JR東日本とJR西日本は2023年12月15日、翌2024年3月16日に実施するダイヤ改正の概要とともに北陸新幹線の定期列車時刻を公表しています。
これに加え2024年1月の春の臨時列車公表と詳細時刻公表、そして2月16日に開始されたダイヤ改正日以降の指定席発売開始により北陸新幹線・特急の輸送体系の全貌が見られるようになりました。
当サイトでは過去記事で何度か北陸新幹線のダイヤ制約について触れていますが、2024年に入ってから新たに明らかになったポイントを眺めつつ、より深掘りしてダイヤの特長や魅力を探していきます。
雁字搦めのなかで最大限の工夫
鉄道事業者にとって列車のダイヤは鉄道輸送の根幹であり、他の移動手段と比較して自社の交通機関の利便性を訴求するとても重要なものです。
当サイトでは過去記事でも複数回触れていますが、北陸新幹線の敦賀延伸時のダイヤ作成では東側に東北・上越新幹線との線路共用、西側に東海道新幹線への接続とアーバンネットワークの過密ダイヤといった制約があり、北陸新幹線単体で理想的な列車設定は不可能な厳しい条件を抱えています。
当サイトでは過去に概要発表に基づいた制約条件(過去記事)・予想ダイヤ(過去記事)・定期列車ダイヤ公表(過去記事)と3月16日の開業後の姿を空想してきましたが、やはり鉄道のダイヤは臨時列車の挿入箇所を含めて1つの作品ですので、直近の追加情報を踏まえつつ改めてその全貌をみていきましょう。
なお定期列車から読み取れる拘りは過去記事で詳しく触れていますので、先にお読みいただけますと幸いです。
つるぎ自由席は原則2両に
2024年3月16日のダイヤ改正に併せ、大阪駅発着の特急「サンダーバード」・米原または名古屋駅発着の特急「しらさぎ」は全車指定席となることが公表されていました。
「自由席」は国鉄時代に考案された制度ですが、近年ではJR西日本を含めた各社で全車指定席化を進める動きが続いていました。
一方でJR東海は2023年度に東海道新幹線で年末年始輸送で試行されるまでこれらの動きに消極的で、「しらさぎ」はJR東海管内に直通する定期特急列車では「踊り子」熱海駅〜三島駅間に次ぐ動きとなりました。
「踊り子」も使用車両や列車の運行をJR東日本が主軸となっていた列車でしたので、JR西日本が同様の立場である「しらさぎ」についても同様にJR西日本が近年推し進めていた全車指定化とe5489チケットレス特急券での割引発売が基軸となっていくのも自然な流れと言えそうです。
昨今はチケットレスで割引還元を柔軟に行うことが可能で、需給状況を事前に掴みやすい全車指定席での運行は今後も増加していくことが容易に想像できます。
特に新幹線と異なり専用改札口を持たない在来線特急では車内改札省略による人員配置削減という大きな効果を得られるため、今後もより速いペースで進行していくこととなりそうです。
つるぎの自由席は原則2両のみ
2月16日の指定席発売開始とともに新たに明らかになった点として、在来線特急と接続する「つるぎ」1,2号車は自由席とされている点が特筆されます。
通常のきっぷで安価に乗車したい場合は「つるぎ」または「はくたか」の自由席と「サンダーバード」または「しらさぎ」の指定席を乗り継ぐこととなりますが、在来線特急に乗り継ぐ利用では在来線の指定席券の購入時点で新幹線の乗車列車も決まるだろうから指定席の購入が進むであろうことを見越した対応とも捉えられます。
従来の「サンダーバード」9両編成と「しらさぎ」6両編成の座席数の合計が指定席・自由席ともにほぼ同等となっており、2023年8月に「つるぎ」の運行本数が公表された際にはこれを前提としていたことが分かりやすい状態でした。
当初この両接続パターンでは自由席・指定席の数も合致していましたが、在来線特急側が全車指定席となったことで指定席の供給数は在来線特急側の方が多い状態となりました。
同等の指定席数を用意するならば「しらさぎ」接続も兼ねた「つるぎ」を全車指定席としたいところですが、これらの列車は全て各駅停車タイプとなっており、延伸開業区間の途中駅では全車指定席ばかりとなって特定特急券などの短区間利用が難しい状態となってしまいます。
この課題の折衷策として2両だけ自由席を設けるに至ったことが想像されます。
JR東日本であれば「はやぶさ」で見られる区間利用での例外規則を設けて対応しそうなところですが、この辺りは会社による考え方の違いを感じさせられます。
建設計画〜ダイヤ作成着手の段階では既存の輸送力と同等となる公表ダイヤのような美しい接続が前提とされていたはずで、在来線特急の全車指定化が後から決定した……といった時系列も見え隠れしています。
