東急電鉄では、2022年3月の運賃改定を申請しており、これに関連して示されている資料の投資計画から、既存車両の増結・向こう5ヵ年の新製車両投入の概要が示されています。
このなかで、新横浜線関連の増結の両数・今後の増備数が触れられており、ファンの間で議論が活発化しています。
示された製造数
東急電鉄では2022年1月7日、運賃改定申請についてを発表しました。
その後、これを受けた国土交通省によるパブリックコメント募集(国土交通省・外部リンク)の参考資料として、申請内容・添付書類が公開(同・外部PDF)されています。
このなかで2021年度〜2025年度の設備投資計画が示されており、例年は1年刻みで事業者から示される新製車両両数の内訳が4ヵ年分(2025年度まで)記載されています。
年度 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025 |
代替車両数 | 50 | 90 | 10 | 30 | 30 | 32 |
輸送力増強 増備車両数 | 28 | 24 |
なお、東急電鉄関連の書類では資料により年度区分が異なるものが散見されるため注意が必要です。具体的には、2021年度の90両については、2020年度に落成したものの翌年度に入籍した2020系が含まれているものと推測できます。
今回発表の資料の特徴として、「都心乗り入れ等 輸送力増強工事」として通常の車両代替とは別枠で増備車両数の内訳が示されています。
2021年度と2022年度で合計52両の増備とされています。一見すると既存の目黒線所属26編成に2両ずつ連結した数と合致しますが、3020系は2019年度に編成単位で入籍済・5080系には6000系転用車が2両含まれるため、これらは除外されるはずです。
目黒線系統についてはこれまで、新造の3020系を8両3編成新造するほか、既存の3000系・5080系の6両編成23本は全て8両化するとされており、2021年には3000系・5080系の増結用中間車が順次落成しています。
一方で、3020系や東横線の5173F→4111F用の増結車2両はいずれも2019年度に新造・入籍しており、本資料で示されている2021年度・2022年度の増備車両52両とは考えられません。
これらの車両を除くと、目黒線所属車両とは異なる増備車があと8両残る計算となります。
形式 | 編成数×製造数 | 新造数 | 増備年度 | |
編成単位増備 | 3020系 | 3編成×8両編成 | 24両 | 2019 |
既存編成増結 | 3000系 | 13編成×2両増結 | 26両 | 2021 2022 |
既存編成増結 | 5080系 | 10編成×2両増結 -6000系余剰車2両転用 | 18両 | 2021 2022 |
4112F〜4115F?東横線車両の10両化か
東急・相鉄新横浜線では、日吉駅以北について目黒線直通・東横線直通の2系統が運転されます。
これまで相鉄では20000系10両編成が東横線直通用と公表されているほか、東急電鉄所有のうち東横線所属車両についても8両編成の5173Fが10両化されて4111Fとなったのち、2021年になって10両編成に相鉄直通の列車無線装置などの搭載が進められています。
一方で、8両編成についてもこれまで5169F,5167Fの順で相鉄直通対応改造が進められており、他のほとんどの編成が済ませたデジタル無線工事とはメニューが異なっている点が注目されています。
東横線系統と目黒線系統では保安装置用の車上子・地上子設置位置が僅かに異なり、両系統から8両編成が新横浜線に流れ込むと、自動列車運転装置による停止位置に軽微なズレが生じることなどが考えられます。
ホームドアなどの技術を研究されているYCS3120様の記事「相鉄直通の重要なカギ? 東横線と目黒線で車上子位置が違う理由を考察」が詳しいです
単純に東横線直通=10両・目黒線直通=8両と整理することでこの点は回避可能であり、新たな方式を3駅間のために開発・投入するとも考えにくい状態で、また片手の数だけ8両編成の相鉄対応車を用意する意義も考えにくい状態でした。
今回、公表されていた目黒線向け以外の増結車の新造が新たに読み取れるようになったことで、東横線の4編成が増結して10両化・相鉄直通改造を先行していると考えると全ての辻褄が合うこととなります。
また、記事公開時点でのデジタル無線工事未施工の5050系は残り5166F,5168Fのみとなっており、これらの動向から5166F〜5169Fの4編成が10両化の対象であることが想像されます。
