JR東日本では以前より中央線快速電車へのグリーン車連結・12両編成化に向けた準備が進められています。
4月に半導体不足により2024年度末以降への延期が公表されたばかりですが、事実上“量産先行車”であるサロE233-1,サロE232-1の2両が総合車両製作所(J-TREC)横浜事業所を出場しました。
2回の延期となっている中央線快速電車のグリーン車連結
中央線快速電車のグリーン車連結は2015年2月4日に発表された計画です(外部PDF)。当初時点では「グリーン車サービスは2020年度に開始することを目指」すことが示されていました。
2017年3月28日にはにバリアフリー等の他施策との工程調整や関係箇所との協議等により「サービス開始時期を数年程度延期」することが発表(外部PDF)され、2018年4月3日には2023年度末のサービス開始に向けて準備を進めるとしていました(外部PDF)。
2022年4月27日に発表された設備投資計画(外部PDF)のなかで2度目の延期が記されており、「少なくとも1年程度遅れる見込み」「具体的なサービス開始時期については、決まり次第、お伝えします」としています。
現時点でその後の続報はなく、2024年度末にサービスが開始されるのか、より遅い開始時期となるのかは示されていません。また、この発表では半導体不足の影響が車両新造・改造へ及んでいるのか、それとも地上設備の改修に及んでいるのかも公表されていません。
出場したグリーン車を見る
今回出場したのは、JR東日本E233系のサロE233-1・サロE232-1の2両です。E233系ではなるべく編成内の車号末尾を揃える工夫がされていますが、今回の2両が“トップナンバー”のT1編成に組み込まれるのか否かは現時点で不明です。
車体形状として目を惹くポイントとして、以前から予告されていた両開き扉を採用している点が挙げられます。始終着駅の東京駅をはじめとする乗降時間短縮のための設計で、JR東日本でこれまで製造されてきた2階建てグリーン車としては初採用です(ただし、常磐線向けのクハ415 1901でダブルデッカー両扉車の先例自体はあります)。
当初のイメージ図と比較するとE233系普通車の四角い複層ガラスの扉ではなく、従来のグリーン車各形式・E231系以前の普通車で採用されていた単層ガラス窓とされている点が意外な印象です。
また、ドア部分に帯が入っていない点もイメージ図から変更されています。JR東日本のこれまでの車両ではE231系以前・E235系ではドアに帯なし、E233系のみドアに帯ありというルールが維持されてきました。
E233系設計ながらE231系として製造されたサハE231-4600(山手線10号車)は帯なし・E231系グリーン車設計踏襲ながらE233系として製造されたサロE233-3000,サロE232-3000(東海道・東北・高崎線グリーン車)は帯ありとなっており、遂に“例外”が登場した格好です。
尤も、ドアに帯を追加するだけなら量産が進行するタイミングで変更されることは十分に考えられます。
ドア自体もE231系以前のものと共通化されているものではなく、グリーン車の車体断面に合わせた専用品とみられます。従来グリーン車の片開き扉と同様に、窓下で折れ目が目立ちます。
従来車と座席定員数を揃えつつ両開きの扉を配置するため、従来の2階建てグリーン車の設計から変更されている箇所が随所で確認できます。
最大の変更点として、従来車両と比較すると2階建て部分が1列分多く配置されています。これにより従来は2連窓4つ+小窓1つだった2階建て部分が2連窓5つに変化しています。
2階建て部分が増え、ドア幅が拡大した分は車端部の平屋区画が削減されています。
従来車では普通車との境となる4号車の3号車寄り・5号車の6号車寄りには3列、グリーン車間の連結部となる4号車の5号車寄り・5号車の4号車寄りは2列の座席と車掌室/アテンダント室やトイレが設置されていました。
今回登場した中央線向けグリーン車では、4号車の3号車寄り・5号車の4号車寄り・5号車の6号車寄りに2列、4号車の5号車寄りには座席はなく車掌室/アテンダント室やトイレが設置されている模様です。
2階建て部分が合計16席増加・平屋部分が16席減少するしているものとみられ、これによりグリーン車全体での180人/編成の座席数を維持しつつ両開き扉配置を実現している模様です。
従来車では4号車・5号車の座席定員はともに90人で揃えられていましたが、今回の中央線快速電車用グリーン車では4号車が86人・5号車が94人と異なる格好です。特に人気の平屋部分を狙う場合は4号車の5号車寄り乗車口は避ける必要があるなど、利用者・“乗り鉄”目線では一癖ある車両となりました。
なお、単純に考えれば若干のシートピッチ(座席間の幅)が犠牲になっているものと見られますが、外観だけではどの程度の変更なのかの推測は難しいところです。
こちらも外観だけでは断定出来ないものの、台車間隔が広がる=台車が両端に寄ると、曲線通過時に従来車と比較して車体中央部が内側に寄ることとなります。このため、建築限界の範囲内に収めるために車体幅なども見直されている可能性があります。
トイレ・洗面所・アテンダント準備室が1箇所に集約されている点も特徴的です。
どのようなレイアウトとされているかは不明ですが、少なくとも北側(山側)側面にのみカーテンがある窓が1つあるため、こちら側がアテンダント準備室と考えられます。
現時点で断定は難しいですが、北側にアテンダント準備室・南側にトイレと洗面所……といった構成でしょうか。
このほか、行き先表示器が1号車寄りに統一されており、北側となる側面を見ると左寄りに配置されている格好です。従来車では普通車が側面中央・グリーン車は側面右端に設置されていたため、こちらも特異な印象を受けます。
細やかな点では、E235系1000番台と同様にドアコック表記が高いところにも入れられています。ホームドア導入を見越した動きです。
試運転は長期間実施か
先述の通り、従来の2階建てグリーン車と比較して設計変更点が非常に多岐に渡っており、特に骨格である車体構造が一新されています。
特殊な窓配置で話題となった山手線向けサハE231-4600の事例と同様に、試験期間は比較的長期化するものと見られます。
一方で、地上設備側の改修が未完了なため運用開始にはまだまだ時間を要することが確定的であり、今回製造された2両は試験を済ませたら編成から外されて長期間留置……といった動きが発生しても不思議ではありません。
この場合は本運用時の連結相手に組み込まない場合もあり得ます。現在も209系1000番台2編成・新造のE233系T71編成を迎え入れ既存車の改造が進行しているほか、今後中央線E233系は機器更新時期を迎えるためどのような動きとなるのかは推測が難しい状態です。
入籍が2022年7月と車体に記述されていることから、早くも7月中には公式試運転(製造メーカーから鉄道事業者へ引き渡しをするための試験)でその勇姿を見ることが出来そうです。
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