在来線特急側は指定席が取れたのに新幹線が満席でやむなく自由席……といった残念なパターンも生じそうですが、後述の通り臨時列車設定や「サンダーバード」連結両数の調整、1対1接続「つるぎ」の輸送力過多など利用者への選択肢は柔軟に設けられています。
E7系・W7系 座席数比較
号車 | 自由席 | 普通車指定 | グリーン等 | 1号車 | 2号車 | 3号車 | 4号車 | 5号車 | 6号車 | 7号車 | 8号車 | 9号車 | 10号車 | 11号車 | 12号車 |
座席数 | 48 | 98 | 83 | 98 | 83 | 88 | 52 | 98 | 83 | 98 | 63 | 18 | |||
かがやき | 0 | 829 | 81 | 指定 | 指定 | 指定 | 指定 | 指定 | 指定 | 指定 | 指定 | 指定 | 指定 | グリーン車 | グランクラス |
はくたか | 327 | 502 | 81 | 自由 | 自由 | 自由 | 自由 | 指定 | 指定 | 指定 | 指定 | 指定 | 指定 | グリーン車 | グランクラス |
あさま | 410 | 419 | 81 | 自由 | 自由 | 自由 | 自由 | 自由 | 指定 | 指定 | 指定 | 指定 | 指定 | グリーン車 | グランクラス |
現行つるぎ | 327 | 223 | 63 | 自由 | 自由 | 自由 | 自由 | 指定 | 指定 | 指定 | (指定) | × | × | グリーン車 | × |
つるぎ1-50 | 146 | 683 | 81 | 自由 | 自由 | 指定 | 指定 | 指定 | 指定 | 指定 | 指定 | 指定 | 指定 | グリーン車 | グランクラス |
つるぎ60-64 | 327 | 502 | 81 | 自由 | 自由 | 自由 | 自由 | 指定 | 指定 | 指定 | 指定 | 指定 | 指定 | グリーン車 | グランクラス |
「サンダーバード」「しらさぎ」座席数比較
ダイヤ改正後の「サンダーバード」「しらさぎ」は座席配置の異なる681系・683系が混在する複雑な車両運用となっていますが、「サンダーバード」は683系4000番台9両編成+683系0番台または681系3両編成、「しらさぎ」は683系0番台+683系0番台で算出しています。
自由席 | 普通車指定 | グリーン車 | |
サンダー12両 | 200 | 686 | 32 |
サンダー9両 | 200 | 514 | 32 |
しらさぎ9両 | 188 | 500 | 36 |
しらさぎ6両 | 132 | 318 | 36 |
サンダー12+しらさぎ9 | 388 | 1,186 | 68 |
サンダー12+しらさぎ6 | 332 | 1,004 | 68 |
サンダー9+しらさぎ9 | 388 | 1,014 | 68 |
サンダー9+しらさぎ6 | 332 | 832 | 68 |
つるぎ60〜64号も指定席が多め
「つるぎ1〜50号」が「サンダーバード」「しらさぎ」の全車指定席化を強く意識した設定とされている一方で、在来線特急との接続がない早朝・夜間の「つるぎ60〜64号」は自由席が4両と異なる設定がされています。
これらの列車の自由席両数は現行の富山駅〜金沢駅間の「つるぎ」と同様ですが、「つるぎ60〜64号」ではグランクラスを含めた全車両が使用されるようになり「はくたか」と同じ構成へ揃えられています。
特定特急券をはじめとする短区間需要・代替対象である「ダイナスター」「おはようエクスプレス」「おやすみエクスプレス」からの値上がり感を抑えることで沿線利用者を確保したい意図も感じられます。
直接的な代替対象である既存の「ダイナスター」が6両・「おはようエクスプレス」「おやすみエクスプレス」が3両であることを考えればかなり余力を持て余す列車であることは間違いありません。
一見すると現行の富山駅〜金沢駅間の「つるぎ」と同様でも問題なさそうなほど指定席の比率が高くなっているところが興味深く、複数の列車が「かがやき」通過駅への接続列車も兼ねるダイヤとなっているように「かがやき」と「つるぎ」の乗り継ぎ需要を考慮した結果なのかもしれません。
北陸新幹線〜在来線特急全列車時刻一覧
東京→敦賀方面(北陸新幹線下り・北陸本線上り)
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敦賀→東京方面(北陸新幹線上り・北陸本線下り)
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課題の“敦賀乗り換え”は本数増でカバー?
