2021年春の置き換えが発表されている185系ですが、2020年3月のダイヤ改正では修善寺発着便については動きはありません。
もう少し安泰かと思われていた185系ですが、連休の真ん中である1月12日に車両故障が発生、ちょっとしか走らないJR東海区間で立ち往生という珍事が発生しました。
一連の動きとともに、異例の対応が行われた背景を考察します。
分割作業終了後に故障が発生
今回の車両故障ですが、東京発伊豆急下田・修善寺行きの定期列車・踊り子105号にて発生しました。
所定通り熱海駅で切り離し作業を実施し、下田編成を切り離して列車番号を3035Mから4035Mに変え、乗務員もJR東海へ引き継ぎを行います。
その後、いつも通り丹那トンネルに突入した185系C6編成ですが、途中で加速が出来ないトラブルが発生してしまったようです。
乗車されていた方によると、そのまま惰性で走行して函南駅で停車、配電盤を開けたり、再力行を試みたりと試行錯誤されたものの、解決には至りませんでした。
後続列車が熱海駅を発車出来ずにいましたが、JR東海は函南駅ならではの設備で解決を図ります。
これは、貨物列車を待避させるためのホームがない下1番と呼ばれる待避線(副本線・側線)を活用し、函南駅下り列車を通過扱いとして運転再開させるというものでした。
通過待ちを目的に上り本線・下り本線に加えて上り1番・下り1番というホームなしの待避線が国鉄時代から運用されていますが、待避列車が待避線に入ることを前提としているため、待避線は通過を想定していないカント(カーブを高速走行するための傾斜)が作られていません。
本来の用途を超える対応となっていることは明白ですが、運転を見合わせるよりは……という判断でしょうか。
JR東日本の車両検修職員が車両基地(おそらく最も近い国府津車両センター)から自動車で急行して応急処置後に構内入れ替えをするまで、このような対応が続けられました。
尤も、一旦次の駅まで行ってから戻ってきて……という対応自体はJR東海が生み出した技という訳ではありません。
有名どころとしては、1日の工事のためにダイヤをイチから作った辻堂駅ホーム拡幅工事がありますが、持っている設備を最大限に生かした対応を、急なトラブルですぐに実施したという点でファンを驚かせたのも納得でしょうか。
こちらも余談となりますが、こういった乗り入れ先でのトラブルに所有会社の車両屋さんが出向く……という事例こそ最近では当たり前の光景ですが、JR東海で類似形式である117系を運用していたことを考えると、時代の流れを感じさせられます。
結果自走で戻っていることから、国鉄育ちの鉄道屋さんなら手早く直せたのでは?という邪推は私も思い浮かびましたが、今時の乗務員さんに滅多に乗らない国鉄型の故障時の取り扱いを全部覚えとけ……というのも無理難題ですので、これを批判するのはナンセンスかと思います。
各社のベテランの乗務員さんには何でも治せちゃう凄腕……という方も多く存在していますが、あくまで会社は運転士に応急処置程度の技量しか求めておらず、故障時の対応を車両屋さんが対処するのは正しい流れです。
函南駅で車両故障は先例多数?
