JR東海では2021年より211系・213系・311系の代替のため、新形式の315系の開発・製造が進められていました。
事前に公表されていた通り2022年3月5日より営業運転が開始されましたが、これと前後して既存車の動きが活発化しています。
22年ぶりの通勤型電車の新形式
JR東海では国鉄分割民営化直後からしばらくは国鉄211系・213系をアレンジした5000番台,6000番台と、これをベースに東海道本線用の転換クロスシートとした311系の投入が進められました。このうち大規模な投入となった211系ではロングシートを採用しています。
その後はしばらく期間が開いており、1999年から投入が開始された313系によって103系,113系,115系,117系,119系,123系といった国鉄時代製造の電車が順次置き換えられました。
313系の投入では、静岡エリアをロングシート車とした一方で、名古屋エリアでは転換クロスシート車が中心とされました。
2020年1月には、313系投入完遂後も唯一残されていた国鉄製造車両である211系0番台のほか、民営化直後に製造された211系,213系,311系の置き換え用の新形式・315系の導入が明らかになりました。
2025年度までの導入計画が順次明らかになったほか、投入路線のうち中央西線については名古屋〜中津川間の全列車が315系に統一されること・211系と同様にロングシートでの投入となることも示されています。
参考:置き換え対象車両と運用線区
大垣車両区 | 神領車両区 | 静岡車両区 | 総数 | |
211系 0番台 | 配置なし | 4両×2編成 (K51,K52) | 配置なし | 8両 |
211系 5000番台 | 配置なし | 4両×20編成 (K1-K20) 3両×17編成 (K101-K117) | 3両×20編成 (LL1-LL20) 3両×11編成 (SS1-SS11) 2両×9編成 (GG1-GG9) | 242両 |
213系 | 2両×14編成 (H1-H14) | 配置なし | 配置なし | 28両 |
311系 | 4両×15編成 (G1-G15) | 配置なし | 配置なし | 60両 |
総数 | 88両 | 139両 | 111両 | 338両 |
参考:JR東海の車両投入計画(2021-2025)
年度 | N700S系 | 315系 | HC85系 |
2021 | 16両9編成=144両 | 8両7編成=56両 | – |
2022 | 16両8編成=128両 | 8両6編成・ 4両2編成=56両 | 構成不明 58両 |
2023 | 不明 | 8両10編成・ 4両10編成=120両 | 構成不明 6両 |
2024 | 不明 | 4両16編成=64両 | – |
2025 | 不明 | 4両14編成=56両 | – |
ダイヤ改正前週の営業運転開始
趣味目線で注目される点として、ダイヤ改正と同時ではなく車両投入が先行している点が挙げられます。
この経緯は公表されていませんが、ダイヤ改正後の運用変更に向けた準備期間を設けたと考えることができます。
2021年度の投入分は7編成56両となっており、既に出揃っている状態でした。落成した全車が神領車両区に留置されていたわけではなく、一部の編成は大垣車両区に疎開する対応が採られていましたが、デビューに前後して返却されています。
315系が代替するのは211系・213系・311系の3形式ですが、現状を考えると中央西線の8両固定編成化を最優先したスケジュールと考えて間違いない動向です。
2022年3月のダイヤ改正後の315系充当列車が公表されており、これに加えて別の運用にも充当する可能性について記されています。「2023年度中に車両を315系に統一」とされているほか、車両製造を見てもやはり8両編成を先に製造する計画です。
2023年度の早い段階で315系23編成で完結する運用が想像され、更にこれまでの駅掲示などの各種案内から2022年3月改正で中央西線が8両編成に両数統一・従来は一体的に運用されていた関西本線も2両・4両の偶数両数構成に改められることが明らかになっています。そのため、315系がダイヤ改正と同日デビューとされなかったこともこの準備のためと考えられます。
315系の運用は3月5日のデビューから7日現在まで、211系K0編成(4両編成)2本を使用した8両編成の2運用(4両編成だと4運用分)と、313系の元“セントラルライナー”車両である313系8000番台2本を使用した6両編成の運用を1運用(3両編成だと2運用分)を代替する格好となっています。
これ以外の過渡期の動きとして、神領車両区に配置されている313系8000番台(B200編成)車両が通常の313系3両編成の運用を肩代わりしており、これまで定期運用が設定されていなかった愛知環状鉄道直通列車や関西本線に充当されて注目されています。
ダイヤ改正前日までホームライナー運用を担うB200編成はダイヤ改正まで配置を残しつつ、他の3両編成転出をさせるための措置と考えると辻褄が合います。
関西本線の運用も本改正で偶数両に揃えられることから、この移行期間ならではの極めて貴重な光景となりそうです。
211系0番台は廃車回送
3月7日には早くもK51編成・K52編成が回送列車で神領を去っており、動向から“廃車回送”と考えて間違いない動きも発生しています。211系0番台が消滅することで、JR東海の全営業車両が民営化後にデビューした車両となり、JR7社で最速の達成となりました。
今後も他区分車両が順次置き換えられることとなりますが、2022年3月のダイヤ改正は東海道本線名古屋エリアの6両/8両での運転を原則とする増車も労組から発表されるなど、全体的な所要数増加と転属の動きなどの猶予・解体作業のペースなどを考えると、2021年度に納車した56両の同数がすぐに除籍されるとは限りません。
