
京王電鉄は2024年5月10日、2024年度の設備投資計画とともに、2026年初めに新型通勤車両「2000系」の投入を明らかにしています。
新型車両の仕様が目を惹くところですが、5000系の増備に加え初となる9000系の機器更新工事実施も注目したいところです。
公表された2000系を見る

京王電鉄は2024年5月10日に『2026年初め、新型通勤車両「2000系」を導入します』(京王電鉄PDF)として、新型の2000系を2027年3月までに10両編成4本導入することを明らかにしました。
このうち2026年の初めに1編成目が営業運転を開始するとしています。
外観は近年の他社他形式で見たことがある要素が集まっており、SNS上では古代魚「サカバンバスビス」を連想する声も聞かれました。
人の感性を分析できるAIサービスも用いてニーズを分析したとされています。
京王電鉄では関東私鉄では少数派となった急行灯が健在で、今回の2000系も種別・行先表示器の左右に急行灯が設けられています。
近年ではホームドア設置後の視認性などの観点から前灯・後部標識灯を上部に移す事業者も徐々に増えてきましたが、京王電鉄は2000系でも引き続き現行形式に沿ったライト配置となりました。
ヘッドライト・テールライトと同様に丸い形状となった点が特徴的です。
また先頭車の車号が「2701」となっていることから、付番規則も従来形式と同様とみられます。

側面には水玉模様があしらわれています。前面同様に京王らしいアイボリーカラーもあしらわれているなど、水玉模様の電車自体はどこかでみたことがあっても独自色を出しています。

前面・側面の円形を取り入れたデザインは内装イメージにも使用されています。
派手めな色使いのシートや床材、全面ガラスの貫通扉など、近年の他社他路線の新型車両のトレンドが京王電鉄にもやってきた……といった印象を受けます。
内装イメージの細やかな点として、今回は総合車両製作所が製造するE235系と同様の四角い形状が特徴のカメラとみられ、鴨居部のカバーや手すり形状など多数の装備品にsustinaブランドを感じさせられるものとなっています。

内装としては京王電鉄では初となる大型フリースペースの導入も目立ちます。
この先駆け的存在の西武40000系と同様に大型窓となっており、外観でも目立つ場所となりそうです。
新宿駅を含む主要駅でエスカレーター・エレベーターに近くなるよう編成中間とされているのも先駆者たちの導入後の声を反映していそうです。
混雑する時間帯には実質的な立ち席スペースにもなりますので、これはこれで1つの答えとして他社での導入時の参考例となりそうです。
編成数が少ないうちは新宿駅の夕刻に並んでいたのに座れなかった旅客の阿鼻叫喚の声が聞かれそうですが、こればかりは利用者側でこのスペースの存在が認識されるのを待つしかなさそうです。
これに加え他社での施策でも見られる全車両の車端部に1か所の車いすスペース設置による座席定員減少もありますので、この点は時代の流れとはいえ利用者によって賛否が分かれそうです。
走行機器類では、京王電鉄としては初採用となるフルSiC素子を用いた新型のVVVFインバータ制御装置を採用することが示されています。
2024年度は5000系2編成、2025年度以降に
同時公表となった「2024年度の鉄道事業設備投資に総額398億円」(京王電鉄PDF)では、2024年度に5000系2編成を新製することが明らかになりました。
本年度新造の5000系についても『ご好評いただいている座席指定列車「京王ライナー」のサービス拡充を図るため』と明言されており、ロングシート・クロスシート可変座席が採用されていることが読み取れます。
5000系の付番は下2桁が30,80番台が付与されており、「京王ライナー」がコケたら一般車区分も投入することを想定にあったようにも見えますが、全車がL/C可変座席搭載の形式として増備が終わることとなります。
2024年度は2編成の投入ですので、こちらも順当に続番号の5739F,5740Fとなりそうです。
なお、2023年3月に運賃値上げ発表による発表でも同様の点が触れられており、鉄道事業設備投資計画表(国土交通省PDF 45頁)に代替車両計画が記載されていました。
このなかでは3年度(2021年度)から8年度(2026年度)にかけての計画が示されており、その後現在までの車両の動きは以下の通りとなっています。
3年度 2021年度 | 4年度 2022年度 | 5年度 2023年度 | 6年度 2024年度 | 7年度 2025年度 | 8年度 2026年度 | |
代替車両数 | 0 | 10 | 10 | 20 | 20 | 20 |
新製車両 | なし | 5000系 10両編成1本 5737F | 5000系 10両編成1本 5738F | 5000系 10両編成2本 今回公表と同数 | 2000系 10両編成2本? 今回公表と同数 | 2000系 10両編成2本? 今回公表と同数 |
除籍車両 | 7708F 6両 | 7705F 6両 7709F 6両 7806F 4両 |
これまで明らかになっていた「代替車両数」通りに車両新製が続けられているように見えます。2000系の年度ごとの内訳が示されていませんが、2000系の増備もこの表通り両年度に2編成ずつとなりそうです。
東急電鉄が同様の経緯で2022年1月に示した設備投資計画表から実際の車両新製が遅れた点(過去記事)とは対照的に、京王電鉄は公表していた数通りに新製車投入が続いています。
除籍車両数は代替車両の完全に合致していない点は、編成構成のバリエーションが豊かな京王7000系代替ならではといったところでしょうか。
今回の発表では2000系の年度ごとの導入数には触れられていませんでしたが、計画が変更されていなければ2編成ずつ導入する動きとなりそうです。
7000系の置き換え順序はどうなる?

