出来ます。
現在もE257系NA-02編成が留置されており、185系も車輪転削で時折訪れています。
昨年の251系の事例でも、車両所属の支社管内ということもあってか最後まで疎開先として活用されていました。
ただし、同センターに大量に留め置かれた実績はないこと、八高線が改造予備で209系3100番台を抱えていることなどを考えると、疎開されるとしても1編成程度に留まりそうです。川越線・センター内の有効長の制約から、15両での疎開も出来ません。
昨年の事例を考えれば、東大宮から迅速に送り出せる距離ですので、12日に予備運用となっていた編成・13日に返却回送された車両などが考えれられます。
尾久車両センター(東京支社)

尾久車両センターでは、ここ数年E257系が2〜3編成疎開留置されており、単純計算であれば同数程度の185系の疎開留置が考えられます。15両編成の留置が出来る設備がある点も特徴的です。
ただし、現在の尾久車両センターではレール輸送用の事業用気動車・キヤE195系などの車両配置が急ピッチで進んでいるうえ、この車両のデビューは今回のダイヤ改正の前後となりそうです。
これらの事情を考えると、どこまで負担をかけられるか……といった点は予想がしにくいところです。
東京総合車両センター田町センター(東京支社)

田町電車区をルーツとする、品川駅の留置線群です。
最近はE217系の疎開留置などで使用されていますが、この分の廃車回送が3月前半に実施されていたと仮定すると、2編成程度の疎開留置が出来そうです。
東海道線車両の運行を支えてきた拠点でしたので、疎開先の選択肢に制約がありそうな215系・かつて所属していた185系のどちらも考えられそうです。
長野総合車両センター(長野支社)

既に波動用編成のOM03編成やE257系が多く疎開されているように、長野総合車両センターは解体待ちの車両の進捗を除外しても数編成の疎開が可能です。
平日であれば1日に2編成を送り込むことも出来そうですが、土休日は臨時のあずさ号で予備の乗務員数が削られていることを考えると、従来のE257系のように1日1編成程度疎開させることが出来そうです。
ただし、金曜夜の時点で大半の編成が国府津周辺に停泊していること、パンタグラフの制約(後述)からA編成・OM編成・C編成のほとんどはすぐに回送出来ないことを考えると、この動きを土日の2日間で行うことは極めて難しいでしょう。
現在のOM03編成のように、ダイヤ改正の前週までに波動用の185系やE257系を一旦疎開させておき、廃車回送の185系と入れ替える形で東大宮へ順次戻す……といった流れが考えられそうです。
その他の留置先
これまでの廃車・転用待ちの疎開留置実績を考えると、新潟車両センターも185系であれば有り得そうです。降雪時期であることを考えると、疎開が実施される場合は耐寒耐雪性能があるOM編成となりそうです。
幕張車両センターは廃車時期が競合するE217系の留置先となっていることから可能性が下がりますが、両形式とも扱えるため状況次第ではあり得そうです。
このほか、手間をかければ塩尻大門(塩尻駅構内扱いのデルタ線)・機関車牽引を活用して青森駅や高萩駅なども疎開先の実績がありますが、いずれも疎開・返却が煩雑になる要素が多いことからこれまで記した区所で対処が追いつかない限りは考えにくいでしょう。
廃車回送はやはり長野へ?

ファン層にラストランとともに注目される廃車回送ですが、車両・路線の事情によって輸送体系はまちまちです。
JR東日本で活躍していた車両は海外や他社への譲渡車両を除くと、首都圏の車両は長野総合車両センター・東北エリアの車両は郡山総合車両センターで解体される事例が一般的です。
ただし、これらの解体場所は明確な分類がされているわけではなく、両センターの事情や解体車両の部品取りなどの様々な都合から逆の事例も多く存在します。
このほか、少数車両の解体の場合は最近だけでも東京総合車両センター(E231系山手線余剰中間車4両)・尾久車両センター(昨今話題の客車)・青森改造センター(E231系余剰中間車・キハ40系列など)・秋田総合車両センター(機関車・客車など)なども実績がありますが、今回のような大規模な廃車では考えにくいところでしょうか。
215系は設計世代・主要機器構成が211系と近似・同等のものが多く採用されており、211系の定期検査を担当している長野総合車両センターで部品取りのうちに解体する流れが自然です。
185系についてはそもそも同世代の車両が退役済であるほか、過去の185系の解体が長野だったこと、一部車両は自走で回送出来ることなど、やはり長野総合車両センターで解体するメリットが多そうです。
同時に置き換えが進行するE217系の解体が追いつかない場合は郡山・特段の制約がなければ両形式とも長野へ搬入することとなりそうです。
自走出来る編成と出来ない編成が……
長野総合車両センターへは中央本線を経由しますが、非電化時代に建設された狭小トンネルの制約で、自走以外にも様々な方法が考えられます。
狭小トンネル対応で自走回送

