平成の通勤型電車の象徴的な存在であった、5扉・6扉といったドア数を増やした通勤型電車。
関東では2系統で最後の活躍をしていましたが、2020年3月にひっそりと姿を消すこととなりました。
最後の活躍2系統で相次ぐ運用終了
2020年に入っても多扉車両を運用していたのは、JR東日本の中央線・総武線各駅停車と、東京メトロ日比谷線・東武スカイツリーライン直通の2系統でした。
中央・総武線各駅停車では山手線新型車両投入に関連したE231系の玉突き転用にて全編成を4扉化する動きとなっていました。
同路線に残存するE231系0番台についても機器更新などと併せて全車4扉化が行われていますが、車齢が比較的若く、最後まで残存していたB80編成・B82編成が3月14日のダイヤ改正にあわせる形で運用離脱、ホームの乗車目標も撤去されています。
中央・総武線各駅停車では、JR東日本の他路線同様にホームドア設置を進めることとなっており、多扉車のドア位置・ドア数の違いが課題となっていました。
他路線でも4扉車に回帰する動きが続けられていましたが、これによりJR東日本で活躍した多数の6扉車が全廃となります。
また、日比谷線・東武線では在来形式の世代交代に関連して置き換えがすすめられてきました。
こちらについても、日比谷線特有の車体長の違いを解消しなければ東武スカイツリーラインへおホームドア設置が難しいことなどを背景に、一般的な20m4扉の新型車両への代替が進められていました。
東京メトロ03系・東武20050型と両社が多扉車を所有しており、18m3扉8両という編成構成のうち、改札口が両端に偏っている路線事情から両端2両ずつ(編成で4両)が5扉車とされていました。
置き換えにあたり、東京メトロでは5扉車編成を全車解体・3扉車は経年車を含めて多くの車両が地方私鉄への譲渡が行われこととなったためか、多扉車組み込み編成から優先的に廃車が進められた印象です。
一方、東武鉄道では、20000系列のうち、3扉車の20000型,20070型と5扉車連結の20050型を組み合わせる形で地方線区転用を進めることとなり、概ね通常車・多扉車が交互に廃車される格好となりました。
この結果、最後まで東武20050型が多扉車の生き残りとして活躍を続けてきました。
日比谷線系統に新たに導入される着席サービス“THライナー”の使用車両として開発された70090型の試運転が完了、ライナー列車の運行開始を待たずに営業運転へ登板されました。
入れ替えれる形で3月27日に残存していた20000型・20050型が一斉に運用離脱をする形になりました。
両形式とも事前告知はなく、見送るファンも見られない静かな最後となりました。
他路線もホームドアの関係で急速撤退
つい最近まで他の路線でも通勤輸送の切り札として活躍していたことは記憶に新しいですが、ホームドア設置に関連して急速に姿を消すこととなりました。
山手線~わずか5年で廃車解体
東京を環状する大動脈・山手線ですが、多扉車では珍しく、後継形式が登場した路線です。
山手線の6扉車両は205系が投入された直後に山手線の11両化とともに行われています。
後継車両となるE231系500番台でもその効果を評価し、1編成で2両が6扉車という強力な体制となりました。
ホームドア設置に関連して、52編成・104両の6扉車を真っ先に代替。
多くの部品は代替車へ再利用されたようですが、かなりもったいないと感じた方も多いかもしれません。
波乱のE231系500番台でしたが、転用先の中央・総武線各駅停車でも6扉車代替に貢献することとなりました。
京浜東北線~209系1世代で完結
京浜東北線では、103系を中心とした車両代替を進めるため、209系0番台による置き換えが進められた際、途中から6扉車の連結が実施されています。
こちらも試作車と短期間活用された500番台を除いたほとんどの編成に6扉車が連結されていました。
後継車両となるE233系1000番台でも6扉車の連結も検討されていたと言われていますが、山手線でホームドア設置の動きが出てきた時期と重なり、田端駅~田町駅間で異常時などに線路を共用する京浜東北線についても全車4扉車で製造されています。
