
「150周年パス」の盛況以降、毎年のように破格の割引きっぷを発売するJR東日本。2024年2月14日〜3月14日には「旅せよ平日!JR東日本たびキュン♥早割パス」発売が予定されています。
お得な割引きっぷで一度は走破しておきたい「いなほ」「つがる」での新潟〜青森間の移動の良さとともに、過去の割引きっぷでの混雑傾向から旅程を考える際のポイントをお伝えします。
南北移動が最大限に活用するコツ
JR東日本は2023年12月5日、『旅せよ平日!JR 東日本はおトクがいっぱいな「平日のお出かけ」を後押しします!』(外部PDF)として平日の観光需要創出のための各種割引きっぷの発売を公表しました。
目玉となる「旅せよ平日!JR 東日本たびキュン♡早割パス」では、2月14日から3月14日までの平日1日10,000円の乗り放題パスとなっていて、ファン層から注目を集めています。
JR東日本全線、青い森鉄道線、いわて銀河鉄道線、三陸鉄道線、北越急行線、えちごトキめき鉄道線(直江津〜新井間)が利用可能となっており、あらかじめ座席の指定を受けた場合は新幹線・特急列車などの普通車指定席に2回乗車可能となっています。
事実上2022年・2023年に発売された「150年パス」の後継となるきっぷで、1日あたりは割高となる反面で、「150年パス」では連続する3日間という制約があったところを1日10,000円と使い方の自由度が高いものとなっています。
「旅せよ平日!JR 東日本たびキュン♥早割パス」
2024年2月14日(水)〜3月14日(木)の平日限定
利用開始日の1ヶ月前から14日前までの発売
1日間有効・大人10,000円・えきねっと限定発売
JR東日本エリアでこの手の割引きっぷを最大限に活用するのであれば、やはり南北間移動を旅程に組み込むことが大前提となってきます。
なお「150年パス」と比較して伊豆急行線・富士急行線が外されましたが、前者は河津桜・後者はインバウンドで混雑が予想される路線ですので、こちらも妥当な微調整となっています。
このほかにも大人の休日倶楽部向けの「大人の休日倶楽部パス」が1月18日〜30日に、1月31日から2月13日は「はやぶさ」「やまびこ」「こまち」の全列車に「お先にトクだ値スペシャル」が設定されるなど、冬休み・年末年始輸送が終わったら何らかの割引きっぷが発売されている状態が続きます。
旅行好き・乗り鉄の必修科目?人気の日本海ルート