これらの編成は先に10両化を済ませている5173Fと世代が近く、かつ5000系編入車(いわゆる“ボロサハ”)を連結した5170F〜5172Fや、“sustina”試作車を連結した5176Fといった“異端児”たちを避けた納得のいく選定です。
4000番台に最も仕様が近かったはずの5175Fを避けた理由だけは疑問となるものの、検査周期などの都合でしょうか。
全貌がようやく見えてきた一方で、実際の挿入方法については予想が難しい状態です。各車両の経歴とこれまでの5000系列の組換事例から、今後の動向を考えます。
① デハ4601〜デハ4604を交えた組み替え
過去に田園都市線向けに製造されていた5000系10両編成4本を東横線の8両編成に転用した関係で、5000系の単独電動車4両(デハ4601〜デハ4604)が4101F〜4104Fに連結されています。
これらの車両は車体幅や内装が異なるだけでなく、主制御装置(VVVFインバータ制御装置)が他の4000番台と異なる1世代古いものが搭載されています。
2020年に5173Fを4111Fとして増結した際にも、主制御装置が4000番台と同様の5175Fと機器を振り変える対処が行われました。
また、5166F〜5169Fも1世代古い主制御装置を使用しており、彼らを10両化する場合にそのまま新造車を増結すると8両が古い仕様・2両が新しい仕様と混在する格好となります。
これを玉突きで組換をしていくと、既存の4101F〜4111Fが新しい機器類・4112F〜4115Fが1世代前の機器類で揃えられるため、ちょうど編成内の混載を無くすことが可能となります。
この場合も、事実上の相方であるサハ4701〜4704とともに連結相手を差し替えるのか、デハ4601〜デハ4604のみを差し替えるのかが分かれます。
デハ4601〜デハ4604は付随車代用で使用した時期があるほか、編成全体でも8両編成で運用された時期があるなど、内装の違いだけでなくこれまでの走行距離の蓄積量がバラバラです。どちらの場合も引き続き管理は少々煩雑となりそうです。
② デハ4601〜デハ4604と主制御装置のみを振替
5173Fの事例と同様に、先述のデハ4601〜デハ4604と新造車で主制御装置のみを交換することで対処する方法です。
こちらも編成内での仕様が統一されて機器単位で管理が必要となる課題が残る点は同じですが、5000系出身の青色内装+4000番台タイプの走行音と、趣味目線では面白い新たな形態が生まれることとなります。
③ 特に対処しないで純粋に増結
組換・機器振替の作業や今後の管理でそのままとする方が合理的と判断されれば、純粋に新造車は5166F〜5169Fの増結に使用するに留めることも考えられます。
5173Fの事例からあえて混載をする素性は考えにくいようにも思えるものの、主制御装置の混載は4101F〜4104Fの実績がある通りで不可能ではありません。
④ 10両化とともに機器更新
東急電鉄では、これまで機器更新に対して消極的な姿勢です。9000系は全車そのまま・1000系は最小限とされているように、予備品を確保することで既存車の機器を維持する狙いがうかがえます。
今回の5166F〜5169Fを10両化のタイミングで新造品の機器に交換することで、既存の5000系と5050系8両編成の多くで採用されている主制御装置の予備品を確保する展開も考えられます。
この場合は4編成分の機器を新造するパターンのほか、5175Fと同様の手法で5176Fも活用されるパターンも想像でき、この場合は3編成分の機器新造+1編成分は振替といった手法となりそうです。
これはデハ4601〜デハ4604でも同様の機器更新を行うことも出来そうで、コストは一番かかることが想像されるものの、4000番台15編成の仕様が最大限揃うこととなります。
⑤ 「Q SEAT」を組み込み
このほか東急電鉄では、大井町線着席サービス「Q SEAT」について、他路線への展開を検討に挙げています。
混雑が激しく渋谷駅の容量の観点でも避けられる田園都市線は考えにくく、目黒線も目黒駅の容量や直数先の多さを考えると、消去法で考えやすいのが東横線です。
着席サービスは優等列車を想定しているものと考えると、東横線10両化の増備車は好機と考えられます。
ただし、現実的にはこちらも元町・中華街駅の折り返し能力を考えると、現段階ですぐの導入は難しい印象です。
設備強化後に実施される方が自然なようにも、内装だけ可変座席で新造しておく(運用と車体装飾は後年に実施)ことも可能なようにも思えます。6000系の事例も当初は改造で用意する計画だったものを新造車連結に変更したように、どのような展開となるのかは想像がしにくい印象です。
大井町線新造車は5両17本・7両1本?
