【過去にも】E3系単独特有?山形新幹線つばさ、郡山駅オーバーラン

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2024年3月6日、山形新幹線の東京発下り始発列車「つばさ121号」が郡山駅でオーバーランする事象が発生し、東北新幹線のダイヤが大きく乱れました。

単なるオーバーランだけではない危険性の高いものとなっており、続報が待たれます。

2024年3月6日の事象

2024年3月6日、山形新幹線の東京発下り始発列車「つばさ121号」が郡山駅の停止位置を約500m超えて本線まで進入するトラブルが発生しています。

TBS系列のTUFテレビユー福島が配信をするライブカメラ映像(YouTube;アーカイブは12時間前まで)では、7時27分頃にE3系7両編成が郡山駅に高速で進入する様子が見られました。

映像からは「つばさ121号」が120km/h〜140km/h程度と推定される高速で進入する様子が記録されていました。6分前を走る「やまびこ51号」と比較すると、停止位置の違いこそあれどその速度差に驚かされます。

ライブカメラ映像はリアルタイム・無編集ではあるものの、通信のラグで軽微な映像ズレが生じるため正確な速度算出ではありませんが、少なくとも通常の当該分岐器通過速度を大幅に上回る速度で通過していることは明らかな状態です。

一般的な新幹線の分岐器で採用されている18番片開き分岐器は分岐側(待避線側)の設計通過速度は80km/hとされています。

東北新幹線では開業時には東海道新幹線のATC-1型を元としたATC-2型が採用され、ポイント部の分岐側に進入する際には信号により70km/hで通過する構成とされていました。

デジタル(DS-ATC)化後、駅停車時にはATCにより75km/hまで自動で滑らかに減速したのち、乗務員のブレーキにより停車させる流れとなっています。デジタル化と同時にこの分岐器通過速度が変化している点は当時JR東日本が公表した資料(外部PDF)などから確認できます。

今回の進入速度は一般的な曲線でも許容されていない規模の大きな横揺れとなっていたはずで、乗客にとっては恐怖を覚える揺れであったことは想像に難くありません。

2022年の事象での“暫定策”

今回の「つばさ号単独編成が郡山駅でオーバーランした事象」ですが、極めて近い事象が2022年に発生しています。

2022年12月18日、山形新幹線「つばさ159号」が郡山駅進入時に大規模な滑走が発生し、停止位置を超え出発進路・軌道回路の内方に進入する……といった内容で、E3系単独編成・雪の影響が大きいと推測されているという点も同様です。

この事象では深夜帯ということで影響が今回よりは少なく、過走距離も160mと今回ほどの距離・速度ではないものの、本線上へ進入する大規模なオーバーランとなっており労組資料でもその重大性を取り上げていました。

2022年のこの事例では労組からの質問に対し「当日は、降雪に加え、低温下であったこと等の気象条件があり、大滑走が発生したことは事実」「鉄道総研等にも協力依頼をして調査を進めて」いるとの回答がありました。

「暫定的な対策」として、「121B(初列車)でJ+L編成での運用を実施しブレーキ軸を増やすこととした。これは121BがL編成単独運転の初列車であり、滑走の予見ができないため、この列車のみJ+L編成とする」といった対応のほか乗務員教育について触れています。

この措置はE3系の定期運用に倣って「つばさ160号」に仙台から回送してきたE2系を連結して送り込み、翌朝の「つばさ121号」の福島駅まで併結、福島駅から再び仙台へ回送する体系で実施されていました。

2023年1月9日の「つばさ160号」(日暮里ライブカメラ アーカイブ)・翌10日の「つばさ121号」より開始され、3月14日の「つばさ160号」・翌15日の「つばさ121号」(日暮里ライブカメラ アーカイブ)まで継続されていました。

冬季増結が終了といったニュアンスよりは、この暫定対策が2023年3月18日のダイヤ改正を前に終了となった……といった動向にも見えます。

一般に、E3系新幹線は通常サイズの新幹線と比較して“軽い”とも言われます。

E3系7両編成の空車時の編成重量は約302t(外部PDF)とされており、1両あたりの平均重量は約43t程度です。E2系の約44t、E5系の約45t、そして同じミニ新幹線のE6系の43.8tと比較すると若干軽量であることは事実です。

ただし当時の労組資料を読み返すと、SNS上でファンが推測しているようなE3系の車体重量が軽いから重たいE2系を連結した……といった理由ではなく編成両数を増やす=ブレーキを掛けられる車軸自体を増やす対策だったことが読み取れます。

