
一昔前までは全国のあちこちで見られた”食堂車”。今となってはすっかり影が薄くなってしまいました。
鉄道会社の都合を鑑みれば当然のことなのでしょうが、ちょっと寂しいですね。
そこで今回は、都内で手軽に食堂車気分を味わえる、カレーステーション・ナイアガラを紹介します!
祐天寺にナイアガラ有り
2017年(平成29年)3月改正時に通過線が設けられたことが話題となった、東京都は目黒区に位置する東急東横線の祐天寺駅。
そこから5分程線路に沿って渋谷方面に歩くと、住宅街に突如として異質な門構えの建物が現れます。
軒下にはD51の前頭部や踏切警報機、各種看板がずらり。
どれも、中目黒からほど近い住宅街にあるとは想像できないものばかりです。
そして、この建物こそが鉄道ファンにはお馴染みの鉄道カレー店「ナイアガラ」です。

偶然通りがかった希少車、Y517と絡めて一枚。青くない屋根と一体型の側面幕が特徴だ。
店名にまつわるエピソード
言わずと知れたこの店名ですが、そもそもなぜ「ナイアガラ」なのでしょうか?
ここまで鉄道に肩入れしているなら、店名が鉄道用語でもおかしくありませんよね。
そう思ってホームページを覗いてみると、衝撃の由来が紹介されていました。
・先代店主の姓「ナイトウ」とカレーづくりの師匠の名「ナイル」に共通する「ナイ」をもじった
・ナイアガラ滝の知名度と、枯れることのない水流に商売繁盛の意をかけて命名した
・1950年代のマリリンモンロー主演のハリウッド映画「ナイアガラ」の知名度にあやかろうとした
・セントラルニューヨーク鉄道で20世紀特急を牽引した「ナイアガラ号」にかけた
なんと、日本のものではないだけで、店名はしっかり鉄道用語に由来していたんですね。脱帽です。
知名度の高い単語、ユーモア、鉄道用語がバランスよく織り込まれた、とてもセンスのいい店名だと思います。
では、店名を決める以前に、このカレーショップはいつどのようにして生まれたのでしょうか?
初代店主 内藤さんの過去
出店のきっかけは、初代店主である内藤博敏さんの生い立ちにありました。
”鉄道”と”カレー”という一見相容れないジャンルの融合のルーツは、先代店主である内藤博敏さんの戦時疎開経験にありました。博敏さんは9歳の頃に姉と東京から縁故疎開し、富山県の泊に移り住みました。
その際に、現地の学生と上手く馴染めず、毎日のように泊駅に赴いては東京を、そして好物だった母と祖母が作るカレーライスを恋しがっていたそう。
そんな博敏少年に優しく接してくれたのが泊の駅員や駅長さんで、話を聞いたり、使用済みの切符をプレゼントしてくれたりしたそうです。
博敏さんはそれに感激し、鉄道コレクターの道を歩んでいくことになりました。

現在はえちごトキめき鉄道とあいの風とやま鉄道の運転系統上の境界駅となった泊で、若き内藤さんは東京を恋慕った。
中学を卒業してからは、渋谷の東急文化会館(渋谷ヒカリエの前身。プラネタリウムが人気を博した。)内の東急ゴールデンホールにて料理修行をしたのちにナイアガラを開業。
当初はインド風の内装だったようで、現在はカレーの味付けに用いられているギーオイル(乳成分を原料とする、インド発祥のオイル)などにその面影を垣間見る事ができます。
お店に伝わる”伝説”
昭和38年の開業からしばらくして、40年代に差し掛かると経営が軌道に乗り、それと同時に内藤さんの鉄道熱が再燃。
鉄道工場等で行われる部品即売会に出かけてはグッズを集める日々が続き、いつしか総収集点数は数千点に。
内藤さんが亡くなった後も一般社団法人である鉄道文化振興会が引き続きそのコレクションを管理しています。
その凄絶さを裏付ける、「テレビ局が赤帽(国鉄時代、駅に設置されたポーター)の取材をしようと大宮の鉄道博物館を訪れたが現物は無く、代わりに勧められたナイアガラに行くとあった」というエピソードがあり、部分的に鉄博を超えているということに驚かされます。