2024年の「春の臨時列車」公表で見られた特徴として、北陸新幹線敦賀駅延伸以前と比較して「サンダーバード」の臨時列車設定頻度が高められている点が挙げられます。
JR西日本では「サンダーバード」「しらさぎ」で681系・683系による柔軟な増解結を行うことで需要に応じた輸送力を確保しつつ、それでも不足する最繁忙期に臨時列車を設定するスタイルが長く続いてきました。
2月16日からダイヤ改正後の座席発売が開始されて1週間が経過したことで、平日・土休日の基本的な増結有無が見えてきました。
過去記事でも触れていますが、「サンダーバード」9両編成と「しらさぎ」6両編成の座席供給数が「つるぎ」E7系・W7系12両編成とほぼ同等となっており、「サンダーバード」と「つるぎ」が1対1で接続となる「サンダーバード」は12両編成での運転が基本とされている一方で、両列車と「つるぎ」が接続するパターンでは「サンダーバード」側が9両編成での運転となるパターンが基本とされています。
編成両数などは現行の体系が完成形であるとは思えず、開業後の利用動向を見て季節の臨時列車・定期列車増結列車は調整が続くものと考えられます。
金沢駅〜敦賀駅間ではこれに定期「かがやき」または「はくたか」が毎時1本程度加わることで、全時間帯で座席供給数が新幹線>在来線となっている点が北陸新幹線延伸区間の特徴となっています。
延伸直後のブームが過ぎ去ったのちに「開業したのにガラガラ」みたいな論調が出てくることが想像しやすいところですが、在来線側の輸送力に比べて余裕を持たせているのは想定通りである……ということはダイヤが強く主張してくれています。
なお「しらさぎ」には9両編成の列車も混在していており、日によって異なる増結体系など車両運用面では謎が多いところです。
臨時列車でも待避は設定されず
過去記事では定期列車設定の特徴の1つとして、延伸区間での「かがやき」と各停「つるぎ」や、速達「つるぎ」と「はくたか」での通過待ちが設定されていないことを取り上げています。
臨時列車設定についてもやはり同様の傾向が見られており、加賀温泉駅と越前たけふ駅の通過待ち設備は通常時には活躍の機会を設けられていません。
やや勿体無い印象も受けますが、遅延時の柔軟性を最大限に確保した結果と考えられます。
臨時列車を愛称別に見る
かがやき
朝晩の定期「かがやき」を補完する設定で、開業直後で訪れる利用者が多いダイヤ改正直後の週末を除き敦賀駅発着の臨時「かがやき」は最繁忙期の一部のみとなっており、日常的に運転されている金沢駅発着「かがやき」が従来と同様に設定されている点が特徴的です。
敦賀駅始終着となる場合のみ列車番号が5000番台となっています。
金沢駅までの「かがやき」は従来同様に設定されている通り、金沢までの利用は金沢以遠を目的地とする利用者増を含めても定期列車で賄える範囲の増加、利用需要・利用者数増加は低めに見積もられていることが想像されます。
公表されたダイヤを眺めてみると朝上り・夕夜間下りには将来的に敦賀駅まで延伸が可能となっている余地が残されている一方で、日中時間帯や行楽需要が期待される朝下り・夕夜間上りは「つるぎ」との交錯から今後も設定は難しそうです。
中長期的な視点で捉えると、東京方面発着はかつての金沢延伸のように鉄道での移動需要自体が増える可能性も十分に考えられます。
需要が伸びてきたら敦賀駅発着の日中「はくたか」を金沢止まりとして日中の「かがやき」定期列車化……などの可能性は否定できないものの、現実的には新大阪延伸までお預けとなりそうです。
