今回は神戸市営地下鉄西神・山手線(西神中央駅~新神戸駅)と北神急行電鉄(新神戸駅~谷上駅)との一体運用を取り上げます。今回の一体運用は事実上、北神急行電鉄を市営化するもの。民営化が流行っている世情を考えると、異色の動きといえるでしょう。この記事を通じて市営化の背景と影響を考えてみました。
そもそも、神戸市営地下鉄と北神急行電鉄とは?
最初に神戸市営地下鉄と北神急行電鉄の概要を確認します。神戸市営地下鉄は西神・山手線(西神中央駅~新神戸駅)と海岸線(新長田駅~三宮・花時計前駅)から成る地下鉄路線です。西神・山手線は北神急行電鉄(新神戸駅~谷上駅)に乗り入れ、神戸市北区と西区を「U」の字のように結んでいます。なお、西神・山手線と海岸線は線路や車両の性格が大きく異なり、完全に別運用になっています。
北神急行電鉄北神線は新神戸駅と谷上駅を結ぶトンネル路線。谷上駅で神戸電鉄有馬線と接続し、神戸市北区から神戸の中心地にあたる三宮へのバイパス線としての役割を果たしています。なお、北神急行電鉄は2002年(平成14年)に主要な鉄道施設を神戸高速鉄道に譲渡し、同社は線路を使用する第2種鉄道事業者となりました。
神戸市営地下鉄、北神急行電鉄共にオリジナルの車両を保有しています。北神急行電鉄の車両は同社が阪急阪神ホールディングスの子会社のせいか、車内は阪急電鉄に酷似しています。
なぜ、一体運用をするのか
報道によりますと、3月29日に神戸市は北神急行電鉄北神線の市営化について、阪急電鉄グループと基本合意に達したことを発表しました。つまり、神戸市営地下鉄が北神線の資産を引き受けるということ。一方、残っている債務は引き継ぎません。譲渡価格は198億円(税別)となり、この価格をめぐって市民の間ではさまざまな議論が展開されています(少なくとも私の身の回りでは)。実現は2020年度中、遅くとも2020年度10月までには実現したい、とのこと。市営化に伴い北神急行電鉄の車両が塗装変更されるのかどうか、そのあたりの詳細情報は伝えられていません。
さて、全国的に見ても市営化は珍しい施策と言えるでしょう。市営化の背景には北神急行電鉄の業績悪化が挙げられます。北神急行電鉄は1988年(昭和63年)に開業しました。従来、谷上駅から三宮駅へ出る際は神戸電鉄有馬線を使って新開地駅まで乗り、新開地駅で神戸高速鉄道線東西線に乗り変える必要がありました。地図で見るとわかりますが、ずいぶん遠回りなルートです。北神急行電鉄北神線は六甲山系を突っ切るトンネル路線のため、大幅な時間短縮を実現しました。2019年4月現在、谷上駅~三宮駅・阪急神戸三宮駅間における昼間の所要時間は以下のとおりです。
谷上駅~三宮駅(北神急行電鉄、神戸市営地下鉄)所要時間10分
谷上駅~神戸三宮駅(神戸電鉄、神戸高速鉄道線)所要時間40分
神戸市北区~三宮駅間には神戸市営バスも運行されていますが、北神急行電鉄経由の所要時間にはかないません。しかし、開業時から乗客の伸びは鈍く、高額な建設コストも相まって北神急行電鉄は深刻な経営難に陥りました。
それでは、なぜ所要時間を大幅に短縮したにも関わらず、乗客数の伸びが鈍かったのでしょうか。最大の理由は三宮駅~谷上駅間の運賃にあります。開業時、三宮駅~谷上駅間の運賃は600円以上! 新神戸駅~谷上駅間の運賃は430円でした。阪急電鉄の神戸三宮駅~梅田駅間の運賃が320円であることを考慮すると、あまりにも高いですよね。
現在、神戸市と国からの補助により、新神戸駅~谷上駅間の運賃は360円になりましたが、割高感は否めません。市営化に伴い、三宮駅~谷上駅間の運賃は280円になる予定。大幅な運賃値下げにより、三宮駅・新神戸駅~谷上駅間の乗客増が期待されています。
今度は神戸電鉄がピンチに?
今回の北神急行電鉄の市営化はさまざまな鉄道路線に影響を及ぼすことが予想されます。その中で筆者が気になるのは神戸の中心地と神戸市北区、三田市、播州地域を結ぶ神戸電鉄です。先ほども解説したとおり、北神線の終着駅である谷上駅で神戸電鉄有馬線に接続しています。
神戸電鉄は粟生線(鈴蘭台駅~粟生駅)の大幅な乗客減により苦しい状態。有馬線(湊川駅~有馬温泉駅)や三田線(有馬口駅~三田駅)の頑張りにより、何とか粟生線を維持しています。仮に北神急行電鉄の市営化に伴い、鈴蘭台経由の乗客が大幅に減少すればどうなるでしょうか。もしかすると、粟生線を維持できる体力が削がれるかもしれません。一方では谷上駅の利用者増により、神戸電鉄も含めた鉄道活性化につながるという意見も見られます。いずれにせよ、北神急行電鉄の市営化は神戸市の交通事情に一石を投じることは間違いなさそうです。
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