日本中の貨物列車で多数活躍したものの、コンテナ輸送へのシフトで姿を見かけなくなった有蓋貨車。
旅客会社にひっそりと残存していたワム287336が盛岡車両センターから郡山総合車両センターに配給輸送されました。
ワム80000形貨車の生い立ちを振り返りつつ、幸運にも生き残ったこの車両の今後についてお伝えします。
国鉄有蓋貨車の後継車として登場
ワム80000形は、前年に鉄道コンテナ輸送が始まって輸送合理化が注文されていた1960年、従来の貨車群の近代化として誕生しました。
本形式の最大の特徴として、フォークリフトでの積み下ろしに対応した
形式の頭に小さく「ハ」と記されているのも、このパレット輸送の「パ」から付与されており、この貨車ならではの特徴となっています。
年次ごとに少しずつ改良がされたほか、特殊な積み荷専用の用途別の番台区分車両も製造されています。
20年間の長きに渡り量産された結果、26,605両というとてつもない数が量産されています。
国鉄の通勤電車103系が3,449両・JR東日本のE233系に中央線グリーン車が製造されて3,403両ですので、2軸貨車とはいえワム80000形全体の製造数は相当なものです。
1975年度の納入車両より、足回りの改良が進められており、番号も280000番台が付与されています。
旅客会社に活路を見出した47両
国鉄分割民営化では、コンテナ輸送へのシフトが重なったため、その多くを余剰車としてしまいました。
その結果、1974年度以前に納入した在来の足回りを装備する初期〜中期の車両を中心に淘汰、全体の1/4程度のみとなる6,588両がJR貨物に継承されています。
このほか、47両のワム80000形が貨車でありながら旅客会社に継承されています。
旅客会社が保有する貨車としては、保線・工事用の車両(レール輸送用チキ・バラスト輸送用ホキなど)が一般的です。
この47両のワム80000形は、「走る倉庫」のような扱いで非常時の救援資材を積んで車庫の片隅に置かれたり、配給輸送で活躍するなど、目につかない運用がほとんどでした。
今回のワム287336についてもJR東日本盛岡支社の救援車代用とされており、車体にその旨がペンキで記されています。
貨物継承組は紙輸送を中心に活躍
JR貨物に継承された車両についても、コンテナ貨物の普及によりどんどん活躍の場を狭めていきました。
また、500両を対象に車輪の軸受け部分が改良され、該当車両はワム380000番台への改番・水色の塗装と大きくイメージが変えられています。
また、無蓋貨車トラ90000形置き換え用に屋根をくり抜いた木材チップ輸送用改造車も生まれており、彼らはJR貨物コンテナ同様の赤紫色塗装が施されました。
比較的近年まで残存していた列車としては、高崎線・上越線方面の5789列車〜5788列車や、東海道本線・岳南鉄道方面の3461列車〜3460列車が知られていました。
そのほとんどが水色のカラーリングに改められたワム380000番台でしたが、編成内に数両ワム280000番台が混ざって編成のアクセントになっていました。
話題となっている東北地区についても2000年代までは残存しており、原色機はもちろん、パンダ色と呼ばれる初期更新色のED75も多く牽引していました。
それぞれ、荷役ホームがコンテナ対応に改められて撤退したほか、最後までワム80000形を使い続けた岳南鉄道の製紙輸送廃止にあわせ、2012年3月に定期運用を終了しています。
JRグループから全車除籍?
今回、JR東日本で唯一残存していたワム287336が除籍されると、旅客会社に継承された47両すべてが使命を終える形となります。
先述のように、JR貨物継承車両のうち晩年まで残った車両はスカイブルーになっていたものがほとんどですので、令和の時代に鳶色(とびいろ)のワムハチがED75形とペアを組む姿が見られたのは奇跡と言っていいでしょう。
一方で、本業の貨物輸送に継承されたJR貨物保有車両ですが、同社はここ10年の所有両数を公表していないため、JR貨物に車籍が残っている車両が存在するかは明らかになっていません。
広島車両所では、グリーン色の配給輸送で活躍したワム80000が数両現存しているようですが、検査は行なっていないため、除籍済で静態保存の可能性もあります。
このことから、今回の配給8548列車を以ってJRの本線上からワム80000形貨車が見納め・場合によっては形式消滅となりそうです。
26,605両が製造され、3/4はJRに移らず短命。
残された車両もどんどん淘汰された一方で、最後は意外なところでしぶとく残り続けました。
共に引退が見込まれるスユニ50ともども、時代の波に翻弄され続けた形式となりました。
今後も本線を走る機会こそなさそうですが、日本中の倉庫・無人駅で長い余生を送る廃車体をみかける機会はしばらくは続きそうですね。
動画資料集
YouTubeチャンネル【鉄道ファンの待合室資料館】にてこの列車の連結シーンなどを動画で公開しています。
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