2016年に東海道線・伊東線・伊豆急行線を直通する観光快速列車「伊豆クレイル」(IZU CRAILE)として活躍していた651系IR01編成。
静岡DCアフターキャンペーンにて企画されていたツアーが催行中止となって以降、目立つ動きがありませんでしたが、2020年10月8日から9日にかけて、長野総合車両センターへ配給輸送されています。
伊豆クレイル号の登場から現在までを振り返りつつ、残される651系の今後について考えます。
2回の改造を経て2016年に登場
この「伊豆クレイル」は、651系1000番台のOM301編成を再改造する形で2016年に運行を開始しました。
常磐線で活躍していた651系「スーパーひたち」のうち、7両6編成・4両3編成が185系の一部代替をする格好で高崎線用に配置。交直流車から直流電車として改造(大半は機能停止)されて2014年3月に営業運転を開始しましたが、翌2015年3月には付属編成の運用が早くも削減され、OM301〜OM303編成が余剰車となっていました。
このうちのOM301編成を再活用することとなり、伊豆方面として・651系として初となる「乗ってたのしい列車」として運行を開始しています。
この改造では、1号車・3号車がツアー形式の車両としてそれぞれカウンタータイプ・個室タイプの内装に改められました。
2号車は車内販売・サービス拠点となっているほか、小田原方は生演奏などが行われるフリースペースとなっています。
女性をターゲットにした可愛らしい内装のほか、アルコール販売に力を入れており、同線区のスーパービュー踊り子号でも販売されていた樽生ビール“熟撰”のほか、冷凍みかんを入れたサワー、更にワインの量り売り・ボトル売りなどとかなり豊富なラインナップです。
地元スイーツやパン類など、メニューの品数・こだわりは車内で茹でるサフィール踊り子号以上と記しても差し支えないものでした。
“乗ってたのしい列車”に分類されていましたので、車内販売限定グッズが豊富だった点もファンには嬉しいポイントです。
2020年3月31日の運転を以って、事実上サフィール踊り子号にバトンを託す格好で毎週末運行されていた運行を終了していましたが、その後もツアーでの運行が予定されていました。
伊豆観光の繁忙期には運転なし
観光客の誘致のために全国各地で運行される観光列車ですが、この「伊豆クレイル」は観光需要がありそうな時期には走らない……という珍しい列車でした。
これは、伊東線・伊豆急行線が単線区間であり、設定出来る列車本数に関係しているものと推測できます。
特に河津桜まつりの期間中は毎週末設定出来る限りの特急列車が朝から晩まで設定されており、これに一般の団体臨時列車が加わります。夏休み期間も土休日を中心に、これに近い本数が運行されていました。
伊豆クレイルのダイヤは土休日の使いやすい時刻に設定されていますが、4両中2両がツアー用・1両がフリースペースですので輸送力はかなり小さい車両です。
このため、最も需要が多くなる河津桜まつりの期間には「伊豆クレイル」を設定せず、185系10両の臨時踊り子号を熱海駅以南は同時刻で運行していました。波動用の6+4両編成が使用されることも多く、乗車・撮影ともに珍しい列車として注目されました。
せっかくピンク色のデザインながら、河津桜まつりの満開を走行した事例は、初年度に完全な団体臨時列車として運行されたことと、2020年の開花が非常に早かったことで晩年となる2020年に見られたのみとなりました。
社会情勢を受け催行中止に
臨時快速列車としての「伊豆クレイル号」は2020年3月までとなっていましたが、2020年4月〜6月の「静岡ディスティネーションキャンペーン(静岡DC)アフターキャンペーン」では、オープニングイベント・フィナーレイベントとして651系IR01編成を使用したツアーが設定されていました。
このツアーでは最初で最後となる相模線経由での運行が計画されて注目されていましたが、昨今の社会情勢を受けてツアーは催行中止に。
同時期に引退予定となっていたキハ48形「リゾートみのり」は別日のさよなら運行が計画されていましたが、「伊豆クレイル」はツアーの再設定などはなく、ひっそりと引退することとなりました。
登場から丸4年という時系列から、定期検査時期の関係で難しかったのかもしれませんが、ファンからは残念がる声が多くあがりました。
僅か4年の薄命……やはりサフィールの試金石?