313系転用の幕開け
先述の通り、中央西線の運用が315系に統一されるに先駆ける格好で2022年3月改正では8両編成を前提とした運用構成に改められます。そのため神領車両区の313系に大規模な転属劇が開始することとなります。
これまで8000番台に“ミュージェット”と呼ばれる、いわゆる砂撒き装置を搭載して勾配線区への転属を匂わせる動きに加え、最近では様々な編成に東海道本線金山駅ホームドアに対応したQRコード貼り付けが進められています。
2022年3月改正以降の中央西線8両編成は、211系・313系使用列車は3+3+2・4+4の2種類の構成が考えられます。
神領車両区の211系は0番台を除くと4両編成20本・3両編成17本ですので、4+4が10ペア・3+3に313系1300番台を繋げた編成が8ペア構成出来る計算です。315系8両編成は23編成製造の計画のうち既に7編成が製造されており、既に未落成分と同数〜少し多い数の211系を中心とした布陣で賄うことが可能となる計算です。神領の211系の廃車を優先する以外にも、313系の転出を優先させて他路線の淘汰も並行させることも可能な状態と言えます。
3月に入って313系の3両編成が大垣車両区へ転出する動きが進んでおり、3日にはB106,B107編成が、6日にはB104編成に加え、豊橋に常駐して飯田線快速「みすず」を中心に運用される1700番台B151編成も転出しています。
このことから、2022年3月改正時点で313系のうち1500〜1700番台の3両10編成が大垣車両区に集約されることが濃厚となりました。1700番台については以前から豊橋〜名古屋〜神領を回送で入れ替える体制が組まれており、神領車両区のなかでもやや特殊な存在でした。
大垣車両区管内で新たな3両単独運用が設定される展開はこれまでの発表内容からは考えにくく、3+3両の半固定編成として6両運用に使用したり、先述の1700番台の車両入替のため1600番台+1700番台で大垣〜豊橋間の行き来を完結したりといった活用が想像されます。
この体制は既に313系3000番台で以前から実施されており、将来的には1300番台の転出に関連して213系を淘汰することで、最終的には車両入替のための回送列車を削減することが可能になりそうです。東海道本線としては6両3〜4運用相当の車両が転入してくることとなり、311系の一部を代替することとなりそうです。
313系の転出を先行させることで、今後は各地の検査期限が近い車両を順次代替することが可能となります。神領車両区の211系5000番台には直前まで定期検査を施工していたことからも、必ずしも同区の廃車のみを優先する必要はなく、車両発注時点で合理性を考慮した極めて綿密な計画が練られていたことが読み取れます。
これまでの動向を踏まえると、2021年度に落成した315系の7編成56両は、211系0番台の直接代替(2編成8両)・313系3両編成の転出分(16編成48両)と合致することからも、残された3両編成にも同様の運命が待っていることまでは想像しやすいと言えます。
残された疑問点は8000番台の転用先と、将来的な関西本線や飯田線運用分の車両所属先でしょうか。特に前者はダイヤ改正後の動きで徐々に明らかになりそうです。
参考:313系“神領タイプ”現在の状況
ダイヤ改正前から1100番台が大垣に配置されていますが、中央西線向け設計の車両として1000番台・8000番台が付与されている車両の編成数と配置の簡略表です。
所属 | 番台 | 両数/装備 | 編成番号 |
神領 | 1000 | 4両編成 | B1〜B3 |
神領 | 1100 | 4両編成 | B4〜B6 |
大垣 | 1100 | 4両編成 | J1〜J10 |
神領 | 1300 | 2両編成 | B401〜B408 |
神領 | 1300 | 2両編成 ワンマン | B501〜B524 |
神領 →大垣 | 1500 | 3両編成 | B101〜B103 →J151〜J153? |
神領 →大垣 | 1600 | 3両編成 | B104〜B107 →J161〜J164 |
神領 →大垣 | 1700 | 3両編成 | B151〜B153 →J171〜J173 |
神領 →静岡 | 8000 | 3両編成 ライナー | B201〜B206 →編成番号不明 |
更なる転出もあり得る?
313系以外の動向としては、将来的に一時的な措置として神領の211系を静岡に転属させる動きも考えられます。
静岡エリアでは以前より、トイレ無しの列車を極力解消するため211系+313系の構成を基本とした運用体系とされていました。
一方で、315系は4両編成と8両編成しか投入されないことが明らかになっているため、静岡エリアの普通列車に4両編成が登場することが確実な状態です。現在のダイヤでは4両編成運用としての設定がないため、静岡車両区向けの315系が順次落成しても運用入りが出来ず、ダイヤ改正を待つ必要が生じます。
そのため、トイレ付きの211系4両編成単行で運転を開始するための運用整理を先行して実施し、その後315系で直接代替とする展開が考えられます。
2022年3月改正が中央西線の両数見直しを先行させた後に211系を315系で直接代替していく流れであることを考えれば、同様に211系神領車を活用して従来の2両・3両を組み合わせた運用から4両編成と短編成運用を分けた運用に先行して移行することも十分考えられる展開と言えそうです。
置き換え車両と新造数は既に判明していますが、大規模となることだけは明らかな313系の転属はまだまだ全貌が不明で、ファンの間でも様々な予想が飛び交っています。今後が楽しみな車両です。
他社譲渡の“優良な出物”?
