【K409編成へ】自動車衝突で廃車〜代替のクハE531-17が甲種輸送

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2021年3月に発生した乗用車の衝突により10両編成1本が使用不能の状態となっていた常磐線E531系。

衝突と火災により激しく損傷して廃車となったクハE531-17の代替として、クハE531-17(二代目)が総合車両製作所(J-TREC)横浜事業所にて新造され2024年2月1日未明に出場。郡山総合車両センターへ向けて甲種輸送が実施されています。

長期離脱と編成組み換え

2021年3月26日に常磐線の土浦駅と神立駅間で発生した乗用車との衝突脱線事故では、先頭車両が乗用車のガソリンに引火して炎上し激しく損傷しました。

この事故の当該編成となっていたK417編成は激しく損傷したクハE531-17(10号車)を外し、同じ10両編成のK409編成に連結されていたクハE531-9(10号車)を組み込み定期検査(装置保全)と機器更新工事を実施。そのまま営業運転に復帰しています。

K417編成に先頭車を供出したK409編成は9両が運用を離脱している状態が続いていましたが、同年8月から翌2022年3月まではK461編成のクハE531-1011(15号車)を連結し元の9両に定期検査(指定保全)を済ませたのち運用に復帰。2022年3月に減車減便を実施するまで活用されたのち、それ以降は再び長い眠りについていました。

2023年10月に入ってK409編成9両が郡山総合車両センターへ配給輸送。同センターで定期検査(車体保全)と機器更新工事を施工している姿が目撃されていました。

郡山総合車両センターの定期検査・機器更新工事スケジュールを保ちつつ、編成組み換えを実施することで必要な車両数を確保、翌年3月のダイヤ改正で運用数減少により帳尻を合わせる……といった、とても工夫の凝らされた動きとなっていました。

K409編成は初期に投入された10両編成として最後の未更新編成、K461編成は初期に投入された5両編成で最後のワンマン対応工事未施工編成として残っていましたが、これら一連の事故余波を2023年度末で完結させる格好となりました。

組み込み先はK409編成に〜落成した車両を見る

今回新造された車両は、JR東日本のE531系クハE531-17の1両です。

総合車両製作所(J-TREC)横浜事業所にて製造され、2月1日未明(1月31日終電後)に同所を出場しました。

先述のように新造先頭車とK409編成の9両、現行のK417編成10両それぞれが検査周期を揃えており、再び編成組み換えを実施して元の編成に戻すメリットが乏しい状態となっていました。

今回新造されたクハE531-17には前面・側面乗務員扉に「K409」の表記も見られ、今後はK409編成の10号車としての活躍が見られることが確実になりました。

JR東日本では2021年11月1日付で車両用信号炎管を廃止しています。

車両用信号炎管は1962年に発生した常磐線三河島事故を契機に国鉄の安全対策として導入されたもので、国鉄分割民営化以降もJR各社や一部私鉄で採用されてきた設備ですが、近年ではより迅速性や確実性に長けた防護無線装置の拡充により同業他社でも廃止の動きが進んでいました。

JR東日本では2022年2月に落成したFV-E991系“HYBARI”、営業車ではE235系1000番台のうち2022年度以降の増備分(2022年4月以降の出場分)から車両用信号炎管が省略されており、これらの車両では台座も設置されておらず外観上の変化が見られます。

E531系の増備は2020年3月に出場したK482,K483編成が最終となっており、三河島を通る常磐線に初めて車両用信号炎管の痕跡がない先頭車が登場することとなりました。

車体の製造銘板も「2024」と明記されており、2024年に「新造」された電車であることを主張しています。

少なくとも先頭台車については銘板に「2024-3」の印字が確認できました。

このほか、2014年度増備分以降の車両で見られた特徴の1つであるラジオ受信アンテナ廃止もあり、屋根上の変化が最大の特徴となりそうです。

そのほかにも製造年・場所の違いにより編成内で異なる箇所が複数生じていることが推測出来るほか、今後の営業運転開始後に新たな仕様も見られるかもしれません。

先頭車1両は廃車・新造

今回の事故で代替で新造された車号は「クハE531-17」とされていますが、初代車両は2022年2月9日付で除籍済みとなっていました。

つまり今回登場した2代目「クハE531-17」は初代「クハE531-17」とは書類上で別の車両、つまりE531系として461両目の新造車となっていることが読み取れます。

何らかの事故により使用不能なほどの大規模な損傷を受けた車両は下記の4通りの動きが考えられます。

不運な事故車のその後

① 編成丸ごと廃車

② 修理名目で代替車両を新造

③ 当該車両を廃車とし、同一番号の新製車両として新造

④ 当該車両を廃車とし、別番号の新製車両として新造

①は編成丸ごと使用不能なほど深刻な事故損傷を受けた事例以上に、一部車両は利用可能であっても別要素により編成ごと廃車となるケースが多く見られます。

特に旧型車両はこのような対応をされる事例が多く、軽微な故障・損傷等であっても同様の対応が採られる場合もあります。近年だと川崎駅構内脱線事故で京浜東北線E233系ウラ177編成が横転した2両以外の8両も運用数減少を受けて編成ごと廃車とされた事例や、相鉄8707×10が10000系投入数を増やすことで編成ごと廃車とされた事例が有名でしょうか。

