【オンドックレール】新潟東港貨物線実現なるか〜白新線複線化も期待

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トラックドライバーの2024年問題について、鉄道・船舶の物流を倍増させる国土交通省の意向が話題となったものの非現実的な状態です。

我が国の鉄道貨物輸送が抱える大きな課題のうちの1つである海上コンテナの輸送について、新潟県が国内初となる「オン・ドック・レール」方式への“再”挑戦に意欲を示しています。

経緯と背景を捉えつつ、関連して注目される白新線複線化計画についても併せて考えます。

日本の鉄道貨物輸送と海上コンテナ

大宮操車場ライブカメラ(当サイト運営)を通過する4072列車 EF65形が海上コンテナ列車を牽引するためファン人気が高い

鉄道貨物輸送はかつて貨車に積載物を載せる方式を中心とされていましたが、特に日本国内ではヤード集結型と呼ばれるそれぞれの貨車を拠点貨物駅で繋ぎ変える方式による物流遅延や同時期に進行した高速道路の開業により定時性が高いトラック輸送へシェアを奪われてきました。

国鉄は従来の有蓋車・無蓋車(ゆうがいしゃ・むがししゃ;屋根がある貨車と屋根がない貨車)への積み込みから専用貨車やコンテナ輸送への転換とともに貨車の組み換えを廃した直行型輸送へ切り替えを1980年前後に急速に推し進め、その後は専用貨車が導入された紙製品や化成品もコンテナ輸送に転換され現在に至ります。

物流を共通の輸送コンテナに積載する輸送体系へ改良する流れは海外や船舶でも進行しており、この変革を「コンテナリゼーション」と呼称されることもあります。

鉄道・道路の設備制約や当時の物流事情などから日本国内の鉄道貨物輸送のコンテナ化は12ftコンテナを中心とした独自の規格が採用されて今日まで主力となっており、近年では大型トラックと同等サイズとなる31ftコンテナを見かける機会も増えてきました。

一方で、海外から国内・国内から海外への物流では船舶で採用されている海上コンテナ(ISO=国際標準化機構が制定したためISOコンテナとも呼称される)と異なる規格が使用されています。

この海上コンテナについても鉄道輸送を実施を目指し、JR貨物移行後もシェア回復を目指して海上コンテナ積載を見込んだ開発も長らく続いてきました。

コンテナの横幅は8ftと国内鉄道コンテナと同等ながら、高さは8ft6in(8フィート6インチ=2.6m)と9ft6in(8フィート6インチ=2.9m)が主流となっており、国内の鉄道規格や旧来のコンテナ貨車の積載部高さに合わせた国内鉄道貨物用コンテナの2.2m程度と比較すると海上コンテナの背高は高くなっています。

前者については旧来のコキ50000形と比較して床面高さを100mm下げたコキ100系列で運用可能となっており、導入から現在まで国内各地の貨物列車で海上コンテナ輸送にも使用されています。

一方の後者については国鉄の鉄道規格が海上コンテナの“背高”に対応していない箇所がほとんどとなっており、特に改良に莫大なコストが掛かる上に工事期間中に旅客・貨物列車への影響も容易に想像されるトンネル部分を抱える路線での地上設備側の改良は現実的ではありません

これらの状況を打破すべく、JR貨物では以前よりコンテナ貨車側のいわゆる“車高”を大幅に下げることで背高コンテナ積載が可能な貨車の開発に取り組んできました。

従来の貨車よりはるかに小さな車輪を使用することで積載部分の高さを下げ、積載可能なコンテナの高さを稼ぐ設計です。

この歴史は古く、1991年にコキ70形,1996年にコキ72形が試作されたのち、2016年から現在まで4両のコキ73形が製造されています。

開発途上で得られた技術は他のコンテナ貨車開発にも反映されたものの、低床貨車の特殊な構造が起因した新造・維持コストに課題が残されており本格導入には至っていません。

最新の開発形式であるコキ73形も同様に積載部分の高さを下げていますが、2021年より架線高さが元々対応していて一般的なコンテナ貨車でも背高コンテナ積載が可能な宇都宮貨物ターミナル発着の貨物列車で“走り込み”目的とみられる運用が続いています。

これらの事情から、2024年現在も背高の海上コンテナ積載列車の運行は東北本線系統の東京貨物ターミナル駅〜盛岡貨物ターミナル駅など極めて限定的なものとなっています。