京王7000系は側面がコルゲート1984年から1986年にかけて落成したコルゲート車体の編成と、それ以降に新造されたビートプレス車体の編成に大別出来ます。
機器更新工事も編成の経年通りコルゲート車体の編成から実施されましたが、ビートプレス車体の編成では行先・種別表示器のフルカラー化や案内装置もLCDを採用するなどより近代化されたメニューとなっています。
5000系投入による車両代替でも、純粋に経年車であるコルゲート車体の編成から廃車が進行しています。
京王電鉄では刺傷事件以前から編成貫通化を掲げており、実際に6両編成・4両編成を中心に廃車が進行しています。記事公開日時点では残り10両貫通編成3本(7726F〜7728F)・6両編成4本(7701F〜7704F)・4両編成1本(7807F)と全盛期と比較すると少しずつ見かける機会は少なくなってきました。
今後も6両編成1本と4両編成で最後のコルゲート車体となった7807Fの1ペアの代替は確実ですが、それ以降は10両貫通のコルゲート車体を置き換えるのか、比較的経年の浅いビートプレス車体の4両編成の廃車が先行するのかが大きな注目ポイントとなります。
貫通化を最優先する場合、10両貫通の経年車がある程度残る代わりにビートプレス車体の編成のうちワンマン用装備のない2両・4両編成の廃車を先行させる格好となります。
該当するのは4両編成の7803F〜7805Fの3本12両と2両編成の7423F〜7425Fの3本6両ですので、2026年度末までに全編成の貫通化完遂自体は不可能ではなさそうです。8両編成がダブつく点を運用面でどうカバーするのか、ワンマン対応車の余裕を持ちすぎた車両配置を許容するのかといった点には疑問符が付きます。
経年順通りに廃車を進める場合はビートプレス車体の4両編成2本で8両編成相当とし、その分は9000系と7000系の併結による10両編成運用が増加することとなります。
一時的に非貫通の編成が増えてしまうデメリットもありますが、2026年度末までに60両の車両新製で7000系コルゲート車体58両の完全淘汰を目指している……と考えると向こう3年の計画として綺麗なようにも思えます。
8000系は未完ながら……9000系も機器更新