そもそも、長野総合車両センターまで自力で走行することが可能であれば、自走回送が最も合理的です。
215系には狭小トンネル対応の◆マーク(菱形マーク)が付けられているように、中央本線の自走回送が可能です。ホリデー快速ビューやまなし号で頻繁に乗り入れた経歴があり、長野支社管内(松本運輸区または長野総合運輸区)の実績がありませんが、営業列車でないことから乗務員訓練なしで長野総合車両センターまで走行できることと推測出来ます。
185系についても「はまかいじ号」や団体臨時列車で長野まで走行実績があります。
しかしながら、185系では現在4形式5種類のパンタグラフが使用されており、対応しているのはうち2種類のみです。
まず、185系のA編成(10両)では新造時からのPS16形です。こちらは狭小トンネル非対応です。
例外として、防弾ガラスを装備し、お召し予備・御乗用列車で使用されるA6編成のみPS24形に交換されており、狭小トンネルに対応しています。
C編成(修善寺編成)については、PS21形に改装されています。1基で熱海駅〜修善寺駅間を走行するため、架線への追従性に優れたこのパンタグラフとなっていますが、狭小トンネル非対応です。そもそも2M3Tで中央線の登坂が出来るのかも定かではありません。
波動用で唯一4両のC編成であるC7編成についても同様です。
OM編成では、A編成に近いものの台座バネにカバーが付いたPS16J形が採用されています。こちらも狭小トンネル非対応です。
唯一OM編成から波動用となったOM03編成は近年シングルアームパンタグラフPS33F形に改装していますが、これも狭小トンネル対応のためと推察出来ます。
その他の波動用編成では、大半となるB編成は中央本線乗り入れに対応したPS24形に改装されています。はまかいじ号などで中央線を走行することを想定したもので、これがOM編成が踊り子用・B編成が波動用となった経緯となっていそうです。
機関車牽引の配給輸送

自走が不可能な場合にJR東日本で一般的な輸送方法として、電気機関車牽引の「配給輸送」が考えられます。
昨年の251系「スーパービュー踊り子」や651系「伊豆クレイル」、そして185系も2013年ごろの編成組み替えで余剰となった車両のほとんどがこの事例です。
狭小トンネル対応パンタグラフに改装

最近はあまり実施されていない事例としては、狭小トンネル採用のパンタグラフに交換することがありました。
廃車回送のためだけにパンタグラフを改装するのは手間がかかるようにも思えますが、201系の廃車回送で多く採用された方法です。
201系自体が長野支社管内を走行する機会が多かったこと、ちょうど首都圏各形式のパンタグラフのシングルアーム化を進めている最中で再利用が可能であったことなどが背景と考えられます。
狭小トンネルを通らないルートで回送

更に変わり種として、中央線を経由しないルートで長野へ回送した事例があります。
この経路が採用されたのは幕張車両センターの113系の一部で、高崎線・上越線・信越本線経由での回送でした。取り扱いが近い115系の営業路線だったことが背景にありそうです。
晩年にはこの廃車回送をそのままツアーとして運行した事例もありました。
185系も入線歴が多いようにも思えますが、信越本線の長野〜直江津間が第三セクター化されており、線路使用料が発生することからこの経路が採用されることはなさそうです(秋田〜仙台の配給輸送を首都圏経由とするほど避けられています)。
コメント
215系、グリーン車抜いてしもうさ号/むさしの号としてしばらく使って…とかここで言ってもしょうがないですよね
5両だったら下新田(桐生)、10両なら小山駅構内の電留線も数編成分使えますね
215系はサロ抜き8両にしてホリデー快速鎌倉に入れてくれないかなぁと淡い期待を抱いてみたり