
先週末に姿を現した東武70000系の派生形式・70090型。
車両の登場に続き、列車名や停車駅、運転本数などが発表されています。
発表内容にファン・利用者から驚きの声も多かったので、独自考察を交えてこの新列車の魅力を掘り下げます。
愛称は“THライナー”・候補は3択から
まず注目の愛称ですが、“THライナー”となりました。
「東武線“TOBU”と日比谷線“HIBIYA”を結ぶライナー、 東京(都心)“TOKYO”とホーム(自宅)“HOME”をダイレクトに結ぶ通勤ライナー」(両社プレスリリースより)という、名前を聞いただけでどこの列車だか分かるような名称となりました。
他の候補には公言こそしていませんが、“HiBiTo”・“Smart Liner”があった模様です。
これらの候補ですが、2019年春に東武鉄道から商標登録出願が3つされており、そのカラーリングや名称から日比谷線直通用のライナーに使用する候補とみられていました。
東武鉄道では、候補段階で商標登録出願をする傾向があり、同社が運転を開始したSL大樹の愛称発表前にも同様の手段が取られています。
東上線“TJライナー”の命名は投票形式で行われており、“おかえりライナー”・“アシストライナー”という他の候補と異なった路線名を意識した名称が最多得票で選ばれた経緯もあります。
今回の“THライナー”についても、投票こそされていませんが、やはりライナー列車名であることが明白なことと、路線名が入っていることが決定打となっていそうです。
今回は投票形式ではないものの、極めて妥当なチョイスとなっています。
着席サービス列車が各社で運行されている昨今ですので、“HiBiTo”も異色で面白そうだった……と感じた方も少なくないのではないでしょうか。
朝の上り列車・夜の下り列車が設定
気になる運転体系ですが、朝の上り列車と夜の下り列車が設定されています。
朝の上り列車は曜日を問わず2列車で、久喜駅始発恵比寿駅行きとして。夜の下り列車も曜日を問わず5列車で、霞ヶ関駅始発久喜駅行きとして運転です。
それぞれ平日・土休日で運転時間帯が異なるものの、運行本数は同一となっています。
東武鉄道線内の停車駅は東武動物公園・春日部・せんげん台・新越谷、メトロ線内の停車駅は上野・秋葉原・茅場町・銀座・霞ヶ関。
朝の上りについては霞ヶ関以降の虎ノ門ヒルズ(新駅)・神谷町・六本木・広尾にも停車し、霞ヶ関〜恵比寿駅間がフリー乗降区間となっています。
停車駅数がかなり絞られているという印象もありますが、日比谷線内は設備上通過待ち・追い越しが出来ませんので、地下鉄線内はゆっくり走行する列車となりそうです。
先行事例の千代田線直通ロマンスカーや有楽町線直通S-TRAINに倣ったものでしょうか。
メトロ線内の発着駅が特殊な理由は?
今回の発表について、発着駅について疑問を抱いた方も多いのではないでしょうか。
まずは朝の上り列車ですが、日比谷線の終点となる中目黒駅まで行かない設定です。
これについては、中目黒駅が東急の管轄駅であるという背景が考えられます。
フリー乗降区間なので、旅客下車の点検をする以外にそこまで作業が増えるとも考えにくいですが、取り扱いが複雑になることを避けたのでしょうか。
また、恵比寿駅での車両折り返しが理由になっていることも考えにくいところです。
恵比寿駅の中目黒駅側には両渡りのシーサスクロッシングが設置されていますが、同日のダイヤ改正では霞ヶ関止まりの中目黒駅延伸も明らかになっていますので、2分間隔で列車が行き交う本線上での折り返し作業は考えにくいです。
中目黒駅で折り返す運用自体はかなり濃厚でしょう。他に明確な理由が考えられませんので、東急電鉄側への配慮と考えて差し支えなさそうです。
一方で、夕方の下り列車については恵比寿駅始発とはならず、霞ヶ関始発となりました。
これについても経緯は明らかにされていませんが、4編成在籍の70090型の運用効率の都合でしょうか。
4編成在籍となると、1編成は予備車設定でしょうから、3編成で回す必要があります。
日比谷線内に追い越し設備がないことを考えると、北千住駅以南は時間短縮は望めません。
1時間に1本の運転本数を確保するためには3時間以内で往復+折り返し作業をしなければならないため、中目黒駅までの回送は困難・本線上での折り返しにならない駅として霞ヶ関駅始発が選定されたのではないでしょうか。
意外な“久喜駅発着”
以上のように、東京メトロの発着駅が目を惹くところですが、反対側の東武鉄道側も少し意外な発着駅となっています。
日比谷線と東武鉄道の直通列車では、従来から複々線区間の北越谷駅のほか、東武動物公園駅、それ以北に向かう列車は日光線方面の南栗橋駅とされていました。
今回の直通列車では、そのまま伊勢崎線を北上した久喜駅発着とされています。
この経緯についても明らかにされていませんが、半蔵門線直通ユーザーが日比谷線経由での通勤に転移する層にも訴えかける設定と言えるのではないでしょうか。
そもそも半蔵門線は、日比谷線の混雑緩和を目的に建設された経緯があり、走行経路自体は遠くない路線となっています。
半蔵門線への直通列車としても良かったのでは?という声もありそうですが、半蔵門線は北側から本線を支障せずに折り返せるのは住吉駅のみ(清澄白河駅〜住吉駅の中線は双方向進入可・半蔵門駅は不可能)ですので、東急電鉄への影響が避けられない路線です。
東急田園都市線の現状を考えるとこのような列車の受け入れは不可能でしょう。東急電鉄自身も着席サービスは大井町線からの直通急行のみです。
日比谷線なら東京メトロとの調整のみですみますので、なかなかうまいことを考えたなあという印象です。
運転本数はかなり強気!?
