【衝撃】西武鉄道が他社車両譲受か〜持株会社発表・2023年度以降か

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西武ホールディングスは12日、「鉄道事業の強化策」の一環で「他社からの譲受車両」の導入を進めることが示されています。

大手私鉄が中古車両を導入するという衝撃的な発表に、西武線沿線内外からも驚きの声が多く上がっています。

本記事は2022年5月13日公開のものです。2023年9月26日に譲受対象は東急電鉄9000系・小田急電鉄8000形と公表されました。

「サステナ」他社車両譲受へ

株式会社西武ホールディングスは2022年5月12日、『2022年3月期 決算実績概況および「西武グループ中期経営計画(2021~2023年度)」の進捗』(PDF)を発表し、このなかで「鉄道事業の強化策」の一環として「他社からの譲受車両」の導入を進めることで固定費削減を前倒しで実施することが示されています。

原文では『鉄道車両については、引き続き車両運用の見直しや買い替え計画を組み合わせ、保有車両数を適正化するとともに、新造車両に限らず、環境負荷の少ない「サステナ車両の導入」を進め、省エネ化、固定費削減を前倒しで実現。』とされており、この「サステナ車両」は「無塗装車体、VVVFインバーター制御車両等の他社からの譲受車両を当社独自の呼称として定義」とされています。

「サステナ車両」の導入効果として「メンテナンスの効率」・「使用電力量の削減」・「車両リサイクルによるサステナビリティへの貢献」の3点を挙げており、全体として「車両数の適正化」・「無塗装+VVVF車両比率の向上」を目指す方向としています。

この資料は「2023/3期以降」とされており、2022年度以降の強化策です。「前倒しで実現」の記載の通り、当初の中期経営計画発表時点で想定されていたものではなく、最近の情勢を踏まえた上で新たに登場した計画と考えられます。

このほか、JR東日本との包括連携強化も示されており、従来のワーケーションやMasS等の取り組みに加え、「鉄道事業における営業面、運転面での連携施策を検討」するとしています。

引用:https://ssl4.eir-parts.net/doc/9024/tdnet/2118922/00.pdf 47頁

2023年4月以降に動き?それとも?

今回の発表では持ち株会社である西武ホールディングスからの発表ではあるものの、示されているデータから伊豆箱根鉄道・近江鉄道ではなく西武鉄道が対象であると考えて間違いなさそうです。

さらにこの資料を読み解くと、『2022年度末の導入予定には他社からの「サステナ車両」の譲受は含んでおりません』という但し書きが記載されています。

単純に読めば「2022年度は譲受車両はなく2023年度以降の動き」と捉えられますが、穿った読み方をすれば「譲受車両(の増加)数が先方と確定していないから現時点では載せられない」とも捉えられます。

同資料で示されているデータにこれまでの車両の動きを加えると、下記の通りです。

西武鉄道
保有車両数
コロナ前
(2019年度末)
2020,21年度
増減数
2021年度末2022年度
増減予定数
2022年度末
(予定)※
全車両1,286両増備+50両
廃車▲77両
合計▲27両
1,259両40000系3編成
+30両
2000系1編成
▲8両
今後廃車▲54両
合計▲62両
1,227両
無塗装+
VVVF車両数
610両
47.4%
+50両660両
52.4%
+30両690両
56.2%
公開資料 データを基に鉄道ファンの待合室が加筆・赤字はデータからの推定・2022年度末の導入予定には他社からの「サステナ車両」の譲受は含まず
増減推移2020年度
▲15両
2021年度
▲12両
2022年度
▲32両
40000系40153F
40154F
+20両
40155F
〜40157F
+30両
40158F?
〜40158F?
+30両
10000系10105F
▲7両
新101系261F(伊豆箱色)
▲4両
1259F(赤電色)
▲4両
2000系2003F(8両)
2001F(8両)
2407F(2両)
2411F(2両)
2401F(2両)
▲22両
2007F
▲8両
新2000系2063F(8両)
2519F(4両)
2521F(4両)
▲16両
9000系9105F中間車
9102F中間車
9103F中間車
9104F中間車
▲24両

発表済データはコロナ前と抽象的な表現とされていますが、無塗装+VVVF車両数の車両数比率から2019年度末のデータであることが読み取れます

2020年度・2021年度の車両の動きを加えると、2022年度の車両の動きは40000系30両が新造されるため、62両の在来車の廃車が計画されていることが分かります。このうち8両は先日多くのファンに惜しまれつつ引退した旧2000系8両編成の2007Fですが、これ以外にも54両もの車両が旅立つこととなるようです。

