東京都交通局では、都営新宿線の輸送力増強として所有車両の10両化を順次進めてきました。8編成が8両編成で残されていましたが、2021年度から2022年度にかけて置き換えが進められます。
このうち、最初の編成となる10-650Fが11月28日に営業運転を開始しました。
10-000形の複雑な置換と10両化
都営新宿線は1980年代に西側から順次延伸が進められた路線で、延伸工事途上の一部期間を除いて10両編成に対応した設備を有しており、ラッシュ時間帯には乗り入れ車両の京王6000形(30番台)による8+2両の10両編成の運転も実施されていました。
東京都交通局所有車両は開業とともにデビューした10-000形が6両編成で運用を開始し、延伸による増備途上で既存編成を含めた8両化が行われた経緯があります。
その後、東京都・京王ともに車両の世代交代が行われましたが、京王電鉄では2006年から9000形(30番台)を10両貫通編成で投入して6000形を代替しており、京王車は全て10両化を達成しています。
東京都交通局でも2005年からJR東日本E231系800番台の設計を活用した10-300形が8両編成で投入されることとなりますが、こちらは極めて複雑な代替が進められました。
同年の保安装置更新に先がけ、10-000形のうち経年の浅い中間車と組み合わせて編成を組むための10-300R形先頭車も6編成分用意する体制となりました。10-300R形が10-310〜360F・10-300形は10-370F以降で付番されて置き換えが進められました。
この際には古いATCのみを搭載した10-000形の先頭車6編成分を10-300R形に置換→保安装置更新→新しいATCのみに対応した10-300形デビュー→10-000形の置換→経年の浅い8両化用の増結車を集約→当該中間車に改修を施した上で10-300R形を正規編成化という複雑な編成組換が実施されています。
それ以降は純粋な編成単位の置き換えが進められていましたが、2009年時点で10-370F〜10-480Fと12編成体制だった10-300形のうち4編成について、2010年に10両化が実施されました。
2013年からはJR東日本E233系2000番台の設計を反映した仕様変更が行われて置き換えが再開されています。形式はそのまま10-300形・番号も続番の10-490Fから順次投入が進められ、これ以降は全編成が10両編成で置き換えを進められています。
2015年から2017年には10-300R形についても中間車の経年に合わせる格好で編成単位で置き換えがされ、2005年に投入された先頭車は10年〜12年という非常に短い生涯を終えました。
比較的経年が浅い車両の置き換えも進められ、1992年増備車の10-250F,10-260Fは2017年に、1997年増備車の10-270F,10-280Fは2018年に引退して10-000形は形式消滅となりました。
これらの非常に複雑な置き換えの結果、10-379F〜10-440Fの8本が8両編成・10-450F〜10-640の20本が10両編成となっていました。
残された8両編成も置き換えに
東京都交通局では11月26日、「都営新宿線は全ての車両が10両編成になります」(外部リンク)として、残されていた8両編成の10両化を進めることを発表しました。
2021年度・2022年度に4編成ずつの導入としており、このうち2021年度分となる10-650F,10-660Fが総合車両製作所(J-TREC)横浜事業所から落成済となっています。
これらの計画の存在自体は東京都の電子調達システムにより示されていたものの、全8編成が新造車両での代替となることが明らかになりました。
置き換え対象となる10-370F〜10-440Fは組み換えなどをせず、全車廃車となることが読み取れます。
10-300R形先頭車(12〜13年)、10-000形最終増備車(21年)と短命な車両が多い都営新宿線ですが、10-300形初期車8編成についても経年16〜17年での置き換えと同様の運命を辿ることとなります。
8編成が代替された後もE231系設計の初期車両は2010年に10両化をした4編成が残存することとなりますが、現時点で彼らの機器更新の調達は明らかになっておらず、併せて注目したい車両です。
営業運転開始をした2021年度増備車
事前に示されていた「今回導入する8編成のうち最初の編成は、令和3年11月28日から運行を開始する予定です。」の通り、11月28日の31T運用より10-650Fの営業運転が開始されました。この運用は日中の都営新宿線〜笹塚駅の完結運用となっており、(京王新線を除く)京王線への乗り入れは翌日以降となります。
従来編成との変更で目立つ点としてドアエンジンの変更が確認されているものの、基本的な仕様はこれまでの車両を継承しています。
現代的な仕様変更では、全車両への防犯カメラとフリースペースの設置・開扉中にチャイムが鳴る「ドア開案内装置」の搭載・抗ウイルスコーティングがされています。ドア開案内装置は、以前より他の事業者で採用事例がある(東武50000系列・N700系新幹線など)ものですが、導入は一部に留まっている印象です。
このほか、既存車でも順次交換が進められている白色LEDヘッドライトが初めて新造時から搭載されています。
大規模修繕を避ける意向?
今回の10-300形増備は同一形式同一区分での置き換えとなっており、0系新幹線などごく一部でしか見られない珍しい事例です。
車両の世代交代が比較的速いJR東日本でさえ同世代のE231系が機器更新を受けて活躍している(一部の中間車を除く)ことを考えると、東京都交通局の置き換えペースは在来線では最速クラスです。
同時進行で都営三田線の8両化も進められていますが、こちらも東京メトロ・東急電鉄とは異なり、新型6500形を投入することとされています。既存の6300形については言及されておらず、置き換え対象とみられる1,2次車の中間車の活用による3次車の8両化が実施されるのか否かは明らかにされていません。
このほかにも浅草線の世代交代がほぼ完遂しているほか、大江戸線についても12-000形の仕様変更車両の12-600形での置き換えが進められています。
各線ともに他社局と比較して経年が浅い車両も編成単位で代替が進められており、10-300R形が生まれた2000年代とは反対に多額の費用をかけた改造を強く嫌う意向にも読み取れます。
余談となりますが、最近では京都市交通局が10系初期車の代替に着手して批判が多くありました。この10系初期車は1980年に投入したグループで、都営新宿線10-000形初期車とちょうど同世代であす。
この批判があった背景は京都市の深刻な財政難ですが、京都市交通局がやっとの思いで置き換えを開始する最中、東京都交通局では16〜17年しか運用していない車両の置き換えが進むこととなりました。
思い返せば、10-300R形が製造された2005年も小泉内閣で公共事業民営化などが進められていた時代で、公共事業自体を悪とする国民の声が非常に強い時代でした。
東京都交通局の大規模修繕を避ける背景こそ明かされていませんが、少なくとも東京都の比較的健全な財政に支えられていることは想像に難くありません。
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