平成初期、首都圏では1両片側に5扉・6扉のドアを設けた「多扉車」がブームを迎えましたが、ホームドアの普及によりあっという間に消滅しました。
関西で活躍する「元祖5扉車両」の京阪電気鉄道5000系は活躍を続けてきましたが、引退の足音が聞こえてきました。
今回は京阪5000系の現状をレポートします。
そもそも京阪5000系とは?
京阪5000系は1970年から1980年にかけて製造された通勤型電車です。当時、京阪本線は大阪口を中心に激化するラッシュに対応することが喫緊の課題でした。
そこで、5000系は日本の鉄道車両では初となる両開き5扉を採用。ラッシュ時は5扉車として萱島~守口市間を通る区間急行の運用に、昼間は3扉車として急行運用に従事しました。
登場当初から冷房を備えており、1976年に登場した第5編成は京阪で初めて前面に電動式の列車種別・行先表示機が設置されました。
5000系の最大の特徴は5扉車だけでなく3扉車として運用できることです。
ラッシュが終わり5扉車としての役割を終えると、天井から椅子が降下。「ラッシュ用ドア」は締切となり3扉車に変身します。
多扉車の他形式でもドアを締め切る機能があっても、5000系のように5扉・3扉の座席数まで切り替えができる車両はありません。
1980年に枚方市~御殿山間で発生した「置石脱線転覆事故」により、5554号は廃車となりましたが、それ以外の車両は長年に渡って京阪本線の通勤輸送を支えてきました。
1998年から2001年にかけて、大幅なリニューアル工事を実施。車内は7200系や9000系に準じた化粧板やモケットになり、LED車内案内表示機や車椅子スペースも設置しました。また制御方式やブレーキ方式も変更されています。
とにかくドアが多い! 5000系の特異な車内
京都府の丹波橋駅から5000系に乗ってみました。運用は出町柳発淀屋橋行きの準急です。
2019年10月現在、5000系は主に普通や準急を担当しています。日中時間帯の普通は萱島もしくは枚方市止まりのため、大阪口で見られる可能性が高いです。
旧来の京阪電車は卵型の電車が多かったため、額縁スタイルの5000系は新鮮に見えます。第5編成から前面に方向幕が設置されました。
側面を見るとドアがたくさん、そして窓が小さいことに気づきます。筆者が乗車した時間帯は日中だったので「ラッシュ用ドア」は締切扱いです。
「ラッシュ用ドア」は他のドアと比べると仕様が異なります。ドアには「ラッシュ用ドア」と書かれたステッカーが貼られています。1車両5扉のうち、2扉が「ラッシュ用ドア」です。扉が閉まった状態で側面を見ると、通常ドアと「ラッシュ用ドア」の区別はすぐにつきます。
車内はロングシートです。1998年から2001年にかけて行われたリニューアルによってモケットや化粧板は当時の新車に準じたものとなりました。デビューから30年以上が経過しますが、経年劣化は感じられません。
車内を見てもドアが多いことに気づきます。締切の「ラッシュ用ドア」にも座席が設置されているのが5000系の特徴。
他社でも多数運行される多扉車と大きく異なるこの形式の構造は、ピーク時間帯以外の着席サービスに力を入れた画期的なものですが、その特殊な構造もあってか他社を含めて普及することはありませんでした。
「ラッシュ用ドア」の座席に座りましたが、通常の座席と座り心地は変わりません。「ラッシュ用ドア」をよく見ると、溝があることに気づきます。
乗務員室からボタンを押すと座席が昇り降りする仕組みになっています。このような仕組みがある車両は京阪5000系だけです。
座席は上部に収納されます。そのため「ラッシュ用ドア」の上には網棚やつり革が設置されていません。座席の昇降作業は基本的に寝屋川車庫で行われています。
5000系が担当する準急の停車駅は中之島・淀屋橋~京橋までの各駅と守口市、萱島~出町柳までの各駅です。京橋~萱島間では複々線を高速で走り抜けます。
全廃になるのはいつ? 5000系の今後は?
長年に渡り活躍を続けてきた5000系ですが、全廃のカウントダウンが近づいています。2019年時点で既に7編成中3編成が廃車になっています。2020年頃までに残りの4編成が廃車となり、形式消滅となる予定です。5000系の代替車としては製造が続いている13000系が予想されます。
京阪電車では2200系や車体流用の2600系など5000系よりも古い車両が活躍を続けています。なぜ後輩の5000系が廃車に追い込まれるのでしょうか。
答えは2020年度から本格的に整備するホームドアです。京阪はホームドアの設置にあたって5扉車を3扉車に置き換えることを発表しています。「それではずっと5000系を3扉で運用すればいいのでは?」と思いますが、5000系は3扉運用状態であっても他形式とは扉位置が異なります。
さらに編成によっても扉の位置が違います。ホームドアの設置にあたって乗車位置を混乱させないためにも、5000系のような特殊車両の引退は不可欠なのでしょう。
他社でもホームドア設置により多扉車両の引退が続いていますが、多扉車の草分け的存在だった京阪5000系も後を追う形となります。
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