東京⇔大阪のサボは北陸線経由のものだろうか。
気になるカレーの味は?
そり立つような背もたれに、青いモケットが印象的な国鉄型のボックスシート。
そんな座席には、やはり駅弁と緑茶が似合いますが、ナイアガラでのお供はカレー。
オハ61形客車の木造座席を使用した席もあるほか、店内を照らすのは特急つばめの食堂車に設けられていた照明です。
おすすめはカツカレーのようですが、他サイト様の記事と同じようなものを紹介しても仕方がないので、今回はあえて外してカレースパゲティと、ナイアガラカレーの辛口の食券を購入したうえで注文しました。
火曜日の14時ごろに訪れましたが、お客さんは常に自分含めて3人程でした。料理のサーブは、皆さんご存知の通り店員さんの「発車しまーす!」という声と共にSL模型の牽引によって行われます。
話題性もさることながら、広くはない店内において、安全に素早く料理を提供するための手段としても用いられているようにも感じました。
鉄道の本質を突いた、ナイアガラらしいサービスですね。

オニオンドレッシングの塩気と旨みが堪らない逸品です。

カレーは出来立て、あつあつの状態で運ばれてきますので、一口目には注意が必要です。
軽く冷まして口の中へ運ぶと、フルーティーな風味が広がります。
その後はじゃがいもの旨みと、若干のスパイシーな香りがやってきます。
小麦粉を2時間煎って作られたルーの風味はとても豊かで、丁寧かつ柔らかな味覚の広がりを楽しめます。
ただ、ナイアガラのカレーは全体的に甘口との評判(私もそう思いました)ですので、辛みを求める方は是非とも”超特急”(激辛)に挑戦してみてください!
ナイアガラカレーに300円増しで、辛さ50倍のカレーをオーダーする事ができます。

とろけるチーズのまろやかさと、ピーマンが引き立てるスパイシーさが織りなす美味しさに感動。
カレースパゲティもナイアガラカレーに負けず劣らずのお味です。
まろやかさに加えて野菜のスパイシーな香りが強いのが特徴でしょうか。
辛さの指定は注文時にしなかったので、おそらく中辛でサービスされたのでしょう。
辛さはあまり感じませんでした。
それにつけてもナイアガラのルーはチーズとの相性が抜群です。
芳醇な風味をとろけたチーズが包み込み、類稀な美味しさを制出しています。すぐに食べ終えてしまいました。
料理の味もさることながら、店員さんのきめ細やかなサービスも目につきました。
頻繁に水を注ぎに来てくださったり、始終丁寧な言葉遣いで応対してくださったり…とても居心地がよかったです。
まとめ
今回は祐天寺の鉄道カレーショップ「ナイアガラ」を、様々なエピソードを交えて紹介させて頂きました。
筆者は平成生まれなので、残念ながらこのカレーが”昭和の味”なのかどうかはわかりませんでしたが、チェーン店やレトルトのものとは違う丁寧さや暖かさを感じ取る事ができました。

あらゆる面から”鉄道”を感じ取る事ができる貴重なお店である「ナイアガラ」。
渋谷至近でアクセスは抜群です。
鉄道好きでない方でも楽しめるこのお店、ご友人やご家族と、そして国鉄時代の旅風情が恋しくなった方は、是非訪れてみてはいかがでしょうか?
店名 :カレーステーションナイアガラ
営業時間:11:00~20:00
定休日 :祝日を除く月曜日・木曜日
アクセス:東急東横線祐天寺駅から徒歩約5分
所在地 :〒153-0052 東京都目黒区祐天寺1-21-2
TEL :03-3713-2602
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