2024年の「キュン♡パス」「大人の休日倶楽部パス」双方で利用可能な人気ルートの1つとして、新潟駅〜秋田駅間を「いなほ号」・秋田駅〜青森駅間を「つがる号」で移動する日本海縦貫ルートが挙げられます。
かつてはブルートレイン「あけぼの」、豪華寝台特急「トワイライトエクスプレス」をはじめとする名だたる列車が南北に行き交い、今も貨物列車が直通している羽越本線・奥羽本線経由の日本海ルートですが、現在は乗り通すことがやや困難となっています。
通しでの旅客列車こそ運転されていないものの、新潟駅〜秋田駅間を「いなほ」・秋田駅〜青森駅間を「つがる」と乗り継ぐことで、片道は日本海ルート・もう片道は東北新幹線であれば日帰りで首都圏から青森を1往復することも可能です。
下記は2023年3月改正後の時刻です。どちら周りでも時間に余裕があるので、黒字の最速で1周するルートのほか、緑太字のように青森で滞在を最大限に確保する・赤字のように秋田にも寄り道をする……といったアレンジの幅もあります。
東京6:08発 | とき301号 | 新潟8:10着 |
新潟8:22発 | いなほ1号 | 秋田11:57着 |
秋田12:40発 | つがる3号 | 新青森15:16着 青森15:22着 |
新青森15:52発 | はやぶさ34号 | 東京19:04着 |
青森19:26発 | 普通 | 新青森19:36着 |
新青森19:44発 | はやぶさ48号 | 東京23:04着 |
秋田15:52発 | つがる5号 | 青森18:38着 |
東京6:32発 | はやぶさ1号 | 新青森9:49着 |
新青森9:58発 | 普通 | 青森10:04着 |
青森10:39発 新青森10:39発 | 普通 | 秋田14:01着 |
東京9:36発 | はやぶさ13号 | 新青森12:34着 |
青森12:41発 新青森12:48発 | つがる4号 | 秋田15:27着 |
秋田16:48発 | いなほ14号 | 新潟20:21着 |
新潟20:30発 新潟21:40発 | とき348号 とき350号 | 東京22:28着 東京23:40着 |
定番の1周は同じ目的での乗車が多く混雑が予想されます。特に景色や接続が優れている「とき301号」「いなほ1号」「つがる3号」の乗り継ぎは人気が高い印象です。
木曜日出発で秋田等での宿泊を挟むことで、2024年2月も金曜日は運転されている五能線経由「リゾートしらかみ1号」に乗車するアレンジも魅力的です。幸運にも2024年2月はいつまで活躍が続くか心配なキハ48系改「くまげら編成」となっています。
(逆回り「リゾートしらかみ4号」は金曜夜に秋田着となるため「キュン♡パス」では活用出来ませんが、曜日制約がない「大人の休日倶楽部パス」では人気の旅程の1つです)
秋田駅周辺泊であれば夜か早朝にEV-E801系で運転されている男鹿線も完乗出来るほか、「リゾートしらかみ1号」を弘前駅で降りることで「つがる4号」に乗り換える……などといったアレンジも出来そうです。
東京12:40発 | とき321号 | 新潟14:42着 |
新潟14:49発 | いなほ7号 | 秋田18:30着 |
秋田翌8:19発 | リゾートしらかみ1号 | 青森翌13:29着 |
筆者は2022年の「鉄道開業150年記念 JR東日本パス」期間に超定番の「とき301号」「いなほ1号」「つがる3号」で乗車していましたので、当時の乗車を基に魅力や乗車時の注目ポイントを掘り下げます。
羽越本線特急「いなほ」

特急「いなほ」は新潟駅から白新線・羽越本線・を経由して秋田駅まで運転されていますが、2022年3月改正以降は7往復中5往復が途中の酒田駅止まりとされています。
秋田駅発着は「いなほ1,7,8,14号」の4列車が該当しますが、東京から青森まで日を跨がず移動出来る定期列車となると下り「いなほ1号」上り「いなほ14号」と限定的です。
2022年3月改正以降、「いなほ5号」「いなほ10号」が酒田駅止まりとなっており、秋田駅発着は臨時運転とされています(主に繁忙期土休日)。
この両列車も東京から青森まで日を跨がず移動出来る列車でしたが、2024年の「キュン♡パス」「おと休」期間は延長運転の対象外とされています。
「いなほ」の最大の魅力といえば「笹川流れ」と呼ばれる長い海岸線をはじめとした、海沿いの車窓が挙げられます。

日本海の荒波による浸食で複雑な形状に変化した岩礁などは国指定の名勝・天然記念物に指定されています。
晴れていたらこれらの景色・雪が降れば雪景色を楽しめるこの区間は、古今東西の乗り鉄・撮り鉄人気スポットとなっています。
車窓としては圧倒的に海側(A,B席)が人気の列車ですが、山側(C,D席)は天気が良ければ鳥海山を眺めることができるほか、趣味目線では過去に高速化事業として掘削済みなものの、いまだに活用されていないトンネルも車窓から見られます。
羽越本線は村上駅以北で単線・一部区間のみ複線という国内鉄道ではあまり多くない形態が採用されており、貨物列車や普通列車と意外なところですれ違うのも面白いところです。

酒田・秋田行き列車では村上駅発車後、新潟駅行きでは村上駅到着前に直流・交流の境となるデッドセクションを通過します。E653系ではしっかり車内照明・空調が消えますので、こちらも趣味乗車としては楽しめるポイントです。

