2020年3月13日に30年の歴史に終止符を打つ伊豆方面看板特急「スーパービュー踊り子号」。
その長い歴史のなかで様々なダイヤ・停車駅の変化がありましたが、伊東線内ではここ数年、網代駅を巡る特急列車の処遇についてのトラブルが発生しています。
原因、背景とともに、今後の踊り子号の停車駅の変化を考えます。
網代駅と踊り子号
この問題は、南熱海の中では比較的旅館などが多く、観光地としての色合いが強い網代駅で起きています。
伊東線では、従来より熱海駅・伊東駅という両端駅の利用者が多い一方で、中間駅となる来宮・伊豆多賀・網代・宇佐美の途中駅の利用者の少なさが目立っていました。
2015年3月8日より、これらの中間4駅について終日無人駅化が実施されることとなり、大きな波紋を呼びました。
これに先駆けて、身体が不自由な利用者が自力で乗降出来るように全駅にエレベーターを整備するといった改善の動きもあった一方で、何かあればインターホンで問い合わせてくれ……という体制となり、特に観光路線としての需要も大きい伊東線では、使い方などで困っている利用者の姿を多く見かけるようになっています。
ここまではどこの無人駅化でもありがち……とも言えそうな光景ですが、ここ網代駅では前代未聞の問題が発生しています。
これは、網代駅は特急停車駅であり、なかには全席指定席で事前購入が必須のスーパービュー踊り子号の停車もあったという問題です。
踊り子号は自由席の連結がほとんどの便で実施されているので問題ないとして、スーパービュー踊り子号は通過化か指定席券売機の設置で対応するだろう……と思いきや、JR東日本横浜支社では奇策に出ます。
これは、乗車口で検札をするビューアテンダントに予備の席に案内させ、後から車掌が検札するという前代未聞のものです。
事前購入をする……という指定席の概念を覆す手法ですが、前後に特急列車が運行されない時間帯ということもあり、今日までこの便宜措置が継続されています。
この停車便となるスーパービュー踊り子2号は利用率が高い列車で、平日でも高い乗車率を誇っているほか、繁忙期の土休日には満席になることも当たり前。
普段から困る利用者が発生している上に、まして満席となると、駅で売ってないから車内で買う→乗ろうとしたら満席と断られる→次の普通列車まで30分待ち……という異様な光景が続いています。
網代駅の問題に抜本的な対応がされてこなかったのも、全席指定席のスーパービュー踊り子号の運転終了・置き換え車両の開発が既に行われてこなかったのが背景だとすれば納得ですが、今後はえきねっと受け取りが出来ない=新しい着席サービスに対応する設備がないこの駅に特急列車を停めるべきか否かという議論にもなりそうです。
JR東労組 東京地方本部の最近の申し入れでは、「踊り子号とスーパービュー踊り子号の網代での乗降扱いを取り止め、通過扱いとすること。」という記述があり、会社側も「乗降人員は多くないと認識している。」と回答しています。
様々な問題を踏まえ、今後の踊り子号の運転体系の変化とともに通過扱いとなる可能性が出ています。
今後の鍵は車掌1名化
近年、JR東日本では在来線特急列車の車掌1名化の動きが進んでいます。
常磐線特急「ひたち」「ときわ」では既に一部列車で1名化が実施・トラブルも起きていることがJR東日本各労働組合からの発表で明らかになっています。
さらに、既に今後の中央線特急「あずさ」「かいじ」でも車掌1名化を目指すことが明らかになっており、現場では2020年3月改正で実施されるのではないか?と推測する声も聞かれます。
現在、「踊り子」についても旧来の185系などからE257系2000番台への車両更新が始まろうとしていますが、このE257系にも座席上にお馴染みとなった指定席発売状況ランプが設置されています。
このことから、「踊り子」の車種統一が行われる2021年春のダイヤ改正にあわせ、中央線で行われてきたライナー列車の特急化・全席指定席の新しい料金体系への変化が色濃くなってきました。
これらの施策とともに進められているのが、特急列車の停車駅の再編です。
これは、車掌を1名にする為に停車駅間で編成内を1往復巡回できるか否かという課題から、利用者が少ない停車駅の停車本数を削るというダイヤ変更を行うというものです。
2019年3月には中央線特急で大規模に行われ、沿線各地では反対運動が発生したというニュースが話題にもなりました。
これを受け、通年で毎週末運行する臨時かいじ号が運転されたほか、信州かいじ号という中途半端な臨時列車を設定するなど対応に迫られていました。
今回の2020年ダイヤ改正では、中小駅の停車駅本数が回復傾向となり、停車駅が多い便と速達パターンに分けられるものとなりました。
これにより、全区間速達便は1名化・停車が多い便の該当区間に特別改札車掌=特改行路を設定することで対応が推測できるダイヤとなりました。
現在のところ、中央線・その後の東海道線の優等列車車掌配置数の変化が読み取れる文献はありませんが、水面下では確実に進行している模様です。
2019年春には、中央線特急の車内にて各支社・各運輸区の腕章を付けた職員による検札時間の調査なども進められてきました。
踊り子号についても今後、何らかの変化が出てくるものと推測ができます。
踊り子号で車掌1名化をするためには……?