2022年3月12日のダイヤ改正では朝夕だけでなく日中時間帯のダイヤ見直しを大規模に実施しているものの、最大所要数である朝ラッシュは池袋線で1列車・新宿線で3列車の減便です。単純に減便余剰分である8両編成4本相当と、40000系投入による10両編成3本相当が老朽廃車と考えれば、至極納得のいく廃車計画です。

また、他社車両の“出物”を次年度までに整備するのであればそろそろ譲受元側のヒントがありそうですが、現時点でそれらしきものは見当たりません。

「譲受車両数は先方と確定していないから載せられない」とも捉えられる記述ですが、実際に運用開始・既存車に影響を与えるのは2023年3月改正以降と考えて差し支えなさそうです。

何れにせよ代替対象となりうる“塗装車”である新2000系・新101系・4000系・10000系といったあらゆる在来車の動向を注意深く観察する必要がありそうです。

極めて少ない大手私鉄の車両共通化・譲渡

近年の鉄道車両は日立製作所の「A-train」や総合車両製作所の「sustina」ブランドで知られるように車両メーカー側である程度工法が標準化されていますが、細かい車体寸法や機器配置などは依然として各社の路線規模や設備に合わせて都度開発・設計されています。

この点は完全に車両・機材メーカーの固定形式にオプションを付加する方式の航空機・バス業界とは明確に異なる特徴で、近年の標準化が為される以前は各社がより個性的な車両を製造・運用していました。

直近では自社の車両の系譜を捨ててJR東日本車両に沿った車両投入を進めた相模鉄道、東京メトロ13000系と東武70000系列の共通設計、小さい規模では東急電鉄の運転台レイアウトに近づけた西武40000系の運転台など、会社間で更なる共通化を目指した動きもありますが何れもまだまだレアケースです。

遡ると、終戦直後に国鉄63系電車を運輸省により大手私鉄会社に割り当てた事例があり、この際に大型の20m級電車に対応させた線路・施設の改良による規格変更は現代まで引き継がれたことが知られています。

戦争での車両被災・終戦後の深刻な物資不足という極限状態でやむなく採用された事例ですが、その後も「運輸省規格形電車」として小型車両も各社で酷似した車両が導入された時期がありました。

大手私鉄から大手私鉄での車両譲渡では、東急3700系→名鉄3880系の事例が知られています。この譲渡が実施された1970年代でさえ極めて珍しい事例として現代まで鉄道趣味者に知られる事例となっていますが、東急3700系→名鉄3880系も割当国電に次いで用意された「運輸省規格形電車」であり、あくまで終戦直後の車両投入の余波として起きた事例とも言えそうです。

21世紀に入って大手鉄道事業者が車両譲受をした事例としては東京臨海高速鉄道70-000形がJR東日本の209系3100番台として転用されたもの・東武鉄道が蒸気機関車運行のためにJR各社から機関車,客車,車掌車を譲受したもの・SL銀河運行のためにJR北海道からキハ141系列を譲受したものなどがありますが、いずれも特殊な背景があったため今回の事例を考えるための参考には出来ません。

ファンはもちろん鉄道事業者の関係者でも中古車両を購入するのは中小私鉄・三セク事業者でしか通常は起き得ないと考えるのが常識となっている状態で、今回の決断が極めて異例なものであることは言うまでもありません。

2020年度以降の鉄道各社の動きはファンの想像を遥かに上回る勢いでイレギュラーなものが頻発して都度驚かされてきましたが、今回の内容は最も衝撃的な発表だと言えるのではないでしょうか。

全く想像のつかない譲受車両と投入先

西武グループを巡る近年の中古車両譲受では、西武鉄道で使用されていた101系などを近江鉄道・伊豆箱根鉄道のグループ会社や、秩父鉄道・流鉄(旧:総武流山電鉄)などへの譲渡事例があるものの、譲受側としての歴史は途絶えて久しい状態です。

新たな取引先を開拓していることとなり、外野から相手先を想像をするのは極めて困難です。

先述のように仮に「譲受車両数は先方と確定していないから載せられない」が2022年度内に動きがあると考えると、2022年3月改正〜それ以降の車両代替が決定している車両に限定されます。