車両の設備としては秋田側先頭車の1号車がグリーン車、中ほど2〜4号車が普通車指定席、5~7号車が普通車自由席です。
通常時は普通車・グリーン車ともに比較的空いている日が多い「いなほ号」ですが、フリーきっぷ期間の秋田駅発着列車ではすぐに海側の座席が売れてしまうことが多い傾向です。
ファン層の間ではあまりにも有名ですが、E653系はモノクラスで製造され、新潟転用時に1号車を普通席910mmシートピッチから1,820mmシートピッチに改造した広過ぎるグリーン席が知られています。

座面後ろに仕切りがあるタイプとなっており、リクライニングを全開にすることも可能・前の人のリクライニングも一切気にならないという長所があります。
この改座では海側A,B席が2人掛け・山側D席が1人掛けの3列グリーン車とされました。
一方で、2人利用時に1人席を2つ連続で取って向かい合わせ……といった利用には向かないので、フリーきっぷ発売期間中に2人で利用する際にはAB席争奪戦にチャレンジすることとなります。また1人利用だと山側を選ぶか相席承知で海側を選ぶか……といった制約が発生することとなります。
フットレストやレッグレストがなく好みが分かれる座り心地であることなどデメリットは他にもありますが、圧倒的な専有面積のグリーン車は一度は乗車してみる価値があります。
フリーきっぷ期間中でもこの魅力的なグリーン車に乗車してみたいという需要は大きく、運賃のみ有効・無割引のグリーン特急券の購入が別途必要という条件であっても利用する方が非常に多い列車です。シートピッチを広く取っているということはすなわち座席数が少ないということですので、乗車を決めたら早めに座席を確保……出来れば1ヶ月前の発売開始で確保するのが確実です。
近年では首都圏の臨時特急でも使用されるようになったE653系ですが、3時間40分と乗車時間が長い「いなほ号」において、フリースペースで気分転換が可能な点もグリーン車を選びたい理由の1つと言えます。
ちなみに、フリースペースのモケットは651系の生地が使用されており、こちらも“テツ”な方にとっては嬉しいポイントです。
なお「いなほ3号」「いなほ10号」は2022年3月改正以降、「いなほ5号」「いなほ10号」が秋田駅発着に延長される日(主に土休日)のみ7両編成で運転、それ以外の日は「しらゆき」用モノクラス4両編成が使用されています。

新潟〜秋田駅間で乗り通す場合は乗車時間が3時間40分と長め・車内販売なし
「とき」乗り継ぎ時間が短め(一旦コンコースに降りないと買い物不可能)
別料金でもグリーン車が圧倒的な人気(フリーパス期間は混む)
海側はAB席・グリーン車は2人掛け側
フリースペースはグリーン車のみ
普通車はコンセントなし・グリーン車AB席も2人で1口のみ
今は珍しい指定席の車内改札も現存
強風による遅れや区間運休も発生しやすい
奥羽本線特急「つがる」