②は書類上は修理名目=同一の車両とされているものの、実質的に新しい車体や部品を新たに製造している事例です。

特に経年が浅い車両が損傷した場合にこの対応が採られることが多く、13年とされている鉄道車両の減価償却期間内の事故車両で再利用する場合はこの措置が採られるケースが多く見られることから会計処理上の都合が推測されます。

JR東日本だと京浜東北線209系のクハ209-69、外観で特徴的な事例だと青梅線E233系青661編成のクハ232-519を除く5両などがこれに該当します。

③は事故車両は廃車としたのち、代替で新造した車両を同一形式の同一番号で新造するパターンです。

今回のクハE531-17はこれに該当するものとみられます。初代の車両が除籍となったのちに新製された車両が新製車として籍を得るため、“二車現存”と呼ばれる同一記号同一番号の車両が同じ鉄道事業者に2両在籍しているわけではありませんが、やはり管理上避けたいのかあまり採用事例が見られません

ただし、過去に在籍していた車両と番号が重複しないようにしている事業者も多く、特にJRグループではあまり見られません。特にJR東日本は特急車で機器更新有無で改番するほどですので意外な印象も受けます。

④はより分かりやすく、事故車両は廃車として同一形式の別車両番号が新造されるパターンです。

2019年に発生した長野新幹線車両センター水没によるE7系・W7系10編成は全て廃車とされ、発注済み編成の続番にて同一形式別番号の編成が増備されました。

またJR九州の代替新造813系300番台(のちの3500番台を含む)3編成もこのケースに該当します。

近年のその他の目立つ事例だと元住吉駅構内の列車衝突事故で廃車となった東急電鉄5050系5155F・横浜高速鉄道Y500系Y516Fと代替で投入された5050系5177F,5178Fの事例が挙げられます。この事例では会社間で車両を入れ替える複雑な動きとなりました。

また例外的なパターンとして、修理名義で代替新造をして改番……という②の派生系もあります。313系Y102編成のクハ312-5102とモハ313-5402がこれに該当します。乗用車との衝突事故後に修理とそれに伴う改番(原番号クハ312-5002とモハ313-5302からの改番)……といった扱いで、製造銘板が2006年とされている点が特徴的です。

②〜④いずれの場合も再利用可能な部品が使用されている場合が多く、書類上の違いが大きいところです。

ファンにとっては〇〇系は合計〇〇両製造されました……といった際の数字にカウントされるか否かが重要な違いでしょうか。

郡山までは配給輸送ではなく甲種輸送

総合車両製作所横浜事業所にて製造されたJR東日本向けの車両は自走で出場する事例も見られますが、今回の先頭車は郡山総合車両センターまで甲種輸送となりました。

鉄道車両は一般に、納入先の鉄道事業者の設備で設計通りの動作をするかを試運転で確認したのちに納入となり、この際に実施される車両メーカー職員が同乗した試運転は公式試運転と呼ばれることが一般的です。

鉄道車両としての“籍”を得るための試験を実施する際を除いて車籍のない鉄道車両を本線上で走行させることは出来ないため、自社線内でも特殊貨物検査を実施した貨物列車としてJR貨物による甲種鉄道貨物輸送が実施されます。

JR本州旅客3社で見られる自走での出場は、この公式試運転を兼ねて所属基地まで回送するといった論拠で実施されています。

自走が出来ない編成構成で新造された場合は公式試運転を実施することが不可能なため、甲種輸送が実施されたのち後日に公式試運転を実施する事例が一般的です。同様の現在進行形の事例では中央線快速電車用のE233系グリーン車が、過去のE531系の事例ではモノクラスで新造された車両向けのグリーン車がこれに該当します。

一方で、編成内の一部車両のみ新造=メーカー出場と同時に公式試運転実施は不可能といったものではなく、伴走する車両があれば可能です。

近年の事例では山手線E231系の6扉車代替の中間車が、今回に近い経緯では修理名義ではあるものの青梅線踏切事故で代替車が製造されたE233系青661編成がこれに該当します。いずれも新潟エリアで公式試運転を済ませたのち、上越国境は自社機関車牽引の自社の列車である“配給輸送”で上京しています。

今回もK409編成の9両を総合車両製作所横浜事業所に輸送したのちに10両で公式試運転を兼ねて勝田まで自走……といった手配もあり得るところでしたが、1両単独の甲種輸送を実施する方が合理的と判断されたことが読み取れます。

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