走る喫茶室のが登場してから半世紀以上、小田急ロマンスカーの象徴的なサービスとなっていた車内販売。
2020年に新型コロナウイルス感染症に関連して一時中止・その後はメニューと列車を絞って営業が再開していましたが、2021年3月改正で営業終了が発表済み。更に、1月7日に緊急事態宣言が発表されて同日中に8日からの営業を「当面の間中止」としています。
「走る喫茶室」で一躍有名に
小田急ロマンスカーの車内販売は初代SE車が登場するより前、戦後運行されていた“箱根特急”クロスシート車両1910形(のちの2000形)車内で1949年に始まったことをルーツとしています。
このタイミングで事業者が三井農林株式会社のブランド“日東紅茶”に選定されました。3両編成の中間付随車に喫茶カウンターを設け、ここを拠点に座席に届ける“シートサービス”が実施されました。1951年から1952年には1700形により置き換え、1955年には2300形の投入がされており、増備を続けるごとにカウンターの拡充も行われています。
1955年には御殿場線直通列車が運行開始となっていますが、こちらは小田急電鉄系列の小田急サービスビューローが担当しています。(こちらは現在の小田急商事で、現在の小田急レストランシステムの受託は1991年から)。
そして、小田急電鉄にとって本命となったSE 3000形が1957年に登場。8両連接車に2箇所の喫茶カウンターを設けており、このSE車が「走る喫茶室」の愛称を一気に広めました。
1963年にはNSE 3100形が登場。11両140mというその後の小田急ロマンスカーの基本構成となったで更に広い構成とされており、NSEの増備でロマンスカーの増発がされたことで森永エンゼルが新たな事業者として加わっています。
両社でサービス内容(メニュー)が異なっていましたが、列車によって異なる車内販売会社が競合している事例は珍しくはありません。最近の事例でも2018年まで東武の日光・鬼怒川エリアで3社が乗り入れていました。
その後登場したLSE 7000形・HiSE 10000形ではカウンターを喫茶・食事目的とはしていませんが、引き続き高いサービスレベルを維持しています。
1991年には御殿場線直通がRSE 20000形とJR東海 371系の相互乗り入れ体制に改められ、このあさぎり号のうち小田急担当列車を小田急レストランシステムが受託しました。こちらは現在まで続く同社の車内販売の始まりです。
あさぎり号の371系使用列車ではJR東海子会社・ジェイダイナー東海〜現在のJR東海パッセンジャーズが担当しており、お互いが“越境乗務”をする体制でした。こちらも当時はよく見られた事例で、現在も北海道・北陸新幹線で見ることが可能です。
4社が参入していて更に賑やかになった小田急の車内販売でしたが、一方で当時の小田急電鉄はロマンスカーを当時の流行だった着席通勤に充てるため、ロマンスカーの運行体制・利用客層を大きく変えていくことで大きな変化を迎えます。
1995年までに日東紅茶・森永エンゼルが相次いで撤退したことで、あさぎり号同様に小田急レストランシステムによるワゴン販売に切り替わっています。
“走る喫茶室”は車内販売営業列車のうち、シートサービスを指していましたので、この歴史は一旦途絶えることとなりました。
“喫茶室”再起のVSEは失敗作?