まず、乗り入れ先の伊豆急行では特急停車駅=有人駅となっているため、着駅精算が出来るという観点から現状で1名乗務が実施されています。
修善寺方面の乗り入れ先である伊豆箱根鉄道では、そもそも踊り子号の線内利用には優等料金を設定していないため、こちらも問題はありません。
同じく乗り入れ先のJR東海では、熱海駅〜三島駅の15分程度で5両編成であることを踏まえれば大きな問題にはならないでしょう。
よって、この1名化施策の課題を有しているのはJR東日本のみでしょうか。
熱海以南で10両1名と仮定した場合、伊東駅までの中間にある網代駅の停車が不都合なことは「あずさ号」途中駅や「かいじ号」三鷹駅などの例から容易に推測が可能です。
踊り子号の小駅……川崎・大船・湯河原などについても、検札都合を考えれば通過する可能性は多分に考えられます。
網代駅ならではの特殊事情が現場からも問題に
網代駅には、このほかにも課題が多く存在します。
まず、熱海駅の停車・伊東駅の停車は利用動向から絶対条件です。
この両駅に停車している以上、熱海駅から網代駅・伊東駅から網代駅といった短区間利用者が乗車してくる可能性があります。
地元で頻繁に利用している地元住民は無人駅・自動改札機がないことも知っていますので、特急券どころか乗車券も買わずに乗ってくるという可能性は多分に考えられるため、車内精算の発生リスクはそれなりに考えられます。
また、観光客についても、先述の無人駅化の関係で利用者にとっては分かりにくい状態です。
さらに、JR東海の熱海駅〜函南駅にはICカードの利用境界の課題があります。
そのため、有人駅の熱海駅・伊東駅であれば三島・沼津方面からのICカード処理を出来ますが、無人駅の網代駅利用者にはこれらの精算処理が発生する必要があります。
以上を考えると、各特急列車で数人ずつしかいない網代駅での乗降客に対して、あまりにも行わなければならない対応が多いことが現場から通過化を望む声が出てくる背景要因でしょうか。
そもそも、特急停車駅の網代駅に駅員を日中だけでも配置しておけば解決する課題ではありますが、網代駅の利用者数は1000人/日を下回る年も多くなっていますので、無人化も妥当と言えば妥当でもありますね。
JR東日本の経営方針だと通過化の日は近い?
以上を踏まえると、網代駅の通過化は2020年3月または2021年3月の全席指定席化・その後の車掌1名化が実施されるいずれかのタイミングで行われる可能性は極めて高いでしょう。
そのほか、巡回頻度を下げるための課題駅になりそうな川崎・大船・湯河原の3駅も通過化または一部通過化が考えられますので、今後の変化が気になるところです。
近年、観光地として再注目を集めている熱海市。
熱海・来宮エリアの観光需要が増大していくなか、南熱海・網代エリア、隣接する神奈川県湯河原町については観光客を増やせている状況とは言いにくいところ。
実施された場合、湯河原・網代の町おこしを大きく阻害する動きとなってきますので、今後JR東日本横浜支社と沿線自治体で一波乱ありそうな動静です。
近いうちに2020年3月の踊り子号の新ダイヤも発表されるかと思いますが、2021年までの踊り子号の車両・ダイヤの変化にも注目が集まります。
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