今回の運賃改定に関連して公表されている内容は、大井町線へ新型車両を投入することのみです。
状況から9000系5両編成15本の置き換えが想像しやすい状態で、これに加えて9020系3編成を含むのか否かが注目されていました。
2022年度は2020系の増備が想像されることを考えると、残りの2023年度〜2025年度の投入数となる92両が9000系などの大井町線代替分となることが考えられます。
単純に6編成ずつ代替していくと検査周期などにも近く効率的な代替が出来そうですが、2025年度のみ増備数が2両多い点が気になります。
大井町線の輸送は各停が5両編成・急行が7両編成ですので、朝夕時間帯などの急行本数増加のため1本は7両で新造される……などの展開が考えられます。この場合、6020系は7両3編成・5両17編成の布陣となることが想像できます。
2025年度までに示されていない路線への新造車投入が行われる可能性こそ否定できないものの、2023年度〜2025年度の新造車が全て大井町線向けである場合、9020系(元・2000系)3編成も代替対象に含まれてもおかしくない数です。
一方で、先述のように東急電鉄では大井町線着席サービス「Q SEAT」の他路線への展開が検討に入っていますので、6000系の事例のような組換に着手するのが2025年度……といった動きも否定できません。
このほか東急電鉄の2両編成としては世田谷線の300系があり、運用開始から26年目となりますが、置換時期としては少し早過ぎる印象も受けます。
年度 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025 |
代替車両数 | 50 | 90 | 10 | 30 | 30 | 32 |
推測される 新造車 | 2020系 2136F 〜2139F | 2020系 2141F 〜2149F | 2020系 2150F | 6020系 5両編成6本 | 6020系 5両編成6本 | 6020系 5両編成5本 7両編成1本 |
輸送力増強 増備車両数 | 28 | 24 | ||||
推測される 増備車 | 3000系 2両増結5本 5080系 2両増結8両 形式不詳 2両増結5本 | 形式不詳 2両増結12本 |
現状では8500系の残存数(3本)と2020系の投入予定数(1本)がアンマッチですが、2021年3月改正で運用減少がされており、この分の発注がキャンセル・もしくは6020系の発注に振り替える対応が考えられます。
東急新横浜線・相鉄新横浜線の開業も同時?
このほか、運賃改定時期は2023年3月であることが示されています。
一般に、運賃の改定や新たな相互直通運転の開始は自社や乗り入れ先の駅券売機や運賃表・自動改札機などのプログラムを修正する必要が生じるため、これらのコストも大きくなります。
直通運転開始と運賃改定が別日とされる場合は、これらの対応を2回行う必要が生じるため、効率的とは言いにくくなります。都心直通の利便性向上への投資が“値上げ”の理由の1つであることも示されていることからも、同時に行うことが妥当です。
もちろん、リスク分散の観点で通常のダイヤ改正と異なる日に実施したJR東日本と相鉄の直通運転の事例などもあるように断定はできないものの、運賃改定日=直通運転開始日と考えることが最も自然です。
これに加え、相鉄は東急線以外にもJR東日本との直通運転を実施しており、白紙改正となることを加味すると、直通運転開始・運賃改定がJR各社が例年ダイヤ改正を実施する3月第二週ごろ(2023年3月11日か)に合わせる格好となることが想像しやすくなってきました。
今回の発表はあくまで旅客運賃改定に関連する資料で断片的な情報に留まっており、新横浜線に関連した続報にも注目したいところです。
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