かつてのジョイフルトレインを源流とする“乗ってたのしい列車”シリーズですが、10年以上人気が続く列車も珍しくありません。同じく引退が発表された「リゾートみのり」では、一般利用者も多かったこと(組合資料などに記述あり)から指定席の快速列車が継続運行となっています。
一方で、この伊豆クレイル号については、4号車の指定席区画は差し引いて、それ以外のツアー区画では空き席が目立つ日も多くありました。
先述のように、ハイシーズンに運行するには不都合もあった車両である一方で、繁忙期・閑散期の需要格差が大きいことに加え、いわゆる富裕層向けの列車としては東急が主催するクルーズ列車=THE ROYAL EXPRESSも登場して注目度が落ちてしまったことも背景にありそうです。
新たな需要を掘り出すための小田原駅発着についても、デビュー時は小田急電鉄のロマンスカーとのプロモーションなども行われていましたが、こちらも後年はあまり推していない印象でした。小田急側としては箱根需要のある土休日のいい時間帯のロマンスカーが接続便であること、JR側としても運賃収入の大きな減少となることを考えると、双方のメリットが薄かったものと考えられます。
何かと不遇な印象こそありますが、サフィール踊り子号のアテンダントオペレーション訓練(アテンダントの乗務員訓練)では、伊豆クレイル号用の容器・テーブルマットなどを使用している姿も確認されているなど、スーパービュー踊り子号の次世代車両=サフィール踊り子号の試金石として投入されたと言っても差し支えないでしょう。
サフィール踊り子号が外装・内装の基本コンセプトはスーパービュー踊り子号のグリーン車を踏襲しつつ、車内サービスは伊豆クレイルのような供食列車となったこと、中期経営計画で伊豆方面へ豪華特急を構想していることが明らかになったのもこの列車が出てすぐのこと……などと考えると、伊豆クレイル号は本来の使命を全うして勇退と言えるのではないでしょうか。
乗車定員がもう少し多く、東京・横浜駅などを始発駅にしていれば需要が見込めたことは容易に想像がつきますが、新たなサービスの試金石であればむしろ利用者が多過ぎても踊り子号系統と競合して不都合。JR東日本の本社・横浜支社をはじめ、関係各社のいろいろな思惑があったことと推測できますが、それにしてもファン目線では「もったいない」の一言に尽きるところです。
最初で最後の中央線経由
651系は製造から現在まで、中央本線高尾駅以西の山間部を走行した経歴はありません。
(高尾駅までは快速ぶらり高尾号などで実績あり)
これは登場以来、狭小トンネルに非対応だった関係で、今回の廃車配給輸送についてもEF64形電気機関車の牽引となっています(ただし直流化=シングルアーム化でギリギリ対応しているのかのかパンタグラフ撤去はせず)。
機関車による牽引ながら、伊豆クレイルとしては唯一の、651系としても初めての中央本線山間部・篠ノ井線入線事例となりました。
なお、651系0番台の廃車解体が既に複数実施されてきましたが、これまでは全て郡山総合車両センターで実施されていました。
これは常磐線時代から定期検査を同所で実施していたことに関係するものと推測できますが、もう郡山では同系列の部品取り等の必要がない故の選定が考えられます。長野総合車両センターであれば211系のメンテナンスを行っていますので、251系同様に少ないながらも流用できるものがありそうです。
部品取りのために廃車解体場所が分けられた事例としては、14系客車“ゆとり”やEF65形電気機関車などが挙げられます。
今回の輸送に先立つ格好で、9月18日にはEF64 1030号機との連結訓練が実施されて注目されましたが、こちらは田端運転所まで返却されていました。
今回の廃車配給輸送では、伊豆クレイルとして・651系4両編成としての中央線入線は最初で最後となりますが、651系自体は高崎線特急用の1000番台が7両7編成活躍しています。651系の車齢を考えると、高崎線で使用されている651系1000番台についても、遠くない未来に何らかの方法で代替するものと推測が出来ます。
今回の廃車配給輸送により新しい光景が見られた一方で、651系1000番台の廃車解体が郡山で行われるのか、長野で行われるのか推測が難しくなりました。
参考:東海道線車両その他の動向
参考:251系廃車配給輸送の記事
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・7/2-3 RE-1編成
・9/1-2 RE-4編成
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