細やかな点では、敦賀駅発着の場合のみ新高岡駅停車に変更するパターンも一部列車で設けられており、接続の在来線特急がないものの「つるぎ」を補完する要素も込められていそうな点が興味を惹きます。
従来「かがやき」臨時列車の新高岡駅停車は朝の上り・夜の下り1往復のみが新高岡駅停車でしたので、繁忙期のみとはいえ朝の下り・夜の上りにも新高岡駅停車の「かがやき」が設けられた点は新高岡駅の利用増加に繋がりそうです。
金沢延伸後から頑なに列車番号8000番台は新高岡駅通過・9000番台の例外パターンとして停車しているという体系が崩されていない点はJR両社の高岡市へのささやかな抵抗が感じられて面白いところです。
はくたか
ダイヤ改正後も「はくたか」臨時列車は金沢駅始終着となっており、2016年夏の設定開始・2018年3月改正での「はくたか」臨時1往復が定期「あさま」へ格上げ(繁忙期に延長運転)といった変遷をそのまま継承しています。
個性的な糸魚川駅・黒部宇奈月温泉駅を通過する停車駅構成も維持しています。
つるぎ・サンダーバード
「サンダーバード」が臨時列車設定を増やしている通り、「つるぎ」も設定本数が多めに設けられています。
運転日設定を含めて臨時「サンダーバード」と臨時「つるぎ」が完全な1対1接続とされており、また確認可能な範囲では臨時「サンダーバード」は12両編成での設定が原則とされています。
また号数も上下とも乗り継ぎ先の列車が“+1”となるような配慮も見られます。
これらの設定は定期列車でも同様の傾向でしたので、納得の設定と言えそうです。
従来の臨時「サンダーバード」は敦賀駅〜金沢駅間で各特急停車駅に停まるパターンが原則でしたが、臨時「つるぎ」では各停タイプ・速達タイプ双方が設けられています。
下り各駅停車タイプの「つるぎ83号」は11分後ろに加賀温泉駅・芦原温泉駅停車の「かがやき507号」があることと、速達タイプで設定した場合の金沢駅発車時刻となる11時過ぎの金沢駅は満線状態となるため速達タイプでの設定が不可能です。
上り各駅停車タイプの「つるぎ84号」は10分前に各停タイプの「つるぎ12号」・5分後にも「はくたか562号」が走っており速達での設定が不可能です。
これらの1往復以外は現時点で公表されている臨時「つるぎ」は速達タイプとなっており、基本的には速達タイプで設定したい意向が見えてきます。
細かな点では、「つるぎ81号」に至っては後続の「かがやき509号」が完全な接続列車のスジで走行しているため先走りとなっています。当サイトでも過去の予想ダイヤで検証していますが、ここについてはどうしようもなさそうな印象を受けました。
東京・大阪双方から朝に金沢へ向かう列車が北陸に押し寄せるピーク帯が11時〜12時前後となっており、この時間帯の金沢駅が2面4線で捌くにはやや過密なダイヤとなっている印象です。
しらさぎ
「しらさぎ」についてはダイヤ改正以降一切設けられておらず、定期列車の増結で賄える範囲の利用者数を見込んでいることが読み取れます。
もともと臨時列車設定頻度も「サンダーバード」と比較して少ないうえに、東京駅〜福井駅のような利用が北陸新幹線に転移することを考えれば妥当でしょう。
681系が一部残るのも「しらさぎ」の利用者減少がどこまで進むのかを見極めていることが想像されます。
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