2023年7月には政府がJR貨物との実証実験を検討していることが報じられたのち、10月から11月にかけてコキ73形が上越国境を越え新潟貨物ターミナルへ向かう実証実験が実施されました。

将来的にはEH200形“Blue Thunder”が海上コンテナを積載した貨車を携えて上越国境越えをする姿が日常となるかもしれません。

大宮操車場ライブカメラ 2023年11月10日 2088列車 空車がコキ73-1 (YouTubeアーカイブ;当サイト運営)

新潟東港専用線の今昔

新潟東港専用線を走るJR東日本 E493系事業用電車の甲種輸送

新潟東港専用線は新潟港改良のため新たに設けられた東港エリアの物流を担う貨物鉄道として、1970年から72年にかけて開通した貨物専用線です。新潟県や国鉄、沿線企業等が出資する第三セクター方式の新潟臨海鉄道として建設・開業されました。

白新線の黒山駅から分岐し、藤寄(ふじよせ)駅・西ふ頭駅・太郎代(たろうだい)駅までが建設され、港湾開発とともに発展した周辺の産業地帯の化成品を中心に貨物輸送が実施されていましたが、2002年に廃止。

その後は新潟県が引き取り、末端の西ふ頭駅〜太郎代駅間1.0kmを廃止・藤寄駅〜西ふ頭駅のうち北側0.8kmを休止区間としており、特に東港エリアの産業地帯を出入りするトラックが多く行き交う国道113号線交差部は完全に舗装されています。

残された黒山駅〜藤寄駅間を含む3.6kmは使用可能な状態とされており、新潟トランシス製の新造車について藤寄までの短区間を陸送(トレーラーによる輸送)したのちで甲種鉄道貨物輸送(貨物列車として鉄路を輸送)する際に利用されています。

専用線のうち休止扱いとなっている西ふ頭駅周辺は貿易を支える大きなコンテナターミナルとなっており、新潟県は2011年度の港湾計画変更でコンテナターミナルへの鉄道乗り入れ構想・そして国内初となる「オン・ドック・レール」の実現を目指す方針を出したものの、その後はしばらく議論が進まない状態が続いていました。

2022年4月に公募が開始された「脱炭素型輸出入コンテナ貨物需要調査」では、鉄道輸送とトラック輸送を比較して鉄道の方が低コストとなる貨物量を試算。この調査結果にて収支が合う見通しが示されたことで再びこの構想への注目が集まるようになりました。

そして12月11日、花角新潟県知事が県議会定例会本会議にて「海上コンテナ貨物を扱う新潟東港からの海陸一体輸送が可能となる『オン・ドック・レール』については、貨物量の確保をはじめ、整備手法や財源などの様々な課題がありますが、モーダルシフトの進展により一定の貨物量の増加が想定されていることから事業化に向けた検討を進めてまいります」と発言。

12月27日の定例記者会見(YouTube)でも知事から「県はずっとこの構想は大事にしてきた構想であり、進めたいと思っているのは間違いない」「今、関係者がいろいろな検討、調整をやっているところ」と前向きな発言が続いています。

2024年1月に公表された「新潟港港湾脱炭素化推進計画(案)」(外部PDF)にも「東港コンテナターミナルへの貨物鉄道直接乗り入れを目指すオン・ドック・レール構想の検討等を進め」といった記載があるなど、引き続き前向きに進行している模様です。

長らく新潟県が所有し続けてきた新潟東港貨物線の活用に期待が膨らみます。特に先述のコキ73形使用の実証実験とも関連して、背高コンテナの鉄道輸送が本格的な実用化となれば貨物量の確保の懸念も減り、実現に向けて大きく前進が期待されます。

「オン・ドック・レール」

国内の物流改善に向け検討が進められている施策の1つが「オン・ドック・レール」で、これが新潟東港専用線の“復活”とともに実現すれば国内初の事例となると言われている理由です。

「オン・ドック・レール」は、貨物港で引き揚げられたコンテナを直接鉄道貨車に載せ替える輸送方式で、日本国内では以前から検討こそされているものの実現には至っていません。

