JR東日本と東武鉄道は2022年12月16日、2023年3月のダイヤ改正の概要を発表しています。
2006年3月の運行開始から16年間、新宿駅と東武日光・鬼怒川温泉駅間を4往復の定期列車が設定されていましたが、半減して2往復体制とすることが明らかになりました。
厳しい現実を踏まえつつ、時刻と車両運用の変化を見ていきます。
16年間ほぼ一貫!でも実態は厳しく……
JR線・東武線直通特急は2004年秋にその構想が正式発表され、2006年3月18日のダイヤ改正で運転を開始しました。
定期列車はJR新宿駅〜東武日光駅の「日光」1往復と、JR新宿駅〜鬼怒川温泉駅の「きぬがわ」3往復で、このうち「きぬがわ」2往復は東武100系“スペーシア”を使用しており、列車名も「スペーシアきぬがわ」とされました。残り2往復にはJR東日本の485系改造車1本が用意され、検査時は東武100系(計画的な代走の際には列車名にも“スペーシア”がつく)または189系“彩野”が使用される体制となっていました。
2011年にはJR東日本側の車両が代替され、成田エクスプレスで使用されていた253系のうち経年が浅い200番台2編成を機器更新した1000番台が登場し、年度末の走行距離相殺目的とみられる代走設定を除いて定期列車の車両は固定となりました。
臨時列車ではJR東日本のネットワークを活用し、八王子・品川・横浜・大船・千葉始終着列車が設定され、八王子駅発着は当初新宿経由だったところを最近は武蔵野線経由、大船駅発着は当初は湘南新宿ライン経由だったところを上野東京ライン開業後は同線経由と経路設定も変更されています。
臨時列車は設定の度に新たな工夫が続けられた一方で、定期列車の運転時刻・本数は一貫した点も特徴的です。
列車名 | 開始当初ダイヤ 現行ダイヤ | 列車名 | 開始当初ダイヤ 現行ダイヤ |
日光1号 | 新宿7:12→東武日光9:08 新宿7:31→東武日光9:27 | スペーシア きぬがわ2号 | 鬼怒川温泉8:13→新宿10:18 鬼怒川温泉8:11→新宿10:18 |
スペーシア きぬがわ3号 | 新宿10:35→鬼怒川温泉12:38 新宿10:31→鬼怒川温泉12:36 | きぬがわ4号 | 鬼怒川温泉10:36→新宿12:49 鬼怒川温泉10:39→新宿12:47 |
きぬがわ5号 | 新宿13:05→鬼怒川温泉15:10 新宿13:00→鬼怒川温泉15:04 | スペーシア きぬがわ6号 | 鬼怒川温泉15:03→新宿17:19 鬼怒川温泉15:06→新宿17:19 |
スペーシアきぬがわ7号 | 新宿17:35→鬼怒川温泉19:38 新宿17:32→鬼怒川温泉19:44 | 日光8号 | 東武日光16:37→新宿18:35 東武日光16:38→新宿18:35 |
年度毎で分単位の修正が入っているほか、「日光1号」のみ20分近い設定時刻の差異がありますが、ここまで変化がない路線もなかなか珍しい印象です。
変化を加えるほど利用者が安定していたのかと言えば真逆で、需要とはかけ離れたダイヤとなっていました。
特に「スペーシアきぬがわ2号,7号」は事実上の送り込み・返却といった車両運用都合の色合いが強い列車設定で運転開始当初から乗客はほとんどおらず、それどころか「日光1号,8号」「きぬがわ4号,5号」でさえ平日閑散期は編成で10人前後といった、大赤字間違いなしの状態が日常茶飯事でした。
土休日でさえ最も良い時間の「スペーシアきぬがわ3,6号」と臨時便以外は満席となる日が少なく、JR東日本の他の観光特急の基準で考えれば、いつ削減・廃止されても不思議ではない系統でした。