直近で車齢が浅く無塗装かつVVVFの余剰廃車としては東京都交通局の6300形が挙げられるものの、先日京王重機整備が廃車処理を落札しています。最有力株であるJR東日本はダイヤ改正の余剰数を予備車増加に充てており、目立った動きはありません。

同様に西武鉄道と関係性が深そうな東京メトロの余剰形式は半蔵門線の8000系ですが、リニューアルを受けてから浅く車内設備も充実しているとはいえ、元々の経年を考えると今更感が拭えません。

消去法で2023年度以降の余剰車を考えた方が良さそうで、まとまった出物としては東京臨海高速鉄道の70-000形が挙げられます。機器更新を受けている20m級4扉車という条件は非常に良好と言え、伊豆急3000系と同様に最小限の改造(西武鉄道の場合は保安装置改修が発生)で比較的すぐに使える車両です。

自社でVVVFインバータ制御への改修や機器更新をすると考えるとJR東海の211系列や311系などまで選択肢はかなり広がりそうですが、導入目的を考えると大規模な改造を含む車両は敬遠されそうです。

立地面でのファン予想では、飛び地となっている西武多摩川線への投入を挙げる声が多く聞かれます

定期検査のたび新101系4両を新秋津〜八王子〜武蔵境駅間で甲種輸送(貨物列車として輸送)をしており、毎度検査前の車両と検査後の車両を入れ替える体制としている上に自社線内の牽引用に更に新101系1編成が運用を離脱します。同一形式・同一路線の車両が同時に3本運用離脱をする格好となっており、これが解消出来れば予備車数の減少にも繋がりそうです。

定期検査を含めたJR東日本への委託が叶えば、自走回送またはE493系牽引車で対応も出来そうで省力化・費用削減効果も大きそうです。一方で保安装置追加が必須なほか、様々な設計・保守思想が異なるJR東日本の車両への対応がどのように実施されるのかは一筋縄とは言えません。

運用面でも加減速特性や保守性が大きく異なる車両が池袋駅・西武新宿駅発着の第一線で共通運用されるとは考えにくく、やはり閑散線区用と考える方が自然でしょうか。

本線系統で考えれば、東京メトロや東急電鉄の在来車の車籍だけを西武に移し、横浜高速鉄道のように運用・保守を委託をするなどがありそうです。2022年3月のダイヤ改正では地下鉄直通列車が大きく削減されており、2022年度には40000系の増備により池袋線の10両固定編成が地下鉄直通対応車両で統一することが可能な状態です。

考えれば考えるほど謎の多い発表で、特に西武線のファンにとってはしばらくヤキモキする日々となりそうです。

「攻め」の姿勢を忘れない西武ホールディングス

西武グループの歴史を振り返ると、戦前に鉄道事業各社をまとめ上げ、戦後は回転率の高い観光・レジャーへの投資を積極的に進めたことが知られています。現在もなお高い人気と知名度を誇る「プリンスホテル」をはじめ、デパート・百貨店ラッシュの時代にも積極的に参入するなど堤家の“攻め”の経営がされてきました。筆者は伊豆半島在住ですので、東急と西武の伊豆戦争の余波は現在も肌身で感じます。

2004年の利益供与事件・有価証券報告書虚偽記載事件では上場廃止となるなど批判の矢面に立たされるも、立て直しのなかでロゴマーク・スローガンなど現在の西武グループの骨格が再形成されています。

西武ホールディングスヒストリー(外部PDF)では、1950年から2003年を「事業拡大・刷新期」、2004年から2016年を「再構築期」と定義しています。このうち「再構築期」には「峻別と集中」がスローガンに掲げらました。「峻別」とは厳しい目線で区別することを意味する単語で、一般的に言われる「選択と集中」で事業の大規模な見直しがされました。

2020年以降のコロナ禍では、他の鉄道事業者と同様に公共交通機関の利用者自体の減少もありますが、先述の統計を見る限りはホテル・レジャー事業と呼称される観光関係の事業が大きな足枷となっている印象を受けます。2022/3期(いわゆる2021年度)は前年度比較でが大きく改善しているものの、依然として苦しい状態と言わざるを得ません。

鉄道事業では、西武所沢工場にて戦後より車両新造や改造をしていたものの、製造業務は段階的に縮小した歴史があります。それ以降も武蔵丘車両検修場で西武鉄道車両の譲渡改造などをも手がけているほか、グループの近江鉄道も以前より複雑な改造を自社で手がけて趣味者の興味を惹くなど、現在も技術力の高さ・ノウハウの多さは国内で鉄道を手掛ける事業者でも上位に入ると言えます。