交通や地理に興味がある方なら触ったことがある方も多いであろう、大人気の都市開発シミュレーションゲーム「Cities:Skylines」(シティーズ:スカイライン)で船舶から鉄道に直接載せ替えが可能な貨物港が建設できますが、それこそが「オン・ドック・レール」方式です。

現行の鉄道貨物輸送では海上コンテナ貨物港のコンテナヤードから近接する貨物駅までの近距離の輸送なためにトレーラーに積載して輸送する必要があります。

国内の主要な港湾と鉄道貨物駅は概ね3km圏内と短距離ではあるものの、この「ショートドレージ」が生じることによる所要時間増加・輸送コスト増加が海上コンテナ輸送で運送業者・荷主にとって鉄道利用が選択されない大きな足枷の1つなっています。

これらの課題を解消する「オン・ドック・レール」が新潟東港が国内で採用した場合は全国初の事例となります。新潟発着の海上コンテナ輸送の鉄道利用増加はもちろん、より物流量の多い都心部の港湾のモデルケースとなることも期待されます。

海外に目を向けると、アメリカ合衆国のロサンゼルス港・ロングビーチ港をはじめ世界各国で採用されている主流の施策です。

日本国内では一般に政府の鉄道への投資は消極的ですが、新潟東港専用線は港湾施設の一部として扱われており、本件は港湾関連の予算で整備することも考えられます。

新潟東港はその立地特性から中国や韓国までのリードタイムが短いことが強みとなっており、新潟県の試算では日本海側の近隣都市だけでなく北関東エリアもターゲットに入っている模様です。

県と国、そしてJR貨物や周辺事業者がどのような動きを取るのか……ぜひ積極的な議論がされることを願うばかりです。

白新線複線化事業が同時進行すると好ましい

白新線経由の甲種輸送はダイヤの隙間を縫って運行

新潟県の鉄道は歴史的経緯からやや複雑な路線網となっており、JR貨物の呼称する「日本海縦貫線」は南側から北陸本線〜直江津〜信越本線〜新津〜奥羽本線ルートを主に示しますが、新潟貨物ターミナルに停車する列車は新津以降も信越本線を走り上沼垂信号場のデルタ線を通ります。

それ以降も秋田方面へ向かう列車は白新線を経由して縦貫ルートへ戻ることとなりますが、この白新線は新潟貨物ターミナル駅・東新潟駅から2駅先の新崎駅までは複線・そこから6駅先となる新発田駅までは単線となっています。

比較的利用者数が多い新潟駅から豊栄駅の区間は普通列車が日中時間帯に20分ヘッドでの多頻度運行が実施されており、新崎駅〜豊栄駅間のダイヤ制約が貨物列車のダイヤ設定に足枷となっている印象は拭えません。

この路線網とダイヤ設定の都合から、日本海縦貫線ルートでは新潟貨物ターミナル停車列車と通過列車で運転経路が2種類設けられています。

一般に需要が多いとされる新潟エリアを夜間帯に経由する貨物列車では新潟貨物ターミナル経由・旅客列車が多い日中時間帯に新潟エリアを経由する列車では新津〜新発田駅間を羽越本線経由で通過することで名古屋・大阪方面〜青森・北海道方面の速達性を重視している列車が多い傾向です。

旅客列車が多頻度運行している豊栄駅までだけでも複線化が実現すれば新潟東港発着の貨物列車はもちろん、新潟貨物ターミナルを経由する列車本数増加も可能となることが想像されます。

白新線の全線複線化が実現すれば、特急「いなほ」の速達性・定時性向上といった利用者への便益だけでなく、従来は新潟貨物ターミナルを通過とされている貨物列車の経路を変更することで新たな需要を開拓出来るかもしれません。

近距離・遠距離双方の旅客列車の輸送力改善や新潟東港のシェア拡大、そして鉄道貨物輸送改良による2024年問題への対応と、実現すれば交通施策全体を横断した画期的な事業となります。

かつて富山が路面電車で全国から注目されたように、旅客・貨物双方を同時にテコ入れが実施されれば全国で注目される一大事業となりそうで、今後の進展に期待したいところです。

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・動き出さない鉄道計画に思いを馳せる記事

・新潟トランシスからの車両輸送

コメント

  1. ツキナナ より:

    いつも思うが、なぜ鉄道関連に国は予算をほとんどつけないのか
    海外では陸上の貨物輸送は鉄道を活用することで安価に大量輸送を支えてるのにね