今回のダイヤ改正では、「スペーシア日光」「きぬがわ」各1往復の定期列車へ変更されます。また、「スペーシア日光1号」については、旧来の「日光1号」とは異なり朝ラッシュ終了後の発車となります。
現行列車名 新列車名 | 現行ダイヤ 新ダイヤ | 現行列車名 新列車名 | 現行ダイヤ 新ダイヤ |
日光1号 スペーシア日光1号 | 新宿7:31→東武日光9:27 新宿9:34→東武日光11:30 | スペーシアきぬがわ2号 廃止 | 鬼怒川温泉8:11→新宿10:18 廃止 |
スペーシアきぬがわ3号 きぬがわ3号 | 新宿10:31→鬼怒川温泉12:36 新宿10:31→鬼怒川温泉12:35 | きぬがわ4号 臨時化 | 鬼怒川温泉10:39→新宿12:47 臨時化 |
きぬがわ5号 臨時化 | 新宿13:00→鬼怒川温泉15:04 臨時化 | スペーシアきぬがわ6号 きぬがわ2号 | 鬼怒川温泉15:06→新宿17:19 鬼怒川温泉14:55→新宿17:09 |
スペーシアきぬがわ7号 廃止 | 新宿17:32→鬼怒川温泉19:44 廃止 | 日光8号 スペーシア日光4号 | 東武日光16:38→新宿18:35 東武日光16:39→新宿18:35 |
新たな「きぬがわ3,2号」は乗車が多かった「スペーシアきぬがわ3,6号」に基づいた時刻で使用車両が変更、新たな「スペーシア日光4号」は旧来の「日光8号」とほぼ同時刻で車両が変更、「スペーシア日光1号」は新宿駅9:34発と従来比較で2時間近く遅い近年では事例のないダイヤとなっています。
利用動向に基づいた至極妥当な変更で、むしろ今までなぜ着手しなかったのか不思議なところですが、東武鉄道の浅草発着列車の運行時間帯の手厚さと設定手法を考えると、東武鉄道側の意向として全時間帯にバランス良く乗車機会を設けたかったことが想像できます。
東武鉄道流のダイヤ設定から、JR東日本の観光特急流のダイヤ設定へ変更した……といったところでしょうか。このダイヤ構成を見る限りはJR側の強い意向で減便に至っていそうですが、この辺りは推測の域を出ません。
車両運用に注目
運行開始から現在までの16年間、日光1号-きぬがわ4号-きぬがわ5号-日光8号をJR車が、スペーシアきぬがわ2号-同3号-同6号-同7号を東武車が担当するという定期運用の構成も一貫しており、検査や車両故障の代走を除いて初めてこの方針が崩れることとなります。
単純に臨時化された区間を回送にするのではなく、JR車・東武車双方の担当列車も逆転する点が興味深いところです。
「きぬがわ3,2号」がかつて最も利用が多かったダイヤですので、座席数の違いを考えると自然なところでしょうか。
また、「日光1号」の東武日光到着後・「日光4号」の東武日光発車前の東武鉄道側の運用都合もありそうです。
従来は「スペーシアきぬがわ3号,6号」の合間に本線系統の車両と車両交換する事例が稀にありましたが、新たなダイヤではJR直通列車の合間に春日部に戻って日常的な検査を済ませることや、これまで避けられてきた本線特急との混み運用の設定など、なにかと東武鉄道側にもメリットがありそうです。
近年運行されている東武100系を使用する「スペーシアきぬ11号,14号」や「スペーシア八王子日光号」などの臨時列車は、朝晩に都度東武鉄道から回送で始発駅まで運行する体制でした。
今回のダイヤでは、朝に新宿から東武日光へ・夕方に東武日光から新宿への片道運行となっています。毎日長距離回送を実施するのか、それとも東大宮や田町で停泊をさせるのかが気になるところです。
臨時列車設定を見ると従来に近い?