他社の着席サービス列車を見ても、運転開始初日から朝ラッシュに設定したり、土休日にも近い数を走らせたりという設定はかなり強気と感じた方も多いのではないでしょうか。
東武鉄道がこれだけ積極的なスタートを切れるのも、東上線“TJライナー”の大成功のほか、スカイツリーライン系統でも長年の特急列車の運転実績があってこそでしょう。
特に東上線のTJライナーは、平日6列車・休日4列車からの控えめなスタートから着々と運転本数を増やしており、今日では30分間隔で夕方から深夜まで運転されています。
もしコケたら一般車両として使えばいい……という当初の見込みは何処へやら、現在では軒並み満席となって池袋駅を後にしています。
朝ラッシュ時間帯の上り列車の設定についても検札方法などの課題を乗り越え、ラッシュの直前・直後に2列車の運転が始まりました。
もはやファンからは特急型車両で座席数を増やしてもいいのでは?とまで言われるほど、有料列車が半世紀もの間ゼロだった東上線で大成長を遂げたTJライナーの運行ノウハウは東武鉄道を大きく後押ししたことでしょう。
また、乗り入れ先の東京メトロについても、小田急電鉄の特急ロマンスカー“MSE”や、西武鉄道の着席サービス列車“S-TRAIN”の運転実績があり、ノウハウを既に持っていたことも大きな後押しとなっていることでしょう。
成功すれば増発に期待したいが……
運転開始前から気が早い気もしますが、TJライナーや他社の成功事例を踏まえると、今後の利用者数次第では運転本数増加にも期待は持てそうですね。
半蔵門線直通の利用客がこの日比谷線直通ライナーに転移してくる可能性も考慮すると、伸び代はかなりありそうです。
TJライナーがそうなったように、利用者にも嬉しい30分ヘッドでの運転が理想でしょうか。
今回の70090型は70000系の最終増備車の一環として製造されており、2019年度に製造が完遂する70000系のうち、2019年度分の6編成のうち4編成が70090型となります。
もしこのTHライナーが好評を博した場合、70090型の追加製造……としたいところですが、この70090型は日比谷線直通運用のみで活躍しており、両数の違いから半蔵門線直通・地上運用といった他形式との共通運用には入れません。
運用増がなかった場合は、既存車の改造で賄うのが妥当なところでしょうか。
近年の着席サービスとしては、東急電鉄の“Q SEAT”が当初計画時点で6020系2両新造・6000系1両改造としていた例(その後の計画変更で新造車に変更)や、京阪8000系の“PREMIUM SEAT”の例が存在します。
ただし、70000系では置き換え前の20000系の24編成体制(20000系13編成・20050型8編成・20070型3編成)と比べて2編成少ない22編成体制(70000系18編成・70090型4編成)となる予定となっており、予備車を多めに持って休車を出しておくスタイルが日常的な東武鉄道では珍しく予備車削減傾向です。
70090型編入編成が登場するのか、それとも置き換え対象の20000系列に比べて2編成少ない70000系列が2編成の追加で元通りの24編成となるのか。
はたまた本年度製造分の71717F,71718Fが改造の準備工事を施工して登場するのか。
今後の展開はTHライナーの成功次第でしょう。
6月6日のデビューまで半年。
通勤ユーザーの皆様には待ち遠しい日々が続きますが、虎ノ門ヒルズ新駅とともに日比谷線の大変革の準備が進んでいます。
動画資料集
Youtube=鉄道ファンの待合室資料館では、71791Fの甲種輸送の様子を記録映像として公開しています。
JR線内・秩父鉄道の甲種輸送の様子や、在来車に比べると派手なデザイン、特徴的な前面が姿を現す養生剥がしまでを記録しています。
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【東武70090型登場】日比谷線直通ライナー用 71791FがJR・秩父鉄道経由で甲種輸送
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