2023年の冬季、そして今回の列車では同様の対策は行われておらず、別途何らかの施策が実施されたことで解消したようにも思える状態でした。

現に極めて類似した事象が発生している以上、何らかの進展があり別で実施した対策では不十分だったか、単に“暫定策”に代わる対策もないまま今冬をそのまま迎えていたのか……といった内容となり、どちらにせよ類似例が直近であるなかでより規模の大きいオーバーランが発生したことへの批判の声は避けられないでしょう。

2023年1月当時の労組資料では労組側の「ATCで×信号が出て以降、制動力が失われてブレーキ制御が悪い方向にいってしまったと認識しているが」という質問に対し、会社側も「×信号受信前後で制御がおかしくなっていることはデータ上からも明らかになっており、そこがターニングポイント」と回答しています。

2022年の事例は75km/hの信号から(一般的な信号でいう赤に相当する)×信号へ移り変わる際に問題があるという前提で調査が進められていたことを考えると、これらの労組資料からは今回のような分岐器での速度超過は発生していないようにも読み取れます。

低速域での滑走に焦点を当てて原因究明をしていたが、実際は高速域も同様に大滑走が発生しやすい何らかの原因があり、今回は「121BがL編成単独運転の初列車であり、滑走の予見ができないことを認識していながら類似かつ分岐器を大幅に速度超過して進入とより深刻な事象を発生させてしまった……となるとなかなか深刻な印象です。

2014年の元住吉事故を想起させるが……

降雪の影響で近年発生した事故事例として、2014年2月に東急東横線元住吉駅構内で発生した列車衝突事故を思い浮かべた方も多いかと思います。

約28mのオーバーランをした先行列車を後退させるために後続列車に非常停止するよう手配をし、直ちに非常ブレーキを操作したものの、後続列車も雪の影響で本来のブレーキ力が得られず先行列車へ衝突した事故でした。

この事故調査(外部PDF)では「必要なブレーキ力が得られなかったのは、非常ブレーキの動作時に空気ブレーキの制輪子が車輪に押し付けられた際、車輪踏面と制輪子摺動面間の摩擦係数が大きく低下していたためと考えられる」、「車輪と制輪子の間に、線路内の積雪、車輪フランジ部に残っていた油分、制輪子に付着していた塵埃などが液体状に混ざり合って供給されたことが関与した可能性があると考えられる」といったもので、これらの可能性が高いとされているものの原因の断定には至っていません。

分岐がある駅で積雪量が普段多くない場所での積雪により本来のブレーキ力が得られずオーバーラン……といった状況こそ似ているものの、東急電鉄・横浜高速鉄道車両は踏面に制輪子を押し当てる踏面ブレーキ、新幹線は車輪に貼り付けたブレーキディスクにパットを押し当てるディスクブレーキを採用しており原因が必ずしも同一とは言えません

北陸・上越新幹線や北海道新幹線のより雪深い区間でなく、E3系単独編成と郡山駅という絶妙な条件でのみ続くオーバーランという点がこれら一連の事象の特徴として挙げられます。

雪質との相性、車両全体の設計、停車駅パターンを含むダイヤ設定などの様々な条件が組み合わさったことで発生していることが推測される状態で、今後も現代技術で短期的かつ抜本的な対策を講じることは難しそうです。

2024年3月に営業運転を開始する新型E8系では台車にヒーターが設置されているなど、新たな着雪対策も行われています。

E8系に代替されることだけで解決する問題なのかは今後の注目ポイントの1つで、2023年始に実施されていたブレーキの軸数が今後も冬季の安全対策の1つとして継続すべきとされた場合は、今後の「つばさ121号」「つばさ160号」をはじめとする“ミニ新幹線”単独の列車設定自体にも影響しそうです。

まずは「つばさ121号」が脱線転覆等の甚大な事故にならなかったことが何より幸いでしたが、今後の調査や対策の動向にも注目していきたいです。

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コメント

  1. T.W. より:

    新幹線は高速域では回生ブレーキで速度を落とします。ところが大滑走が発生すると大空転/大滑走としてVVVFが検知して回生ブレーキをオフにしてしまいます。そうすると空気ブレーキに頼ることになり、余計に滑走しやすくなります。また、N700系などでは非常ブレーキ時には自動的にセラジェットによるセラミック噴射が行われますが、E3系では増粘着装置そのものがありません。更に大滑走によりATCが自車位置を見失ってしまったり、誤検知により故障状態になった場合は非常ブレーキ動作となるため、余計に停車できなくなってしまったり。いろいろな要因が考えられます。