今回話題を集めた函南駅。
一部で開業以来の……などと報じられていますが、今回のように普通列車に大きな影響を与えた例は確かに珍しいものの、車両故障がたびたび発生する区間でもあります。
2013年8月19日に発生したJR貨物・EF65 1117号機の故障では、伊豆箱根鉄道大雄山線車両を駿豆線大場工場で検査するための甲種輸送という珍しい列車だったこともあり、かなり注目を集めました。
このほか、2008年10月29日に今は亡きハイテクロコ・JR貨物EF200-1号機が、2014年4月26日にはEF200-17号機がそれぞれ車両故障となって話題を集めました。
いずれも貨物列車の待避ポイントである函南駅下り1番(副本線・側線)に入ることで普通列車の運行を妨げなかったので、今回のような本線を封鎖する事態には至っていません。
熱海駅〜函南駅間は駅間が長く、一直線のトンネルを掘削した歴史的背景から制限速度もないため、各列車がトップスピードで走行します。
長区間・高負荷の高速走行となることが背景に考えられる一方で、上記3例も不幸中の幸いながら重量級の編成を従えたまま、惰性で函南駅までたどり着いています。
もしも長大トンネルの中間で立ち往生したら……と考えると恐ろしい事例ですが、毎回その線形に助けられているのかもしれませんね。
なお、国鉄時代は函南駅では折り返し運転が出来ない設計(上下線の渡り線は保線車両用のものの、みで、信号機等も非対応)でしたが、JR東海移管後に駅の東西双方に渡り線を設置・4線すべてから神戸方に出発できるように改良された経歴があります。
JR東日本がコントロールする熱海駅に入線できないと立ち往生……というこの区間の特殊性を鑑みた措置と考えられますが、今回やこれらの故障救援機手配で大活躍していることを考えると、適切な投資だったと言えるでしょう。
引退間際の185系同士の待避など、珍しい光景も
函南駅では、通過扱いとなった211系・313系の普通列車が特急を追い越すという珍しい光景が賑わせていますが、このほかにもいくつも珍しい光景が発生しています。
当該車両自体は応急処置が施されましたが、その後は函南駅上り1番線に移動してJR東日本管内の取り扱いが決定するまで留置されていました。
トラブル発生が土休日ダイヤだったため、今回話題となっている踊り子105号を含めた定期列車以外にも、踊り子109〜110号が運転されています。
そのため、熱海〜函南〜三島駅間しかJR東海管内の定期運用がない185系同士が、追い越しを行うという珍事が発生しています。
185系同士の追い越しといえば、根府川駅での普通列車と踊り子号の追い越しシーンが有名でしたが、185系の普通列車充当が無くなって久しい昨今、かなり貴重な光景となりました。
185系同士の並びは2020年3月改正まで東京駅8,9番線のほか、湘南ライナーの貨客線並走、伊東線・伊豆急行線の単線区間での行き違いなどで見かけることは出来ますが、追い越しとなるとかなり珍しい光景でしょう。
珍客同士の追い越しも実施
更に、1月12日は偶然ながら“ドクター東海”の運転日でした。
新幹線“ドクターイエロー”の在来線版となるこの車両ですが、この車両が毎回運転される試9582D列車は、通常ダイヤで15:00に函南駅着・15:07に函南駅発となっており、函南駅で後続の普通列車を待ち合わせることとなっています。
故障車両を上1番に移動していたため、待避を1つ手前の三島駅に変更、本来待避線を走ることがない185系と、本来待避線を走るキヤ95形DR1編成がそれぞれ逆の線路を走り、しかも並ぶという珍事となっています。
貨物列車や業務列車が待避駅変更をする事例こそ多くあるものの、本来はあり得ない特異な並びとなっています。
異例の対応までの決断はわずか30分!
今回の車両故障がファンから大きく注目されているのは、貨物列車が運転停車・待避するための側線を生かして運転再開をしたこと、普通列車が通過扱いという珍しい対応、そして運転再開までの手早さが挙げられます。
直通運転の多くでは、トラブル発生時に会社間の連携がうまく行かずにダイヤ乱れが長引くこともありますが、今回は柔軟な対応により被害を最小限に留めています。
車両故障自体は褒められたものではありませんが、JR東海からしてみれば旨味もないのに渋々走らせている(関連記事参照)列車の立ち往生、しかも自社に帰責のない乗り入れ会社の車両の故障という災難のなか、最適な判断を下しています。
運転士・司令員が駅間停車をさせたり、その後の対応が上手く動けないなど1つでも歯車が狂えば長時間の運転見合わせ・乗客が長時間の缶詰め……といった事態が想像できました。
更に、特に前後を乗り入れ会社が固めている踊り子号という特殊性を考えると、対応の手間は相当なものだったことが推測できます。
お堅いイメージのJR東海ですが、新幹線の大幅遅延が発生すると普通列車の最終接続を待たせたり、はたまたサンライズ出雲・瀬戸号を静岡〜浜松駅間の普通列車代替に使用したりと、輸送障害対応には意外と柔軟です。
不運にも輸送障害に見舞われた踊り子105号旅客をはじめ、後続列車や函南駅の利用者の方々には災難となりましたが、JR東海イズムのつまったエピソードとなりました。
末筆ながら、両社のトラブル対応にあたられた現業マンに感謝申し上げます。
動画資料集
YouTubeチャンネル【鉄道ファンの待合室資料館】にてこの列車の離合シーンなどを動画で公開しています。
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コメント
こんな古い車両使ってる意味がわからない。
早く後継車両導入するべきで、鉄オタが喜ぶだけの古い車両はどんどん置き換えて淘汰しないと駄目。