【政策の失敗】神戸市営地下鉄海岸線が開業から20年〜続く苦難

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神戸市営地下鉄海岸線(三宮・花時計前~新長田)が今年で開業20年を迎えます。本来は喜ばしいニュースですが、神戸市内ではあまり話題となっていません。それもそのはず、海岸線は乗客の伸び悩みに頭を抱えています。今回は神戸市民の目線から海岸線の将来を考えていきたいと思います。

神戸市営地下鉄海岸線の概要

神戸市営地下鉄海岸線は三宮・花時計前~新長田間を結ぶ7.9kmの地下鉄路線で、路線愛称名は「夢かもめ」です。三宮・花時計前~ハーバーランド間はJR神戸線や阪神線と並行するように走ります。ハーバーランド駅はJR神戸駅と隣接しており、ハーバーランド駅から南下します。

海岸線は阪神工業地帯を支える工業地区を走り、沿線には三菱電機神戸製作所などの大手企業の工場が目につきます。一方、プロサッカーチーム「ヴィッセル神戸」の本拠地「ノビエアスタジアム神戸」へのアクセス路線という役割も。終着の新長田駅で神戸市営地下鉄西神・山手線とJR神戸線に接続します。

海岸線はコスト削減のために鉄輪式リニアモーター車両を採用しているため、西神・山手線との相互直通運転は実施していません。

ダイヤは三宮・花時計前~新長田間を基本とし、御崎公園止まりの列車も設定されています。すべて普通列車として運行され、朝時間帯は6分間隔、昼間時間帯は10分間隔、夕時間帯は7分~8分間隔です。

2021年7月、海岸線は開業20周年を迎えます。神戸市営地下鉄では開業20周年を祝うヘッドマークのデザインを募集。優秀賞10点を決定し、前期(4月7日~6月7日)・後期(6月8日~8月9日)に分けて掲出されます。

利用者の低迷が続く海岸線

ところが海岸線は利用客の伸び悩みにより苦境が続いています。2018年度、海岸線の乗車人員は1,834万人(1日平均5万人)でした。当初の需要予測では1日平均約14万人を見込んでいましたが、コロナ禍前でも当初予測の3分の1にとどまっています。

同じく2018年度、海岸線は約37億円もの純損失を計上。乗車料収入だけでは運行のランニングコストさえ賄えない危機な状況です。

開業10年にあたる2010年度で同線の累積赤字は770億円にのぼり、赤字額は膨らむばかりです。

同じ神戸市営地下鉄の西神・山手線は約60億円の純利益を出しており、神戸市営地下鉄としての全体の純利益は22億円となっています。海岸線の赤字は西神・山手線の黒字で補うことが出来ているものの、「山(西神・山手線)で稼いで海(海岸線)に垂れ流す」状態が続いています。

開業以来の採算状況については神戸市も問題視しており、2018年に久元神戸市長が大学院生向けの講義の中で、海岸線について「政策の失敗としか言いようがない」と発言しています。

沿線環境以外にも様々な要因が

海岸線の利用客低迷には様々な原因が考えられます。まず神戸市が指摘している通り、1995年に発生した阪神・淡路大震災以降の沿線住民の減少が挙げられます。海岸線は阪神・淡路大震災以前に計画され、1993年度に着工しました。

2007年に神戸市が発表した海岸線駅勢圏人口増減によると、1994年を100%とした場合、2000年代は90%を切っていました。特に競合路線がない駒ヶ林駅、苅藻駅、御崎公園駅、和田岬駅、中央市場前駅は80%を切り、人口減少は顕著な状態でした。近年は競合路線がない駅がある兵庫区、長田区の人口減少が下げ止まりつつありますが、大幅な人口増加にもなっていません。

2つ目は神戸市の報告書には書かれていませんが、高齢者が地下駅に対して抵抗を感じていることです。たとえばJR神戸駅に隣接するハーバーランド駅は地下4階にあり、なかなかホームにたどり着くことはできません。また高齢者にとってはエレベーターを使って地下駅に行くことを不便に感じ、階層移動が不要な神戸市バスを使うことも少なくありません。実際に沿線住民に聞くと「地下ホームまで行くのに本当に不便」という声が聞かれました。

3つ目は三宮・花時計前から阪急・阪神神戸三宮駅、JR三ノ宮駅への連絡が著しく不便なことです。JR三ノ宮駅から三宮・花時計前駅までは5分以上も歩く必要があります。そのため三宮・花時計前からハーバーランドといった区間利用がしにくいのが現状です。

以上の2点目と3点目は設備の問題であり、構造上の改善が困難な課題です。近年ではある程度成熟した市街地では用地確保の都合から地下の活用を選択する事例が多いものの、今後の地下鉄建設における参考になるのではないでしょうか。

神戸市営地下鉄の新たな試み

神戸市営地下鉄は少しでも乗客増になるような施策を打っています。そのひとつが2017年から始まった「海岸線中学生以下フリーパス」です。これは神戸市民でなくても中学生以下であれば無料で海岸線内を利用できるものです。これは若年世代や子育て支援世代の交流・流入・定住させることを目的にしています。

これはあくまでも「社会実験」という位置づけになり、永続的なものではありません。が、「現段階で十分な実験データが把握できない」という理由から2021年度も行われています。

海岸線の苦境は構造的なものであり、割引切符などでは状況を改善するには難しいと思います。何かいい方法は見つかるのでしょうか。

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