東北新幹線新青森駅延伸以降、青森〜弘前〜秋田駅間でE751系を使用した特急「つがる」が3往復運転されています。
盛岡駅〜青森駅間で運転されていた「スーパーはつかり」車両の転用となっており、編成短縮も行われた現在では3編成12両のみのここでしか乗れない特急形電車です。
JR東日本として新造した数・在籍している数が最も少ない特急形電車で、JR東日本が新造した唯一の交流専用の特急形電車であるなど異例ずくしの存在となっています。
こちらも首都圏〜青森の乗り通しで活用できるのは下り「つがる3号」上り「つがる4号」の1往復です。
車窓としては八郎潟の干拓地(海側)、米代川、津軽富士とも呼ばれる岩木山(海側)が主な見どころです。
E751系は転用過程で編成向きを変えた都合で号車番号と座席番号が逆順となっているほか、C,D席が海側と「いなほ」の反対となっているなど指定席を取る場合に注意が必要です。
ただ「つがる号」は「いなほ号」と異なり海岸線沿いを走る区間が長いわけではないのでどちらでも車窓は楽しめそうです。A,B席側だと八甲田山が見られるほか、両側ともりんご畑や田園風景、雪景色と四季の変化が大きそうな印象を受けました。
特急「つがる」は弘前駅〜新青森・青森駅間の都市間利用需要が元々大きい列車で、過去のフリーきっぷ類の発売期間は自由席は相当な混雑が見込まれます。道中で宿泊を挟んで別の列車に乗車すればフリーきっぷ期間の混雑を回避する方が快適な旅行となりそうです。
E751系は4列シートの半室グリーン車もあり、E3系に準じた内装と言われています。半室グリーン車となっており同世代のE257系0番台,5000番台を彷彿とさせるなど、懐かしい印象も受けます。
普通席はE653系・E751系双方とも同一仕様のモケットデザイン違いなので、どちらかはグリーン車に乗車すると飽きずに長時間乗車を楽しめそうです。
こういった乗り通す旅程だと全席指定の「はやぶさ」やより乗車時間の長い「いなほ」や「とき」に指定席を充てることとなり、なんとなく自由席を選択したくなる列車です。
ただ「いなほ1号」から「つがる3号」では秋田駅の貴重な買い物・食事時間を自由席確保に充てる必要が生じたり、「つがる4号」では青森駅発車前に余裕を持って自由席の列で待つなど旅程に制約を生んだりとフリーきっぷ発売期間中ならではの悩みも残りますので、指定席の発行に余裕がある旅程の場合は指定席を選択した方が吉かなといった印象です。

筆者の乗車日は「いなほ1号」を降りてすぐであれば弁当売店に複数の駅弁があったものの、「つがる3号」発車前には完売となっていました。
改札外・駅構内のお蕎麦屋さんがテイクアウト可能だったので、寒い時期はこれを列車内に持ち込むのも選択肢です。
「いなほ」と逆でC,D席が海側・A,B席が山側
コンセントは普通車・グリーン車ともなし
「つがる」弘前駅〜青森駅間が混雑しやすい・フリーパス期間は自由席に座れない場合も
下り始発とその接続に注意!新幹線や周辺路線の状況

例年の「大人の休日倶楽部パス」や最近の「鉄道開業150年記念 JR東日本パス」「鉄道開業150年記念ファイナル JR東日本パス」では、東北・上越新幹線ともに下り始発の「はやぶさ・こまち1号」「とき301号」やその後続列車は混雑が激しい傾向となっていました。
首都圏発着でフリーきっぷの効力を最大限活用するためには、これらの列車とその接続列車を選択することでより長距離利用可能となりますが、同じような旅程を組むユーザーが非常に多い点は理解しておく必要があります。
まだ乗車したことがないローカル線の乗りつぶしをしようと考える方も多いようで、「はやぶさ・こまち1号」「とき301号」に接続する各路線の列車も非常に混雑する傾向です。

筆者は先述の利用で青森に1泊したのちに大湊線に1往復乗車しましたが、1本あとの「はやぶさ1号」接続列車は都心の通勤ラッシュのような混雑となっていました。
ローカル線の乗りつぶしをする目的でフリーパスを活用する場合は、前日に乗車目的路線の近くで1泊し、「はやぶさ・こまち1号」「とき301号」接続列車より前の列車に乗車するプラン組みが理想です。
2024年の「青春18きっぷ」の発売期間・利用期間は公表されていませんが、例年であれば3月1日〜4月10日が利用期間となります。
「キュン♡パス」と「青春18きっぷ」を組み合わせた旅程なども組むことが出来そうな一方で、双方のきっぷの利用者で混雑する列車も各地で多く発生しそうです。
割引きっぷには長所・短所は色々ありますが、お得なきっぷを効果的に活用してお読みいただいた皆様の旅が良きものとなるよう願っています。
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