【長野・新幹線水没】施設と車両の浸水対策公表・現状復旧中心の理由を考察

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昨今は減便体制であまり注目されていないものの、台風19号による北陸新幹線E7系・W7系の水没から7ヶ月が経過した5月27日、JR東日本から「鉄道施設等の浸水対策について」の対応・方向性が発表されています。

最近では、E4系延命対象の1つとみられるP52編成の全般検査も無事施工完了となったほか、現地の長野新幹線車両センターでは設備復旧の支障となる水没車両の部品取り・解体が進められています。

プレスリリースを読み解きつつ、復旧の進展・今後の動向を考えます。

影響が大きいところのみのかさ上げ

今回新たに示された対応案では、長野新幹線車両センターについて、列車運行に大きな影響を与える電気設備関係については設備のかさ上げをすることが盛り込まれています。

その一方で、車両の着発収容線(いわゆる留置線)や車両検修設備・保守用基地などは現状復旧を基本としつつ、建屋構造となる仕交検庫(仕業検査・交番検査などを行うピットを備えた車庫建屋)の車両・職員用の出入口について、通常の扉に加えて止水板を新たに設置することが提案されています。

それ以外の車両基地についても大方針が示されており、「設備の重要度に応じた対策を設備毎に検討」するとしています。

ハード面での対策が検討されている箇所は最大400箇所程度を想定しているとのことで、中長期的な内容となりそうです。

先述の鉄道・運輸機構が財産を所有している設備についても触れられていますので、他の新幹線基地にも対象範囲がありそうです。

車両基地自体の大半は現状復旧

今回水没した長野新幹線車両センターですが、着発収容線・保守用基地といった大半のものは現状復旧とされる点が意外と感じる方も多いのではないでしょうか。

これは、そもそもなぜ新幹線の基地を浸水が想定される場所に建設されていたのかという背景に依るものと考えられます。

鉄道黎明期に建設された路線とは異なり、需要がある終着点になるべく近くで大量に連続した平坦な土地を必要とするため、土地買収が容易である必要があります。

埼京線の車両基地が現在の南古谷と決定するまでの経過・宮原駅方面への延伸断念に繋がったエピソードなどが挙げられるように、鉄道車両基地の用地自体が路線延伸・新規開業では大きな課題となります。大都市圏のほとんどの鉄道路線が起点側より終点側に車両基地があります。

主要駅の一等地に併設するのは現代では難しく、比較的地価が安い場所が選定されるのが一般的です。

地価が決められる評価ポイントの一つに、この浸水の影響がどれくらいあるかという点があることは社会人世代ならお分かり頂けるかと思いますが、この都合から、結果的に浸水想定がされる場所に車両基地が建設される事例自体は全く珍しいものではありません

今回の長野新幹線車両センター自体も建設時点である程度の盛土・かさ上げこそされていますが、これを本線の高架のような高さまで持ち上げるのは費用対効果が非常に悪いものとなります。

もし長野でこういった抜本的な工事をしたところで、このような課題は全国各地の車両基地が抱える課題ですので、他の車両基地全てを絶対に水没しない高さに持ち上げることは現実的とは言えません

今回のような車両水没には車両の避難といった別のアプローチをすることが適切という判断が下されること自体は当然のことと言えるでしょう。

JR東としての対応案は出されたものの……

北陸新幹線は長野新幹線(愛称)として運行を開始してから既に年数が経過しているものの、あくまで整備新幹線の一環として建設された路線です。

今日の新幹線開業ではお馴染みとなる並行在来線の第三セクター化などを実施した先駆け的な存在ですが、現在も車両基地となる長野新幹線車両センターを含め、独立行政法人「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」がその土地・財産を所有しており、それをJR東日本が借り入れている格好です(ざっくりと噛み砕くと、賃貸物件で営業しているテナント状態)。

そのため、JR東日本が検討している電気関係設備・信号制御のかさ上げ、検修庫の開口部(車両用・職員用の扉)への止水板設置などはJR東日本の独断で工事できるものではありません。

今回発表されたハード面での防止策は鉄道・運輸機構が管轄するものとなりますので、今後具体的な工事がどういったメニューとなるのかは現時点では不明です。

運行面での対策も

この対応でファンや有識者からの疑問として大きかったものとして、車両の避難が出来なかった点が挙げられます。

国鉄時代の東海道新幹線で鳥飼車両基地の水没があり、この際に本線上へ避難したエピソードが有名で、このような対応が出来たはずでは?という指摘が相次ぎました。

今回のプレスリリースでは、最終的には「総合的に判断」としつつも、その検討をする指標をいくつか示しています

河川水位・流域雨量指数・流域降雨量といった指標、これに加えて台風の進路などの一般的な気象情報を含めています。

今回の発表は判断をしやすい環境を整備するといった趣旨の内容です。

刻一刻と変化する状況把握・判断の最適化をするという発想は、具体的な数値一辺倒としたり、はたまたその時考える……といったものではなく、判断の早さが求められるいざという時をしっかり考えた対策と言えるのではないでしょうか。この指標も専門機関のデータを基にしつつ社内の独自で算出するとしており、今回のような被害を絶対に出さないという強い意志を感じさせられます。

災害発生直後はJR東日本への批判も大きかった今回の対応ですが、全ての災害を事前予測することは非常に難しいのは言うまでもありません。

今年も夏がもうすぐやってきます。他社も含めて、集中豪雨・台風といった大規模災害の深刻な被害が生まれないことを願って止みません。

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