【北陸新幹線】全線運転再開に目途・水没のE7,W7系の今後は?

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先日の台風19号による千曲川の堤防決壊で、かなりショックな映像となった長野新幹線車両センターの冠水とE7系・W7系の水没。

運転再開目途も発表されましたが、復旧まで時間を要する背景・そのほか気になるトピックを、実際に現地に足を運んだ現状とともにお伝えします。

JR東日本からの発表も厳しいものに

昨日付けの報道により、25日以降の運転再開を目指すほか、留置されていたJR東日本所有のE7系8編成・W7系2編成の状況が明らかになっています。

気密性が高い新幹線車両とはいえ、ニュースでの映像での外観同様やはり座面上から窓下までの高さへの浸水は、そのまま内部にも影響を与えてしまいました。

台車以外の再利用は難しいという判断もされており、北陸新幹線を巡る運用・JR東日本の車両計画については白紙になったと言っても差し支えない発表です。

当初の5~6割という発表は疑問でしたが、昨日には運転再開後は定期列車の8~9割という数字も出てきており、これに臨時列車の最大稼働本数を加えると5~6割という数字にも納得がいきます。

長野新幹線車両センターとその周囲の現状

長野新幹線車両センターとその周辺の水は既に引いているものの、現在もまだ道路の汚泥の除去作業に時間を要している状態です。

国道18号線をはじめとする交通量の多い道路でさえまだ道路の清掃が進められている最中であり、脇道についてはこの清掃すらなかなか進んでいません。

この大量の泥は道路網に深刻な影響を与えており、冠水地域では自動車が横滑り等を起こす為に速度を出すことが出来ず(脇道は10~20km/hが限界で、国道は交通量が多くそれ未満の流れ)、地域とその周辺の一般道は深刻な交通マヒが発生しています。

更に、東京方面からは上信越自動車道・中央自動車道が一部通行止となっていますので、出入りに相当な時間を要します。

昨日の取材日と比べれば、しなの鉄道北しなの線の全線運転再開により、公共交通が復活することで若干の緩和は見込めるものの、災害復旧の本格化もありますので一筋縄ではいかない状況です。

復旧に時間を要する理由

長野新幹線車両センターには、新幹線車両の維持をするための様々な設備だけではなく、保線作業の拠点・更に高圧電線からの受電など、新幹線運転を支える様々な設備が存在していました。

今回、それらのほとんどが全く機能しない状態となっていますので、全線運転再開についてはこれらの設備の復旧が最優先課題となっています。

但し、そもそも沿線に在住するJR東日本職員には被災地域在住者も多いでしょうし、長野総合車両センターなどからの応援に向かわせるにも先述の交通マヒが復旧しない限りは復旧作業が進められないという難しい状態です。

一方で、脱線している編成の復線作業を含め、現状では現状把握以上の作業は行われていない模様です。

特に水流を受け止める形となった千曲川側の編成については 、編成のほとんどが脱線している状態となっています。

やはり車両の去就が気になるところですが、再利用が困難な車両たちの復旧・整備を急ぐよりも、まずは稼働できる車両を使った特別ダイヤでの運転再開という選択は至極妥当な判断と言えるでしょう。

雨風を受ける鉄道車両が冠水には耐えられない理由

新幹線を含めた鉄道車両では、出荷段階で耐水性能の試験で高圧・大量の水の噴射に耐えられるかの試験を行っています。

そのため、風に弱い交通機関である鉄道ですが、雨量規制になって見合わせること・大雨による土砂崩れで長期間運休となることはあっても、雨自体で車両が使えなくなることはほぼありません。

特にE7系・W7系の運用線区である北陸新幹線・上越新幹線では線路にスプリンクラーを設置して線路・車両に水を当てながら融雪する方式も採用されているように、鉄道車両は雨への耐性自体は高められています。

その一方で、そもそも冠水になる状況では保線・設備側に障害が先に生じる可能性が高いこともあり、長時間水に浸ることは想定されていません

それどころか、最近の車両については機器の電子化が進んでいますので、冠水後に再使用出来る可能性については下がっているとも言えそうです。

多くの鉄道有識者としてメディアに出ている方々が保守・再使用する可能性に触れていますが、私は昨日一部メディアで報じられた関係者証言同様、台車以外の床下機器再利用は困難なのではないかと予想しています。

最近の電子部品を多用した機器類は鉄道事業者では保守せず、製造メーカーがメンテナンスする「ブラックボックス」状態な部品も多く存在します。

有名な例として、「歌う電車」として有名なJR東E501系・京急電鉄の2100形・新1000形で採用のSIEMENS(シーメンス)社製のインバータ装置が、機器更新で国産のものに取り換えられたのもこのオーバーホール対応の難しさが背景と言われていますね。

皆様がお手持ちのスマートフォンの修理が部品交換ではなく新品に交換されるように、鉄道部品についても部品交換が当たり前の時代となっています。

車体についても、津波と異なってそれだけで腐食することはないものの、最近流行の座席コンセントの配線はすべて使用不可能ですし、座席も泥汚れとなれば再利用は難しいでしょう。

電気配線については床下機器同様ですし、座席モケットについても、洋服の泥汚れが通常の洗濯では落とせないことを考えていただければイメージしやすいでしょうか。

以上を踏まえると、再利用できる可能性がある部品は配線を外した車体外板・ブレーキ配線を外した台車・車内外の表示機類・パンタグラフ・天井パネルなど数えるほどとなってしまいます。

車齢が若いこと、現在も製造されている形式であること、減価償却期間であることなどを踏まえると、修理という扱いをする可能性があるものの、その修理は実質的な代替新造となりそうですし、再利用できる部品が少ないうえに120両の搬出という難しさを考えて全部廃棄して新造するかという選択のいずれかになりそうです。

阪神・淡路大震災では、搬出が難しいという条件から現地解体した方が安いという判断が下された私鉄車両も存在しています。

近隣の汚泥除去作業の進捗にもよりますが、車両センターの検修設備自体が使いものにならない以上は陸路または鉄路で搬出する必要がありますので、今後の動向に注目したいところです。

代替車両もすぐには出てこない

先述のように、再利用が困難な一方で、各車両メーカーも新形式をはじめとする車両製造が続いていますので、社会的要求を踏まえて優先されたとしてもしばらくは代替車がすぐには出てくる状況ではありません。

同形式車両以外は周波数の違いに対応する必要があるため、転用を阻害する要因となっています。

前回の速報的記事で推測として記した上越新幹線向けのE7系F20~22編成に加え、本年度増備分を中心とした活用が現実的でしょう。

やはり同様の検討されているようですので、当面は年度末時点で7編成になる上越新幹線向け増備車で凌ぐしかありません。

終わりに

今回の台風により大きな被害を受けた皆様に改めてお見舞い申し上げるとともに、亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。

野次馬のような動きをせざるを得ないため、こういったトピックの取材は気が引けるものですが、実地を見て気づいたことは大変多く、勉強させられました。

本ページの広告収益の一部は被災地への支援に充てさせていただく予定です。

動画資料集

YouTubeチャンネル【鉄道ファンの待合室資料館】にてこの列車についての動画を公開しています。チャンネル登録・通知ON・コメント・評価もお願いします。

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