埼京線~205系転入で大規模組み替え
埼京線では、元々活躍していた205系に組み込む形で、置き換えられた山手線の205系の転用が行われて、大多数の編成が10両のうち2両を6扉車連結に組み込まれることとなりました。
後継の埼京線E233系7000番台についても6扉車の処遇が注目されましたが、こちらも拡幅車体による定員増加などを背景に全車4扉にて製造されました。
横浜線~珍車・サハ204-100番台が活躍
横浜線についても、山手線同様に混雑緩和施策として8両化をする際に205系6扉車が連結されました。
この時点で既に京浜東北線向け209系の開発・製造が行われていたこともあり、台車やドアなど随所の209系のものが使われています。
横浜線についても、後継のE233系6000番台では全車4扉となりました。
東神奈川駅以南・根岸線内で京浜東北線車両と同じ線路を使用しているので、妥当な動きでしょうか。
田園都市線~6扉車3両という強力体制だったが……
近年ラッシュの混雑の悪化が大きな問題となっていた東急田園都市線。
最新型5000系に6扉車を2両連結することとなり、組み換えも行われました。
その後、更にもう1両追加され、編成内の中間付随車3両すべてを6扉車とする派手な組み換え劇が実施され、最終的に15編成45両が混雑時の優等列車に専属で投入されました。
航空業界の経営不振問題で大きな損失を受けた東急電鉄が苦しい車両采配に追われながらやっとの思いで製造した車両たちでしたが、やはりホームドア設置の都合で早期に置きかえが進められています。
詳しい組み換えは別記事で紹介していますので、興味がある方はぜひどうぞ。
各社が悩んだ乗降遅延対策~ドア数増加VSワイドドア
高度経済成長期以降、各社で混雑緩和・乗降遅延対策が考えられていました。
もちろん増結・増発が最大の効力を発揮するのは言うまでもありませんが、既に列車本数・用地も限界に達していました。
そのため、各社ではドア数を増やして乗り降りをスムーズにするという多扉車が開発されましたが、この他にも小田急電鉄・営団地下鉄(当時)東西線ではドアの幅を広く取ることで乗降をスムーズにするという“ワイドドア”が投入されました。
小田急では通常1.3m幅のドアをなんと2mという大胆な設計で開発したものの、ドアが大きすぎて開閉に時間がかかるという欠点があったほか、座席定員が大きく減少してしまうことから、後天的改造で1.6m幅とされています。
この再改造や、その後の普及を考えると多扉車の方が混雑緩和効果が大きかったかと思われていましたが、昨今のホームドア設置の動きでは、多扉車はドア位置が大きく異なるという点で厄介な存在となってしまいました。
元祖である小田急1000系のワイドドア車両は順次行われているリニューアルの対象からは外される模様ですが、後輩の2000系は元気に活躍しており、当面はその特徴的な外観を見ることが出来そうです。
また、東京メトロ東西線では、05系の初期車でワイドドア車両が投入されて以降は一般車両の製造が続いていましたが、久々にワイドドアの新形式・15000系が登場しています。
既存車も一般の初期車を廃車・ワイドドア車両は更新対象とされており、最近発表された設備投資計画では保安装置更新も公表されています。
多扉車より効果が薄いと言われていたワイドドア車両。
ひっそり横浜市営地下鉄が1.5m幅のドアを採用しているなど、もうしばらくその活躍を見ることが出来そうです。
最後の“多扉車”の生き残りは関西
以上のように、関東で姿を消すこととなった多扉車ですが、意外にも関西で活躍する長寿車両が存在します。
最後の多扉車を運用するのは京阪電気鉄道。通常3扉の京阪電車ですが、この5000系については5扉車両となっています。
朝ラッシュ時間帯以外は3扉車として運用出来るよう、締め切ったドア部分に昇降式の座席を配置する……という特殊機構が組み込まれています。
特殊用途車両では珍しい長寿の活躍を続けていましたが、こちらも置きかえが進められています。
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