定期列車は担当車両が持ち替えとなって印象が変わりますが、臨時列車を含めたダイヤを眺めると従来に近い構成が見えてきます。
現行列車名 新列車名 | 旧ダイヤ 新ダイヤ | 現行列車名 新列車名 | 旧ダイヤ 新ダイヤ |
日光1号 (SP)日光21号 | 新宿7:31→東武日光9:27 新宿7:31→東武日光9:27 | スペーシアきぬがわ2号 廃止 | 鬼怒川温泉8:11→新宿10:18 廃止 |
(2009年)はちおうじ日光 スペーシア日光1号 | 新宿9:28→東武日光11:40 新宿9:34→東武日光11:30 | きぬがわ4号 (SP)きぬがわ12号 | 鬼怒川温泉10:39→新宿12:47 鬼怒川温泉10:39→新宿12:47 |
スペーシアきぬがわ11号 (SP)きぬがわ11号 | 新宿10:05→鬼怒川温泉12:25 新宿10:05→鬼怒川温泉12:16 | スペーシアきぬがわ12号 (SP)きぬがわ14号 | 鬼怒川温泉14:00→新宿16:18 鬼怒川温泉13:40→新宿15:55 |
スペーシアきぬがわ3号 きぬがわ3号 | 新宿10:31→鬼怒川温泉12:36 新宿10:31→鬼怒川温泉12:35 | スペーシアきぬがわ6号 きぬがわ2号 | 鬼怒川温泉15:06→新宿17:19 鬼怒川温泉14:55→新宿17:09 |
きぬがわ5号 (SP)きぬがわ13号 | 新宿13:00→鬼怒川温泉15:04 新宿13:00→鬼怒川温泉15:04 | 日光8号 スペーシア日光4号 | 東武日光16:38→新宿18:35 東武日光16:39→新宿18:35 |
スペーシアきぬがわ7号 廃止 | 新宿17:32→鬼怒川温泉19:44 廃止 | 日光22号 (SP)日光22号 | 東武日光17:00→新宿19:14 東武日光17:02→新宿19:14 |
「日光21号」「きぬがわ12号」「きぬがわ13号」は現行の「日光1号」「きぬがわ4号」「きぬがわ5号」のダイヤそのもので、「日光22号」も「日光8号」の補完列車としてJR車が担当する機会が多い運用でした。最繁忙期などは従来同様にJR車が2往復する構成が想定されているものとみられます。
「きぬがわ11号」は列車名と時刻も同一で、「きぬがわ14号」は現行の「(スペーシア)きぬがわ12号」に近似しています。後者は「スペーシアきぬがわ14号」として運行されていた時代の一部でみられた新宿着時刻に戻しつつ、当時より東武線内は遅い出発と改良が加えられています。
「きぬがわ11,14号」の基となった列車は土曜下り・日曜上りといった片道設定が多く、東武車が担当・“スペーシア”の愛称付き列車として運行される機会が多い運用でした。こちらも同様の設定が想像されます。
今回新設される定期特急「スペーシア日光1号」のダイヤだけは完全新規にみえますが、横浜発の「日光83号」や「はちおうじ日光号」が運行開始した運転開始当初から2013年ごろまで、近似したダイヤが使用されていました。このほか下りの臨時列車は上記以外にも新宿駅8:00頃発・9:00頃発なども設けられた経歴がありますが、今回の記載列車は最も王道な設定と言えそうです。
臨時列車の使用車両はその都度発表とされており、新たなダイヤでは走行距離相殺の方法も変わってきそうですが、基本的に臨時列車は概ね現行の運用体制を踏襲することとなりそうです。
最大稼働でも従来同様にJR2運用・東武2運用で回すことが可能な構成です。
将来的な運行終了もあり得る?
東武鉄道の近況としては、様々な老朽形式を少しずつ廃車して部品調達をする動きが続いています。
今後は100系“スペーシア”は新型“スペーシアX”4編成投入で運用が大きく変更・削減されることが予想されますので、しばらくは共食い整備で運行を続けることが想像できます。100系“スペーシア”が完全な寿命を迎えた際、後継車両・新型“スペーシアX”・500系“リバティ”のいずれかをJR直通に対応させるか廃止するかの選択を迫られることとなります。
JR側の近況としては、253系1000番台も機器更新から(ダイヤ改正時点で)12年経過することとなり、255系とともに何らかの後継車両を考える時期が近づいています。
どちらかといえば東武鉄道の希望で運行されている色合いが強そうな列車でしたが、両社のどちらかの車両更新時期に廃止の方向に傾いても不思議ではない状況です。
一個人としては485系時代から何度も乗車した思い入れのある系統なので、何とかいい方向に進むことを願って止みません。
コメント
今となっては甲種輸送にも使える連絡線ですからねえ。この直通がなかったら連絡線も作られなかったわけで(国鉄時代にも授受線はあったようですけど)。
一個人としてはJR直通特急をJR栗橋側で客扱いの停車をして、快速も停車化すればいいんじゃないかと思います。
東武浅草スジの特急停車化は南栗橋に一部停車化するようになったので無理でしょうけど、東武側も日中だけでも半直を栗橋まで延長運転してほしいですね(例えるなら川越線の川越が栗橋で南古谷が南栗橋)。
国勢調査によると栗橋駅勢圏の旧大利根町と旧栗橋町はまだ人口が増えているので、人口を定着させるためにも。