今回代替される211系,213系,311系の話題として、ファンからは他の鉄道事業者への譲渡に期待する声が多く上がっています。
これは放出される車両が2両,3両,4両といった柔軟な構成が可能なほか、トイレの有無・車内設備の相違などの選択肢が多く、車齢も新しくないものの保守性の高いステンレス車両であることなどが背景です。
車齢が古く取り扱いが異なる211系0番台こそ解体が濃厚ですが、211系5000,6000番台は3扉ロングシートで2,3,4両編成かつトイレ有無が選択可能、213系は全国的にも珍しい2扉車かつバリアフリー対応のトイレ設備や半自動ドアボタンなどの閑散線区向けの設備を完備、311系は転換クロスシートの3扉車で3両化も可能な設計です。
いずれも比較的体力のあるJR東海が保有していたこともあり、コンディションは悪くはなさそうです。
ファンの間では国鉄車の入線実績がある事業者として、伊豆箱根鉄道や富山地方鉄道などを期待する声が聞かれます。
伊豆箱根鉄道では、鋼製車体かつ経年車である3000系初期車4編成などの代替に適任な印象です。以前からファンの間では東京メトロ03系購入の4つめの事業者なのではないか?といった噂があったものの(過去記事)、何らかの都合で計画は頓挫したようで03系は一部が解体されています。
3000系初期車は既に経年40年が経過している車両もあり、これは西武101系を譲受した1300系も同様です。伊豆箱根鉄道駿豆線で使用する車両としては理想となる20m3扉かつステンレスの車両ということで、条件としては合致しています。静岡エリアのトイレ無し3両編成をそのまま譲受するのはもちろんですが、「踊り子」のE257系導入のため変電所設備を更新していること・繋がりの強い西武鉄道からの車両放出が期待しにくいことから、VVVFインバータ制御への改修をして長く使用する前提での導入はあり得そうです。
保安装置の改修が不要であることに加え、将来的な保安装置改修に向けた期待も出来ます。伊豆箱根鉄道では2010年代にATS-SN/ST相当への改修が進められました。
将来的にはJR東日本の車両が乗り入れており、同社ではATS-SN形の省略が進められているほか、JR東海でもバックアップのみに使用するに留まるなど、乗り入れ先の意向に合わせてATS-P形が導入される可能性自体は否定できません。この際、211系などを譲受しておけば、高額となりがちなATS-P形の採用ハードルが下がるメリットとなりそうです。
富山地方鉄道では近年、東急8590系→17480形や西武10000系“ニューレッドアロー”→20020形などの導入が実現しています。
同社では2扉車が主流となっており、東急8590系を譲受した際も中間2扉を締切扱いとしています。富山地方鉄道では普通から特急まで幅広い運用を担うことを考えると、かつての国鉄急行形のような車両が理想と考えられます。
また、現時点でVVVFインバータ制御車両を導入しておらず、変電所設備の改修が不要かつステンレス車両、そして富山地方鉄道の実態を総合すれば、最も適した車両はバリアフリー設備も完備した213系と言っても差し支えない印象です。
新造から50年・譲渡から30年が経過した京阪3000系→10030形や新造から50年・譲渡から25年が経過した西武5000系→16010形、新造から40年が経過する14760形などの代替車両として大規模な導入もあり得そうです。
その他の国内の鉄道事業者では、えちぜん鉄道も注目されます。同社はJR東海から119系を譲受しMC7000形として運用していますが、愛知環状鉄道開業時に導入された100系を改造したMC6000形14両が残存しています。彼らの車齢は211系と同世代ですが、部品の一部に101系の廃車発生品が搭載されている車両です。最近では静鉄1000系1編成の譲受が決定していますが、あくまで観光列車用とされており、本格的な代替は211系,213系,311系のいずれかとされるかもしれません。
211系列の先頭車化改造はJR西日本で実績があるほか、えちぜん鉄道の車両改造は長年に渡り阪神車両メンテナンスが受託しています。211系6000番台や213系5000番台の単行化改造・VVVFインバータ制御化改造などもあり得そうです。
このほか、海外への譲渡も実現が期待されます。JR東海の中古車両は気動車を中心に実績があり、VVVFインバータ世代の車両は保守の観点からかえって敬遠される国・事業者の手に渡るかもしれません。ステンレス・ロングシート・放出車両数が多いといった条件は比較的悪くない印象です。
いずれもあくまでファンの間で話題になっているに過ぎず、現時点では211系,213系,311系譲渡については公表は一切なく、それを見越した動きも見られません。ダイヤ改正後も話題となるかと思いますので、313系の動きとともに見守りたいところです。
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