京王8000系では2013年から6両編成と4両編成を10両貫通編成化する大規模な改造を含むリニューアル工事が順次実施されており、2016年度からはこれに加えて走行機器類の更新工事が実施されています。
現在は8両編成の工事がまもなく完了となるほか、上回りの工事のみが先行した編成の機器更新工事も進められています。
2024年度は8000系では1編成10両がこの機器更新工事の対象とされており、8708F,8711F,8713F,8714Fのうち1編成が対象となるものとみられます。
あとの3編成は新造時のままの走行機器となっている状態ですが、2024年度はこれに加えて9000系1編成10両も機器更新工事の対象とされています。
同業他社事例では珍しくない経年ではあるものの、8000系の工事が完遂しないなかで着手する点が特筆されます。
一般に鉄道車両の走行機器類を更新する際、その時点での新製車両と同等のものを搭載します。
京王8000系でも機器更新時に日立製のSicハイブリット素子VVVFを採用したのち、京王5000系で採用されていました。
9000系機器更新車では2000系と同等のフルSiC素子を用いた新型のVVVFインバータ制御装置が採用される可能性が高く、新型車両・他の9000系の試験的な要素を持たせて先行して実施されると考えるのが自然でしょうか。
8000系未更新車の廃車は考えにくく、単に工期や検査周期の都合で次年度以降に実施されるものと考えられます。
9000系8両編成は除外?それとも?
京王電鉄9000系は8両編成の0番台が2000年から2004年にかけて8本が投入されたのち、都営新宿線直通に対応した30番台が付与された10両編成が2005年から2009年まで20本が投入されました。
搭載機器の経年差を考えれば8両編成から機器更新工事に着手するのが自然な動きで、何らかの経緯で10両編成の機器更新工事が先行する点は今後の動向を捉える大きなヒントとなりそうです。
最も想像しやすい動きとして、8両編成は将来的な編成組み換えや一部車両、または編成単位での廃車を見込んでいる事情が想像されます。
現在代替を進めている7000系では10両・8両・6両・4両・2両と様々な編成構成で運転されており、これらを組み合わせて6両編成と4両編成を併結した10両編成、2両編成と9000系8両編成を併結した10両編成の列車も日常的に運転されています。
京王電鉄では2013年度から8000系を対象に6両編成と4両編成を10両貫通編成とする中間車化改造が進められました。この際にも非常時の避難誘導の改善のほか乗車定員増加、保守機器削減によるメンテナンス削減を掲げていました(参考;京王重機整備HP)。
2021年10月に発生した刺傷事件などを受け、2022年度の投資計画では「車両併結による車内通路非貫通の解消や対話式車内非常通報装置の整備等に対応するための車両新造を進める」と記載(京王電鉄PDF)されていました。
将来的に7000系の2両編成がなくなると、8両編成が過剰な状態となることが想像しやすい状態ですので、機器更新工事を行わずに全編成を廃車とするという展開もありうるところです。
奇しくも多摩方面のライバル関係にある小田急電鉄でも、1000形の機器更新を中断して8両編成の2000形はパス、3000形の機器更新工事に推移する動きがありました。
9000系8両編成を丸々廃車とするだけでなく、機器更新ともに5編成程度を10両化、余剰の14両程度を廃車……などもない話ではありません。
機器更新工事で電動車ユニットをバラして単独電動車とする手法は東急2000系〜9020系の事例でありますので、既存の10両編成に仕様を揃える動きも考えられます。
現在は競馬場線で2両編成1運用、動物園線で4両編成平日1運用・土休日2運用が設けられており、2両編成・4両編成ともに2編成ずつワンマン運転対応編成が用意されています。
7000系を完全淘汰しつつ現状に近い輸送体系を保つためには2両編成2本と4両編成2〜3本、または東府中駅を改良の上でワンマン車両を4両に統一して4両編成4本程度といった布陣を構成することが考えられます。
この事例だと4両編成4本と10両編成4本に再編して残りの中間車を廃車……あたりも想像されるところでしょうか。
また、他社でも実施されている閑散区間の日中時間帯を系統分割・短編成化する施策が実施されるのであれば、それ以上に短編成の必要数が増加します。日中時間帯に高尾線のシャトル運用に6両編成を充てていた時期もあり、これらの運用を4両ワンマン化する動きもありえなくはなさそうです。
一方で前章で触れたように、京王2000系のテストカーの要素で考えると、8000系と同様に8両編成と10両編成で搭載機器を変える想定で、意図的に9000系10両編成の機器更新を実施するという見方もできます。
京王8000系では8両編成で東芝製のPMSM主回路システムが採用されました。
試験搭載をした結果として、各駅停車運用が中心で加減速を繰り返す機会が多い8両編成ではPMSMに、優等列車運用が中心で高速走行の機会が多い10両編成では日立製SiC-VVVFが選定されています。
今後9000系についても同様に8両編成と10両編成で異なる装置を採用した機器更新をする可能性を考えれば、9000系10両編成を先行的に機器更新することで2000系・9000系のテストカーの要素も持たせつつ、その結果として8000系の機器更新工事完了後に9000系8両編成で別の機器を採用する余地を残したとも考えられます。
9030番台は都営新宿線直通用車両で試験項目が増えるデメリットがあるものの、新型2000系も地下鉄直通に対応させる想定であればむしろプラスともなり得ます。
どういった意図が込められているのかは定かではありませんが、今後の京王電鉄の車両動向を捉えるために重要な存在となることは間違いありませんので、引き続き動向を見守りたいところです。
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