さて、小田急ロマンスカーが“走る喫茶室”からワゴンサービスに切り替えてからしばらくして、果敢にも2度目のチャレンジを実施した車両があります。
現在も白いボディでフラッグシップの貫禄がある、VSE 50000形です。直通運転の制約があったRSE 20000形、そして通勤特急として小田急ロマンスカーの方向性を大きく変えたEXE 30000形から一転、新たな箱根特急のフラッグシップとして原点に戻って展望席・連接車とされた正統派です。
2005年のVSEデビューにあたり、車内サービスも同形式充当列車に限りシートサービス方式が再度採用されています。先述のように小田急レストランシステムが担当していますので、自社系列でシートサービスを復活させています。
飲料もガラスのコップで提供されるなど、小田急の本気度を感じさせられるサービスレベルで利用者・ファンにとって嬉しいものとなっていました。
その後登場したMSE 60000形は地下鉄直通と通勤輸送、そしてその後のあさぎり号代替のため再度20m級ボギー車となり、依然として箱根特急の看板の座はVSEが保ち続けていました。
VSEにとって……そして小田急にとって大きな転換点となったのは、2018年のGSE 70000形の登場と、翌年の複々線化工事完了によるダイヤ改正でした。
展望席を設けて伝統的なバーミリオンを纏った外観は次世代のフラッグシップ車……かと思われましたが、このGSEでは通勤輸送や将来のホームドア対応なども考慮して20m級ボギー車7両というRSE以来の編成構成となっています。
そして、ロマンスカーの今後を決定付ける設計がありました。車内サービスについても大きく削ることを前提としたのか、7両編成内に設けられた設備は閉ざされた車内販売準備室1箇所のみ。
通勤特急という明らかに異なる目的で製造され、デビューから現在までファンから散々に言われてきたEXEでさえ10両で2箇所、売店機能を兼ねた広々とした準備スペースを有していました。
VSEの後に登場したMSEも地下鉄直通にあたり、代々木上原駅で運転停車する送り込み回送からアテンダントを便乗させて下り北千住駅始発の越境乗務を行なう気合いの入りようでした(上りは代々木上原で下車)。VSEに比べれば見劣りしますが、通勤向けの列車への充当が多いなかでもしっかり10両で2箇所のカウンターブースが設けられています。
MSEまでの車両がオープンな売店機能を有していたことを考えるとGSEの設備は対照的です。
鉄道車両の設計は年単位で実施されますので、GSEの開発プロジェクトが始まった2012年から着工したであろう2016年ごろのどこかで、もうこの結論が導き出されていたのかもしれません。
しかしながら、これらの縮小傾向こそあれど、サービスの維持への努力は続けられてきました。
GSEのデビューにあたっては運転士・車掌同様にアテンダントの制服も一新。
先述のように狭いながらも、拘りスイーツの販売など個性的な商品ラインナップで盛り上げてくれました。もちろんこのために、狭く1ヶ所と記した準備室にもコーヒーメーカー・冷蔵庫・シンクなどの設備は用意しており、規模を絞ってでも続ける意欲はあったのでしょう。
2019年の複々線化工事完了による白紙改正により、小田急ロマンスカーの運行体制も大きく変化しています。
フラッグシップ2形式は共通運用となり、これにあわせてVSEでのシートサービスは終了。他形式同様のワゴン販売に切り替えられています。
以上を振り返ると、小田急レストランシステム・親会社の小田急電鉄ともに維持するための努力はかなり熱心に続けられてきたと言えるでしょう。
他社でも縮小傾向だが……
さて、今回の緊急事態宣言では宣言発表のその日の夜には翌日からの車内販売中止が公言されており、既にそれを見越して準備を進めていたことが容易に推測が出来ます。
数日前には発表日が報道されていましたので、その時点で商品在庫を絞るなどの対応を進めていたことと考えられます。
当面の間としていますが、現実的に考えればこのまま廃止となる可能性は十分に考えられるところです。
2020年の同宣言期間中では、東海道新幹線(JR東海・JRCP)のみが車内販売を継続・それ以外の会社は営業を中止していましたが、メニューの削減(カップ類の販売の中止)など会社によって方針の違いもあれど、いずれも規模の縮小などはあれど営業を再開しています。
今回の緊急事態宣言に関連して車内販売の中止を発表したのは小田急のみとなっていますが、今春のダイヤ改正では利用者減少を受けて新潟〜秋田間の「いなほ号」、中央線特急のうち甲府エリアを始終着としている「かいじ号」の営業終了が明らかにされています。
特にJR東日本についてはここ数年子会社の再編をしたばかりです。
新幹線や常磐線特急のように短区間便の車内販売を維持していた中央線が特異でしたが、2023年の中央線快速電車へのグリーン車連結までの雇用を維持……と推測も出来ましたが、残念ながら無関係に終わりました。また、いなほ号は一度営業終了した後に復活した列車です。どちらも比較的不採算路線であることは推測がつくところです。
ただでさえ人と接すること自体が避けられているうえ、鉄道利用のなかでも利用者減少が深刻な中長距離列車。
もともと近年は縮小傾向の分野でしたので、他社を含めて再起はあるのか心配なところです。
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