東京を走る鉄道路線でも屈指の混雑路線、田園都市線。
東急の意欲作となった軽量ステンレス車両・8590系が、遠く富山の地で「再就職」を果たします。
かつて大井町線を走っていた同形式と再会となりますが、生い立ちの違いから形態が異なるまま運用入りとなります。
たった10両希少車として登場
1980年から日本初の量産ステンレス軽量車体を使用した形式として8090系電車が製造されました。
東急電鉄では、みなとみらい線の計画が具現化したことを背景に、登坂能力・加速性能確保のため8両編成のうち中間5両だったモーター車を6両に増強することとなりました。
10編成の8090系からモーター車2両と付随中間車1両を外した2ペアと先頭電動車を組み合わせることで6M2Tの8両編成に改めています。
この両端の電動車として5編成分10両が製造されたのがいわゆる8590系です。
電動車比率向上のために先頭車を電動車にしたか否かという差異は、8000系と8500系の関係と酷似していますね。
なお、3両を提供して3M2Tの5両となった8090系10編成は大井町線で再活用されています。
少数形式の運命?不遇な運命
みなとみらい線の開業を前にして、東横線では運用数が減少しており、一時的に田園都市線に転用された経歴があります。
8500系と同様に8M2T編成が組める強みを生かした転用ではあるものの、中間車確保のために長期休車が発生するという運用となりました。
1997年から8694F,8695Fの2編成が捻出、2編成16両のうち10両で編成を組んで、残りの6両は休車。
2001年にはさらに8693Fも転属し、3編成24両のうち4両が入れ替わりで休車になりました。
2004年2月のみなとみらい線開業を前にした2003年に里子に出されていた3編成がやっと東横線に帰還。
7年近く車両需給に振り回され、ようやく本来の東横線で製造目的の直通用途という活躍の舞台を確保した8590系ですが、その活躍は長くは続きませんでした。
翌年の2005年から5050系増備進展とともに彼らは東横線から追い出されることとなります。
8691F〜8693Fの3編成15両が大井町線に、8694Fと8695Fの2編成20両が田園都市線に転用されました。
8両5編成体制からこれらの組み換えが行われ、8691Fに組み込まれたサハ8391・デハ8291・デハ8191、8692Fに組み込まれていたサハ8393、8693Fに組み込まれていたサハ8395の5両が保留車となった後に除籍されています。
8090系として大井町線に転用された車両たちに動きがなかったため、8090系列で初の除籍車両となっています。
8590系の不遇はまだ終わらず、田園都市線に転属した2編成についても、東武伊勢崎線・日光線への直通運転の対象から外されており、東武ATSの準備工事も虚しく「サークルK」と通称される乗り入れ非対応車両として運用されました。
こちらはしばらく朝夕のみと車庫のお留守番が目立っていましたが、後年に日中運用が生まれたため、時折その姿を見かけるようになりました。
一方で、大井町線では8090系列を東横線9000系による置き換えが行われることとなりました。
2012年度末に8090系の8099Fと8081F、8590系の8691Fが大井町線に残っていましたが、8090系2編成はヘッドマーク掲出・さよならイベントで盛大に送り出された一方で、8691Fについては特段お祝いもなく廃車回送されました。
その後は8694F,8695Fが排障器(スカート)設置などの小変化をしつつも田園都市線で活躍していましたが、2020系量産開始により、先輩格の8500系より先に運用離脱となっています。
捨てる神いれば拾う神あり?
東急電鉄では、その数の少なさも災いしてか不遇な車両となってしまいました。
しかしながら、両端電動車という特性が買われ、2013年には8692Fと8693Fの先頭車が富山地方鉄道に譲渡されることとなりました。
譲渡に際して連結器交換・スノープラウ新設などが行われたものの、帯色も含めてほぼそのままの形態で注目されました。
一方で、富山地方鉄道流の独特な形式名「17480形」となりました。
なお、富山地方鉄道の部品取り用にデハ8181が譲渡されているほか、大井町線時代の同僚だった8090系は秩父鉄道に旅立っています。
富山地鉄に8両が再集結!
大井町線から転入して富山の顔となっていたオレンジ帯の8692F,8693F改め17480系。
導入当初は4ドア車両を購入という意外性から大きく話題となりましたが、気づけばすっかり富山の顔として馴染んでいます。
確かに、京阪3000系や自社生え抜きの名車たちと比べると、4ドアで中間締め切り扱いで走る17480系がハズレに感じるファンの方もいらっしゃるかもしれません。
しかしながら、朝夕の混雑対策としては申し分がない車両であるほか、雪国の厳しい気候でも痛まないステンレスボディで経年も比較的浅く、既存の車両と一部部品が共用できるといったメリットを考えると、富山地鉄にとってはいい買い物となったのではないでしょうか。
実績が買われてか、2019年度には田園都市線で余剰となった8694Fと8695Fが追加譲渡されることになりました。
追加購入となったきっかけは老朽車の置き換えが直接理由ですが、既存車との共用を考えると買い時は今しかない……というマイナー形式ゆえの事情も大きいでしょう。
東急電鉄時代は今ひとつの存在だった8590系。
その登場経緯から両端電動車構成となっていたことが富山地鉄が購入するきっかけになり、長生きが約束されることとなったのは言うまでもありません。
かつての同僚たちと再会した8590系改め17480形の8両には、今はなき8691Fの分まで頑張って欲しいところですね。
コメント
東急の車両部担当者が当時執筆した8590系に関する書籍や雑誌記事によると、
・地下線であるみなとみらい線乗り入れには正面貫通式を必要とする。
・東横線8000系8連の6M2Tに対し、8090系8連は5M3Tで加速が低く各停に使いづらい。
・8090系の先頭車に貫通扉を設ける改造をするよりも、新たに貫通式の制御電動車を新造したほうが将来の東横線のスピードアップにも対応できる。
とありました。
富山地鉄、市街地は2キロおきに駅があるような密集具合なので、身の丈に合った使い方出来る車両なんですよね
宇奈月方面の観光を軸とした2ドアボックスシートの車両は、市街地で使いづらすぎます