終戦直後に大量の車両を再生させた歴史も後押ししていそうです。

このほか西武鉄道の鉄道施設としては、長らく貨物輸送を実施・比較的早期に大型車両の投入をしたほか、近年に高架・複々線化事業をした都心部でも同等の規格で建設したことで、近年投入された西武30000系ではJRグループ以外では採用事例が多くない2,930mmの拡幅車体が採用されました。

台車間距離や車体構造の違いもあるため断定は出来ないものの、JR東日本の209系500番台やE231系といった車両をも視野に入れられるはずで、今回の「サステナ」車両の選択肢の幅を大きく広げているはずです。

大手鉄道事業者がどんなに苦しい経営に迫られても触れてこなかった禁断のカードであろう、中古車両譲受を行うという挑戦に踏み切れるのも西武ならではとも言っても過言ではありません。

最大の関心ごとはどこの会社のどの形式を譲受するのかですが、まずは中古車両導入に踏み切るという勇断をした西武鉄道の今後の展開が楽しみです。

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コメント

  1. めっく より:

    今回の件では、101系の動向に注目が集まってますが、
    個人的には、4000系にも大きな変化があると思います。
    理由としては
    ・デビューして34年立つこと
    ・そもそも旧101系の機器流用車であること
    ・秩父線は回生ブレーキ車が入れるようになり、4000系を使い続ける必要がなくなったこと
    ・山間路線を常に4両で走るのは、時間帯によっては過剰であること
    ・週末の都心乗り入れがなくなり、編成数を整理する必要があること

    他社の今後の動きも見ると、
    ・JR東海で、今後ステンレス電車が大量に置き替えられること(別途VVVF改造要)

    これらを考えると、4000系にも変化はあるのではないでしょうか?
    やはり他社からの転用改造が用意な101系や2000系が最優先でしょうか?
    長文失礼しました。

  2. 西武沿線40年以上 より:

    西武に最も近いところで言うなれば、東武の有副直用が現れる。すなわち、東上線にも70090系が導入されない限り、あり得ないと思いますが、東武9000系(9050系)や10000系(VVVF改造車)、元半蔵門線直通用で東武初のワンハンドル30000系が導入される可能性があると思います。あるいは、まだまだ十分使えるのに、ステンレスの改造に限界と表明したかのように廃車を続出させている、小田急電鉄初のステンレス車かつVVVF制御の所謂銀千などが考えられると思います。

    • ふたあさ より:

      読んだ感想として、ちょっと残念な記事でした。
      鉄道系メディアにおいて、枝線系統からの投入と、公表されているにも関わらず、その辺に触れず話を進めてる事に、中身の薄さを感じざるを得ませんでした。
      それともう一つ、8編成しかない車両を筆頭候補に挙げてる時点で、勉強不足を感じざるを得ませんでした。
      ここからは個人的推測ですが、本命は小田急3000形だと睨んでます。
      小田急は60両の削減が可能と報じられており、最低でもリニューアルから漏れている2次車8本は、直ぐに捻出出来る状況な事、今後8連も利用見込みがなくなり、まとまった編成数の導入が期待出来る形式です。
      さらに、小田急からすれば3000形は使いづらい車両である事から、願ったりかなったりでしょう。
      更に経年が70-000より若い車両が多いのもメリットです。
      ただ、この場合1次車4本が気になるところですが、国分寺線専用なら有りかなと考えます。

  3. 飯能短絡線 より:

    都営6300形が6両固定でそのまま国分寺線で使えるからいいと思いましたが、廃車の契約があるのでないのですね。

  4. こいわん より:

    関東大手で地下鉄乗り入れ仕様車を他社と共通設計としたのは東武70000型より小田急4000形の方が先です。
    厳密には譲渡でありませんが1980年代後半に京急の初代1000形が京成電鉄にリースされた例があります。
    ワンハンドル式主幹制御器の形状を乗り入れ先に合わせるのは西武40000系以前にも多数の例がありました。京成3600形のT型(両手操作式)ワンハンドルが都営浅草線乗り入れ各社の標準仕様になりましたし、東京メトロ日比谷線・半蔵門線や直通先の東武鉄道のワンハンドルがT型なのも東急に合わせたものです。
    記事にするならこの辺りは触れてほしかったと思います。